第428話 ただいまの翌日①
どこかに出かけて長期屋敷を空けた後は、大概とっても忙しい。
帰ってきたのがそんなに早い時間じゃなかったので、愛の奴隷達もわきまえてくれたらしく、昨夜は1人ゆっくりと眠りについた。
はずだった。
しかし、なんだか寝苦しくて目を覚ましたら。
左右から柔らかくていい匂いのする何かにみっちり挟み込まれていた。
寝ぼけ眼をこすると、なにやらねちょっとした液体が手に触れてぎょっとする。
(……スライムでも、でた?)
そんなことを思いつつ体を起こそうとするが、柔らかなものに埋まり込んでいるために中々起きられない。
余りに起きあがれないので諦めようかとも思ったのだが、顔のべちょべちょを自覚してしまうと、気になりすぎてこのまま眠れそうにもなかった。
やっと帰ってきてのんびり寝れると思ったのに、どうしてこんな目に。
シュリはちっちゃくため息をつき、それから柔らかな何かに手を突っ張り、悪戦苦闘しつつ少しずつ起きあがっていく。
その課程で、シュリは自分を拘束するモノがなにか気づいた。
「んにゅ。しょんなにむぎゅむぎゅと。シュリしゃまはポチのおっぱいがしゅきでありましゅねぇ」
「ふにゅうぅ。いくらタマのおっぱいが好きでも、そんなに乱暴なのはダメ……でも、コレはコレで悪くない。むしろ、イイ」
「ふひゅひゅ。しゅりぃぃ。妾、もう食べられないのじゃ~」
どうやら右側にポチ、左側にタマが配置され、左右からむぎゅっと抱きつぶされていたらしい。
(柔らかかったのは2人のおっぱいか……)
と思いつつ、どうにかおっぱい沼から抜け出したシュリは、最後に髪の毛をもむもむしゃぶっているロリ駄龍をぺいっと打ち捨てて起きあがった。
(で、スライムの粘液はイルルのよだれ、と)
のそのそとベッドから降り、シュリの代わりに抱きしめられてムニャムニャ言ってるイルルと、それを挟むポチとタマを眺め、
(ずっと一緒にいたのに、なんなんだろ~なぁ。ジュディス達にバレたらしかられるぞぉ?)
まあ旅先では、シュリかジェスの部屋で一緒に寝てたから、急にそれぞれの部屋で寝るのが寂しかったのかもしれない。
とはいえ、この現場が見つかったら、疲れているシュリを思って今晩の添い寝を我慢してくれた愛の奴隷達が大層怒るに違いない。
それも可哀想だなぁ、と思ったシュリは、タペストリーハウスのマスターキーをとりだして、3人まとめてイルルの部屋につっこんでおいた。
3人ともよく寝ていたから、これでこのまま朝までぐっすりだろう。
残った痕跡は、寝乱れたベッドのシーツと、シュリの頭やら顔やらをべとべとにしているイルルのよだれのみ。
(気持ち悪いし、お風呂に行くか……)
とはいえ時間はまだ深夜に近い早朝。
屋敷のお風呂の湯は、さすがに残っていないだろう。
(タペストリーハウスの中のお風呂にいくかぁ)
あの中の大浴場は、どういう仕組みになっているのか分からないが、24時間フル稼働の24時間風呂なのである。
使い慣れてくると、タペストリーハウスという代物はかなり優秀なアイテムで、中でもシュリが特に気に入っているのが、大浴場とメニューに載ってる料理ならいつでもすぐに食べられる無人食堂だった。
といってもこの2つの施設、最初の頃は完備されていなかったのだが、オーギュストが入居し、更に2人の悪魔が入居した時点でいきなり現れた。
おそらく入居者が増えた特典のようなものなのだろう。
大浴場は、屋敷のお風呂を使えないときにいつでも入れるのが便利だし、広さや豪華さも申し分ない。
温泉でないことだけが残念だが、わかし風呂であってもいつでも入れるだけで贅沢というものだ。
無人食堂は、その名の通り料理人も誰もいない食堂なのだが、イスに座ってメニューを注文すると目の前にその料理が現れるというすばらしい食堂だ。
まあ、メニュー数は限られているし、味もそれなりではあるが、小腹が空いたときにちょっと食べるには便利である。
他にも、それぞれの部屋はホテル並にきれいでバストイレ付きだし、掃除は1日に1回決まった時間に一斉に行われる。
行われる、というか、一瞬で終わるのだが。
その時間が来ると、各自の部屋から、大浴場や食堂などの共同の場所まで、瞬き1つの間に一瞬でクリーンアップされるのである。
(毎日掃除されていても、あっという間に部屋を汚しちゃうイルルには必須のシステムだよね~)
そんなことを考えながら、タペストリーハウスの中をのんびり歩く。
真っ直ぐに大浴場に移動して脱衣所に入ると、浴場の方から話し声が聞こえた。
どうやら先客がいるようだ。
(イルル達はぐっすりだし、オーギュスト達、かなぁ?)
