第17話
帝山と対峙するプロイセンの戦艦。
それは千秋が推測した通りシャルンホルスト級戦艦のシャルンホルストとグナイゼナウであった。
ビスマルクと同じく砲身の間隔が妙に開いているのが特徴で、世界では珍しく空母を砲撃戦で撃沈した経験を持っている。
凌波性が悪いらしく、艦が切り裂いた波が主砲塔や艦橋にまで到達して吹きかかってしまっている。
「……第一射は流石に外しましたか」
シャルンホルスト艦長のヒルデがボソッとつぶやいた。
もとよりこの霧の中での長距離砲撃だ、当たるとは思っていなかった。
しかし、やはり多少の落胆はある。
「距離を詰めましょう。近距離戦に持ち込みます。……っとそろそろ来ますね」
シャルンホルストの左舷側2000mの所に高々と水柱が上がる。
それはこちらの28cm砲などとは比較にならない大きさだ。
「Feuer!!」
シャルンホルストも負けじと撃ちかえし、その船体を大きく震わせる。
28cm砲と言えどその衝撃は強烈だ。
姉妹艦のグナイゼナウも同時に砲撃し、霧の北海に閃光が迸る。
「敵艦の数は3隻であっていますね?」
「はい、そうです」
となると水柱の大きさと量からして46cm砲搭載艦が1隻、41cm砲搭載艦が2隻と言ったところだろうとヒルデは推測を立てる。
事実、彼女が相対しているのは大和、加賀、長門なのでそれは的を得ていた。
「となるとこちらの艦の性能では撃沈は困難か……しかし、逃げるわけにもいかないわね」
霧の中を2隻の巡洋戦艦が3隻の戦艦と距離を詰めるために航行していく。
その間にもこちらの砲撃は精度を増していきついに敵一番艦を捉えた。
しかし、敵一番艦は何事もなかったかのように平然と撃ちかえしてきているのが発砲炎からわかった。
恐らくその一番艦が46cm砲搭載艦、恐らくは大和型なのであろうと推測を立てる。
「敵の戦艦は化け物ね……」
しかし、敵の戦艦達の砲撃はいまだにシャルンホルストを捉えられないでいる。
射撃のほとんどを光学測距に頼る日本艦にとって北海という戦場は恐ろしく不利な状況だ。
対するドイツ艦はもともと北海で運用されることを前提で設計されている。
最も得意な戦場と言うわけだ。
そしてその戦場で自分たちをはるかに上回る巨艦達を相手に優位に戦っている。
そのことにほくそ笑むが手は緩めないのが彼女達プロイセン学院だ。
そのとき、レーダー室から突然情報が届いた。
「……1隻が離脱し始めた?」
レーダー室からの情報では敵の最後尾を進んでいた戦艦が離脱、エリア2に向かい始めたという事だ。
現状、自分たちが不利なのにもかかわらず戦力を割いて別行動している艦隊の援護に出す。
理由は恐らく、ここにいる我々2隻がシャルンホルスト級であるという事を敵が看破し、残り3隻がエリア2へと向かったと考えたためだろう。
プロイセンの保有艦船の種類から考えて向こうにいるのがH級やビスマルク級などシャルンホルスト級より各上の戦艦であることは容易に想像できたはずだ。
そして1隻を援護に出したということは残る2隻で十分に対応ができると敵が判断したという事。
戦艦の性能は向こうが上とはいえ競技を始めて間もない人間にその判断を下されたことはヒルデにとって屈辱だった。
「絶対に沈めてやる……」
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