第27話

「霧島が沈んだかぁ……時間を稼いでくれてありがとう」


自分たちの盾となって沈んだ霧島に心の中で敬礼しながら舵輪を握る修子。

これでこちらは戦艦一隻を喪失したわけだ。

敵は三隻がとりあえず健在で、残り二隻は大和達が撃沈していてくれると信じているが状況ははっきりしない。

こっちから打電して確認したいが電文を打てばこちらの位置が悟られる可能性が高い。

逃げ回っている今、それはどうしても避けたいことだ。

席を外していた直が司令塔内部に入って来た。


「あ、直……どうだった?」


「……知らない方がいいわ……モデラーなら涙を流すべき惨状だったから」


修子が使っていた部屋の惨状を確かめてきてもらったのだが状況はよろしくなかったようだ。

事実、積みプラの山は崩れ道具が散乱し、作品たちは……その…………無残な姿になり果てていた。

ここから修復できたらそれはまさに神業と言えるだろう。


「……駄目だったかぁ。また作り直そう」


「今度からは部室で作ればいいじゃない。降ろすのは難しいわけだし」


艦船模型は当然だが持ち運ぶのは難しい。

ちょっとしたことですぐに壊れてしまう為、細かさによっては専門の業者を読んだりする必要がある。


「そうね、そうする」


「それと千秋ちゃんが言ってたけど今度部室に飾るための1/100の戦艦大和を作るらしいから手伝ってあげたら?」


1/100ということは2.63mである。

艦船模型の中ではかなり大きい部類だ。

どうやって飾るのか、部室のどこに飾るのかを真剣に検討しないといけないくらい大きい。

ミュージアムに展示されている物よりは流石に小さいが。


「……買って作るの?」


「ふるすくらっち?……とか言ってたよ?砲身も工学部から借りた旋盤で削り出すって言ってたし、買うわけじゃないみたい」


流石は戦艦馬鹿だ。

普通の模型ならそこまでする者はそうそういない。

戦艦関係の物に対する気合がそこらのモデラーよりはるかに高かった。

旋盤で46cm砲や15.5cm砲の砲身を一本一本削り出し、完全再現とまではいかずともライフリングを掘っている姿が想像できた。

恐らく手や顔を真っ黒けにしていることだろう。


「……3年はかかるね、最低でも」


そのレベルでかつ、部活の練習などもすることを考えたらどれだけ短縮できてもそれぐらいはかかるだろう。

唯一の救いはすぐそばに100%実物と同じものがあるため資料に困らない事か。


「……そんなにかかるの?」


「うん、かかる。場合によっては10年以上かかるかも」


どうせ道具も壊れているだろうしこの際全部新調してしまおうかと考える修子。

全部新調したら一体いくらになるか頭の中で計算し始めるが、その間も舵輪は放さず適切なタイミングで舵を切った。

長門の舷側を掠めそうなくらいの近さを巨大な氷山が通り過ぎる。

機銃などに配置されていたアンドロイドたちは何もする事が無いので全員氷山を見つめていた。


「……ねえ、さっきからずっと同じ方に舵きってない?」


「うん、きってるよ?」


「あ、そう……」


霧島が時間を稼いでくれたおかげでそうそう追いついてくることは無いだろうと高をくくっていた修子。

しかし、地獄からの使者はすぐ近くまで迫っており、砲の照準をつけていた。

北海の海に閃光が走る。

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