第百七十五話 再会した王都の知り合いって……

 部屋の前まで案内されたところで、ミーナはシュリをおろして戻っていった。

 ギルド長が仕事をさぼらないか見張らないといけないから、と戻っていったミーナの背中に、歴戦の者がまとう様なオーラを見たと思うのは、きっとシュリの気のせいではあるまい。

 彼女のそんな後ろ姿を見送り、ギルド長の冥福(?)を祈って小さな両手を会わせて、ナ~ム~、とおざなりに祈っておく。



 (ちゃんと頑張れば、大丈夫だから!……きっと)



 と心の中でギルド長に話しかけながら。

 そして、ミーナの後ろ姿が廊下の角に消えて見えなくなってからやっと、シュリは案内された部屋のドアに向き直った。

 さて、好むこうには誰がいるんだろうか?と小首を傾げつつ、シュリはちっちゃな手でそのドアをノックする。

 中から返ってきたのは、はーい。今開けますよ~、という何となく聞き覚えがあるような声。そして間をおかずすぐににガチャリとドアが開いた。



 「はいはーい、どちら様ですか?・・・・・・ってあれ??」



 開けたはいいが、訪問者の姿を見つけられず、首を傾げる長身の人物の顔を見上げてじっと見つめる。

 あ、この人は知ってる、と思いながら。

 黒い髪、黒い瞳の、シュリの前世にちょっと似てる男装の麗人。ヴィオラの知り合いで、確か名前は……



 「あ。アンジェ?」



 思い出した名前を、そのまま唇に乗せる。

 そういえば確かこの人、前は近衛だったっていってたな~と思いながら。

 確か今は近衛を離れて、お姫様付きの衛士をしてると言っていたはずである。

 もしかして、また配置換えでもあったのかな、と思いつつ、じっとアンジェの顔を見上げていると、シュリの声に反応した彼女が視線を下へと向けた。



 「あ、しゅ、しゅ……」


 「僕に会いたい人がいるって聞いてきたんだけど、アンジェの事だったんだね」


 「シュリくぅ~~~ん!!!し、心配してたんですよ!?ヴィオラと一緒に現場に行っちゃったって聞いてから、ずっと。けっ、怪我は無いですか??痛いところは??」



 にっこり笑って話しかけたら、何故か半泣きで抱きつかれた。



 (あ~、うん。僕の今の強さを正確に知らずに、五歳の子供が亜竜の群れのまっただ中に行ったって聞いたら、こういう反応になるのも仕方ないよね)



