ラジオネーム 昭和のモナリザさん

 先日、信号の向こうで子供達が水たまりを飛ぼうとしているのが見えました。

 スーパーのレジ袋を片手にさげた私の後ろでは、駐車場のフェンスに腰かけてひなたぼっこを楽しむ御令嬢たちがニコニコと彼らを眺めておりました。

 まず初めにお姉さんらしきピンクの服の子がピョンと飛び、続いて弟くんが膝を曲げます。その瞬間に数台の車が私の目の前を通り過ぎて、身体を目いっぱいに伸ばした男の子が空に舞う様子が八ミリビデオの様に思えて私は息を飲みました。そして最後のトラックの幕が開いた時には、青いズボンの膝までを泥水で汚した少年がお姉さんと二人で笑いながら水たまりを踏みしめて遊んでいました。

 やがて青に変わった信号から彼らに目を戻しますと、横に並んで腕を振り、膝を曲げて飛ぶタイミングを合わせている二人の姿が目に入りました。しかしながら、二人一緒に飛んだところで何が変わる訳でも無く、再びきちんと飛び越えたお姉さんのズボンの後ろをわざとらしく泥水を跳ね上げる様な弟くんの着地が汚してしまいました。

 歩道を飛ばす自転車の女性も、私も、私とすれ違った若者も、通行の邪魔をしている彼らの邪魔をしないように黙って道を譲り合いながら、今度は弟の身体を抱くように肩を組み始めたきょうだいの横を通り過ぎていくのが当たり前の様に思えました。

 果たして、きっとその形では今度こそ二人で水たまりの中に着地してしまうだろうと考えていた私の背後で驚いたような歓声が上がります。

 思わず振り返りますと、どうなったのか分からない位に汚れた服で水たまりの周りを飛び跳ねる子供達の姿が見えました。温かな午前の太陽を浴びてはしゃぐ彼らの姿に、とっくに夕飯の材料を手にしていた私も少し嬉しくなった春の日の話です。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る