第26話
「四番砲塔に直撃弾!!主砲射撃不能!!火災発生!!」
「主砲を一基喪失しちゃったか……」
霧島の艦長を務める岩淵蓮美は眼鏡の位置を戻しながら艦内から次々と届く被害報告に頭を悩ませていた。
既に2発の砲弾を食らい艦の速力は殆ど無く、四番主砲塔は沈黙している。
残る3基の主砲塔で応戦するものの敵艦は3隻でこちらより格上の戦艦。
足止めが精いっぱいであるという事ははっきりと自覚していた。
「だけどこの艦は米戦艦サウスダコタを撃退した経験もある名戦艦。そう簡単には沈まないわよ……」
彼女の趣味は艦の経歴を調べる事であり、当然霧島の経歴もしっかり調べてある。
第三次ソロモン開戦の第二夜戦において戦艦霧島は米戦艦サウスダコタ、ワシントンと交戦。
約30年の艦齢差を押しのけてサウスダコタを撃退したがワシントンから超至近距離で発射された40.6cm砲弾によって沈没している。
日本海軍きっての武闘派戦艦と言えるだろう。
「副砲と高角砲要員は配置についているわね?」
「すでに配置完了との報告が入っています」
「蓮美ちゃん、ほんとに撃つの?」
霧島の航海長は小西良子だ。
黒い髪を持つ彼女は戦艦部の中でもかなり身長が小さい部類に入る。
なので艦橋の窓から外が見えているのか疑問だ。
「相手は格上だからね。撃てるのは全部撃つよ。その間に長門と金剛には逃げてもらわないと」
この会話の間に霧島は敵一番艦に1発命中弾を与えたが当たり所が悪かったらしく敵艦は依然、戦闘能力を落とさずに砲撃してきていた。
その後はお互いに命中弾が出せず、好機とばかりに長門と金剛が距離を離していた。
「距離18000!!」
「副砲、撃ち方始めっ!!」
7門の50口径15.2cm砲が砲撃を始める。
主砲とは比べ物にならないほどの発射速度で敵艦に発射されるが敵艦の手前に着弾してしまっていた。
さらに敵もこちらの副砲砲撃に呼応して副砲で応戦し、壮絶な砲撃戦となっていた。
しかし、それもそう長くは続かないだろう。
「マスト基部に直撃弾!!マスト倒壊!!」
一、二番煙突間に命中した40.6cm砲弾はマストを見ごとにへし折って倒壊させた。
近くにあった煙突にも被害が及び鼻息ながら動いていた艦の行き足が完全に止まってしまう。
こうなれば完全な静止目標だ。
だがそれでも霧島の乗員たちは戦意を失っていない。
「最後まで抵抗するよ!!全員気を抜かないで!!」
「「「了解!!」」」
6門の四一式35.6cm砲が爆音とともに火を噴く。
旧式戦艦なため装填作業は近代戦艦ほど速くはないので砲塔が沈黙する期間が長い。
伊勢型の様に自由装填方式であれば早く装填できるのだが残念なことに金剛型は固定装填方式なのだ。
「次弾装填急いで!!」
しかし、次の砲撃をすることはかなわなかった。
敵一番艦の放った40.6cm砲弾は霧島の二番主砲塔バーベッドを貫通した。
1.03tの砲弾は砲塔内で信管を作動させると爆発を起こし二番主砲塔の火薬に引火、さらにそれが一番主砲塔にもおよび両砲塔を空中に吹き飛ばした。
その威力によって霧島の船体は破断し大量の海水が艦内になだれ込んで来る。
空には高い火柱が上がり霧島は39000tの船体ごと海中に引きずり込まれていった。
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