毒舌系金髪幼女はオレンジジュースがお好き。14

 私は先を歩くメアリの背中に何度も言葉を投げかけた。しかし、彼女は立ち止まることも、振り返ることも、言葉を返すこともなくただひたすらに歩き続けるのみだった。こうなってしまっては私はただ彼女についていくしかない。広い船内をあちらこちらへ歩き回り、最終的に辿りついたのは、低い轟音が唸り響く、暗い機関室だった。

「ここ、一応、立ち入り禁止なんだけど」

 私はそう呟く。返事は期待していなかったが、メアリはここでようやく言葉を返してくれた。

「だからこそ、都合がよいのです」

「どういうこと?」

 その問いには彼女は答えず、冷たく寂しい闇に満たされた機関室を見渡して、それからいっぱいに息を吸いこむ。

「ホーさん、こちらに、いらっしゃるのでしょう?」

 メアリの声が反響して駆け巡る。期待したような反応は特にない。ただ機械の無機質な音の鳴るばかりである。

「いや、こんなところにいるわけ――」

 私がそうツッコミを入れようとしたところ、次にメアリは、とんでもないことを口にしてしまう。

「出てきてください。残念なお報せがあります。娘さんが、亡くなりましたよ」

「ちょっ!」

 冗談でもいっていいことと悪いことがある。だが、メアリのその言葉は、確かに、彼女の期待した通りの効果を発揮した。

 機関室に整然と並べられた、遺跡のように大きな機械の陰から、さっと飛び出した人影が、猛然とこちらへと駆け寄ってくる。それは、すでに青ざめたのを通り越して、血の気のまるでない死人のように土気色の顔色をしたホーだったのだ。

「ほんとにいたっ!」

「ま、まさか、本当なんですか? シェ、シェソンが――」

「いや、それよりもですね、ホーさん。どうしてこんなところにいらっしゃるんですか?」

 私とホーとはドッヂボールのように質問をぶつけ合うのに終始して話が一向に進まない。そんな私たちをメアリは冷ややかに一瞥して、

「では、いきますよ」

 といってそのまま歩き出して機関室を出ていった。私たちは互いに顔を見合わせて首を傾げてその背中を追った。

「どこにいくの?」

 その質問にメアリはただ、医務室へ、と短く答えた。だが彼女の辿るルートはどうも医務室へ向かう最短距離ではない。私のがその事実を告げると、メアリは特に気を悪くした風もなく、ちょっと用事があるのです、という。私は従う他ない。道中に振り返り、私たちの後ろを歩くホーを見る。その顔色と、焦点の定まらない視線と、ふらふらと力なく危なっかしい足取りは、まさに映画に出てくるゾンビそのものである。

 やがて辿りついたのはドリンクコーナー。彼女は無言で財布を取り出して、オレンジジュースを購入した。

「これがなくては始まりません」

 そういって彼女はそのジュースを飲むわけでなく、ポケットにそっと入れると、そそくさと歩き出してドリンクコーナーを後にする。


「ねえ、そろそろ、わけを教えてくれない?」

 医務室が近づいてきた頃になってようやく私はその質問をメアリにぶつけることができた。彼女は歩く速度を緩めずにいった。

「簡単なことだったのです」

「なにが?」

「全てが」

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