第84話ダイゴの転職
「なんでですか!?」
とダイゴは憤って言うと珈琲を一気に飲んだ。
イツキはそれを「熱くはないのか?」という顔をして黙って見ていた。
「そこでイツキさんに何かいい職はないかと相談に来たんですよ」
「急ぐの?」
「いえ。今まで稼いが金がありますから、全然急ぎませんけどね」
ダイゴは3年前、高校の卒業式の帰りにこの世界に転生してきた。
高校時代はラグビー部の主将を務め全国大会にも出場した。卒業したら推薦で有名私大へ進学することになっていたが、進学する前にダンプカーと一戦交えてここへ吹き飛ばされてきた。
そしてイツキに出会い、この3年間で彼は戦士と剣士をマスターしていた。倒した魔王も3人。おかげでそれなりに稼ぐこともできた。
「少し前なら、シラネのとこの自衛団を紹介できたんだけどな」
「え?そうなんですか」
「うん。ちょっとアルポリときな臭くなっていたからね。ところがアルポリがアウトロ大陸で前哨戦として位置づけていた少数民族との戦いで大敗してそれどころでは無くなったんだ。まあ当分戦争の心配は無くなったようだからね。今は募集をしていない」
「へえ。そうなんですね。アルポリ軍を破ったその部族はどこの部族なんですか?」
「ケンウッドの森のヴィクター族だよ」
「え~!ダークエルフじゃないですか?確かに普通のエルフよりは戦い慣れしているかもしれませんけど、一国の軍隊と戦って勝てるような部族ではないでしょう」
「そうだよ。それに負けちまうんだからアルポリもこりたみたいで、おとなしくしているようだ」
イツキはその戦に於いてシドと参謀として参加していた事は敢えて言わなかった。
ここは単純に素人同然のエルフにアルポリが負けたとしておく方が良いと思ったからだ。
「成る程ねぇ……。そりゃ懲りるでしょう……でも思ったよりアルポリも情けないですね」
事情を知らないダイゴは本当にアルポリがエルフに簡単に負けたと思って呆れながら言った。
「まあね。だから当分は戦争の心配もない……その上モンスターを狩る事もない。狩るのは山賊ぐらいだが、自衛団も暇だから頻繁に山に入っているからねえ……その山賊も居ない……」
イツキもなすすべがないという表情でダイゴに現状を伝えた。
「ところで、転職って冒険者以外に何になるつもりなの?」
「はあ、それが思いつかんのです。なのでイツキさんに相談に来たんです」
「そんな事を言われてもねえ……」
「ってイツキさんキャリアコンサルタントでしょう?」
「まぁそうだけど……」
「サブキャリアは何にしたの?」
「鍛冶屋です」
「ああ、君も鍛冶屋を取ったのかぁ……」
「はい」
ダイゴは小声で返事をした。鍛冶屋を選んだことを後悔しているような声だった。
「まあ、剣士系冒険者なら一番いい選択なんだがなぁ……」
「はい。冒険が出来るのであれば……」
「そうなんだなぁ……その職業は結構多くの冒険者が選択しているから沢山いる。その上、今ではその作った高性能な完成度の高い武器も使うところがない」
「はい」
ダイゴは更に消え入りそうな声で返事をした。
「だから鍛冶屋になった連中は包丁とか鍋とかを作っているよ」
「はぁ……ですよねえ……」
ダイゴは打ちひしがれたように肩を落としてため息をついた。
そんな醍醐を見てイツキはダイゴに布で巻いた包丁を見せた。
「これを見てよ」
醍醐がその布を解くと一丁の出刃包丁が出てきた。
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