運動は大事、坂東は英二
運動が好きな人がいる。
いや、そりゃいるよね。今や右も左も猫も杓子も健康指向。なんや言うたらやれランニングだやれ筋トレだと。贅肉や酒や煙草を害悪に仕立てあげ、運動こそが幸せへの唯一の道だ、みたいなアッピールで。
そりゃ、ある程度の健康はあった方がいいよ。いいに決まっている。ただ、過度の健康指向っていうのはやっぱりなんかおかしい。
いやー、昨日走りすぎちゃって、とかいいながら膝にテーピング巻いてビッコを引いてるおっさんなんか健康の為に健康を害してるじゃないか。と。マラソン中に心筋梗塞起こした松村邦洋なんかその最たる例じゃないか。と。過ぎたるは及ばざるがごとし。
でもこういうことをしている人間に限って、ビールはダメだよ水素水がいいよとか、煙草はよくないよプロテインがいいよとか、ロックンロールは不良の音楽だよmiwaを聞きなよ、とか愚にもつかない忠告をしてくる。
でも僕はビールも煙草も辞められないし、miwaを聞こうとも思わない。というよりmiwaを聞きながら水素水でプロテイン流し込んでる人間の方がよっぽど不健康じゃないか(精神的に)。
とかそんな愚痴をハイボール飲みながら書いたところで、僕の身体は健康からだんだんと遠ざかっているのは間違いない。おなか周りは3年前と比べて確実に10㎝以上は成長しているし、駅の階段を登るたびに息切れするし、健康診断では中性脂肪が二年連続で平均値を超えていた(これは二年とも血液検査の3時間前にドーナツを食べてしまったという言い訳があるが)。
やっぱりある程度の健康は必要なんだといことは重々承知している。これからは、酒と煙草とナットウキナーゼ(語呂の良さだけで書いただけで意味はない)。
というわけで、今回は運動を好きになろうと思う。
最初に書いておくと、僕は運動が苦手だ。中学生の頃は、スラムダンクに憧れてバスケ部に入ったが夏休みに入る前に辞めたし、高校の時は友人がいたという理由でサッカー部に入ったがこれも夏休みに入る前に辞めた。
何故辞めたか。理由は単純明快。しんどかったからだ。延々と続く外周、ドリブル練習、パス練習、シュート練習、ランニング、腕立て、腹筋、シャトルラン……。この基礎練習に耐えられなかったのだ。笑えばいいさ。チキンさ。腰抜けさ。根性なしさ。
しかたないじゃん。だってしんどかったんだもの。人間だもの。あと、途中から入った人間がどれだけ頑張っても元から頑張っている人間に勝てるわけがないし、疲れるだけ損じゃないか。という考えが頭の中に蔓延していたんだよね、学生時代の僕には。この考え方のおかげで人生大分と損しましたがね、いろいろと。まあそれは置いといて。
この時のマイナスイメージが強すぎて、今の健康&運動ブームを嫌悪しているといっても過言ではない。
あと、運動って目に見えて結果が見えないのが何となくいや。例えば文章は自分が書いたものが残るのでなんとなく続けられている。どれほど稚拙なものであっても、いや、稚拙であればあるほど、今の自分の文章(今でもいい文章でない事は十分に承知している)と比較すれば何となく成長してるじゃんって満足感が得られる。でも運動って、例えば長距離のタイムとかもそうだけど、数をこなせば速くなるわけじゃない。体調だとか環境だとかに左右される。練習は嘘をつかないというけれど、じゃあ練習を続けるのが真実かといえばそうじゃない。どれだけ練習がきつければそれだけ身体を壊す可能性もあるし、タイムだって縮むとは限らない。
とまあ、愚痴ったところで始まらない。他人の愚痴を喜んで読む人間がどこにいる。ごめんなさい。
これだけ嫌だったスポーツを好きになる。これは生半可なことではない。
まずどのスポーツがいいのかを考えなければならないけれど、チームスポーツはなしだ。友達がいないから。奥さんが日に当たりたくないっていうから二人でできるキャッチボールとかバドミントンとかもなし。で、ランニングは腹立つおっさんのせいでなしだし、プールはこんなおなか誰にも見せられないからなし。
よし。
