第85話ものは相談
「これ素材はオリハルコン。名付けでデバハルコン。どんな魚でもあっという間に捌けるスグレモノ」
「げげ!もしかしてこれはイツキさんが鍛えたんですか?」
「そう」
「一体何を作っているんですか……」
ダイゴは呆れてそれ以上の言葉は出なかったが、この出刃包丁の完成度には感心していた。
「まあ暇つぶしに作ったんだけどね」
イツキは自分の作った作品を見せたくて仕方なかったので、結構満足していた。
「でも、そんなもんを作るぐらいしかすることがないんですよねえ……」
ダイゴはため息混じりに呟いた。
それを見ていたイツキの口元が少し緩んだ。
「一つだけ……ない事もないんだが……」
「え?本当ですか?」
「ああ、さっき言ったオーフェンのところで黒騎士(シュワルツリッター)を募集している。どうだ?」
「黒騎士(シュワルツリッター)ですか?それは噂で聞いていたんですが本当にあるんですか?」
ダイゴは顔を上げイツキの顔を見上げて聞いた。
「ああ、うちのギルドだけが扱っている。国王陛下も認めている。既に3人紹介した」
「え~、そうなんですかぁ……それって冒険者と戦うんですよね」
「いや、正確には密猟者と戦う事になる」
「え?」
「今この大陸はモンスターを狩ってはならんようになっている。全て魔獣魔人保護地域となっている。だからそこで狩りをする奴らは冒険者ではなく密猟者だ。だから退治して貰ってもけっこうだ。まあ、狩るのが嫌なら捕まえて自衛団か近衛に引き渡してもらっても良い」
「ふむ……」
ダイゴは真剣に考えた。
どうせこのままではする事がない。
鍛冶屋の技術を活かして包丁や鍋を作っても競合が多すぎて多分売れない。黒騎士なら今までの経験が活かされる上にジョブチェンジで新たな技が身に着く……だが、
「黒騎士の師団長は……」
「そうだ。あのキースだ」
「キースかぁ……」
ダイゴは露骨に嫌そうな顔をした。
「あいつってオカマの魔人でしたっけ?」
「いや、違う」
「じゃあ、オナベの騎士でしたっけ?」
「それも違うぞ」
「え?」
「どこでそんな間違った情報を仕入れたんだ?あいつは単なるサディストだ。それに女に甘い。腹が立つがイケメンだ。イケメン粘着のサディストだ」
「なんだ。そうなんですね。それなら安心だ」
「はあ?お前、安心するところが違うだろう?」
「ええ?そうですか?」
ダイゴは全然意に介していないようだった。
「まあ、良い。だったらオーフェンのところへ行くか?」
イツキはこれ以上の会話も不毛だと分かったので早速オーフェンの元へダイゴを連れて行く事にした。
「はい。お願いします。一度黒騎士にもなってみたかったもんで」
ダイゴは完全にその気になっていた。
「それなら今から行こうか?」
「え?今からですか?」
「うん。今からテレポーテーションする」
「え?イツキさんってそんな技まで持っていたんですか?」
「まあね。」
イツキはそう言うとダイゴの手を引いて一気にオーフェンの宮殿まで飛んだ。
いつものようにイツキはオーフェンの宮殿の広間に飛んだ。
「お~い。オーフェンはいるかぁ?」
突然現れた人間二人に広間の魔人と魔獣は驚いた。
しかしその二人の内の片方がイツキだと分かると、それ以上は何事もなくほどなくザルバが現れた。
「おや?お久しぶりですな」
「そうだね。なんだかこの広間にも魔人の類が増えたね」
「ええ、お陰さまで無茶な冒険者が戦いを挑んできませんからね」
「それは良かった。また新しい黒騎士候補を連れてきたよ。ところでオーフェンは?」
ザルバはイツキの後ろに立っていたダイゴを一瞥すると
「少々お待ちを」と言って下がっていった。
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