第23話
「上空、零式艦上戦闘機3機、通過します」
「……あっちは気楽そうでいいなぁ。……っ!?怖っ!!」
敵の砲撃による水柱が何十本と立ち上がり、その水柱をくぐるようにして金剛が顔を出した。
天皇陛下の所有物であることを示す菊の御紋が艦首できらめいている。
金剛率いる帝山女子高校第二艦隊と敵H級を先頭としたプロイセン学院艦隊は先ほどまでとあまり距離を変えていなかった。
形勢を不利と見た金剛側が砲撃しつつ転舵して距離を引き離そうと逃げているが速力はほぼ互角。
余り状況は変わっていない。
真横に並走するのがはるか斜め後方を同じ方向に航行するようになっただけだ。
位置関係からして今砲撃しているのは三、四番主砲塔のみで艦の総火力の半分ほどだけで応戦していた。
後部主砲塔の砲撃による振動が艦橋を大きく揺らしている。
「見張り員、敵艦との距離は?」
「距離25000!!」
「さっきとあまり変わらないか……このままだとあの群島に突入しちゃうなぁ……速力を下げたほうがいいかな」
外していたヘッドフォンを頭にかけ直してまた音楽を聞き始めた美守。
しかし、その表情は真剣そのもので敵艦隊の方角を睨み続けている。
敵の40.6cm砲弾なぞ受けようものならどこに被弾しようと金剛型は大変な被害を受ける。
そもそもそういう風に設計されていないのだから仕方ないが、完全に形勢は不利だった。
「左舷十時方向!!艦影見ゆ!!数1!!こちらに近づいてきます!!」
見張り員の報告に全員がざわめいた。
この状況で敵の増援に来られるのは非常にまずい。
今ですら大変な状況なのにもう1隻でも追加されたら敗北は確定だ。
頼むなら味方であってほしいが1隻で行動する艦は味方にはいなかったはずなので美守達の顔は険しい。
「見張り員、その艦の艦橋は見える?」
艦橋の形などを見れば日独の戦艦は容易に区別がつく。
日本戦艦はそれもこれもが特徴的な艦影をしており艦橋は特に顕著だ。
大和以外の艦はパゴダマストになっている筈であり、大和ならばその巨体で識別できるはずだ。
霧の中で見張り員は敵艦の艦影を識別しようと目を凝らす。
「見えます。あれは……パゴダマスト!!長門です!!」
「長門!?」
第一艦隊に配属されていた長門の登場に驚く美守だが驚いているほど状況は芳しくない。
長門は後部の主砲塔で砲撃しつつ徐々に距離を詰め、金剛の前に滑り込んできた。
敵艦も突然現れた長門に驚いている様で急遽3隻のうちの1隻が長門に向かって砲撃し始めた。
41cm砲搭載艦が加われば形勢はほぼ互角にまで回復する。
「ビッグセブンが来てくれた……これ以上心強いことは無いね」
「長門より発光信号!!『コレヨリ最大戦速ニテ群島群ニ突入ス。我ニ続ケ』」
「へっ!?突入!?フルスピードで!?あそこに!?」
長門を加えた今、艦隊の最大戦速は約25ktに低下している。
それでもあの群島に突入すれば躱しきれずに座礁したり氷山に激突したりする可能性がある。
しかし、もしすべてを躱しながら最大戦速で突っ切ることが出来れば当然速力を下げた敵を振り切ることが出来る。
「……やってみようかな。長門に了解って送って。航海長、腕の見せ所よ」
「任せて!!」
霧島からも了解という発光信号が送られた。
3隻の大型戦艦が複雑に入り組んだ群島へと舵を切る。
戦艦同士による壮大な追いかけっこの始まりだ。
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