 そんな事を思いながら、シュリはアンジェの肩の辺りをぽんぽんと叩き、



 「大丈夫。怪我はしてないし、痛いところもないよ」



 ま、正確には、怪我はしたけど治ったし、もう痛くないよ、が正解なのだが、それを言うと面倒な説明が増えそうなので、シュリはさらりと当たり障りのない返事を返す。



 「よかったです。ヴィオラも当然無事なんでしょう?」


 「うん。今は外で街の人のお相手をしてるよ?」


 「なるほど。この街の人たちからしたら、ヴィオラは街を救った英雄みたいなものでしょうからねぇ」



 うんうんと頷きながら、アンジェはシュリを抱き上げる。

 そして、戸を閉めて、部屋の中の方を振り向いたアンジェの腕の中から、シュリは更に見知った人を二人見つけていた。



 「あら、シュリ。ちゃんと元気そうね。よかったわ」



 そう言って微笑んだのは、王都の高等魔術学院の学院長をしているヴィオラの友達だ。

 学院長の仮面をかぶっているときのアガサは、上品な老婦人の姿をしているが、今日は若くて色っぽい美人の姿のままだった。

 学院長としての仕事と責任はどうしたと思いつつ、彼女は何でこんなところにいるんだろうと首を傾げながら、シュリはもう一人の知人に目を移す。



 「よう、シュリ。またお前の顔が見れて嬉しいぞ」



 アガサの隣でニコニコしているのは、やっぱりヴィオラの友達で猫獣人のナーザ。

 彼女はハクレンという白虎の獣人の夫と一緒に王都で宿を経営している。

 アガサ同様、そんな彼女が何でここにいるのか理解が出来ず、シュリは更に首を深く傾げた。


 アンジェはいい。

 一応、もと近衛だし、王族の近くに仕える身としてはいつどんな命令が下っても不思議ではない。

 だが、残りの二人に関しては、どうしてここにいるのかその理由が全く思いつかなかった。

 まあ、分からないなら聞いてみればいいか、と思いながら、シュリは口を開く。



 「アガサさん、ナーザさんも、どうしてここにいるの??」



 シュリの素直な疑問に、二人は顔を見合わせてにんまりと笑う。



 「ん~、それはもちろん、シュリが心配だったからよ~?」



 言いながら、何故か妖艶な笑みを浮かべてシュリに近づいてくるアガサ。

 彼女はそのままシュリの体をアンジェの腕の中から奪い取って、自分の胸に抱きしめる。ふんわりとしたおっぱいをあえて押しつけるようにして。



 (いやいや、そういうのは大人の男の人にしてあげないと!……まあ、普通に気持ちはいいけどさ)



 そんなことを思いながら彼女の顔を見上げる。

 アガサは愛おしそうにシュリを見つめ、その頬にむちゅっとキスをした。



 「ず、ずるいですよ、アガサ。まだ私が抱っこしてたのに」



 そういって唇をとがらせるのはアンジェ。

 ヴィオラと知り合いなだけでなく、どうやらアガサやナーザとも面識があるようだ。



 「うっさいわね~。良いじゃない、チョットは抱っこしたんだから。順番よ、順番」



 言いながらアガサはシュリを抱っこしたまま、再びソファーに身を沈ませる。



 「ふふ。相変わらず可愛いわね、シュリ。本当に、怪我はないの?怪我してたら、魔法で治してあげるけど??」


 「治癒魔法、使えるの??」


 「ま、多少ね。攻撃魔法の方が得意だけど」


 「いいなぁ。今度、僕にも教えてくれる??」



 シュリが思わずそう言うと、アガサは思いがけずに獲物が飛び込んできたと、舌なめずりしそうな顔で頷く。



 「いいわよぉ?今度、二人っきりで、ねっとりしっぽりと教えてあげる。ね、知ってる?女の子の膜を破った痛みも治癒魔法で楽になるから、女を抱くのに結構便利なのよ?」



 魔法はねっとりしっぽり教わるものでもないと思うし、女の子といいことするから教えてと言った覚えもないけどなぁ、とシュリは苦笑を浮かべる。

 だが、治癒魔法を覚えられたらなぁと思うのも確かなのだ。

 今まできちんと魔法を習ったことなどないし、しっかり習ったらうっかり習得する事も出来るかもしれない、そんな希望を抱きつつ、シュリは頷いた。


 そんなシュリを見つめながら、妙に色っぽい表情を浮かべるアガサ。

 それを見て、シュリ君がアガサの魔の手に!?と慌てているアンジェ。

 隣のナーザは早く私もシュリを抱っこしたいと、うらやましそうにこっちを眺めている。

 まあ、何とも混沌とした人間模様である。



 「アガサさん、学院は??一応学院長なんでしょう??」


 「そっちは、副学院長に丸投げしてきたわ。シュリの方が大事だし。で、埃かぶってた冒険者カードを引っ張り出して、いち冒険者としてこの遠征に志願してきたってわけ。そうしたらアンジェが総責任者だっていうでしょ?だから、移動中はアンジェにくっついてたのよ。移動は馬車だし、天幕も大きくて女三人には十分だったし、何とも快適な旅だったわよ?」


 「でも、なんで僕がここにいるって……?」


 「あ~、それね。一応ここってヴィオラのホームでしょ?だから、戻ってくる可能性は高いかなって思って。それに、ヴィオラが戻るなら、目下行動を共にしているシュリも一緒の可能性が高そうだったし。それに、まあ、暇だったしね?」



