第61話傭兵の首領
男を眠らしたイツキは部屋の中を見回した。
そこは思ったよりも広く部屋というより大きな倉庫という感じだった。
イツキ達が入って来た入口と反対側にも通路があり奥へと続いているようだった。
ナリスとグレースは猿ぐつわをされた上に大きな荷物が積み上げられている壁際に、後ろ手に縛られて眠らされていた。
「大丈夫か?」とイツキが声を掛けて起こすと軽く呻き声を上げて起きた。グレースもスチュワートが起こしていた。
「大丈夫……あれ?イツキ?どうしてここに?」
とナリスは聞いた。どうやらまだ現状が把握できていないようだ。
「それは後だ。立てるか?」
イツキは聞いた。
「うん。立てる」
そう言うとナリスはイツキの肩を借りながらも立ち上がった。
イツキはナリスを支えながら一緒に立ち上がった。
その時、その倉庫のようなこの広間に声が響いた。
「ほほぉ。誰かと思えばイツキではないか?」
イツキたちが振り返ると、部屋の奥の出口の周りに積まれてあった木製のコンテナボックスの上に男が立っていた。
そのコンテナボックスの周りには同じような格好をした男たちが十数人剣を抜いて立っていた。
イツキはコンテナボックスの上に立っている男の顔を凝視した。そして男に聞こえるように叫んだ。
「お前はシューか?」
「ほほぉ、覚えていてくれたか。懐かしい声だな。イツキ。」
シューと呼ばれた男はイツキとは昔からの知り合いのようだ。
「なに?シューだと?」
アルカイルも叫んだ。
「やっぱりアルもいたか。そう言えばご老体もいたな。お前らはまだ一緒にパーティを組んでいたのか?」
シューは言った。
「パーティは組んでいないが……。これはどういうことだ?何故この2人をさらった?」
「そこにいる皇太子殿下に手紙で知らせたではないか」
シューは口を軽く歪めて笑った。
「三国連合王国交渉とこれがなんの関係があるのだ?」
リチャードが叫んだ。
「大ありなんだな。これが……傭兵がこれから活躍しなきゃならんのに、この世界に一大勢力を作られたらやりにくくて仕方ない」
「そんな理由でこの2人を誘拐したのか?」
「そうだと言ったら?」
「残念だったなその企みはこれで終わりだな」
リチャードが言った。
「いや、ここで皇太子が死んで、殺したのがアルポリ国というシナリオでも俺は全然困らんのだがねえ……くくく」
と最後は笑いながらシューは言った。
「本当の目的は俺の命か?」
リチャードはシューを睨みつけながら言った。
「まあ、それはそれで面白いシナリオでもあるな」
薄笑いを浮かべながらシューは要領の得ない受け応えをしていた。
「お前の目的は戦争だろう?傭兵は戦いがないと商売が成り立たないからな」
今度はイツキが言った。
「ただ単に戦争になってもつまらんのだよ。教えてやろう、イツキ。アルポリは本気でロンタイルを征服するつもりだ。どこぞのお人好しが世間知らずのあの王様を焚きつけた。もう完全にその気だ。」
「何を言っている。お前が銃を作ったんだろう?違うか?」
イツキが聞いた。
「まあな、よく知っているな。流石だと言っておこう。あの国王は面白いおもちゃを与えられた子供のようにはしゃいでいたわ。ははは」
とシューは人を見下したバカにしたような笑い顔でイツキに言った。
「お前が焚きつけたんじゃないか!」
とリチャードが叫んだ。
「それは違う。元々、アルポリ国の国王アーチャンドはカクヨが欲しかったのさ。それが、この頃はナロウと仲が良い。そのうちに元の鞘に戻るのではないか? と危惧していたら、今回の三国連合だろう? ……焦っている訳だ。」
「それを聞いたら普通は諦めるだろう?力の差は歴然だ」
イツキがシューに聞いた。
「そうだ。一度は諦めたが、うちの連中が銃を教えてやったら、欲しがったんで売ってやった。そうしたらまた野望に火が付いたらしい……くくく」
とシューは最後は可笑しそうに笑った。
「やっぱりお前じゃないか!」
イツキは叫んだ。
「俺は何もしていない。勝手に向こうが欲しがったから銃を売ってやった。あとはあの国王が勝手に決めた事だ。」
「どっちにしろ戦争になるんだったら、お前の思う通りだろ!何故こんな面倒な事をしたんだ?」
