第24話

発揮可能な全速力で群島間に突入する長門以下三隻。

速力が速い為舵の効きそのものはいいがそこかしこに障害物があるためちょっと操舵を間違えた時点で沈没確定だ。

長門司令塔でも航海士が舵輪を握りしめて操舵のタイミングを計っていた。

そこに第一艦橋から降りてきた修子が入って来る。


「航海士、操舵かわろ」


「えっ、いやしかし……」


「修子、またなの?」


副長として司令塔に詰めていた直が呆れたような顔をしていた。

前にも修子が突然飛び込んできて舵を奪い取った事があったのだ。


「そうそう、取り敢えずかわって。それと海図をここに持ってきて」


航海士から舵輪を受け取ると司令塔のわずかな窓から周囲の状況を確認する。

時折、敵の砲撃による水柱が上がるがそれ以外はほとんど霧で見えない。

航海士が持ってきた海図を見やすい位置に置かせると見張り員がまっすぐ前方に氷山があると報告してきた。

修子の目からは見えないが見張り員の視力は高いから見えたのだろうか。


「取り舵一杯!!」


修子が舵輪を回すと数瞬間をおいて長門が左に艦首をふった。

艦の右舷に巨大な水柱が上がる。

極めて近い至近弾で見張り員たちが全員大量の海水をかぶってずぶ濡れになり、艦の船体にも被害が出る。


「舵切ってなかったら直撃ね……当たったのはたぶん煙突のあたり……危なかったぁ……おっと、面舵面舵」


海図を見るとすぐ近くに島が迫っていた。

司令塔からもかなり近い位置に島がうっすらと見えるので、舵を切っていなかったら島に突っ込んでいただろう。

急激な操舵の繰り返しで艦が何度も左右に傾いている。

修子も舵輪に掴まっていなかったらこけていたかもしれない。


「……もうちょっと舵の効きが良ければいいんだけど……戦艦ならこんなものかな……ん?あーっ!!」


「ど、どうしたのよ修子……」


「模型降ろすの忘れてた……今頃大惨事だ……」


どうやら趣味で作っていた模型を試合前に艦からおろすのを忘れていたようだ。

こう何度も艦を回頭させていれば恐らく部屋の中はごった返しになり模型達も部屋の中を飛び回って大変なことになっているだろう。

さらに買ったばかりのプラモ(未開封)の山達も総崩れになっているはずだ。


「ご愁傷さま……」


「うぅ…………」


さらに彼女たちは知らないかもしれないが試合前日に作っていた夕飯用のご飯も室内でひっくり返っており大惨事になっているのであった。

試合から帰れば大掃除が待っているだろう。


「……もう復元は無理だなぁ……」


「たぶんね。それより、試合に集中集中!!」


全く緊張感のない会話をしている二人に一気に緊張感を元に戻す悲報が入って来た。


「霧島、被弾!!」


とうとう最後尾を進んでいた霧島が敵艦の砲撃に絡めとられたのだ。

それも運悪く煙突付近に被弾し大火災を発生させ、艦の速力が急速に低下している。

もはや艦隊行動を組むのは不可能な程に速力差は開いていた。


「……残念だけど、置いて行くしか……」


「霧島、回頭を始めました!!」


霧島を指揮する蓮美もそれを悟ったのか出せる限界の速度で艦を回頭させて全門を敵艦に向けた。

敵艦隊の前に立ちふさがるつもりのようだ。


「……ごめん!!」


舵輪を振るえる手で握りながら修子が叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る