第21話
「きゃあぁぁぁっ!!」
シャルンホルストを途轍もない振動が襲った。
ヒルデの体が座席から投げ出され勢いよく床に打ち付けられる。
DSGが作動し体が守られたため何とか立ち上がると既に艦尾は地獄絵図だった。
シャルンホルスト級戦艦はビスマルク級戦艦と同様に全体防御方式だが装甲配置はかなり稚拙である。
さらにこの近距離で撃ってきているのは大和型戦艦の46cm砲。
当然防げるはずも無く、いとも簡単に貫通されてしまった。
「被害報告!!」
「艦尾に被弾!!スクリュー軸すべてが破損し推進力0です!!さらに艦内に火災発生!!現在消火作業中です!!」
「三番砲塔より連絡。砲塔故障にて射撃不能!!」
「くっ!!」
たった一発の被弾でシャルンホルストは戦闘能力の殆どを喪失してしまった。
残る一、二番砲塔のみではまともな反撃などは期待できない。
しかし、彼女たちにも意地と言う物があった。
「火災の鎮火を急がせて!!主砲一番、二番!!そのまま撃ち続けて!!」
ポケット戦艦が世界最強の超ド級戦艦に食らいつく。
彼女たちはDSGを装備している限り艦が沈もうと死ぬことは無いので沈むギリギリまで艦に残ることが出来る。
なので全員が退艦せずに戦闘を続行した。
しかし、形勢を逆転させることは無かった。
加賀が放った41cm砲弾もとうとうグナイゼナウに着弾。
グナイゼナウは火災を発生させていた。
続いて飛来した大和の46cm砲弾はシャルンホルストの手前に着弾したが、20000m程の近距離という事もあって実戦では全く成果を挙げなかった水中弾効果が牙をむいた。
厚さが45mmしかないシャルンホルストの装甲を突き破って艦内に大量の浸水を発生させる。
水中防御の甘さが致命打となったようだ。
「ダメージコントロール!!」
「駄目です!!食い止められません!!」
浸水によって艦が急速に傾き始めた。
もう沈むまでの時間の猶予は殆どない上に一、二番砲塔も傾斜が原因で砲戦不能になるだろう。
「くっ!!…………残念だけど、ここまでのようね。総員退艦!!」
もはやカッターなどを降ろしている時間はないため全員が海へと飛び込んでいく。
彼女たちは飛び込んだ海面から今まさに崩れ去っていくシャルンホルストと大火災を発生させ戦闘能力を失いつつあるグナイゼナウを見ながら沈没の渦に巻き込まれないように艦から離れていった。
水圧などによる独特の不協和音があたりに鳴り響いていた。
大火災を発生させている2艦の様子は零式水偵を通して大和にも届けられた。
しかし、シャルンホルストは沈んでもグナイゼナウはまだ浮いていた。
艦の各部に火災を発生させていても微力ながら戦闘能力はまだある。
それを見逃すわけにはいかない。
「敵一番艦から二番艦へと目標を変更してください。とどめを刺します」
虫の息のポケット戦艦に46cm砲弾と41cm砲弾が容赦なく襲い掛かる。
グナイゼナウの周りに巨大な水柱と火柱が林立し、とうとうグナイゼナウも力尽きて被弾の酷かった艦首付近から徐々に海へと消えていった。
「……あんなに格下の戦艦にここまでてこずらされるなんて」
「しょうがないわよ。それより、こっちも早くここを離れて第二艦隊の援護に行かないと」
「そうですね。では航海長、針路を変更してください」
「了解」
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