第22話

千秋たちが砲戦を行っていたころ2隻の戦艦も別のところを航行していた。

戦艦金剛と戦艦霧島、日本海軍最高速を誇る金剛型戦艦の長女と末っ子である。

第二次大戦時には老齢艦ということもあって出し惜しみなく投入され数多くの戦闘に参加している。

戦艦金剛の艦橋で第二艦隊の指揮を執っているのは大杉美守だ。

持ち込みが許可されたヘッドフォンで音楽を聞きながら艦橋の外を見る。


「氷山が多い……あまり高速は出せそうにないかな……」


「この先はもっと多いみたいだからそこは回避した方が良さそうね」


彼女達の言う通り、この海域には小さい島や氷山が非常に多い。

艦が高速で移動するのは難しそうな海域だ。

あまり高速を出し過ぎるとどこぞの豪華客船のような事になりかねない。


「見張り員。島が多くて電探がききづらい。警戒を厳として」


「了解」


こう島が多くては電探が効果を発揮しないのも無理はない。

しかし、それは同時に敵も電探を使いにくいという事だ。

これなら旧式な金剛型でも索敵能力はそう大差ないレベルにまで追いつける。


「敵艦見えます。数3、距離24000、三時方向にある島の向こうを14ktで並走中。H級1隻、ビスマルク級2隻と認む」


見張り員からの報告が入って来た。

この深い霧の中にも関わらず非常に正確な報告だ。


「嘘っ!!?」


すぐ近くを敵の戦艦が航行していた事実に美守は驚いた。

それにH級とビスマルク級はいくつかの欠点を抱えているとはいえ金剛型を上回る性能を持っている。

数もこちらが2隻、向こうは3隻、錬度も恐らくは向こうが上。

まともに戦っては勝負にならないのは目に見えていた。


「どうする美守?」


航海長の正子が隣から訪ねてきた。

美守はヘッドフォンを外して一瞬考えた後、すぐに決断を下す。


「よし、逃げよう」


「えっ!?逃げるの!?」


「うん、にげる。もう海域には入ってるから占領は始まってるし。真っ向から戦ったってどう考えても勝てないし。それなら第一艦隊が来るまで逃げまわる方がいいわ。このままじゃ全滅するだけ。針路反転180度!!」


「了解、取り舵一杯!!」


航海士が復唱を返した少し後に艦が進路を変更し始めた。

だがその対応は少し遅かった。


「敵艦発砲!!」


見張り員の絶叫のような声が飛び込んできた。

こちらから敵が見えたという事は敵にもこちらが見えたという事だ。

金剛と霧島を発見した3隻から3発の40.6cm砲弾と8発の38cm砲弾が撃ち込まれた。


「航海長、最大戦速で逃げるよ!!主砲射撃用意!!」


考えが上手くいかなかったことに美守は舌打ちしたがこうなってしまっては応戦しながら距離をとるしかない。

相手の速力はいずれも約30ktで金剛型とほぼ同等か少し上回る程なので振り切るのは難しい。

35.6cmを2門ずつ収めた650tの砲塔が2隻あわせて8基、右舷方向へと旋回を始め、ほどなく射界に捉えると同時に敵の第一弾が着弾した。

金剛の向こう側1800m程に11本の水柱が上がる。

この距離ではまだ衝撃は届かないが、物凄い迫力だ。


「射撃用意よしっ!!」


「撃ち方始めっ!!」


「撃っ!!」


各砲塔から一発ずつ35.6cm砲弾が発射される。

ドイツ新鋭戦艦と日本高速戦艦による砲撃戦の火ぶたが切って落とされた。

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