植物男子はもてるのか

 花が好きな女性は多い。


 記念日のプレゼントの王道でもあるし、普段から部屋に一輪の花があるだけで生活が潤う、みたいな話もよく聞く。

 僕の奥さんも多分にもれず、花が好きだ。


 では僕はどうか、と言われれば、好きとも嫌いとも言いがたいのが本当のところだ。

 窓際や床の間に一輪の花が飾ってあれば「花があるなあ」と思うだけで、例えば花がなかった場合に「おい、今日は花がないじゃないか。至急駅前の花屋さんで注文しといてくださいよ。おねがいしますよ、今日は客人がおいでになるんですから」みたいな事は言うはずもなく、別にあってもなくてもどうでもいい。


 と、こんなことを言っていては、友達が増えるどころかモテもせず、あまつさえ奥さんにも愛想をつかされるかもしらん。

 つって、不承不承ではあるが花が好きになるようになんとか頑張るんば。

奥さんに愛想つかされたらいきていけないもんでね。


 で。どうやったら花が好きになるんかと考え、思いついたのは斜め向かいのおばちゃんハウス。

 家の前にはいつも花が咲いていて、季節ごとに彩りが移り変わる。

 それだけちゃんと手入れしてるんだから、さぞや花が好きなんだろうて僕はおばちゃんハウスの門を叩く。


 と、庭でおばちゃんが何か作業していて。


「おばちゃん、なにしとるん」

「見て分からんか。梅干しとる」


 そういうおばちゃんの手元には、竹ザルに並べられた梅干しと赤紫蘇。


「うまそうじゃのう」

 とつぶやくと、

「ちょっとまっとれ」

 と家の中へ入っていき、小さい入れもんにいくつか梅を入れてくれた。

 

「去年つけたやつや。もってけ」


 つって。


 喜び勇んで家に持って帰って、奥さんに報告。


「おばちゃんに梅もろた」

「よかったね。おばちゃんとこになんか用事あったん?」


 と聞かれ、僕は思い出す。


「花の話聞くん忘れた。もう一回いかなあかん」


 そういいながら真っ赤に漬かった梅干しを1つつまんで口入れると、

爆発的な酸っぱさが口の中に広がって、全身に汗が吹き出る。

「あっぱー!」という僕の声にならない声に、「そら一口で食べたらそうなるわ」

と、奥さん。


種を吐きだし、冷蔵庫から麦茶を取り出して急いでグラスに注ぐ。

一息で麦茶を飲み干し「あー、酸っぱかった」と、ほっと一息つく。


夏のこの時期、これだけきちんと酸っぱい梅干しを食べられるのは何とも幸せであるなあ、なんて思案して。


思案しながら眺めた窓の向こうには、トマトの苗を植えた庭が広がる。

よくよく見ると、苗からいくつか花が出てきている。

「トマトに花ができてるよ、綺麗だよ」


と奥さんに嬉しそうに報告している自分のコメントに、僕は自分でびっくりして。

これはもう好きの範囲でいいんじゃないか、なんて考えて。





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