第11話

 昼休み、食事も一段落して本格的に雑談に移行した彼らであるが。


「幼馴染の彼と、そのまま彼氏彼女の関係に……」

「あー、いーなー」


 霞の霞による霞のための隼との関係を四人に語ったところであるが。


「幼馴染が3人もいるのに全員女とか何この格差」

「さっちゃん、男の子が幼馴染だったとしても、仲良いとは限らないんだよ?」


 四人の反応は羨ましい二票、何だかわかんないけどずるい私にも男の幼馴染をよこせ一票、男の幼馴染だと色々違うんだろうな一票と、票が別れた結果となった。


「他の幼馴染がいる人のことはわからないけれど、ほぼ家族同然に暮らしてきたから、喧嘩は割りとしてたわよ?」


 反応こそ分かれたが、二人の仲が良くてイイねというのは統一見解だったようで、それに対する霞の対応はというと、結構正直に内情を語ったりもしていた。


「喧嘩するほど仲がいいというやつですね―」

「だいたい霞が俺を叩いたり霞が俺を殴ったり霞が俺を蹴っったり霞が俺を……」

「黙りなさい隼」


 それに対する好意的な反応に、隼が応えるが、霞によって叱責される。しかしながら、ここぞとばかりに隼の攻勢は止まらなかった。


「反論すると俺の親に有ること無いこと言うんだよ。で、親はそれ信じちゃってまー大変」

「私のおやつを食べたり私のおかずを食べたり私の玩具をとったり私の下着をとったりしたからじゃないの」

「うわ、そんなことしてたんだ」

「最後は有ること無いことの無い方だからな!霞お前というやつは」


 たまには言い負かしてやりたい、とでも思ったのか、隼はさらなる口撃に移ったが、手痛い反撃を食らったのである。


「まあ下着の件は冗談だけれど。ウチでお風呂に入ったとき私のおパンツを彼が剥いて帰っちゃっただけで盗ったわけではないし」

「え、女装癖……?」

「女装した中島くん……有りかも」

「有りだね」

「有りなの?!」


 その時四人の反応は肯定派多数であった。


「間違えて履いただけだからな!しかも小学校低学年の頃だからな!霞、お前もそんなこと人にばらしてんじゃねえよ!」

「あら、良いじゃない。何なら今度家に誰もいない時にでも私の下着を全部取ってもいいのよ?」

「いやーん霞さんってばススンデルー!」

「ちょっと、何言ってるわけ!?」

「あのあの(おめめぐるぐる)」


 幼いころの忘れたい過ちカッコワライを大々的に公表された隼であるが、さらなる追撃を食らう。


「おい霞それはこんな真っ昼間っから言う話じゃねえだろ」

「いいえ、別にかまわないわ。そうね、月末の連休辺りはうちのみんな実家に遊びに帰るから、好きにできるわよ?」


 たしかに彼氏彼女の間柄であるとは公表することとなったが、それ以降の話は表立って言うべきではないだろう。

 そう言う隼に対し、霞は「私は一向に構わんッ」とばかりに具体的な日付まで口にし始めた。


「お、おう、ってそれお前、毎年恒例のおじさんの実家に帰るって話じゃねえか!」

「ええ、だから家には誰もいないから。好きなだけ私の下着を持っていってくれてもかまわないわ。合鍵持ってるでしょう?あ、使ったらキチンと洗って返してね。結構お高いのよ、下着」


 霞の家のスケジュールを知っている時点でどうかとは思うが、隼のツッコミに霞は淡々と追い打ちをかけまくっていた。


「持ってかねえよ!つか使わねえよ!」

「健康な高校一年生男子なのに?」

「すいません霞さん、正直下ネタは俺に効くのでやめてもらえませんか」

「これくらいで泣きを入れるなんてマダマダね。精進しなさい」

「勘弁してくれ……」


 徹底的に隼を言葉の刃で斬りつけて完全勝利を果たした霞であったが、それを見ていた四人はと言うと。


「……これは」

「全然イメージが違うわね」

「は、っはいそうですね!」

「……ドS美少女強攻めのイケメン男子のヘタレ受け、リアルで見るとこれほどの破壊力とは……」


 色々と目からウロコがこぼれていた。

 一部怪しい鱗がこぼれている人物も居たが。


「インスパイアするのは結構だけれど、モデルにするのは差し控えてくださいね?」

「……ちっ、了解です」


 ともあれ隼の犠牲によって霞の印象は彼女ら四人に十分好意的……ではないかもしれないが、少なくとも怖い……かもしれないが敵ではないと伝わったことであろう。


 ☆


「あんまり人さまの前でああいった事を言うの控えてくれませんかねえ霞さんや」

「いつも二人でコソコソと話してた内容と大して変わらないんだけれど」

「二人でコソコソと話すからあんな内容を言い合えたんだよ」


 放課後。

 二人でのんべんだらりと歩きながら、そんな事を言い合いつつ下足場を出て正門へと視線を向けると。


「なんだあれ」

「なにかしらね。ひとだかりが出来てるけれど」


 校門の門柱の周辺に、数十人ほどの集団が固まっているのを見咎めた二人であった。

 皆背中をこちらに向けているということは、おそらく中心で何か珍しい事態が起こっているのかもしれない。


「通行の邪魔ね」

「何か珍しいものでもあるのかね?」


 そんなことを言いつつ、二人は出来るだけ離れた位置を抜けて校門を通過しようとした。

 のであるが。


「おお!ちょっと失礼!すまないがどいてくれないか?目当ての人物が……ってどきたまえよ君たち!あっ、ごめんすいませんちょっと通してください」


 なにやら拍子抜けする声を発する人物が、その人だかりから姿を表したのである。

 正直、見た目は悪くない。

 サイドバックを刈り上げ、少し長めに残したトップをジェルで整え、ブランド物のジャケットに袖を通した、わりと粋な感じの成人男性であった。

 ただし、言動は怪しい。


「愛宕霞さーん!お迎えに上がりましたぁ!この、この、このぼくが!河原町三条昇が!」

「あの、昇様。大きなお声を出さないでください。人さまの迷惑になりますから」


 そのけたたましい叫び声の後に続いたのは、お淑やかそうな声で叱責する、メイド姿の女性であった。

 なおそのメイド姿、膝まである黒っぽいドレスに白いエプロンとキャップまで身につけた、純然たる午後用メイド服であった。

 放課後の高校の校門前にそんな格好の人物が居れば、そりゃあ人だかりも出来ようというものである。


「人さまの迷惑になろうとも!この僕の思いは止められないのだよ!」

「物理的に止めてもよろしいと奥様からはご指示を頂いておりますが」

「公共の場では静かにするべきだよ、TPOと言うものも考えねば」


 何やら勝手に騒いで勝手に大人しくなったようである。


「って、なにをスルーしてるのかね霞さーん!」


 我関せずとばかりに、二人してさっさと歩き去っていた霞であった。


「誰あれ」

「さあ……、まったくこれっぽっちも脳細胞の一片すらも記憶に無いわね、冗談とかそういうの抜きで」

「まあ変なのに付きまとわれるのはママあるからなぁ」


 一応認識はしていたようである。

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