じゃあやっぱりマリンスポーツしかねえなつって。マリンスポーツならスーツ着るからおなかも目立たないし、これは女の子にもモテるかもしんないなあ、とか考えてはみたものの、海とか凄い怖いの。本能的に。足の付かないところにいると、とても不安になる。今は女の子になった兄(僕のもう1つのエッセイ『例えばそれは、ヘソのごまのようなもの』を参照)と琵琶湖に行ってたころはそんなこと考えずに沖にあるブイまで泳ぐ、みたいな事してたけれど、今はもう恐ろしくてできない。テレビでタレントさんが海に潜っている場面をみるだけでも少し息が苦しくなるのにマリンスポーツでモテモテなんか無理にきまってんじゃん。
「なーに言ってんだい。色気出してるんじゃないよ」つって浅香光代の物まねして。
で、じゃあなにすればいいのかって考えてたら、少し前に見ていたドラマで安藤さくらと松坂桃李がやってたやつを思い出して。
室内岩登り。あれ、面白そうだと思ってたんだよ。あんまりルールとか分かんないけど。あれ、ボルタリングっていうんですね。
これが本当のエッセイなら、よっしゃ今からいっちょボルタリングかましたる、ボルタリングイングナウ!だとかいって家を飛び出すんだろうけれど、これはエセエッセイなので家からは出ない。
なぜならば、好きになればいいだけだから。
好きになれる理由さえみつければ目標が達成されるんだから楽なもんだ。
で。
あのスポーツの良さはなんといっても女の子を合法的に見上げられるってことだよね。これをボルタリング以外でしようと思ったら側溝の中に潜って見上げなければならない。
「生まれ変わったら、道になりたい」
あの犯人のこの言葉は本当に名言だと思う。
あのニュースが流れた後の調査で、小学生の将来の夢のランキングが変動したっていうのも記憶に新しい。サッカー選手、医者、ユーチューバー、道、ってな順位でした。
ええ。嘘です。
僕も道になりたい。もとい、僕も女の子を見上げたい。ぴたっとしたスパッツと少し緩めなTシャツで汗をかきながら岩肌を登る女の子。もう、この想像だけでボルタリング大好きになっていますよ僕は。
そんで、そんな女の子が何人かで集まって登り合いっこしてるんでしょう。
お互いに声を掛け合いながら。
「ちがうちがう!そうじゃない!そっちの突起!」
みたいな感じで。
女の子が突起って言っちゃう。
それだけでぼくもイっちゃう。
僕の鈴木雅之がランナウェイ。
とまあそんな感じでボルタリングが好きになった僕は、あの突起の名前を調べるくらいにまで興味を持つようになった。
あの突起は、ホールドという名前らしい。
ホールドと言えば、モーニング娘の名曲『抱いてHOLD ON ME』が思いだされる事は間違いない。それを大前提にしたうえで、女の子がホールドを求めている。すなわちそれは、私をホールド・オン・ミーして!っちゅうのを全身で表現していて、ボルタリングをしている女の子は抱かれたがっている、といって間違いない。
となると、ボルタリングは欲求不満の抱かれたがっている女の人が集まるスポーツであり、僕みたいな最下層の人間がいっても何かしらチャンスがあるかもしれないということだ。
そしてここで僕は気がつく。
小学生でも何でも、スポーツは出来ないよりも出来る方が、確実にモテていた、と。顔が今一で成績がよくなくても、50m走がクラスで一番速ければ、そいつはモテモテだった。
となれば、ボルタリングも出来ないよりは出来た方がそりゃモテるだろ!と興奮して家の鴨居で猛特訓。
そのまま指を滑らして腰を強打した僕は、いやー、調子のって壁に登りすぎちゃって、とへらへらしながらコルセットをまいてビッコをひいて、水素水を片手にプロテインを摂取しながら会社に向かう。会社のラジオからは、miwaのドントクライ・エニイモアが流れていて。
ここまで読んでくれて、ありがとう、オリゴ糖。
本日のコースは、最初から最後までジョイマンで。
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