第二百十五話 エリザベスは見た!?⑤

 「じゃあ、僕はちょっと行ってくるから、その間にイルルとブラシを選んでおいてね?イルル、エリザベスのこと、よろしくね」



 シュリはそう言って部屋を出ていく。

 後には、イルルとエリザベスが残された。



 「む、そうじゃの。ブラシを選んでおかぬとブラッシングはしてもらえんからの。くるくるには妾の秘蔵のブラシを貸してやるから、好きなのを選ぶとよいのじゃ」



 ようやくいつもの調子を取り戻してきたイルルは、そう言ってソファーから立ち上がる。

 そして、とてとてと壁際に向かって歩き始めた。

 そして、壁にぶつかる直前に立ち止まり、エリザベスの方を振り返る。



 「ほれ、なにをしておるのじゃ、くるくる。早くこっちに来て妾と手を繋ぐのじゃ」


 「は?手を、繋ぐんですの?」


 「うむ!今日は特別に妾の部屋に案内してやるのじゃ」


 「貴方の、部屋に?」


 「そうじゃ。ほれ、早くするのじゃ。早くしないと、シュリが帰ってきてしまうぞ?」



 言いながら、手を差し出すイルル。

 エリザベスは、半信半疑といった顔で彼女に近づき、その手を握った。



 「部屋に行くと言っても、こんな壁の前でどうしますの?一体どこに貴方の部屋があると……」


 「妾の部屋か?目の前にあるじゃろーが」


 「は?目の前?」



 言われて改めて目の前の壁を見る。

 そこには、瀟洒な洋館が描かれたタペストリーがかけられていた。

 沢山ある窓のうちのいくつかには明かりが灯っており、その明かりがゆらゆら揺れて見えたり、時折窓に人影が映るのが見えたりするような気がして、エリザベスは思わず目をこすった。



 「の?あったじゃろ??」


 「あったじゃろ……って、ワタクシには洋館の絵が飾ってあるようにしか見えませんけれども、まさか……」


 「うむ。その、まさか、じゃ。ちなみに、妾の部屋はここじゃぞ?」



 そう言って、イルルは洋館の最上階にある部屋の窓を指さした。

 エリザベスはイルルの指の先にある窓を見て、ほっとしたような息をもらす。

 その部屋には明かりはついておらず、妙な人影も見えなかったからだ。



 「明かりがついている部屋は、人がおる部屋なのじゃ。今日はポチもタマも、部屋でごろごろしておるようじゃの」 



 そんなエリザベスの様子を見ながら、イルルは説明する。



 「は?ポチ?タマ??一体なんの話ですの?」



 その説明についていけず、エリザベスは目を白黒させる。



 「ポチとタマには後で会わせてやるのじゃ。まずはとにかく、妾の部屋でブラシ選び、なのじゃ」



 エリザベスの混乱など知ったことかとばかりに、イルルは繋いだままの手をぎゅっと握ると、タペストリーの洋館に反対の手をぺとりと押しつけた。

 そして自分の部屋に入るためのキーワードとなる言葉を口にする。



 「ただいま。イルルなのじゃ」



 その言葉に反応して、タペストリーが淡く光る。

 エリザベスはその不思議現象に目を見開いて、だが、次の瞬間、自分がさっきまでの部屋とは別の場所に居ることに気がついた。



 「こ、ここは……??」



 きょろきょろと周囲を見回すエリザベスの様子に、イルルはにまりと笑い、



 「妾の部屋へようこそ、なのじゃ!!」



 そう言った。

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