第2話「航跡雲」

 ネフェルテム神の駆るスイレンが、触れれば破裂する霊力カーの花粉を、雨のようにアポピスへ降らせる。

 対するアポピスも負けてはいない。

 ヘビといえば毒のイメージが強いが、大蛇は獲物に体を巻きつけて絞め殺すという戦法も使う。


 スイレンはアポピスの体当たりをかわしながら爆撃を続ける。

 花びらの水分が水蒸気となり、真っ白な航跡雲こうせきうんがヘビの胴体と絡み合って、二重の螺旋を描き上げる。


 ネフェルテム神の攻撃力。

 アポピスの防御力と回復力。

 力をぶつけ合う激闘はいつしか、互いを攻めるために有利な場所を奪い合う、スピードを競うものになっていた。


 アポピスはスイレンを、胴体の真ん中で捕らえたい。

 ネフェルテム神はうろこで覆われたアポピスの、軟らかさのある喉を狙いたい。

 何度目かの攻防の後、アポピスが不意を突く動きを見せ、胴ではなく鋭い牙の生えた大きな口でスイレンに襲いかかった。

 スイレンは回避できる体勢ではない。

 太陽の船はようやく揺れが治まったところで、船員に負傷者が出ており、すぐには戦闘に戻れない。


 ネフェルテム神が、わらった。


 スイレンにはネフェルテム神とツタンカーメンの二人が乗っていたはずだ。

 しかし今、幼神の隣に少年王の姿はなかった。


 アポピスの目にツタンカーメンが飛び込んだ。

 文字通りに。

 一瞬前、すれ違いざまに、スイレンからアポピスの頭に飛び移っていたのだ。


 ヘビの目にはまぶたはなく、二十四時間、開きっぱなしで、代わりに透明なうろこが眼球を守っている。

 ツタンカーメンの両掌から、ヤグルマギクの花びらが吹き出す。

 ネフェルテム神から預かった力が、アポピスの瞳にゼロ距離でぶち込まれ、強烈な閃光がアポピスの視力を吹き飛ばした。

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