第429話 ただいまの翌日②
「シュリ様。お顔が赤いようですが、大丈夫ですか?」
そう問いかけたのはジュディスだ。
彼女は今日のシュリのスケジュール確認の為に部屋を訪れていた。
といっても、昨日帰ってきたばかりなので、今日は屋敷でのんびり過ごす予定だった。
部屋にはジュディスの他に、専属メイドのシャイナとキキの姿もある。
彼女達はシュリの食事の準備をせっせと整えてくれている。
いつもは食堂でとるのだが、帰ってきたばかりのシュリの事を思って、部屋で食事できるように手配してくれていたようだ。
そんな彼女達をぼんやりと眺めながら、そういえば着替えもしなきゃな~、なんて思っていると、
「シュリ様ぁ。お着替え、お持ちしましたぁ」
「今日のお着替えは私達がお手伝いをします」
シュリの愛の奴隷としてはまだ新入りの魔人の姉妹がどこからともなく現れて、シュリの着替えを開始した。
いつもだったら自分で着替えるのだが、今日くらいはいいか、とシュリは彼女達のしたいようにさせておく。
そうして、順調にお着替えさせて貰いながら、
(あれ? そう言えばカレンは……)
シュリは部屋の中を見回して、自分の護衛隊長の顔を探す。
護衛という仕事の性質上、朝のこの部屋でやる仕事を見つけられなかったのかなぁ、と思いつつ、朝食をセッティングして貰ったテーブルまで行くため、履き物を履こうとベッドから足を下ろすと、その足下にさっとひざまづく人の姿があった。
「シュリ君。シュリ君の靴はちゃんと私の胸で暖めておきましたよ!!」
とってもいい笑顔でそう言ったのは、護衛隊長のカレンその人。
彼女はにこにこしながら、己の胸の谷間から取り出したシュリの室内履きをシュリの足に装着してくれた。
足を包む微妙ななま暖かさに苦笑しつつ、ありがとう、とカレンをねぎらってから、
「さ、シュリ様。こちらです」
シュリの手を取り微笑むジュディスに先導されつつ、朝食のテーブルについた。
「いただきまぁす」
と手を合わせ、食事を開始する。
そしてせっせと口と手を動かしながら、食事をするシュリの前にずらりと並んだ愛の奴隷5人と専属メイドを眺めた。
彼女達はシュリが食事を終えるまで、この部屋を出るつもりはないらしい。
そんな彼女達の服装は、シュリが旅立つ前と変わりは無かったが、いつもの服装の上になにやら見覚えのないエプロンのようなモノを身につけていた。
(アレはいったいなんなんだろう……?)
そんな疑問に頭を悩ませつつ、口の中の食べ物をもむもむと咀嚼し、ごくんと飲み込む。
だが、考えただけで疑問が解けることはなく、シュリはとりあえずその疑問は棚上げにしておいて、まずは目の前の豪華な朝食を片づける事にした。
説明が必要な事なら後でジュディスが説明してくれるだろう、そう考えてせっせと食べ、ほどなくしてシュリの目の前のテーブルの食べ物は全てシュリの胃袋へと消えた。
「ごちそうさまでした!! 美味しかったよって、料理長にも伝えてね」
満足そうに微笑んだシュリを、目の前にたつ5人プラス1人がうっとりと見つめる。
だがすぐにはっとしたように表情を引き締めたジュディスが口を開いた。
「シュリ様にご満足頂けて何よりです。料理長へは、シャイナ、あなたから伝えておいて下さい」
「はい。お任せを」
「では、本日なのですが、シュリ様には私達専属の仕事ぶりを査察して頂きたいと思っております」
「あ、そうなの? わかっ……」
「お疲れのところ、シュリ様を歩かせるのはどうかと思いましたので、オーギュストにお願いして特別なアイテムを用意してあります」
「特別な、アイテム……」
なんだかちょっぴりいやな予感がしたシュリは、みんなが身につけているエプロンもどきを見つめた。
「口で説明しても分かりにくいですから、まずは実演して見せましょう。シュリ様、ご協力をお願いします」