 暇だったしね、とそう言ったアガサの言葉は、シュリに会いたかったのだ、とそう言う意味に聞こえた。

 彼女の瞳がシュリを愛おしそうに見つめ、シュリも自分を心配してここまで来てくれたのだろう彼女の行為に少しジーンときながら見つめ返す。

 まあ、それは他の二人も同じだろうけど。


 そんなシュリの眼差しを受けたアガサは思わず頬を赤くして、あれ、この雰囲気ってそういう感じ?と自分に良いように勘違いをして、シュリの唇をろっくおんする。

 そして、そのまま一気に距離を詰めようとしたのだが、肝心のシュリの体を横からかっさらわれた。

 もちろん、かっさらったのは、シュリの抱っこの順番待ちをしていたナーザである。



 「アガサはもう十分だろ?今度は、私の番だぞ??」



 そう言いながら、ナーザもシュリをむぎゅうと抱きしめて、



 「シュリ~、会いたかったぞ~??今日は耳も尻尾も無いが、無くても十分可愛いなぁ」



 さらっとそんな爆弾を投下しつつ、シュリの頬に頬をすり寄せた。



 「は?耳?尻尾??」



 それを聞いたアンジェが頭の上にはてなマークを飛ばし、アガサは突然シュリを奪われて恨めしそうな顔でナーザを見てる。

 シュリは、アンジェの疑問をするっと無視して、ナーザの顔を半眼で見上げる。



 「えっと、そんなになで回しても無いモノは無いんだけど?」



 そんな言葉と共に。



 「うん?無くても可愛いぞぉ?シュリの尻は最高だな!さわり心地がいい。ぷりぷりだ!!」



 だが、悪気無くセクハラ発言を返されて、尻を思うさま揉まれながら、シュリはあきらめのため息を漏らす。

 まあ、減るもんじゃないし、いいかぁと思いながら。



 「ぷりぷりなのは子供だからだもん。すぐにおっきくなって、筋肉でがちがちになるんだからね!!」


 「筋肉でガチガチ、かぁ。まあ、確かにハクレンのケツはそんな感じだよなぁ……。だが、相手がシュリとなると、ガチガチでも愛おしいんじゃないかと思えるのは、これは恋なのかな?」


 「……僕に聞かれても困るよ。ナーザはハクレンの奥さんでしょ?浮気は、ダメだよ?」


 「むう。そうか、シュリは結構貞操観念がしっかりしてるんだな。だが、大丈夫だ!シュリのを私の中に入れる時には、ちゃんと離婚してる様にするから!!」


 「そっ、そういう問題でもないよ!?」


 「そぉかぁ??」


 「そっ、そうだよ」


 「うーん。色々むずかしいんだなぁ。まあ、まだシュリが大きくなるまで時間があるからな。色々解決策は考えておくさ」



 はっはっはっと朗らかに笑うナーザの腕の中で、シュリは額に一筋の冷や汗を流す。

 どうにかしたいと思うのだが、その方法が思いつかない。

 [年上キラー]のスキルは、シュリの思うように使えるようなものではなく、ある意味非常にやっかいな代物なのだ。それに助けられる時も多々ありはするのだが。



 (う~ん、う~ん……あっ、そうだ!妻としての気持ちを刺激してダメなら、母親としての気持ちを思い出させるのはどうだろう!?)



 はっと思いつき、



 「あ、そう言えば、ジャズは元気??」



 シュリはナーザの顔を見上げ、彼女の娘の名前を口にした。

 娘のためにという大義名分を利用して、薄皮一枚でも良いからナーザとハクレンの婚姻関係を守れればと、儚い希望を抱きつつ。



 「ああ、ジャズな。アイツもこっちに来たがってたんだけど、さすがにまだ養成学校に通ってるひよっこを連れてこれる雰囲気じゃなくてな~。今回は諦めさせた。シュリによろしくってさ」



 ナーザはそう言ってから、ふと何かを思いついたようににやっと笑った。



 「ジャズもすっかりシュリの虜だな?将来的にはあれだな~。ジャズと揃ってシュリの女になるのかな?別に親子丼がイヤだなんてウブい事を言うつもりもないし、私はむしろ大歓迎だがな!どうしてもと言うなら、ジャズも私が説得してやる。母親と娘をベッドに並べて味わう、これぞ男のロマンって奴なんだろ??」


