第二百三十四話 お見舞いとお料理教室??~実食!そして…~

 トロリと煮えた野菜たっぷり栄養いっぱいのお粥の味付けをルゥに指示し、きちんと味見もして貰う。

 その際、ルゥの味付けがどうしてあんなに独創的なのか、その原因の一端は判明した。


 味付けという仕上げ作業で、ルゥはとにかく基本とは違う独創的な味付けをしようとしたがるのだ。

 どうして?と聞くと、他の人と同じ味付けだとインパクトが足りないと思って、という返事が返ってきた。


 そんなルゥに、シュリは答えた。

 僕は、変わった味付けより、ごく普通の味付けが好きだよ、と。

 そして更に付け加える。



 「ルゥがおいしいと思うものなら、僕もおいしいと思うと思うんだ。だから、毎回きちんと味見して、ルゥがおいしいと思うものを僕にも食べさせてくれると嬉しいな」



 と。

 ルゥは、目から鱗が落ちたような顔をしてシュリを見た。

 目と目を合わせて、シュリが大きく頷くと、ルゥはぽっとほっぺを赤くして、わかったと素直に頷いたのだった。


 そんなわけで、ルゥの独創的な味付けの問題点は、これでほぼ解消できただろう。

 後は、ルゥのお父さんの不調を少しでも良くして上げられればいい。


 ルゥ曰く、二人の初めての共同作業で出来上がったホカホカのお粥をお盆に乗せて持ち、シュリはそろそろと歩いた。

 シュー君はケガをしてるから、ボクが持っていく、とルゥは言い張った。

 が、指はかなりふやけているがもう血はでていないから問題ないとその意見は退けて自分で運ぶ。

 なんといってもシュリからルゥのお父さんへのお見舞いの品なのだから、運ぶくらいは自分でやっとかないと、誰からのお見舞いかわからない。


 なんだか妙に心配そうなルゥに見守られながら、無事に運搬を終えたシュリは、神妙な顔をしたルゥの父親・ロイマンの前に湯気が立ち上るホカホカのお粥を置いた。



 「栄養たっぷりの特製お粥です。温かいうちにどうぞ?」



 笑顔で促し、ロイマンの手にスプーンをそっと握らせる。

 彼の顔は真っ青だった。

 スプーンを握る手も小刻みに震えている。

 ルゥの手料理に対するトラウマは、思ったより深いらしい。


 シュリは気の毒そうにロイマンを見守った。

 気の毒だけど、食べなくていいですよとはもちろん言わない。

 このお粥を一口食べてもらえれば、彼が今抱えているトラウマはすっかり解消するはずだからだ。


 そんな父親をじっと見つめていたルゥが、にっこり微笑む。



 「お父さんがいらないなら、ボクが食べるから無理しないでいいからね?」



 優しい微笑みと共に出たその言葉は、ルゥの本心からの言葉。

 彼女はシュリの切った野菜やらその他諸々の入ったお粥を、父親から奪ってでも食べたかっただけのこと。

 だが、当然の事ながら、ロイマンはそうは受け取らなかった。


 彼の目には、娘の笑顔もその言葉も、シュリの作った料理を食べないとは何事かと、責め立てているようにしか見えなかった。

 追いつめられたように、娘を見つめ、シュリを見つめ……それから諦めたように、ロイマンは粥をすくったスプーンを己の口へと運んだ。


 シュリの心配そうな眼差しと、娘の羨ましそうな眼差しに見守られ、ぱくりとスプーンをくわえたロイマンがしばし固まる。

 その目がくわっと見開かれ、信じられないとばかりにシュリと娘の間を行き来し、それから後はもの凄い勢いで器いっぱいのお粥をたいらげ始めた。


 シュリはそんなロイマンの様子を注意深く見守る。

 [癒しの体液]が効いてるのかわからないが、胃が食べ物を拒否する様子も見られないし、青白かった頬にも赤みがさしてきているのが目に見えて分かった。



 (ん~……どうにか、大丈夫そうだな)



 良かった、とシュリはほっと息をつき、ロイマンはきれいに食べきった粥の器を、満足そうな吐息と共にトレイに戻した。



 「……うまかった」


 「……ふぅん。よかったね」



 幸せそうなロイマンの声と、不満そうなルゥの声。

 一口も自分の分が残らなかったのがどうも不満らしい。

 ロイマンは、妙に不機嫌な娘の様子に首を傾げつつ、



 「この料理は、本当にルゥが?」



 そう、シュリに尋ねた。



 「はい。材料切るのとかは僕も手伝いましたけど、味付けも味見も、ルゥにやってもらいました」


 「そうか……これをルゥが」



 娘の料理の急成長に、思わず潤んだ瞳を向ければ、



 「シュー君がコツを教えてくれたおかげだから、お礼はシュー君に言ってね」



 娘から返ってきたのはそんな言葉。

 そうか、彼のおかげか……とロイマンは頷き、改めてシュリを見つめた。


 そうして、新たな瞳で見てみれば、目の前の少年は娘の相手として申し分ない。

 容姿はこれ以上ないほどに愛らしく、男らしさには欠けるが、それは成長と共に補われるに違いない。

 更に、性格も良く、料理上手、将来性もばっちりという優良物件だ。

 まだまだ娘は幼いし、これからもたくさんの出会いはあるに違いないが、これ以上の相手はいないのではないだろうか。


 ロイマンはそんなことを考えながら瞠目する。

 そしてかっと目を見開くと、心配そうにこちらを見つめているシュリの手を両手で握った。



 「シュリ君!!」


 「は、はい?」


 「いつでも、お嫁に来てくれていいんだからね!!!」



 思いも寄らぬ申し入れに、シュリの笑顔が少々ひきつる。

 ……病み上がりのロイマンは、少々混乱していた。


 その後、ロイマンは妻のテレスと娘のルゥに強制的にベッドに押し込められ、シュリから無理矢理引き離された。

 そうして、ベッドに縛り付けられてもなお、元気良く暴れるロイマンを見ながらシュリは思う。



 (……まあ、元気になって良かった……んだよね??)



 と。

 こうして、なぜかロイマンからルゥのお嫁さんにと熱烈に望まれたシュリは、その後も定期的にロイマンからの嫁入りラブレターを受け取る羽目になるのだった。

 

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