しばしのお別れ。。。

若狭屋 真夏(九代目)

最終話 襲名披露

 舞台には緞帳幕(どんちょうまく)が重そうに垂れている。

客席には満員の客がいるが、誰一人としてしゃべる者はいない。

ときおり子供のはしゃぐ声が聞こえるだけである。

「とざい~~と~ざい」と大きな声を合図に緞帳幕がゆっくりと開かれる。柏木が打たれた。大きな拍手に会場は包まれる。

見ると金屏風の前に座布団が二つ並んでいる。

その上に紋付袴を着た二人の男が正座をして頭を下げている。紋は「丸に立ちオモダカ」である。

一人は読者の皆さまならご存知の「わかさや こなつ」である。前登場した時は茶髪だったが黒に戻した、もう一人は小太りな中年男性だった。

幕が開き終えるとその小太りな中年男性が頭をあげる。

「本日は私共のためにわざわざ足をお運びいただき誠にありがとうございます。さてこのたび、わたくし「八代目若狭屋真夏」は五代目若狭屋老虎(わかさや ろうこ)を襲名いたす運びとなりました。それに伴いましてこの「わかさや こなつ」を九代目若狭屋真夏を襲名させることがきまりました。」

小夏はまだ頭をあげない。

「いやね。あたしはいやだって「作者」に言ったんですよ。こんなくだらないことのために「小説を書く」なんて。。。正直いいますと、「書いてる人」は変わりません。ただね。この「書いてる人」がちょっと仕事が忙しくなってきて毎日のように書くことが出来ない。だからこんな「小説」でも書いてしばらく休もうとするってわけでね。まったくこまっちゃう。」

真夏は笑って見せた。

「誠に不出来な弟子ですがお客様のご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願いいたします。」と再び頭を下げる。

「続きまして。三代目若狭屋小夏改め九代目若狭屋真夏からのごあいさつでございます。」アナウンスが流れる。

ゆっくりと小夏は頭をあげる。

「ども。こなつで~す。」と一言

「よっ。こなっちゃん」と会場から声がかかる。

「ども~~」とそれに返す。

笑いが少し起こる。

「師匠が先ほど申し上げました通り、書いてる人は変わりませんが、このたび「九代目若狭屋真夏」を襲名いたしました「こなつ」でございます。

「九代目」といえば、落語のほうでは知りませんが、歌舞伎では「劇聖」といわれた「九代目 市川團十郎」というのが当たり前だそうで。。。

正直言って勝てません。皆さまだってそう思うでしょ?

なんで「書いてる人」は九代目なんて一番難しいのをよこすんでしょう?

ほんとにこまっちゃう。」

「まあ、どうせ、一週間以内に別の小説を書き始めると思いますがね、「書く人」は。。。こうゆう時しか文句が言えませんから。。」

そして師匠若狭屋真夏が頭をあげる。腕を大きく開いて、

「これかれも この若狭屋を ア すみからすみまで~~ おん 願い たてまつり まする~~」

二人が再び頭を下げて、柏木が再びなる。

緞帳幕が重々しく、閉じてゆく。

拍手が鳴り響いた。



というわけで作者は仕事が忙しくなりましたのでしばし、次回作までしばしお待ちくださいませ。 書いてる人より

             完

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しばしのお別れ。。。 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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