第29話
戦艦長門とH級はほぼ互角の戦いを演じていた。
あの後、長門側もすぐさま命中弾を叩き出したが装甲に阻まれて致命傷にはなっておらず大した損害ではなかった。
しかし、金剛側はそんなことを言っていられるような状態ではなかった。
38cm砲弾が次々と命中し一、四番砲塔が既に沈黙。
三番砲塔が四番砲塔に被弾した時にその衝撃で砲身が外れて射撃不能に陥ったので砲撃できているのは二番主砲塔のみ。
相手はまだ全門が健在なのだ。
「撃たれ強いね……こっちも命中させてるはずなのに……」
美守が言うとおり、ドイツ戦艦の撃たれ強さは凄い物だ。
新鋭戦艦には珍しく全体防御を施されているビスマルク級は厚さは厚くないものの大和型などの様に非装甲区画が広くないのだ。
薄いながらも広範囲に施された装甲は弱点を突く、というのを難しくしていた。
「長門が援護してくれたらいいんだけど……その余裕はなさそうね」
「しょうがないよ、美守。あっちも手一杯だもん……きゃっ!!」
「くっ!!何処に被弾した!?」
「艦首甲板に命中弾!!」
艦首に命中した38cm砲弾によって錨鎖が引きちぎられて左舷側の錨が海中に落下した。
艦内に火災が発生しダメージコントロールが行われる。
最新鋭艦との性能差は歴然であった。
「火災食い止められません!!被害拡大中!!」
「一番主砲塔火薬庫、温度上昇!!危険です!!」
「しょうがない!!一番砲塔火薬庫注水!!」
「総員退避っ!!水に呑み込まれるよ!!」
注水弁が開かれて温度が上昇していた一番主砲塔の火薬庫に海水が雪崩込んだ。
装薬が詰まった火薬缶などを押し流していくので火薬が湿って使えなくなるが、元より上の砲身が吹っ飛んでいるので関係ない。
しかし、多数注水したことで速力はガタ落ちになっていた。
本来なら速力で勝っているはずの長門にすら遅れている。
「撃っ!!」
しかし、金剛の砲弾もしっかりとビスマルクを捉えている。
雲を切り裂いて飛来した砲弾はビスマルクの三番主砲塔に着弾。
前面装甲に阻まれはしたものの砲身を吹き飛ばした。
さらに次の砲弾が艦橋基部に命中し倒壊こそしなかったもののレーダーを使用不能に陥らせていた。
「左舷後部に命中弾!!」
金剛の船体を大きく揺さぶった砲弾によって舷側が食い破られて海水によって中の乗員を洗い流していった。
傾斜もだいぶ大きくなり立っているのが難しくなった。
二番主砲塔も傾斜によって旋回盤が機能しなくなり、射撃不能になった。
「全砲塔使用不能!!」
「長門もまだ敵を仕留められてない……もう、ここまでか……」
甲板には機銃や高角砲の残骸が散乱しあちこちから被弾による火柱が上がっている。
その煙によって艦橋の視界はすべて奪われて何も見えない。
そして美守がヘッドフォンをはずして観念した、まさにその時。
9発の巨大な砲弾がビスマルクとティルピッツを襲って水柱で艦を覆い尽くした。
そのうちの数発はどうみても41cm砲程度の物ではない。
「……まさかっ!?」
「艦長!!大和より入電!!『我之ヨリ敵艦隊ニ向ケ突入、砲撃ヲ敢行ス』、以上です!!」
ギリギリのところで大和と加賀が追いついてきたのだ。
水平線のはるか向こうに敵艦隊を挟む形で陣取っているので直接艦影を見ることは出来なかったが、それでも美守は大和の方角に敬礼した。
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