第25話

H級戦艦一番艦「フリードリヒ・デア・グロッセ」からリンデは全速力で逃げる3隻の戦艦を見て称賛していた。

霧の中であの入り組んだ群島間を速力を落とさずに突っ切っていくのは相当に難易度の高い事だ。

恐らくはあの先頭の長門型の操舵手が優秀なのだろう。


「こちらに欲しいな……ここで沈めるぞ。絶対に逃がすな」


「了解!!」


「霧が晴れ始めてるな……晴天になったら日本艦が一気に優位に立つぞ」


霧の中なら北海で運用する前提で建造されたドイツ艦は優勢に戦えるが晴れたら日本艦が優勢となる。

しかしこのH級戦艦はビスマルク級戦艦の発展型で艦影もよく似ているがその主砲は47口径の40.6cm連装砲で最大射程は37000m程もある。

ビスマルク級同様に優秀な性能とは言えない戦艦だがその火力は日本艦といえど侮れないのだ。

現在、敵艦隊を射界に収めているのは1、2番砲塔のみだが後続のビスマルクやティルピッツも砲撃を行っているので総火力では若干ながら勝っていることになる。

40.6cm砲が火を噴いて敵艦に襲い掛かる。

この砲弾は敵の最後尾を進んでいた金剛型戦艦を捉えた。

被弾した金剛型戦艦は急速に速力を落とし艦隊から落後する。


「敵三番艦に命中弾!!敵艦落伍します!!」


「このまま沈めるぞ!!」


金剛型戦艦はH級やビスマルク級、敵の先頭を進む長門型に比べ数十年古い設計の戦艦だ。

35.6cm砲に対する装甲はもっていても40.6cm砲に対する装甲はもっていない。

そんな金剛型にとってこの被弾は相当に痛かっただろう。


「敵艦、回頭してきます!!」


「ほう……艦隊に追従できないと見たらすぐさま回頭して殿になる……か。そう簡単にできる事じゃないぞ。総員、気を引き締めろ!!敵は思った以上に精強だ!!」


「あの三番艦が邪魔で正確に測距できません」


レーダーが乱反射するこの状況下において頼りになるのは光学測距だがそれも霧と敵の三番艦、金剛型戦艦四番艦「霧島」に阻まれて正確に測距できずにいた。

逆に敵は回頭したことで全砲門をこちらに向け正確に測距もしやすい。

こちらは敵艦に向け進む形となっているのでいわゆるT字戦法とほぼ同じ状況になっていた。


「敵艦、発砲!!」


「このまま撃ちつづけろ。あんな旧式戦艦に負けたら一生の恥だぞ」


ドイツ海軍が誇る巨大戦艦が続けざまに砲弾を放ち霧島を被弾させる。

煙突が倒壊するのがフリードリヒ・デア・グロッセからも見えた。

続けて着弾した砲弾が4番主砲塔を沈黙させた。

しかし、霧島も果敢に反撃してくる。


「どこに当たった!?」


「右舷高角砲群に命中弾!!火災発生!!現在消火作業中!!」


霧島の放った35.6cm砲弾は15cm55口径連装砲などを粉々に粉砕したが戦艦としての戦闘能力には全く支障は出ていない。

続々と砲弾を送り込むが最初の2発以外は命中せず艦同士の距離が縮まっていく。

とうとう20000mを切ったあたりで敵の副砲が砲撃を始めた、

撃てる砲は全部撃つという事だろう。

かろうじて届いていないので手前に何本か水柱が立つだけだ。


「敵に手数で負けるな。こちらも撃ち返せ!!」


H級の15cm砲は23000mの射程を持つ砲なのでこの距離でも十分に届く。

だが、霧島も負けじと撃ち返すので壮絶な砲撃戦になっていた。

文字通り戦艦同士によるノーガードでの殴り合いのような砲撃戦だ。

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