第18話

シャルンホルストへ向けて砲撃を続ける大和だが、霧の中と言うことでは確実に相手に利があり撃ち負けていた。

千秋は遥かに格下の戦艦に撃ち負けているということに唇を噛む。

敵の砲撃はどんどん精度を上げてきていた。


「レーダーの差がこれほどの物とは……っ!!」


シャルンホルストの放った330kgの砲弾が大和左舷高角砲群に突っ込み艦を大きく揺さぶった。

爆風避けシールドしか装備していない高角砲は粉砕されて内部にも被害が及ぶ。

内部で待機していたアンドロイドたちも一緒になって引き裂かれ四肢が吹き飛んで行った。


「被害知らせてください!!」


「左舷高角砲群に被弾!!25mm機銃座にも多数の被害発生!!しかし、砲戦に支障なし!!」


戦艦の砲弾と言っても所詮は28cm砲弾。

大和の200~230mmの中甲板装甲を貫通するにはまるで威力が足りていなかった。

艦の外観はかなりの被害が出ているが浸水もなし、主砲もまだ全砲門が使用可能。

大和はその戦闘能力を全く落としていない。


「栞菜ちゃん、落ち着いて狙って!!相手は大和が負けるような艦じゃないよ!!」


「んなこと言ったって見えねえんだよっ!!」


霧はまだまだ濃く敵艦を視認するのは難しい。

そのとき、後方の長門から発光信号が来た。

信号員が艦橋に入ってきて内容を読み上げる。


「失礼します。長門より発光信号。『タダチニ第二艦隊救援ノ要アリト認ム』。以上です」


それは千秋も懸念していたことだ。

ここに敵が2隻いる以上、向こうには3隻が行っていることになる。

これがビスマルク級やH級なら金剛型2隻では数でも性能でも劣勢に立たされるという事になる。

まず、勝ち目はないだろう。

こちらはシャルンホルスト級2隻に対し大和型、加賀型、長門型が1隻ずつ。

性能だけで見れば確実に圧倒できる戦力だ。


「長門に発光信号。『長門ハ直チニ第二艦隊救援二向カワレタシ』」


「了解」


「いいの?こっちも撃ち負けてるのに」


優香が心配そうに聞いてくる。

彼女の心配はもっともな物だろう。


「……大丈夫です。大和は必ず勝ちます。水上機を出してください。出せる機体は全部です」


千秋の命令に艦橋内の全員がおののいた。

この視界不良の中で水上機を出せば海に激突したりして墜落する可能性が高い。

ここら辺の海域ではコンパスも効きにくいため機位を見失う可能性も十分ある。


「でもこの視界じゃ……」


「出さないよりはましです。急いでください!!」


命令が下ったので大和に搭載されている零式水観、零式水偵がカタパルトから全機飛び出す。

敵艦のおおよその位置は割れているとはいえ霧が濃く、たよりは時折発生する発砲炎くらいだ。


「……何も見えない」


「しっかり目を凝らして。今頼りになるのは私達だけなんだからね」


「そんなこと言っても見えない物は見えないよ」


本来は着弾観測が任務ではない零式水上偵察機も着弾観測の任務に駆り出される。

彩加は発砲炎を頼りに進んでいくが発砲炎はそう何度も出る物ではない。

正直言って自分がまっすぐ進んでいるのかどうかもわからない状態だ。


「っ!?」


すぐ眼前に海面が見えたため慌てて機首を起こす。


「……危なかった。しっかりしないと!!」


気合を入れ直して操縦桿を握りなおす彩加。

艦隊の命運は彼女にかかっていた。

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