「黙ってこのパーティを襲って、皇太子を殺しても良かったんだけどな。そうすれはアルポリの国王も喜んだだろな……でもな、それを今やってもイツキの言う通りアルポリだけでナロウと戦えば圧倒的な力の差で負けるだろう」
「本当はこの王子が慌てて国へ帰ってくれたら良かったんだがな。そうすればこの2人はさっさと開放するつもりだったんだが……」
「つまりお前の目的は脅すだけだったというわけか?」
「そう、時間稼ぎをしたかったんだがなぁ。アルポリがナロウと戦う力をつけるためにもな。案外、そこの皇太子殿下は部下思いの王子様で帰らなかった。その上まさかご老体とイツキが後ろにいるとはね……本当に迷惑な誤算だ」
「何のための時間稼ぎだ?」
「おっと、話しすぎたな。ここまで話したらお前には分かるだろう?あるいはさっきから一言も話をしないご老体ならもう分かっているはずだが?」
「さっきから黙って聞いておれば人の事を老人扱いしおって」
シドは口を開いた。
「いえいえ。老師。深い意味はありませんから」
とシューは軽く笑いながら言った。
「ふむ。まあ良い。アルポリはどこかと手を結ぶつもりか、その相手を探しているという事じゃな」
とシドは言った。
「流石ですな。ご老体。伊達に歳は食ってませんな」
シューは口元を歪めて笑って言った。
「傭兵で食っていくなら、ナロウ国に来れば良いではないか?イツキも悪いようにはせぬぞ」
シドはそうシューに言った。
「くくく……俺にナロウの飼い犬になれと?……イツキのような大人しい飼い犬になって飼い主からの餌を待つ身になれと……それは無理ですな。老師。俺は誰にも指図されたくはない」
「シュー、お前も一番最初に転生したのはナロウだろう?」
イツキはシューに言った。
「ふん。イツキよ。お前は忘れたのか?俺たちがあの国からどんな目に遭わされたのかを?」
「確かに転生者はよそ者だったからな。でも今は違うだろう?」
「違うものか。本当に転生者がこの国で認められるのは、力で教えてやるしかないのさ」
シューは叫んだ。
「言っておこう。俺はアルポリがナロウと戦争しようが何をしようが興味はない。この俺の傭兵軍団で新しい国を造る。それを邪魔する奴はお前でも殺る。だから、この世界が戦争だらけの世界になってもらっても全然構わないんだがな」
「シュー!本気か?」
イツキは叫んだ。
「ああ、俺は本気だ。なんだったらお前も来るか?本来ならお前が作ってもおかしくなかったんだぞ。何故作らなかった?」
「俺は今は単なるキャリアコンサルタントだ。そんなものを作るわけないだろう」
「ふん!そのキャリアコンサルタントが何故ここにいる?それも老師まで……お前の力はそうやって利用されるか恐れられるかどちらかしかないんだ。」
理論的にはシューの言う通りだった。
イツキも同じ事を考えた事がないとは言えない。
しかしイツキは今の生き方を選んだ。
「それでも俺は人生を楽勝にのんびりと生きていくんだよ。お前みたいに戦争を起こして暴れまくるなんてマメな事はせん」
「ふん。いつまでそんな戯言を言っていられるかだな。イツキよ覚えておくがいい。俺たちはここではいつまで経ってもよそ者だ。裏切られてから後悔するなよ」
そう言うとシューはコンテナから飛び降りで姿を消した。
それと同時にコンテナの周りに居た傭兵たちも姿を消した。
「待て!」
とイツキが叫んだがそれに対する答えはなかった。
リチャードがイツキの元に寄ってきて聞いた
「あれも転生者か?」
「はい。僕よりも後に来た転生者です。カツヤと同じくらいの時期でした。」
「ふむ」
「カツヤは転生して来て直ぐに僕にあったので、それほど嫌な思いはしておりませんが、シューと知り合ったのは彼が転生して来て1年ぐらい経った頃でした」
「なる程……」
リチャードは頷いた。
「そこでよそ者として結構大変な思いをしたようです。それは僕も同じでしたが……。」
イツキは話を続けた。
「そうかぁ……今でこそ転生者は珍しくないがその当時は冷たくあしらわれただろうな」
「はい。その時にシューを拾った人間がいましたが、彼を手下として使いました」
「何に使ったのんだ?」
リチャードが聞いた。
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