 「いやいや、そんなの初耳だよ!?少なくとも、僕のロマンには、そんな展開入ってないし!!ジャズが可哀相だから、そんな説得やめたげて!?」



 僕はごく普通の愛情たっぷりのエッチで十分だから、とそこは口に出さずにナーザを見上げると、あれ?おかしいなぁ??と首を傾げるナーザ。



 「ん~?前にハクレンの奴がベッドの下に隠し持っていた色本はそう言うのが多かったけどなぁ??そっかぁ。ありゃ、ハクレンの趣味なだけかぁ。いや、でも、まあ、流石に親子揃ってハクレンに股を開いてやるつもりはないけど。ジャズも、パパ、パパ、言ってた子供の頃とは違うしな~」



 すっかり勘違いしてたな~、とナーザが再び朗らかに笑う。



 (いやいや!?朗らかに笑うところでもないし、内容でもないと思うけど!?そ、それにしてもハクレン~~~!?隠しておきたい趣味は、もっと分かりにくいところに隠そうよ!?)


 「でっ、でもさ?ジャズのことは別にして、ナーザさんとハクレンはれっきとした夫婦なんだから、そういうことしてもいいんじゃないの??」



 ややひきつった表情を浮かべつつ、シュリは精一杯ハクレンの援護射撃をする。

 だが、それを聞いたナーザに、なにいってんのとばかりに大笑いされた。



 「なんつーか、あれだな~。ハクレンは元々弟みたいな感覚だし、最初の頃はともかく最近はめっきりそんな気も起きなくてな~。あっちは時々もの欲しそうにこっちを見てるけど、まあ、浮気してもいいぞって言ってあるし。アイツはアイツで、きちんとやることはやってるみたいだしなぁ。いいんじゃないのかなぁ、それで。なぁ?」


 (や、そ、そこで同意を求められても……困る、というか、なんというか)



