第20話

「砲声がかなり近くなってきてる……近くにいるはず」


零式水上偵察機が霧の中を飛んでいく。

先ほどからだいぶ砲声が大きくなっているので3人とも目を凝らして敵艦を探す。

すると霧の向こうに巨大な影が現れた。

かき分ける波の音、硝煙や重油の匂いもする。

間違いなく戦艦だ。


「いた!!すぐに大和や他の機に打電して!!」


「わかった!!」


「っ!?撃ってきたよ!!」


零式水偵のまわりに猛烈な対空砲火の弾幕が張られる。

たった一機の機体に戦艦の対空砲が集中するのは恐ろしい光景だ。

彩加は震える手を必死に抑えながら機を操る。

幸い敵の対空砲火は霧に阻まれてあまり精度が高くない。

霧に上手く隠れながら飛んでいればそう簡単には落ちないだろう。


「弾着観測に入るよ」


「「了解!!」」












「そうですか。やってくれましたか。栞菜ちゃん、これでいけますね?」


「任せろ!!」


艦首に一発喰らって大和は浸水を起こしていた。

装甲のない非装甲区画の舷側部分に飛び込んだ砲弾は内部で炸裂しその直上の甲板を吹き飛ばす。

綺麗に磨き上げられた甲板は見るも無残な状態と化していた。

しかし、水防区画を迅速に閉じたことで艦そのものには大した損害となっていなかった。

大和の主砲が再び装填を終えて持ち上がる。

既に距離は20000m程まで接近しており本来ならお互いの姿が見えるはずなのだがまだ霧は晴れていない。

その霧を振り払うかのように46cm砲が咆哮し砲弾を撃ちだす。

まだ着弾観測を行いながらの砲撃なので各砲塔から一発ずつ、計三発のみの砲撃だ。

着弾までの時間はおおよそわかるがここからでは当たったかどうかがわからないので観測に当たっている機体からの報告を待つ。

数斉射して少しずつ精度が上がってくる。


「遠弾、200。下げ2」


「よしっ!!」


この精度は着弾観測の結果もあるだろうが、栞菜の天才的な砲術によるところもあるだろう。

通常ならこんなにいきなり精度が上がることはない。


「後もう少し……」


千秋がそう言った瞬間、三度目になる大きな衝撃が大和を襲った。

被弾したのは後部三番主砲塔、その前面装甲だ。

650mmの装甲が28cm砲弾を跳ね返しはしたものの、衝撃で砲身が架台から外れて射撃不能に陥っていた。

まともに直撃を喰らったラッタルなどは跡形もなく吹き飛んでいる。

大和は対艦戦闘能力のおよそ三分の一を喪失してしまった。

しかし、まだまだ戦闘は可能だ。


「何とかして直撃弾が欲しいわね……」


優香が着弾の衝撃に耐えながらつぶやいた。

それには千秋も同意する。


「はい。このままでは士気も下がる一方ですし……でも、それはもうすぐ来るはずです」


千秋の言った通り、その時はすぐにやって来た。

艦橋に皆が待ちわびた報告が飛び込んでくる。


「敵一番艦艦尾付近に命中弾!!遠弾2、近弾3!!」


「いやったぁっ!!」


艦橋内が一気に湧き上がった。

格下の戦艦相手に劣勢に立たされていた大和がついに優位に立ったのだ。

大和の46cm砲弾が着弾したのはシャルンホルストの艦尾部分。

砲弾はシャルンホルストの船体を食い破って炸裂、推進軸2本を破損させもう1本も曲げてしまった。

推進力を喪失したシャルンホルストの運命はこの時点で決定した。

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