第32話

大和とH級戦艦が戦いを始めた。

両チームとも残るは旗艦1隻のみ。

沈んだ方が負けとなるため、全員肩に力が入る。

既に大和の三番主砲塔は破壊され、砲身は甲板に力なく横たわっているが敵艦も砲塔を一基破壊され6門対6門になっている。


「勝利は目前です!!目標!!敵一番艦!!撃ち方、始めっ!!」


「撃っ!!」


前部の一番、二番主砲塔から4発の徹甲弾が発射される。

一番主砲塔内では幸達がそれぞれの職務を迅速に行う。

一分一秒でも時間が欲しい所なのだが、落ち着いて考えると着弾観測を見ながらの砲撃なのでそこまで急ぐ必要はないのだが彼女たちはそれに気づいていない。


「遠弾、下げ3!!」


観測機からの指示と測距儀、電探から得られるデータをもとに射撃指揮装置が次の値をはじき出す。

その値をもとに今度は中砲が砲弾を吐きだすと元の角度に戻ってきた。

既に左砲と右砲は仰角をとっている。

中砲担当の砲員が尾栓が開かれた後に砲身内の異物や亀裂の有無を確認する。

新たな射撃データを俯仰受信機で確認した圭はランマーが砲弾と装薬を砲身に押し込み尾栓が閉まるのを待ってハンドルを回し、中砲の角度を合わせた。

既に彼女たちの顔は汗と金属に触ったことによる汚れでいっぱいだった。

顔を拭った服が真っ黒に汚れている。

外の様子が全く分からない彼女達だが、一番分厚いアーマーに囲まれている安心感からか作業に乱れは無かった。


「圭、作業急いで!!」


「発射用意よしっ!!」


「砲員は待機所に入れ!!」


ブザーが鳴ったので全員が待機所に駆け込む。

発射時の音は気圧の変化は凄く、肺から一気に空気が押し出されて一瞬気を失うそうになる。

彼女たちの仕事はこれをひたすらに続けるだけだ。

しかし、彼女たちの仕事は戦艦において花形と言えよう。


「第五射も外しましたか……」


「なかなか当たらないわね」


砲弾がなかなか当たらない。

徐々に距離を詰めているので正確さが増していることは千秋にもわかるのだがそれでも当たらない。

既に距離はだいぶ縮まっており北海ならではの霧も晴れているので上部の15m測距儀は敵艦を完全に補足している。

敵艦の砲撃もまだ当たってはいないが、両者ともこれまでに命中弾を受けている。

堅牢な装甲を持つ大和型でも何十発と持ちこたえられるわけではないので早く命中弾を出さなければまずい。

第五射に続いて第六射が発射されたがこれも近弾で外れた。


「栞菜ちゃん、落ち着いてね。大和はそう簡単に沈まないから」


独り言をつぶやく千秋。

彼女が睨むはるか先には独海軍最強の戦艦がいる。

現実の歴史では建造されることがかなわなかった幻の巨大戦艦と大和が撃ちあっているのだ。

この競技ならではの夢の対決と言えるだろう。


「遠弾3、近弾1、夾叉しました!!」


見張り員の声が轟くと待ってましたと言わんばかりに千秋が指示を出す。

夾叉を得たらやる事は一つだ。


「全門斉射っ!!」


しかし、優位に立ったと思ったのもつかの間、敵艦も大和を夾叉した。

大和の左右両舷に何本も水柱がそそり立つ。

どちらの艦も命中率を下げないために針路は変更しない。

お互いに同じ方向に進む同行戦のままだった。

試合の終わりが砲弾の発射音と言う足音を立てながら近づいてくる。

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