第31話
加賀から数km離れた大和でもその大きな爆発音は聞こえた。
艦橋内の全員が何事かと見張り員を問いただす。
「……加賀で爆発!?」
千秋も予想だにしないことに驚く。
敵の砲撃のタイミングからして敵の砲撃による被弾などではないだろう。
となるとそれ以外で残る原因はそう多くは無い。
「……事故……あれほどの爆発なら砲塔で起こった物でしょうか?」
「艦橋から見えないわね……窓から身を乗り出せば見えるかもしれないけど危ないし」
優香の言うとおり艦橋からその光景は見えなかったが千秋の推測は的中していた。
砲撃の際、大砲は当然ながら砲尾の尾栓を閉めて装薬の点火時に爆発が逆流しないようにする。
通常、尾栓を閉めないと回路が形成されず砲撃できないようになっているが、何らかの理由で尾栓が閉まっていない状態で装薬が点火されると火薬である装薬は当然爆発。
尾栓を吹き飛ばして逆流し、砲塔内に壊滅的ダメージを与える。
誘爆すればもっと大変な事態に陥るので火薬庫などに注水するのが普通なのだが……
「加賀、爆沈!!」
その作業が遅れれば火薬庫に火災が及び装薬が一斉に誘爆。
船体がそれに耐えきれず爆沈することになる。
「……敵二番艦はもう死にたいですね。放っておいてもじきに沈むでしょう。敵三番艦へ目標変更」
千秋は少し焦っていた。
ビスマルクは既に大傾斜を起こし沈没直前だ。
しかし、徐々に長門がH級に撃ち負けはじめていた。
金剛はもはや戦闘能力を喪失している。
「ここで私たちが敵三番艦を沈めないと……」
敵三番艦ティルピッツはビスマルク級二番艦でイギリス海軍をその脅威を持って本土に釘付けにしたとして知られている戦艦だ。
大和より一つ格下の戦艦であると言ってもこちらは砲塔一基を使用できない以上、油断はできない。
「撃っ!!」
ビスマルクからティルピッツに目標を変更した大和の主砲が吼える。
ティルピッツのスペックを思い出して一瞬、魚雷攻撃を恐れる千秋だったが距離的にありえないと思い一安心した。
長門が持ちこたえている間にティルピッツを撃沈しなくてはならない。
「初弾、遠弾!!下げ2!!右寄せ1!!」
初弾はティルピッツから170mほどの位置に着弾した。
十分に至近弾といえる距離だがまだ命中はしていない。
ティルピッツも突然大爆発を起こして沈んでしまった加賀から目標をさらに変えて大和を狙い始めた。
距離は25000m程まで近づいている。
「近弾!!上げ2!!」
戦艦の砲撃と言うのはそうそう当たるものではない。
この試合において両者が叩き出している命中率も破格に高い物と言えるだろう。
砲撃を終えた砲身を下げて、残った砲身も角度をわずかに修正していたその時。
観測機から新たな報告が入った。
敵艦が傾斜し始めているというのだ。
「……まさか、水中弾?」
日本海軍の九一式徹甲弾は土佐、安芸への射撃試験の結果をもとに砲弾を水中で直進させ敵の舷側へと当てる水中弾としての性能を持っている。
無論、それは高い確率で発生するものではなく奇跡に近い物だがそれがここで起きたのだ。
ビスマルク級の甘い水中防御はこれを阻むことが出来ずたちまち船体が傾斜していく。
独海軍の最新鋭戦艦が水中弾によってダメージを受けて傾斜しているこの状況を九一式徹甲弾を開発した開発陣が見ていたら狂喜乱舞していることだろう。
「これはチャンスです!!」
そこに付け入るように大和が砲弾を叩きこむ。
七斉射ほどで夾叉を得た大和にとって船体を傾斜させたティルピッツなどもはや敵ではない。
あっという間に船体を破壊していき、傾斜もひどくなって甲板が海面に浸かりはじめた。
それでもなお砲撃はやまずとうとう船体が横転して沈んでしまった。
しかし、なおも戦況は優位とは言えなかった。
「長門、沈みます!!」
途中までH級と互角に打ち合っていた長門だが流石に最新鋭艦には勝てず海中に没してしまった。
しかし、それでも敵の砲塔を一基破壊しそれ以外にもダメージを与えている。
「残るはどちらも一隻ですか……いいでしょう。大和が世界最強の戦艦であることを証明できるいい相手です!!」
「……生き生きしてるわね」
試合も終盤、最後に起きたのは日独最強戦艦対決となった。
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