第百四十九話 夢と現実

※2017/10/18 内容を一部変更しました。



 夢を見ていた。

 今よりもっと小さい頃の夢だ。

 日がな一日ミフィーの腕に抱かれて、お腹が空けば口元にあのちょっぴり控えめの魅惑的な膨らみが押しつけられた、そんな頃の夢。



 「う~、あう~(お腹空いた~)」


 「ん?シュリ??もうお腹空いたの??さっき飲んだばかりなのに??もう、シュリは食欲旺盛ね」



 シュリの訴えを聞いたミフィーが、苦笑しながら襟元をくつろげてその胸を空気に晒す。



 「いっぱい飲んで、早く大きくなるのよ~?」



 いいながら、口元に寄せられたおっぱいを勢いよくはぷんとくわえて、待ってましたとばかりに吸い上げる。

 だが、今日に限ってなぜだかミフィーのおっぱいが出てくる気配は一向に無かった。

 吸って、吸って、吸って。

 吸うだけじゃダメなのかと、舐めてみたり転がしてみたりもした。でも、出ない。

 はむはむと、甘噛みしながら訴えるようにミフィーを見上げる。

 ミフィーはほっぺたを赤くして甘い吐息をこらえながら、なんとか母親の顔を保ったまま、シュリの訴えを察して首を傾げた。



 「出ない??う~ん。おかしいなぁ??」



 本当に不思議そうな顔のミフィーを見上げながら、シュリは何とも情けない顔をする。

 我慢は苦手ではない。

 だが、ものすごくお腹が空いていた。本当に、すごくすごく、お腹が空いているのだ。


 どうにもならない空腹感に、思わず泣きそうになったシュリを、ミフィーの腕から誰かが抱き上げた。

 ふくよかな胸に、ぽふんと顔が埋まる。

 見上げたそこにいたのは、黒い髪におっとりした顔立ちのシュリの乳母だった。



 「シュリ君、ミフィーさんの代わりに私のおっぱいを飲んで下さいね」



 彼女はにこにこ微笑みながらそう言って、ぺろんと大きな胸を取り出してシュリの顔に突きつけた。



 「あう~!!(待ってました~!!)」


 「きゃっ。そ、そんなに激しく……」



 早く飲ませろとばかりにむしゃぶりつくと、マチルダの唇から甘い悲鳴が漏れた。


 ちゅくっ、ちゅくっ、ちゅくっ、ちゅくっ……


 息をつぐ間も惜んで連続して吸い上げる。

 だが、どうしたことか、マチルダのミルクタンクも空っぽのようだった。



 (な、なんでぇ~!?)



 吸っても吸っても、なじみの味の母乳は一滴たりとも出てこない。

 今までこんな事無かったのになぜっ!?と諦めきれずにシュリは両手を使って、子猫のようにマチルダの胸を両手でもみもみと押しながら、ちょっぴり刺激に弱くなったその部分をしつこく吸い上げる。



