第8話
米戦艦の上空を何機かの観測機が飛行していた。
そのうちの一機は零式水上観測機。
戦闘機を撃墜した経験もある日本海軍の高性能水上観測機だ。
周りにはほかの艦から射出された観測機も飛んでいる。
この観測機たちの本来の役目は先に述べたような敵機と交戦する事ではなく名前通り味方艦隊からの砲撃の結果を観測することだ。
大和から出た観測機にはトレードマークのマフラーをつけた黒江華那が前の座席に操縦士として、終始何かを食べている加藤亜矢が後ろの銃座に乗り込んでいた。
「しょっぱなから大和は夾叉か、凄いな。他の艦はてんで的外れなとこに落ちてるけど」
「華那ちゃん……ムグムグ……きょうさって何?」
「あんな風に敵の前後に砲弾が放むように落ちろこと。あのまま撃ってたら砲撃がいつか当たるから砲撃戦ではまずあれを狙うんだってさ」
「へぇ、でももうそれが出たってことは……モグ……私たちいらないってこと?」
「そうでもないよ。敵が進路を変更したりしたら砲撃の精度がまた下がったりするからそうなると私達にも仕事ができる。ところでさっきから何食べてるの?」
華那が後ろの銃座を覗くと亜矢はやはり何か食べていた。
手を覗くとご飯粒がついているので大体の品目はわかるが。
「これね……何か知らない間に持ってたの。おいしい御握りだよ」
「多分戦闘配食か何かで配られたって言う設定なんだと思うけど。何で私には無いのよ」
「さあ?」
そんなくだらない会話をしているとすぐ近くを飛行していた観測機が火を噴いた。
いきなりのことに二人とも状況がわからないが異常事態であることはすぐに察しがついたので機体をすぐにひねらせる。
機体のあったところを一瞬遅れて機銃の曳光弾が突き抜けていく。
「後ろから何か来てる!!亜矢っ!!何か見える!?」
「何か青い機体がついて来てるよ!!フロートがついてる単発機!!」
「部長!!何か青い機体に追われています!!フロート付きの単発機なので水上機と思いますけど何ですかこいつ!!」
イヤホンを押さえて叫ぶ華那。
千秋の対応も早くすぐに返事が返ってきた。
「それは恐らく米軍のキングフィッシャーです。そちらと同じく観測機ですが、恐らく観測の妨害に出てきたのでしょう。零式水上観測機の方が性能は上なので落ち着いて撃墜してください」
「わかりました!!亜矢っ!!やっちゃって!!」
「これでも喰らえっ!!」
後部銃座に備え付けられた九二式7.7mm機銃が火を噴く。
しかし、亜矢に航空機の操縦経験はあっても銃を撃った経験など一度もない。
そんな弾が当たるはずもなく弾が空を切るはめになった。
性能は段違いなのだが華那の方も初めての空中戦なので逃げるので精一杯だ。
急降下して水面近くに下がるが敵はそれを見越していたようで冷静に対処されて離せない。
「くそっ!!離せないっ!!」
機体を蛇行させて射線から逃れようとするが何度も言うように練度が低い。
振り切るのは難しかった。
「このおっ!!」
ついに堪忍袋の緒が切れた亜矢が風防から身を乗り出して手に持っていたおにぎりを投げつけた。
黒い海苔の色もあってか追ってきていたキングフィッシャーはそれを手榴弾か何かと勘違いしたらしく、躱そうとして急激にバランスを崩して海面に激突し墜落した。
それには投げた亜矢も操縦していた華那も唖然としてしまう。
「「嘘ぉ」」
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