第9話

初めての演習。

その中で千秋達の艦隊は劣勢に追い込まれていた。

味方の砲撃は殆どが外れ、こちらは既に金剛と霧島が被弾して速力を落としている。

火力も砲塔の半数が破壊されたようで目に見えて減っており、艦の各部から火災が発生している。

加賀と長門も未だ小破だが、先ほど夾叉され長門が既に被弾している。

しかし、その状況にあってサウスダコタと撃ちあっている大和ただ一隻だけが戦闘を優位に進めていた。


「敵三番主砲塔に命中弾!!」


ここまでの戦闘の間に二番主砲塔を破壊し、今、三番主砲塔も粉砕した。

両方とも弾薬庫に誘爆こそしなかったものの砲塔は完全に全壊。

更に対空砲塔群にも被害が出ている。


「我々は一応優位に立てていますね」


「そうみたいね、千秋ちゃん。後続の援護に入る?」


「いえ、敵艦はまだ戦闘能力を喪失したわけではありません。撃沈まで追い込みます」


しかし、とうとうサウスダコタも命中弾を得た。

一番主砲塔天蓋に40.6cm砲弾が着弾したのだ。

しかし、270mmのMNC鋼板はそれを難なくと防ぎ切り、跳ね返った砲弾が遅延信管も相まって空中で炸裂し艦を大きく揺さぶる。


「一番主砲塔大丈夫ですかっ!!?」


「……アイタタタッ!!今すっごい衝撃が来たんですけど何かあったんですか?」


主砲塔から帰ってきた予想外の報告に千秋と優香が唖然とする。

幸達は砲弾が着弾したことは自覚していても自分たちの所に着弾したとまでは思っていなかったようだ。

艦橋から見下ろした一番主砲塔は手摺等が千切れとび、塗装も剥げているものの何ら問題なさそうに鎮座している。


「あっ、いえっ、なんでもないです……大和って凄い……」


「敵艦、沈みます!!」


サウスダコタが大和の命中弾に耐えられなくなりその200m以上ある大きな船体が海中に没し始めた。

海中に沈んだ船体が水圧によってまるで断末魔のような不協和音を奏でる。

そこに追い打ちをかけるように46cm砲弾が着弾し追い打ちをかけた。

5分もしないうちに水面から船体は見えなくなり完全に沈んだ。

そのことに千秋達は湧き上がるがすぐに嫌な知らせも飛び込んでくる。


「金剛さらに被弾!!艦橋が崩壊します!!」


千秋達が艦橋後方に回り込んで確認すると確かに金剛の艦橋が中腹辺りから倒壊していた。

炎に包まれた艦橋の様子を見る限り第一艦橋と主砲射撃指揮所にいた者には戦死判定が下ったはずだ。

しかし、司令塔には何ら被害が及んでいないようで次海が連絡してきた。


「千秋ちゃん、艦橋が折れて皆戦死した判定みたいなんだけどどうしたらいい?」


「指揮権は今は次海ちゃんにあるはずなので指揮をお願いします!!」


「わかった!!」


大和の方ではすでに沈んだサウスダコタから後続のコロラドに目標を変えて砲撃を開始していた。

世界のビッグセブンに数えられた戦艦も数発被弾した状態で世界最強の戦艦と長門以上の火力を誇る大型戦艦を相手には戦えず、すぐに戦闘能力を喪失する。

しかし既に加賀や他の3隻には大破判定が下っていて、金剛に至っては沈没寸前である。

その後も演習終了時間ぎりぎりまで砲撃したが取り逃がし、こちらは大和以外の4隻を結局喪失した。

大和も数発被弾し後部艦橋などが吹き飛んでいる。

相手が競技者ではなく練度を下げられたNPCである事を考えるまでもなく、文字通り敗北である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る