 何と言っていいか分からず、だらだら冷や汗を流して固まっていると、その体をひょいと誰かが後ろから抱き上げた。



 「ナーザ!?子供相手になんて内容を話してるんですか??」



 頭の後ろから聞こえるのは、ちょっと憤慨したようなアンジェの声。

 あ、常識人がここにいた、とシュリは妙にほっとする。



 「あ~……悪い悪い。なんか、シュリと話してると、子供と話してる気がしなくてな~。これって私がシュリに惚れてるせいなのかなぁ??」



 なあ、どう思う??と今度はアンジェに質問をぶつけるナーザ。

 そんなナーザを、しりませんよ、そんなの!?と切って捨てて、アンジェはシュリをアガサとナーザから守るように抱っこしたまま、二人から少し離れたイスに腰を下ろした。



 「は~、災難でしたねぇ、シュリ君。大丈夫ですか?」


 「ん~~、うん。平気」



 妙に疲れたような表情で問いかけてくるアンジェに、シュリは微笑んで答える。

 アンジェは、そんなシュリの顔を見つめ、ほんわりと和んだような笑顔を浮かべるとシュリの頭を優しく撫でた。

 そして改めてぎゅうっと抱きしめる。

 シュリの頭のてっぺんに自分のほっぺたをくっつけるようにして。



 「あ~~……癒されますぅ。うちの姫様もそりゃあもう可愛いですし、別に性格が悪いわけでもないんですけど……」



 やっぱりシュリ君とは何かが違います、そう言いながら、ぐりぐりと頬をすり寄せてくるアンジェは、きっと疲れているのだろう。

 肉体的にと言うよりは精神的に。



 「そう言えば、アンジェ?お姫様のお世話係じゃ無かったっけ?」



 ふとした疑問をそのままぶつけると、



 「あぁ、その事ですか。ええ、今回の任務につくまでは、そうでしたよ?」



 何でもないことのように、けろりとアンジェが答える。



 「うーんと、何かしてお姫様から嫌われたの??」


 「え?あの姫様が私を嫌う?そうだったらそれはそれで楽なんでしょうけどねぇ……。ちょっと寂しいとは思いますけど」



 配置替え理由を探るようなシュリの言葉に、アンジェがくすくすと笑う。

 アンジェの反応から見るに、どうやらお姫様に嫌われての配置替えではなさそうだ。

 じゃあ、どうしてお世話係を外されたんだろうと考えていると、その考えを読んだように頭の上からアンジェの声が降ってくる。



 「正確には、私の立場は今も姫様のお世話係のままなんですよ。その立場のまま、こうやって急造の救援部隊のまとめ役を押しつけられたってだけの話です。まあ、押しつけられなくても、自分からなんとかして潜り込んでたかもしれないですけど」


 「えっと、それって、やっぱり……?」


 「ええ。場所が場所でしたし、ヴィオラと共にシュリ君も現れるのではと思いまして」



 私の考え通りでしたね?とアンジェが微笑む気配が伝わってくる。



 「どうやら王も同じお考えだったようで。スベランサにヴィオラが現れるかもしれないから、救援のついでに手柄を立てたヴィオラを連れかえってこいとのご命令を受けましてね。まあ、私も渡りに船とばかりにお話をお受けしたのですが、それからずっと姫様のご機嫌が悪くて、出発するまでに胃に穴が開くかと思うくらいでした……一度ご機嫌を損ねると、後をひくんですよね~」



 ふふふ……と虚ろに笑う声が聞こえて、大変だったんだなぁと、アンジェを労るつもりですりすりと頬をすり寄せた。

 だが、その瞬間、頭の上からちょっと甘い声が聞こえてはっとする。



 (あ、さらし巻いた平ら胸だから気がつかなかったけど、ここ、アンジェのおっぱいだ)



 じゃあ、これ以上はまずいなぁと、シュリはぴたりと動きを止めてアンジェの反応を伺う。



 「あ、あの、シュリ君?もっとスリスリしても……」



 いいんですよ?と熱い吐息と共に、熱のこもった声で言い掛けたアンジェの言葉を遮って、シュリはアンジェに質問をぶつける。

 王様は、おばー様が手柄を立てるって分かってたんだ?と。



 「あ、え、ええ。ヴィオラが関わって解決しない事はないと、陛下は分かっておいでなのですよ。あの方は、他の誰にも負けないくらいのヴィオラのファンですから」


 「そっかぁ。じゃあ、おばー様が来たら王都に連れて行くの??」


 「ええ。この街周辺の復興の手伝いの指揮は、副長達に任せて、なるべく早く王都に同行してもらうつもりでいます」


 「そ。じゃあ、僕はここでおばー様と別れて、アズベルグに帰るね?」


 「え?なにを言ってるんですか??シュリ君も一緒に行くに決まってるでしょう??」


 「え~~~……」


 「え~、じゃないですよ。なんとしても一緒に行って頂きますよ?陛下も妃殿下も楽しみにしてるんですから」


 「う~~~……」


 「唸ってもダメです!」


 「……仕方ないなぁ。分かったよ……」



 引き下がらないアンジェを前に、シュリはため息をついて頷いた。

 どうせここで逃げても、きっといつかは呼び出されるに決まってる。

 ヴィオラの孫に生まれてしまった為の、有名税だと思って大人しく従っておこう、とシュリはアンニュイな表情を浮かべた。

 それと真逆に、うれしくて仕方がないと言う表情を浮かべるアンジェ。

 そんな相反する表情の二人に、



 「あ、シュリが王都に行くなら、私も一緒に戻るわ。ほら、一応立場ってものもあるし?あんまり王都を開けるのもどうかと思うしね~」


 「なら、私も帰ろう。帰りの馬車はシュリと一緒だな?結構揺れるが大丈夫だぞ??私がしっかり抱っこしてやるからな」



 アガサが欲望と建前を織り交ぜて発言し、ナーザは欲望を隠そうともせずにニコニコとそう訴える。

 そんな二人を半眼で見つめ、シュリは再びはふぅっとため息をついた。

 王都へ向かう今度の道程は、なにやら妙に騒がしいことになりそうだと思いながら。

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