 「あっ、シュリく、ん。おっぱいを揉みながら吸うなんて、そんな……んっ」



 マチルダが甘く鳴いているが、そんなこと知った事ではない。

 シュリはなんとかして母乳を絞り出そうと必死になっていた。

 吸っても吸っても何も出てこないその部分を、舐め、転がし、吸い上げ、甘噛みをし、また吸い上げる。

 だが、どれだけの技巧を駆使しても、シュリが求める母乳は出てこなかった。

 本当に泣きそうになりながら、未練がましく乳首を吸い続けていると、我慢の限界が訪れたのだろう。


 マチルダはぷるぷるっと可愛らしく震え、シュリの頭を胸に押しつけるようにぎゅううっと抱きしめた。

 結果として、軟らかい肉に隙間無く顔を覆われたシュリは、あまりの苦しさにマチルダの体をぺちぺちと叩く。

 だが、彼女の力は弱まらず、シュリの意識は徐々に薄れ、そして……。







 夢を見ていた。

 今よりもっと若い頃の、まだ子供だった頃の夢。

 場所は自宅の自室だ。

 リリシュエーラは机に向かっていて、その傍らにはかつて恋した男の姿。

 見た目は今とほとんど変わらないが、今よりもきつい眼差しをしたエルジャバーノの横顔をちらりと見て、リリシュエーラは頬をほんのり赤くする。


 季節はどうやら夏のよう。


 リリシュエーラは、エルジャバーノにどうしても自分を女として見てもらいたくて、胸元やら肩やらがムダに空気に晒されるような布地の少ない服をあえて着ている。

 そんなことがあったかしらと、記憶をたどってみれば、確かにそんな事をもくろんだ記憶がうっすらと残っていた。

 夏なのにちょっと涼しい日で、鳥肌を立てながら頑張ったのに、エルジャバーノには見向きもされなかったという、苦い思い出である。


 だが、この夢の中では、思いでの通りには話は進まないらしい。

 リリシュエーラは気がついていた。

 気のない振りをしながら、エルジャバーノの視線が時折、彼女の胸に寄り道をしていることに。



 「……ほら、リリシュエーラ。そこ、ちょっと間違ってますよ」



 言いながら、エルジャバーノの大きな手が、リリシュエーラのむき出しの肩に触れる。

 その手がかすかに首筋を掠め、リリシュエーラはビクンと体を震わせた。

 そして、それに気づいたエルジャバーノの唇が弧を描く。



 「いけない子ですね。リリシュエーラ」



 エルジャバーノがその形のいい唇を、リリシュエーラの耳元に寄せて囁いた。



 「んぅ……あの、先生?」



 耳に息を吹き込まれるように囁かれ、思わず甘い声が漏れてしまう。

 リリシュエーラはそれをごまかすように、不自然に密着してくる愛しい男を見上げた。



 「本当に、いけない子です。こんな風にして、私を誘うなんて」



 そんな言葉とともに、エルジャバーノの手がするりと降りてきて、リリシュエーラのまだ成長途上の胸にそっと触れた。



 「ええっ!?せ、先生ぇ」


 「こんなに薄着で、私の理性を試すつもりだったんですか?」



 エルジャバーノが意地悪そうに笑う。

 彼の言葉を聞いて思い出す。

 そうだった。あの夏の日、エルジャバーノを誘惑するという名目で、薄着な上に下着も付けずに彼の授業に臨んだのだった、と。



 「いやらしいですね、リリシュエーラ。私に、こうしてほしかったんでしょう?」


 「ち、ちがいます、先生。そ、そんなつもりじゃ……んっ」



 エルジャバーノに責められ、言い訳するが、初めての感覚にうまく言葉にならなかった。



 「さあ、見せてご覧なさい?私に、見てほしいんでしょう?」



 彼の手で体の向きを変えられ、そんな言葉で次の行動を促される。

 抵抗する事なんて出来なかった。

 ごくりと唾を飲み込んでエルジャバーノに向かい合い、彼の興奮したような視線を感じながら、リリシュエーラはゆっくりと服をめくりあげた。



 「これはこれは。なんともおいしそうな果実ですね。私のために用意されたのでしょうし、責任をとっておいしくいただくとしましょうか」



 それを見たエルジャバーノは妖しく微笑んでリリシュエーラを見つめ、それからゆっくりと彼女の胸のふくらみへ唇を寄せた。

 生まれてはじめて感じるその刺激に、リリシュエーラは思わずエルジャバーノの頭を両腕で抱え込む。



 「先生っ……せんせぇっ」



 エルジャバーノを呼びながら、せっぱ詰まった声を上げる。

 彼の唇に包まれていると思うだけで、なんだかおかしくなってしまいそうだった。


 エルジャバーノは、まるでミルクを求める赤ん坊のように、凄い勢いで吸いついてくる。

 舐め、転がし、吸い上げ、甘噛みをし、また吸い上げた。彼女の胸を揉みながら、飽きることなく延々と。

 それは彼女を追いつめるのに十分な刺激だった。


 リリシュエーラは切なそうに眉根を寄せ、エルジャバーノの頭を胸に押しつけるようにぎゅううっと抱きしめた。 

 あまりの心地よさににおぼれそうになり、すがるようにエルジャバーノの頭にしがみついたリリシュエーラは、そのまま意識が遠のいていくのを感じた。






 強烈な快感につま先までピンと伸ばし、リリシュエーラはその身を震わせた。



 (ゆ、夢……?)