そう言うと、ジュディスはシュリを軽々と抱き上げて、エプロンについている大きなポケット……の域を軽く越えた袋のような場所にシュリを足から突っ込んだ。
イメージとしてはカンガルーのお腹の袋が1番近いかもしれない。
「シュリ様。左右に足を出す穴が空いております。そこから足を出して頂けますか?」
「あ、うん」
ジュディスの指示通り、足を出す。
ちょうど膝から下が出るようになっていて、お尻から太股の辺りは絶妙な感じで袋に支えられていた。
「こうして足を出していただいたら、袋の背中側からでているこの帯状のひもを自分の背中側にも回して、シュリ様の姿勢を安定させた後、シュリ様の背中の辺りで縛っておきましょう。シュリ様、姿勢はお辛くありませんか?」
「う、うん。平気」
「更に、シュリ様のお尻の下辺りからでている帯状のひもも、こう、自分の腰の辺りで交差させてシュリ様のお尻の後ろで結びます。こうすると動き回ってもシュリ様がぶらぶらしませんので、シュリ様が大変な思いをすることもないはずです。どうですか?」
「たしかに、さっきより安定してるかな」
「それはよろしゅうございました。では最後に、シュリ様の背中側に垂れている布がありますね。その布の端にある輪をこのように首にかけるとシュリ様をしっかりと隠すことが出来ます。こうすれば、シュリ様の望まれたときにすぐ授乳をすることが出来ますので……」
「じゅっ、授乳!?」
「人前でのおっぱい飲ませろなんて、そんな恥ずかしいこと言うつもりはないからね!?」
刺激的な発言にキキが顔を真っ赤にしながら己の若干成長が遅めの胸を見下ろし、シュリが激しく反論する。
「……まあ、授乳の下りは冗談です。もちろん。キキ、安心なさい。これはこうしてシュリ様を安全に快適に連れ歩く為だけのアイテムなのです」
ジュディスはすぐにそう言ったが、冗談、というのは嘘だろう。
なぜならこのエプロン……もう抱っこ袋とかの名称でいいんじゃなかろーか、の仕様がちゃんとそれようになっている。
端的に言ってしまえば、おっぱいが出しやすいように作られているのだ。
まあ、キキのだけはジュディスの言うとおり、シュリを快適に連れ歩くだけの仕様で作られているようだが。
「でもさ、これ、結構大変じゃない? さすがに重いでしょ? 僕だったら自分で歩いてついて行くから……」
「重い? まさか。むしろシュリ様とこうして密着していることで、どんどん力がわいてくるようです」
「で、でも、キキはさすがに、ほら、ねぇ?」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ? シュリ様は小さくて可愛らしいですし、華奢で軽いですし」
「うぐ……」
小さい、可愛い、華奢、軽い……何気ないキキの言葉が胸に突き刺さって思わずうめく。
ジュディスは落ち込んだ様子のシュリの後頭部を慰めるようにそっと撫で、
「大丈夫ですよ。成長期はこれからです」
と小さな声でシュリに声を掛けた後、みんなの顔を見回した。
「シュリ様の見学はそれぞれ1時間ずつ。順番は、私、シャイナ、カレン、ルビス、アビス、キキの順で。交代はシュリ様の部屋で行います。何か質問のある人はいますか? 大丈夫そうですね。では、それぞれ仕事に戻って下さい」
ジュディスの言葉を合図に、みんなそれぞれシュリの部屋を出ていく。
(僕の意見の入る余地は無いのか……)
くっと唇をかむ愛する主の頭をもう1度そっと撫で、
「では私達も参りましょうか」
ジュディスはにっこりいい笑顔で微笑んだ。
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短めですがとりあえず。
12月は何かと忙しくなってしまい、短い話になったり、予定通りの投稿ができないかもしれませんが、できるだけ頑張ります!!
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