第495話 冒険者ギルドにて①
己の通った道で、天誅&再教育の嵐が起きている事などいざ知らず、1人冒険者ギルドに入ったシュリは、受付の面々の顔を見回し、顔見知りの顔を探した。
別にどの受付でも構わないだろう、とは思うのだが、シュリの事情を知らない受付に行ってしまうと、本題に入るまでの時間が長くなりすぎる。
というわけで、見知った顔を見つけたシュリは、迷うことなくその人の受付へと進んだ。
ベテランで、仕事が早く親切で丁寧な彼女の受付の列はえぐい事になっていたが、そんなことは気にしていられない。
それに列の進みは早かった。
それだけ彼女の仕事の処理能力が高いということなんだろう。
そんなことを考えている内に、列はもの凄い勢いで消化され。
気がつけば、
「はい、次の方~……って、あら、シュリ君?」
シュリの名前が呼ばれていた。
「やあ、オルカ。久しぶり」
シュリはにっこり微笑んで、長い金髪を緩やかな三つ編みにした、麗しいエルフの受付嬢の前に進み出た。
「本当に久し振りねぇ。元気にしてたかしらぁ? もう私の事なんて忘れちゃったかと思ったけど……」
「オルカほどの美人を忘れるわけないでしょ? ずっとあちこち転々としてたから来れなかっただけだよ。ようやく落ち着いたし、これからはたまに顔を出すと思うよ?」
「来てくれるのは嬉しいけど、シュリ君ほど可愛い子だと、柄の悪い冒険者に絡まれないか心配だわぁ。いじめられなかった?」
「ん? 今のところ大丈夫そうだけど?」
「ならいいけどぉ。困ったらすぐにおねーさんに相談するのよぉ?」
「ありがとう。困ったらちゃんと相談するね。それはそうと、今日はギルド長に会いに来たんだけど、いるかな?」
「あ、そういえば、シュリ君が来るって言ってたわねぇ。執務室にいると思うから、上に上がってくれるかしらぁ」
「わかった。それじゃあ、またね」
「絶対よぉ? 待ってるからねぇ。はぁい、次の方~」
オルカはシュリに向かって微笑み、ひらりと手を振ると、次の冒険者に声をかけた。
シュリも彼女に手を振り返し、2階に続く階段へと向かう。
何人かの冒険者とすれ違うが、朝の忙しい時間のせいか、急ぎ足で受付へ向かったり外へ向かったり、シュリにちょっかいをかけてくる様子は全くない。
(いじめられたら、って。オルカも心配性だなぁ)
そんなことを思いつつクスリと笑い、シュリは階段を上ってギルド長の執務室へと向かった。
そんな後ろ姿を見つけた、上級冒険者への仲間入りも間近と言われている冒険者が目を見張る。
「ん? あいつ、シュリか? なんだか前に会ったときより随分大きくなったなぁ。っていっても、同じ年頃の奴らと比べれば全然小さいんだろうけど。なんだよ、王都に戻ってたなら声かけろよなぁ」
懐かしそうに、でも少しだけ不満そうにこぼすその言葉を聞いた別の冒険者が、傍らの先輩冒険者の顔を見上げる。
「初めて見る子ですけど、先輩、お知り合いですか?」
「同期だよ、同期。冒険者養成学校の、な」
「同期、ですか!? あんな小さい子と!?」
「小さい、って言ってやるなよ? 本人も気にしてんだからさ。ああ見えて、すごい冒険者だぞ? 俺なんかより、ずっと、な」
「先輩より、ですか? 確か先輩、もうすぐBランクの試験を受けるんでしたよね? それより上って……ええ?」
「信じられないか? だよなぁ。見た目から想像できないもんなぁ。でも、すっごいんだよ、あいつ。俺なんかじゃ、手も足も出ない」
「えええぇぇぇ……」
「そう言う反応になるよなぁ。俺らと同じ世代の奴らならあいつのもの凄さを分かってるんだけど、後の世代の奴らはあいつを知らないからな~。変に突っかかって返り討ちにあわないといいけどな~」
「はあ。返り討ち……」
「お前も知り合いに言っといてやれよ。シュリって言う銀色の髪の可愛い奴に手を出すな。甘く見てると痛い目を見るぞ、ってな」
「甘く見ると痛い目に……い、一応伝えてはみますけど」
「あいつの場合はなぁ。本人もアレだが、周りはそれに輪をかけてヤバいからなぁ。きっと、相変わらず過保護なんだろうなぁ」
「ヤバい保護者のいる、甘く見ると痛い目にあう、可愛い冒険者……」
「冗談みたいに聞こえるだろうけど、まじなんだよ。せめて知り合いには教えてやれよ。そうすれば被害者が減る……」
「おーい!! 外に変なオブジェみたいなのがあるぞ!? ありゃ、素行が悪いことで有名な2人組じゃねぇか!?」
「……遅かったか」
外から入ってきた冒険者が青い顔で叫んだ言葉に、先輩冒険者は沈痛な表情を浮かべる。
それを聞いた後輩冒険者は、驚愕の表情で先輩を見上げた。
「え!? まさか?」
「そのまさか、だろうなぁ。外のオブジェになった連中は、見慣れない可愛い冒険者を見かけて、いいカモになるって判断したんだろ。まあ、狙った相手が悪かったな。といっても、狙われた当の本人は気づいてもいないだろうけどな」
「本人は気づいていない……ということは、例のヤバい保護者が?」
「十中八九、そうだと思うぜ。オブジェですんでるんだから、まだ優しいほうの保護者だとは思うけどな」
後輩の言葉に、先輩冒険者は神妙な顔で頷く。
「……友達がオブジェになんねぇように、ちゃんと忠告してやれよ」
「……はい。全力で伝えることにします」
騒がしさを増した冒険者ギルドの中で、ばたばたと外へ飛び出していく職員を見ながら、2人はそっと頷きあう。
その日発見されたオブジェ……いや、犠牲者は2人。
彼らは普段から素行が悪いことで有名な冒険者で、局部を葉っぱで奥ゆかしく隠した状態で発見された。
2人は自分を襲った相手も、なぜ襲われたかも覚えていないという。
襲撃の恐怖で一時的な記憶喪失になったのでは、というのが治療にあたった回復術師の見解である。
それとは別に、1人で草むらに丸まって倒れている宮廷魔術師の青年も発見されたが、今回の件とは関係ないと判断された。
先に見つかった2人と、余りに状況が違いすぎたからだ。
青年に着衣の乱れはなく、夢でも見ているのか、非常に幸せそうにむふむふ笑っていたらしい。
また、オブジェにはなっていなかったが、挙動不審な冒険者が数人発見されている。
いずれも素行が悪く、自分より弱いものに強く出ることが多く、評判のあまり良くない冒険者ばかりで、彼らはおびえた表情で口を揃えたように言ったという。
小さくて可愛い冒険者コワイ。
銀髪の冒険者には手を出すな。
手を出そうと思ったが最後、鬼のように恐ろしい奴に目を付けられ狩られるぞ、そんな風に。
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大変長らくお待たせした上に短い話で恐縮です。
私生活で色々な事が重なり、中々続きが書けておりません……
でも書く気はあるので、気長にお待ちいただければ嬉しいです。
お読みいただいてありがとうございました。
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