第91話使節団
「アルポリだ。あそこは我が国……いやロンタイルが統一される事を一番望んでいない」
ヘンリーはテーブルに両肘をつき小声でイツキだけに聞こえるように話した。
「でしょうな」
イツキは珈琲を飲みながら頷いた。
「だが、承認しない訳にはいかない。承認しないという事は……すなわちそれは我が連合王国に喧嘩を売る事になる。今、アルポリは我が連合王国と戦争はしたくないはずだ」
「エルフにコテンパンにやられてましたからな」
「ああ、それもシド老師と君のお陰だ」
「僕な何もしてませんよ。あれはあの部族が強かったからです。敢えて言うなら師匠が全部仕組んだ事ですよ」
「まあ、そう謙遜するな。話はこれからだ」
「はい?」
イツキは興味が薄れかけてきたが、ヘンリーの表情を見て思い直した。
「うちも敢えてアルポリと事を構える気はない。なのでアルポリも我が連合王国を嫌々でも承認するだろう。しかしそれでは変な遺恨が残りかねない。アルポリの面子を保つための準備も必要だ」
「準備?」
「そうだ」
ヘンリーの目元が怪しく光った。
それを見たイツキは暫く考えてから口を開いた。
「行ってらっしゃい。ヘンリー」
にこやかに笑いながらイツキはヘンリーを見た。
「勿論、イツキも来てくれるよな?」
ヘンリーも負けずににこやかに笑いながら応えた。
「なんで僕が?」
イツキの笑顔が引きつり始めた。
「もうイツキには分かっているんだろう?」
ヘンリーは口元に笑みを浮かべながらイツキに話しかけた。
「何の事やら……」
イツキはヘンリーから目を反らして珈琲を口にした。この時点でイツキは嫌な予感が満開状態だった。
「アルポリには使者としてリチャード皇太子が行く事になった。これでアルポリの面子も潰れずに済む」
「でしょうな。次期国王がわざわざ行くんだから文句はないでしょう。でもそれを元老院がよく認めましたな」
「当たり前だ。随行者にイツキが居るんだからな。元近衛第一師団団長で世界最強の勇者がいれば安心だ」
「ちょっと待ってくださいよ。もしかして……それが条件で皇子の訪問が決まったんですか?」
イツキの腰が椅子から浮いた。
「当たり前じゃないか!それイツキ以外に皇子を守れる人間がどこに居る?」
「えらく信頼されたもんだな」
イツキは呆れかえったように呟くとゆっくりと浮いた体を椅子に戻した。
「これは皇子からの願いでもあるが国王陛下……いや皇帝陛下からの頼みでもある。そして元老院は満場一致でイツキの随行を承認した」
「満場一致で?」
「そうだ」
ヘンリーは胸を反らして言った。
「シュナイダー侯爵も?」
「うむ。何ら異存も挟まなかった」
「ふ~ん」
イツキは自分から聞いておきながら、興味なさそうに返事をして天井を見上げた。
ヘンリーは黙ってそれを見ていた。イツキは考えていた。
暫くしてイツキはヘンリーに向き直ると
「今回の使者はどうなってるんですか?」
イツキはどうやら腹を括ったようだ。
「正使は皇太子。副使として私とアルノー・フュルストだ」
「アルノー?」
「フュルスト侯爵の息子だ。イツキも知っているだろう?」
「侯爵は知っているが息子は知らん」
「士官学校出の軍人だが今回が大役デビューだな。良い奴だぞ。ちょっと頭が軽いけどな」
そう言ってヘンリーは笑った。
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