第3話「よろしくな!」
「この際だからな、つーたんも連れていってやるよ。何かお前、俺達よりもバカでかわいそうな感じだからな」
「もう、ガサク! あ、でも、つーたんも一緒に行こう!」
二人に誘われ、ツタンカーメンは自分が飛ばされてきた空を見上げた。
プタハ神とソカル神から果てしなくはぐれてしまった。
(自力で進むしかない……か)
アポピスとの戦いが人類が誕生する前から続けられてきたものならば、ここに来ていきなり神々が負けたりはしないだろうけど、こんな遠くまで捜しにきてもらうのは、いくら神様でも大変だろう。
「ほらこいつ、こうやってすぐにボーっとするところがバカっぽい」
「ガサク!」
「よし、つーたん! 今日からお前は俺の子分だ!」
「ガサクぅ!」
「……おう! よろしくな!」
ファラオが子分。
本来なら怒るべきところなのだろうけれど。
(たまには面白いかもな。こんな寂しい場所でせっかく出逢ったんだし、それに……)
ツタンカーメンはガサクの口もとに照れ隠しの色を読み取っていた。
(トモダチになろうゼ! とか、簡単には言えないもんな)
それからツタンカーメンは、生前には考えもしなかった行為に挑戦することになった。
ガサクが、その辺に落ちていた石を割って尖らせて、ツタンカーメンの歩行用の杖の先にくくりつけて即席の槍にする。
この槍で通行人を脅して金品を奪い取れというのである。
獲物を待つため、三人で岩の陰に身を潜める。
「さすがに犯罪はちょっと。ちゃんと頼めばお供え物ぐらい分けてもらえるだろ」
ここに居るのがファラオだと相手にわかってもらえれば一発である。
けど。
「お前、バカすぎだぞ」
「つーたんってば、いくらなんでも世の中そんなに甘くないよ」
ファジュルにまで言われてしまった。
「だって肉だよ、肉。魚じゃなくて、お肉なんだよ。しかも、麦酒ならまだしも、葡萄酒って……そんなのただでくれる人なんているわけないよ。これから襲う人の遺族の人は……お供え物を用意するのにすごく苦労したはずだよ……」
ファジュルの目がうるむ。
苦労して用意したお供え物を奪うことへの罪悪感。
「どうしてそうまでしてアアルの野へ行きたいんだ? アメンテトじゃダメなのか?」
「だってガサクが……」
ファジュルがうつむく。
王宮育ちではまず見ないような素朴さで、それでいて可憐な顔立ちが悲しみに沈む。
「獲物が来たぞ!」
ガサクのうなり声が響いた。
岩の向こうに黒髪の頭部が見え隠れする。
ガサクがナイフを抜いて飛び出した。
「待て!」
ツタンカーメンがガサクを止めようと追いかける。
ファジュルもついてくる。
そして……
「「「ギャーーーーーーー!!」」」
三人の悲鳴が重なった。
三人の目の前では、象のように大きな頭部に人間サイズのカツラを乗っけた黄色い蛇が、舌をチロチロさせていた。
アポピスを見たばかりだと見劣りするが、それでも人間を丸呑みにできそうなほどの大蛇である。
実際に……
「……助けてくれぇ~……」
蛇の舌の奥、喉の奥から人間の声が漏れ出ていた。
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