使節団(おまけ)

第90話ギルドのレストラン

「マリア。珈琲を一杯頼めるかな?」

イツキはギルドのカフェにいた。


「あら?イツキさん、朝からこんなところで珈琲ですか?美人な秘書さんにいれてもらったらいいのに」

マリアはイツキを軽く突き放すように応えた。


「マリアまで僕をいじめるのかぁ?」


「だって噂ですよ。『イツキがとうとう嫁を貰う』って」


「誰だ?そんなガセネタを流す奴は?」


「そんな人はこのギルドで一人しか……いや二人いたかな?」

マリアはそう言うとニコッと笑った。

その笑顔にうんざりしながらイツキは

「ヘンリーとマーサだな?」

と答えた。


「そうです。お二人で楽しそうに噂を流しまくってますよ」

マリアは更に朗らかに笑いながら応えた。


「反論する気力も起きん……」

イツキは力なくテーブルに突っ伏した。

「ねえ……マリアぁ……」


「はいはい。分かりました。いじめるのはこれくらいにして珈琲ですね。すぐにお持ちします」

そう言うとマリアは厨房へと去っていった。


しばらくして突っ伏したままのイツキの前に男が座った。


「イツキどうした。朝から元気がないな」


「何が元気がないな……だ。原因はあんただろうが!」

イツキはテーブルに突っ伏したまま吐き捨てるように応えた。


「なぜ?あんな綺麗な嫁さんを貰って何が不満だと言うんだ?」


「誰が嫁さんだ!まだ嫁さんにはしておらん!!ガセネタを流すな!!」

イツキはテーブルから勢いよく頭を起こすとヘンリーに反論した。


「まあ、時間の問題じゃないのか?」


「違う!!」


そこへマリアが珈琲を二つ持ってきた。

「ギルマスもこちらにお持ちしていいんですよね」


「うん。大丈夫。イツキと今後の結婚式の段取りの打ち合わせをするからね」


「だからしないって!!どこまで話を引っ張るんだ?」

イツキはとうとうキレかけてヘンリーに声を荒らげた。


「悪い悪い。まあ、その話は後に回すとして……」


「回さなくていい。さっさとゴミ箱に捨ててくれ」

一瞬イツキの大きな声に驚いた顔をしたマリアだったが、笑顔に戻ってテーブルに珈琲を置いた。


「ギルマスもイツキさんをいじめたらダメですよ」

そう言ってマリアは去っていった。



 去って行くマリアから視線を戻すと

「で、なんなの?なんか話があるんでしょ?」

とイツキは椅子に浅く座り、背もたれに体を預けただらしない格好でヘンリーに聞いた。

不貞腐れた空気がイツキの周りを漂っていた。

 ヘンリーは苦笑しながら話を始めた。

「そうだ。我が君がロンタイル連合王国の皇帝の座に御つきになられたのは知っているだろう?」


「この間調印式と戴冠式をやってましたな」

イツキは興味なさげに聞いていた。


「ああ、そうだ。そこでだ。新たな皇帝として諸外国の王へ書簡を送る事になった」


「挨拶状でも送るんですか?これからよろしくって!?」


「まあ、そんなもんだ。この書簡を送る事により諸外国が、我が連合王国を承認する事になる」


「承認しなければ?」


「それはない……ないが、承認したくない国はあるだろう」


「ほほ~それは?」

イツキはそう言うと体を起こしてテーブルの珈琲カップを持ち上げた。

少し話に興味が湧いた様だ。

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