第19話

「艦長、対空レーダーに感あり。4時方向よりこちらに近づいてきます」


「撮影用の機体ではないの?」


報告にヒルデは少し顔をしかめた。

予想外のことが連続して起こっているためだ。


「撮影用の機体は先ほどから上空を飛んでいますのでそれはないかと。入れ替わりかもしれませんが」


「……そう願いたいわね」


シャルンホルストはこの霧の中でも零式水観達をレーダーで捕捉していた。

しかし、さすがに機種の類別は出来ない。

正直言ってこの霧の中で水上機を飛ばすとはあまり思えないが、万が一があるので対空戦闘用意が下令される。

撮影用の機体であってくれと祈りながら空をにらみ続ける。


「……見えた!!零式水上偵察機!!墜とせっ!!」


接近してきた機体は望んだ機体ではなかった。

シャルンホルストとグナイゼナウの対空砲火が一斉に火を噴いて零式水偵を襲う。

しかし、霧の中での対空戦闘など目隠しされた状態で撃っているようなものでまるで当たらない。

霧の中に高角砲弾と機銃弾が消えていくだけだ。

その間に敵の砲弾も飛来するがこれもまだ当たらない。

巨大な水柱をシャルンホルストの近くに立ち昇らせるだけで消えて行った。


「満足な弾着観測なんて出来ないと思うけど……不安要素は早めに取り除きたいところね。霧が晴れたら今度はこっちが一方的にやられる」


28cm砲も絶え間なく火を噴いて敵艦へとダメージを与えている。

先ほどの後にさらに1発が敵艦に当たっているが敵は意に介していない。

霧が延々と続くものではないとわかっている以上速めに決着をつけたいが、敵の装甲は厚く有効打が出ない。

敵機はいまだに上空を飛び続けていた。

恐らく弾着の結果を報告しているのだろう。

この濃霧の中でよくやるとヒルデは敵ながら感心していた。

そしてシャルンホルストから200m程の地点に巨大な水柱が上がる。

世界一の巨砲による着弾の衝撃が艦にまでしっかり伝わってきた。

グナイゼナウを狙っていた艦も200mとまではいかないが精度は上げてきている。


「もう射撃精度を上げてきた!!やはりあの水偵ね!!左舷、弾幕薄いよ!!なにやってんの!!」


対空戦闘の様子を見ながらヒルデは「観測機ではなく偵察機のくせに」と毒づくがそんなことをしても始まらない。

まだ、命中弾が出たというわけではないと考えるヒルデだったが焦っているのは明白だった。

こちらは通商破壊が目的で建造されたポケット戦艦、対する向こうは対戦艦を想定して建造された正真正銘の戦艦。

単純にノーガードでなぐり合えばどうひっくり返っても勝てない。


「敵一番艦に命中弾!!」


「よしっ!!やった!!」


更なる直撃弾の報告に艦橋に歓声が上がる。

世界最強の戦艦に対し優勢に戦っているということはこの競技をやる者にとっては最高の喜びだ。

そして敵一番艦の発砲炎が次斉射から減ったので恐らく砲塔の一基が射撃不能に陥ったのだろう。

装甲を抜かずとも砲身を架台から外してしまえば砲撃は出来ないのだ。


「このまま勝つよ。撃ち続けて!!」


勢いを逃すものかとシャルンホルストから何本もの発砲炎が立ち昇る。

しかし、世の中そう上手くはいかないのである。

1.46tの鉄の塊がシャルンホルストに飛来した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る