車を好きになる①
若者の車離れ、なんて事をよく聞くけれど、僕も車から離れている人間の一人だ。といっても既に若者の領域は過ぎていて、中年にさしかかろうとしているが。
産まれてこのかた車を欲しいと思った事は一度もないし、欲しいともおもわない。
つまり、興味がないのだ。
で。
僕が車の免許をとったのは30歳を過ぎてからで、それも仕事で必要になるからとらざるを得なかっただけであり、本心ではあまり取りたくなかった。
免許を取りたくなかった最大の理由は車に興味が持てなかったのもあるが、お酒が堂々と飲めなくなってしまう、ということが一番の理由だった。
例えば数人でバーベキューをしたとする。
車に荷物を積み込み、じゃあ俺が目的地まで運転するから帰りは誰かお願いするよって感じで企画した人の運転で出発し、現地についたら火をおこしたりテントをはったり。
いざ準備ができてさあ乾杯ってなときに、「そうそう、帰りの運転する人間はこれだよ」つって設置したばかりのテーブルの上に置かれたのは、クーラーボックスから取り出したばかりのノンアルコールビール。
「よっしゃ、じゃあ誰が帰りに運転するかじゃんけんできめようぜ!」となった時、僕は堂々と手を挙げこう宣言する。
「僕、免許モテナイヨ!運転デキナイヨ!」
挙げた手と逆の手には、すでに口があいて残りが半分くらいになっているビールが握られている。
これだ。これをしたいが為に僕は免許を取っていなかったのだ。
だが、1つ問題があった。
僕には、バーベキューに誘ってくれるような友人がいなかった。
ということで、会社の方針に素直に従い免許を取る事になった。
免許の自体は比較的簡単にとれ、晴れて国家資格をもつことができたのだが、いかんせん車が好きではないのは変わらない。
しかし。
社会にでると、驚く程皆が車に興味を持っている。
取引先にいけばどんな車乗ってるのと聞かれ(カーシェアで十分とはいえない)、知り合いがポルシェを買っただの(その知り合いを僕は知らない)、ビートたけしのベイロンがかっこいいだの(ベイロンを革ジャンか何かだと思っていた)、みんなが車の話をしている。仕事とかっこいい車になんの関係があるというんだ。
雑誌をひらけば「彼が乗っていてうれしくなる車ベスト5!」だとか、「これにさえ乗っていればナンパ成功間違いなし!」だとか、「軽でもモテる!アウトドアに最適なやつ!」だとかのキャッチコピーが並んでいる。車に乗りたいのかベッドに乗りたいのかよくわからない。
いや、そんな愚痴をいいたいのではなかった。
好きでもないものを好きにならなければいけないのだ。
「僕ぁこう見えて車が大好きでね!三度の飯より車だよ!」と言えるようにならなければいけない。友達を増やす為に。
しかし上のような現状から鑑みるに、車というものは何に乗るかよりも、話題にできるか、もしくは異性の受けがいいか、を基準に考える傾向があるように思う。
となれば、純粋に車が好きだと本心から思っている人間は少数しかおらず、社会的な交流の為や恋愛における1つのツールとして車を扱っている人間が多数だという事になる。
これは由々しき問題で、僕が好きになろうとしている車はすでに車として扱われずにただのアクセサリーとしての機能しか持っていない事になる。
これではいくら車を好きになろうとしても好きになれない。僕は話題に出来る車や異性にモテる車に興味を持ちたいのではなく、車としての車を好きになることが目的なのだ。
というわけで真の車好きとは一体なんなのかを考えなければならない。
僕は漫画喫茶に向かい、まず車に関する漫画を読む事で車に興味を持ち、かつ車が好きな人の心理を勉強しようと考えた。
漫画喫茶で喫煙席を選び、黙って持ち込んだビールを開ける。タバコに火をつけてビールを一口飲んで落ち着いたところで漫画を選ぶために本棚へむかう。
が。
いかんせん種類が多すぎて何を読んだらいいのかわからない。個室へ戻り、パソコンを起動して「車 おすすめ 漫画」で検索すると、今度は車好き視点だの車屋視点だのレーサー視点だの書いてあってますます分からなくなる。
だがここまできて諦めるわけにはいかないので、消去法で選んでいく。車屋になりたいわけではないし、レーサーを目指しているわけでもない。かといって車好き視点でも運転が面白いだの言われても良くわからないので、結局しぼりきれない。
一本目のビールがいつの間にか無くなっていたので、カウンターにいって二本目のビールを購入する。そのまま本棚の間をあてもなく進んでいると、キングダムの新刊が出ている。ポールルームへようこそも。ヴィンランドサガも。君に届けも。新刊祭りだ。
久しぶりに漫画喫茶を満喫した僕、家についてから奥さんにどこに行っていたか聞かれて。
「僕ぁこう見えて漫画が大好きでね!三度の飯より漫画だよ!」
つって。
真の車を好きになる旅、次回につづきます。
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