第334話 出発進行!!①

 諸々の手続きやら報告やらが終わったからぼちぼち出発しましょう、とアガサから連絡が来たのが昨日。

 旅の荷造りやらなにやらはジュディスに任せてもうきっちり終わってたし、特に準備することもないなぁ、と油断していたら、5人の女性に寝込みを襲われた。

 彼女達の求めに応じて頑張った結果、今日はすっかり寝不足である。

 その代わり、シュリの可愛い愛の奴隷5人はツヤツヤして満ち足りてる感満載だったが。


 まあ、みんながキレイで可愛いのはいいことだよね、とちょっと遠い目をしている間に、馬車が滑り込んできた。

 おじさんが操る馬車の中には、もうすでに3人の女性が乗り込んでいる。


 時間を短縮するために、イルルに乗って移動すればいい、とジュディスが強硬に主張するのでその案を採用したが、秘密を共有する者は出来るだけ少ない方がいいと考えて。

 最初はアガサと2人で先行して、[月の乙女]の皆様には別行動をお願いするつもりでいた。


 だが、依頼には護衛も含まれているからと、完全な別行動はダメだと受け入れて貰えず。

 仕方がないので、最低限の人数を選んでくれればその人だけは連れていくと応じたところ、ジェスとフェンリーだけが同行し、他の団員はすぐに必要ではない荷物と共に陸路を行く運びとなった。


 そんな訳で、馬車の中にはアガサとジェスとフェンリーの3人がいるはずだ。

 荷物は最低限と伝えていたが、それでも相手は女性3人。

 馬車の上に積み上げられて固定された荷物を見て苦笑をうかべ、



 (イルルに乗り換える時にでも、無限収納アイテムボックスに放り込んじゃえばいっか)



 己の荷物は抜かりなく無限収納アイテムボックスにしまってきたシュリは、そんなことを思いつつ馬車のステップに足をかけた。



 「じゃあ、行ってきます。僕のいない間、屋敷の事をよろしくね?」



 愛の奴隷5人をはじめ、見送りに出ていた使用人達に向けてそう声をかける。



 「シュリ様、いってらっしゃいませ。お気をつけて」



 練習をしたのかと思うほどキレイに揃った声に見送られ、シュリはにっこり微笑んで頷いてから、馬車の扉を開いて中へと乗り込んだ。



 「おはよう、シュリ。今日からしばらく、事件解決まで一緒に頑張りましょうね」



 最初にそう声をかけてきたのはアガサだ。

 今日のアガサは、高等魔術学園の学園長という仮面を付けていない。

 若く美しい、大変魅力的な姿でシュリににっこり微笑みかけてきた。



 「おはよう、アガサ」



 彼女に挨拶を返しながら、いいの? と問うように、ジェスとフェンリーをちらりと見れば、



 「彼女達なら秘密を守れると判断したわ。それに、どっちにしても向こうで事に当たる段階になれば、擬態してる余裕なんてなくなっちゃうでしょうし。どうせばれるなら、早くバラしちゃった方が楽でしょ?」



 シュリの言いたいことを素早く察したアガサはそう答えて片目をつぶってみせた。

 そう言うことならいいのか、とジェスとフェンリーに改めて目を向けると、ジェスは生真面目な顔で頷いた。



 「大丈夫だ。ちゃんと秘密は守る」


 「っていうか、魔術契約を結ばされたし、破ろうにも破れないけどね……」



 ジェスに続けてフェンリーがそう言って肩をすくめてみせる。



 「魔術契約??」



 初めて聞く言葉にシュリが首を傾げると、



 「重要な契約とか約束をするときに、魔術師が立ち会いのもと行う契約の事よ。契約違反を出来ないように魔法で縛るから色々安心なの。ま、彼女達を信じてないわけじゃないけど、一応念の為、ね」



 アガサがそう説明してくれた。どのような縛りになるのかは、契約によって様々のようだが、今回のような秘密を守るタイプだと、秘密を口にしようとしてもその言葉を口に出来なくなるようだ。

 へえ~、と感心しながら3人をながめ、それからふと気になって、



 「あれ? 僕は良かったの? 僕もアガサの秘密、知ってるよ?? 魔術契約、しておく?」



 アガサを見上げてそう問えば、彼女は目をまあるくしてシュリを見つめ、それから甘く微笑んで愛しい少年を膝の上に抱き上げた。



 「彼女達と魔術契約したのは、彼女達がこの国の人間じゃないからって理由が大きいわね。それに知り合って間もないし。確かな信頼関係を作り上げるには少し時間が足りなかったわね。彼女達が秘密を漏らさないって信じられたら、魔術契約は解除していいと思ってるし。取りあえずの保険ってところかしら。でも、シュリはそれとはちょっと違うでしょう?」


 「えーっと、そう? 僕がアガサの秘密を知ったのだって、会ってすぐだったよね? まあ、同じ国の人ではあるけど」


 「同じ国っていう以前に、シュリはヴィオラの孫だもの。私にとっては身内みたいなものだったし、今となっては、ほら、ねえ?」



 そんな言葉と共に、お色気たっぷりに流し目をされても、分からないものは分からない。

 シュリはちょっぴり困り顔で首を傾げた。



 「ほら、ねえ、って言われても……」


 「シュリは私の最愛の男の子、だし? だから誰よりも信じてるわ。それにもし裏切られても許せちゃうくらい愛してるもの」


 「人聞き悪いなぁ。僕がアガサを裏切るわけないでしょ?」



 熱い瞳で告白されたが、シュリはさらりと流しつつ、聞き捨てならない言葉にのみ反応し、唇を尖らせた。

 己と同じ熱さは無くとも、確かな信頼と愛情を感じさせる言葉に、アガサはその頬を色づかせる。

 甘い吐息に唇はほころび、瞳は熱く潤んで。

 だだ漏れ状態で巻き散らかされた色気に当てられたように、ジェスとフェンリーも顔を真っ赤にしてなにやら太股をもじもじさせる。

 そんな彼女達の様子を見ながら、



 (擬態なしのアガサは色々危険だなぁ。男の人が一緒じゃなくてほんとに良かった。今のアガサは、無関係な男の人も野獣にしちゃいかねないもんね)



 と、まだお互いの存在すら知らない某魔術師団長と同じような事を考え、シュリはほっと胸をなで下ろした。

 が、しかし。

 アガサが巻き散らかした桃色の空気がすぐに消えてくれる訳でもなく。

 ジェスとフェンリー、2人から向けられる物欲しげなまなざしに、シュリはしばらくの間、非常に居心地の悪い思いをする羽目になったのだった。


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