SFの楽しみ方

 僕はSF小説が苦手だ。

 というよりも、楽しみ方がわからない。


 SF作家が苦手なのではない。大槻ケンヂのエッセイは大体読んでいたし、伊藤計劃の映画批評はとても面白かった。筒井康隆の「時をかける少女」は小説では読んでいないけれど、アニメの方の映画は見た。それにつられてサマーウォーズも見て楽しんだ。カートヴォネガットも何冊か読んでいて「国のない男」は今でもたまに読み返す。


 が。

 「スローターハウスNo.5」にしても「虐殺器官」にしても途中で読むのが止まってしまっている。「グミ・チョコレート・パイン」は名作だと今でも思っているが「くるぐる使い」は一度だけ読んであまり印象に残っていない。


 とまあ、読まず嫌いではないはずなんだけれど、なぜか途中で読み飽きてしまう。

これはいけない。


 さて、SFを好きになるにはどうしたらいいのか。と考え、今まで読んできた本の中でSFの要素を持っていながらも楽しく読めたものをリストアップしていって系統立てて苦手な理由を考えてみようと思い立って本棚へと向かおうとして、ふと考える。

 

 そもそもSF小説とは何か。

 サイエンス・フィクション小説。

 科学と空想の小説。

 

 ここからしてよくわからない。

 まず科学とは、原因がよくわからない現象を系統立てて仮説と立証を繰り返し解決していく学問のはずだ。

 そして空想とは、現実では起こりえない出来事を想像することだ。

 

 この相反する二つが合わさっているのがSF小説。


 だとするならば、SF小説とは「原因がよくわからないものを現実では起こりえない出来事で仮説を立てて想像を繰り返して立証しようとしている小説」となる。


 なんだこれは。混乱してきたので、理解しやすいように変換してみる。


 「なんでそうなっているのかはっきりしないものを普段の生活では想像もできないような方法でとりあえずの仮定にもとづいて妄想をし続けているだけなのにこれで正しいんだよと言い切る小説」


 よくわかるようなよくわからない文章になってしまった。

 

 これはとどのつまり、今机の上にはオムライスがあるんだけれども、家の冷蔵庫の中には卵も鶏肉もケチャップもなかったはずなのに現にこうして目の前にオムライスがあるということは、このオムライスは無から生み出されたのか、いや、そんなことはあるまい、朝のうちに僕が食うに困らないように奥さんが作ってくれたのだ、いや奥さんなんてそもそも存在しているのか、奥さんが存在しないという事はオムライスも生み出されない、というよりもこれが本当にオムライスなのか、オムライスに見えるが実はこれはオムレツではないのか、昨日の段階で冷蔵庫に卵がなかったのだから、やはりこれはオムライスでもオムレツでもないのではないか、つまりここにあるのはオムライスまたはオムレツに見えるが実際には存在していなくて僕の脳が何かしらの誤作動を起こして机の上に幻想をみせているのではないか。


 みたいなのがSF小説でいいのか、と自問自答しても結局答えがでるわけがない。机の上のオムライス(のようなもの)をとりあえず放置して、本棚へと向かう。


 我が家の本棚はギチライム合金で出来ていて、前後3段をボタン1つで簡単に交換する事ができる。ギチライム合金はメタンガスと触れ合う事で変形する作用があり、その変形メカニズムは合金の分厚さで変動する。薄い状態でガスにふれれば軟化し、ある程度の厚さがあれば反斥力作用が発生する。なので棚の前後を交換する際にメタンガスが必要になるのだが、そのガスは全て牛の呼吸で賄われており、環境にも優しい。ご存知の通り牛の呼吸はメタンガスが含まれており、環境に悪影響なのだ。我が家の庭にはクローン牛が何頭かいて、家の周囲を囲んでいるドーム内の環境バランスを守っている。雑草を食べ、堆肥を生み出す。その堆肥がまた草木を育てる。その際に唯一環境に悪影響を与えるのが前述した呼吸なのだが、その呼吸のなかからメタンガスだけを選別し、動力として本棚に利用する技術(これは今の地球にはないのだが)を琴座惑星状星雲からたまたま遊びにきていた友人から教えてもらい、今に至る。


 その本棚の前で「なんでそうなっているのかはっきりしないものを普段の生活では想像もできないような方法でとりあえずの仮定にもとづいて妄想をし続けているだけなのにこれで正しいんだよと言い切る小説」を探すのだが、どれが適当なのか目処がつかない。

 僕一人の知識では追いつかないので、衛星電話で奥さんに電話をするが、今は別の次元にいるらしく電話にでない。となれば、背表紙から割り出すしか方法がなので、適当にいい感じのタイトルをチョイスする。


 が。


 その前に、「なんでそうなっているのかはっきりしないものを普段の生活では想像もできないような方法でとりあえずの仮定にもとづいて妄想をし続けているだけなのにこれで正しいんだよと言い切る小説」をもっと分かりやすくしないと探せないので、これをさらに分かりやすく比喩をふまえて考えてみる。


 なんでそうなっているかはっきりしないもの。

 飛行機が飛ぶ原理、生物が黄金比率で出来ている、エジプトのピラミッドの配置、宇宙の成り立ち。

 うん、はっきりしないけれどこれでは終わりが見えない。

 もっと身近なものだと、夢、とかはそうだよね。夢占いの本なんてたくさんあるのに、結局夢をキチンと解説できていないし。

 

 で、普段の生活では想像もできない方法、とは。

 逆に普段していることは、歩く、走る、食べる、寝る、話す、みたいなのが普段の生活。これを想像もできない方法でするには?

 そう、アンドロイドだ。うん、これは想像できなかった。アンドロイドがいれば走らなくも歩かなくても欲しい物を持ってきてくれるし、ご飯も食べさせてくれる。ベッドセットも任せられるし、話し相手にもなる。


 とりあえずの仮定ってなると、電気で羊は動くのか、みたいな適当なものでいいのかな。うちの本棚は牛の呼吸で動いているし、これもあり得ないことではない。自分でいうのもなんだけれど、いい仮定だ。


 妄想をし続けて正しいと言い切るっていうのが結構難しいけれど、今まで出てきた物をまとめて説明出来ればいいってことだと思う。


 よし。


 アンドロイド、電気、羊、夢。

 この言葉がまとめてタイトルに入ってる本があれば、それがSFを楽しむ為に最適な本だ、と妄想し続けていればいいんだ、と言い切ればいい。


 というか、そんな変なタイトルの本があるのかどうかは疑わしいけれどとりあえずオムライスを食べてからどうするか考えようと思ってリビングに戻ると、買物から戻ってきた奥さんの頭が割れて、中から小人が出てきている。


 小人と一緒にオムライスを食べながら、これはもうSFの世界にいるみたいだな。

 なんて。

 

 これで正しいんだよ。ね?

 




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