そんなことを考えながら服を脱ぎ、脱衣かごへ入れておく。
この大浴場、入浴している間に脱いだ服をきれいにしておいてくれるから着替えいらずなのがありがたい。
そうしてあっというまに生まれたままの姿になったシュリは、浴場に続く扉を開いて湯気の中へ入っていった。
「だぁれぇ? 今は女子禁制の男の子タイム……ってシュリ? こんな時間に珍しいね?」
湯船に浸かっているレッドが、シュリを見て目を丸くする。
その横でブランがこくこくと頷いているが、どちらの姿も男性体。
レッドの言葉通り、今日は男の子の姿でお風呂を楽しもうというコンセプトのようだ。
「シュリ、こっちへこい。風呂に入る前に体を洗ってやろう」
洗い場にいたオーギュストがシュリを呼ぶ。
「体は自分で洗うから頭を洗ってよ、オーギュスト」
そんなことを言いながら、シュリはオーギュストに背を向けて座った。
「頭か。いいだろう」
頷いたオーギュストは、大浴場に常備されているシャンプーを手のひらに出すとシュリの頭に手を伸ばした。
この大浴場、シュリの生み出したアイテムの施設のせいか、様式は純日本式。
一般的な日帰り入浴場のように、シャンプー、リンス、ボディソープはもちろん、湯上がり後の洗面台には化粧水や乳液まで用意されている。
そんな訳で、オーギュストは使い慣れたシャンプーでシュリの頭を洗おうと手を伸ばしたのだが、シュリの髪に触れて首を傾げた。
「……なんだかねとねとしているぞ?」
「あ、それ? イルルのよだれ」
「ふむ。龍のよだれか。ならば粘度が高いのも仕方がないな」
「え? 龍のよだれって人のと違うの?」
「奴らは体が大きい分悪食だからな。よだれもすごいが、胃液はもっとどろどろしているぞ。昔飲み込まれた事があるが、一瞬で身につけているものが溶かされた」
「の、飲み込まれたんだ? よく無事だったね??」
「無事と言い切るには少々体の欠損は出たが、まあ、我ら悪魔は基本精神生命体だからな。溶けきる前に抜け出して、その龍はきっちりと懲らしめた」
「そうなんだぁ」
話しながら、オーギュストはシュリの頭を湯で流してくれる。
そうして何度かゆすいでどうにかイルルのよだれの大半を流した後、オーギュストはシャンプーでシュリの頭を丁寧に洗い始めた。
髪を洗う、というよりも頭皮をマッサージする、という方が近い指使いに、シュリは気持ちよさそうに目を閉じる。
「ほんと、オーギュストはシャンプーが上手だなぁ。僕、オーギュストに頭を洗って貰うの、好き」
「そうか? シュリの頭ならいつだって喜んで洗うぞ? 毎日だっていい」
「それもいいねぇ。でもさ、こういうのはきっと、たまにだからいいんだよ」
「そういうものか?」
「そういうものだよ」
言葉を交わしながらもオーギュストはシュリの頭をしっかり洗い上げ、きれいに泡を流す。
シュリは気持ちよさそうな吐息を漏らし、それからお風呂に入る準備とばかりに自分の体をごしごしと洗い始めた。
背中も、タオルの両端を持ってしっかりと洗い、頃合いを見計らっていたオーギュストが泡だらけの体に湯をかけて流してくれる。
じゃあ湯船に行こうか、と歩き出したシュリを抱っこしようとしたオーギュストを、
「男性体の時は必要以上にくっつかないって言ったでしょ?」
とお断りすると、
「……抱っこはいつも、こっちの姿でもしているだろう?」
ほんのり不満そうな声が帰ってきた。
「いつもはね。でも、今は裸だからダメ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんだよ」
「……なら、コレなら文句は無いな?」
一瞬でオーギュストは女性体に姿を変え、文句を言う間もなくシュリを抱き上げた。
「え~? 別にそこまでしなくても」
「文句はないな?」
「うん。まあ」
「よし。じゃあ、一緒に風呂に入ろう」
そんな2人を見ていたレッドが、不満そうに唇を尖らせる。
「あ、ノワールだけずっこい! 今日はボーイズデーって約束でしょ?」
「こくこく」
「そんな約束はした覚えがないな。俺はただ、お前等のお遊びに付き合ってやっていただけだ」
「付き合うって決めたなら最後まで付き合うのが筋でしょぉ?」
「こくっ、こくっ」
「お前等の遊びに付き合うより、シュリといちゃいちゃする方がずっと大切だ。シュリは男の姿だとくっついてくれないからな」
そのオーギュストの言葉を聞いたブランがはっとしたような顔をしてシュリを見つめ。
それからおもむろに女性体に姿を変えて、いそいそとシュリの側へ寄ってきた。
シュリは苦笑しつつも、物欲しげな彼女の頭をよしよしと撫でてあげる。
気持ちよさそうに目を細めるブランを、猫みたいで可愛いなぁ、と思いつつ。
それを見ていて我慢の限界がきたのか、
「あー!! もう、ブランまでぇ!! もういーよ。男の子の時間はもうおしまい。僕も女の子になる!!」
うがーっと叫んでレッドも女の子形態になり。オーギュストの上に座っているシュリのそのまた上にまたがってぎゅむっとシュリを正面から抱きしめた。そしてそのままキス。
ただいまの意味も込めてそれに丁寧にお応えしていると、ブランからもキスをせがまれて。最後にオーギュストに美味しくいただかれた。
結局のぼせる寸前までそんなことを繰り返し。
部屋に帰るころにはシュリの顔はリンゴのように真っ赤になっていたのだった。
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