 荒い息をつき、太股をもじもじさせながら思う。

 だが、夢という割には、いまだに胸元から何ともいえない心地よさが伝わってくる。

 上にかかっている薄布そーっと持ち上げて見てみれば、服はすっかりめくりあげられていて、むき出しになった彼女の胸に吸いついているシュリの姿があった。



 「シュ、シュリ!?」



 驚いて名を呼ぶが、シュリから反応は返ってこない。

 落ち着いてみてみれば、シュリは目を閉じ眠っているようだ。

 だが、まるで赤ん坊のようにリリシュエーラの昔よりちょっとは育った(であろう)胸に吸いついて離れる様子がない。



 「んうぅ~……出ない……出ないよぅ」



 その唇から時折漏れる声は、そんな内容だ。

 どうやら、シュリは夢の中でおっぱいを飲もうとしている真っ最中のようだ。

 だが、実際に吸いついているのがリリシュエーラの胸なので、いくら吸っても母乳が出ずに、若干うなされてしまっているらしい。

 まだ幼いシュリが母親を求める姿に、怒る気にもなれず、リリシュエーラは少し困った顔をしたまま、シュリをそっと抱き寄せる。

 そして、



 (さ、さっきの夢は、このせいだったのね……)



 そんな推測とともに、ついさっきまで見ていた夢を思い出し、思わず頬を熱くした。



 (お、おかしいと思ったのよ。今はもう、エルジャバーノの事なんか、何とも思ってないはずなのに、あんな夢をみるなんて……)



 ふう、とため息をつき、それから改めて、胸に張り付いたままのシュリに目を落とす。



 (そう言えば、夕ご飯も出さないで寝ちゃったのよね……)



 シュリを家に招いてやったことと言えば、くそまずいお茶を出したことくらいだ。

 その後は、落ち込んでシュリに慰められて、そのまま寝てしまった。

 恐らくシュリも、仕方なく空腹のまま眠りについたのだろう。

 悪気は無かったとは言え、可哀想なことをしてしまった。


 その結果がこれだ。

 お腹が空いて、ついつい目の前のおっぱいに吸いついたものの、どうやってもミルクが出てこない事実に、寝ながら半泣きのシュリ。

 だが、母乳を求めて一生懸命におっぱいに吸いつく様子は、何とも可愛らしかった。

 くすぐったいような、切ないような、気持ちいいような、そんな感覚が絶えず襲ってくるのは玉に傷だが。


 強く吸われているはずなのに、不思議と痛みは無かった。

 里にいる、数少ない経産婦の話では、赤ん坊に胸を吸われると痛いこともあると聞いたが、そんな事はちっともない。

 むしろ、気持ちいい。

 それどころか、背筋を這い上がってくる快感を必死にこらえるほどだ。



 (な、なんで……こんなに気持ちいいの?)



 無意識のうちに太股をすり合わせながら、リリシュエーラは思う。

 まるで女になれた熟練の男性の巧みな愛撫を受けているみたいだ、と。

 まあ、実際問題、今に至るまでそんな経験は欠片もなかったりするのだが。


 ちらり、とシュリを見る。


 リリシュエーラの乳首に吸いついたままのシュリは目を閉じていて、眠っているように見えた。

 それを確かめたリリシュエーラは、ごくりと唾を飲み込んでから、そっと片手を自分の足の間へと潜り込ませる。

 そして、こっそりひっそり自分を慰めはじめたのだった。


 しばらくして。

 リリシュエーラの体がぴくんっと震える。

 そして、開けていた目をゆるゆると閉じると、すぐに彼女の唇から気持ちの良さそうな寝息が再び聞こえてきたのだった。

 リリシュエーラは最後まで気がつかなかった。

 自分の胸にくっついたままのシュリが、途中から目を開けていたことに。






 夢の中でマチルダに締め落とされて、しばらくは半分寝ながら口元にあてがわれたままの、慣れ親しんだ突起をちゅくちゅくと吸っていた。

 だが、相変わらず母乳がでる気配は無く、出ないよ~出ないよ~と呻きながら吸っていると、気がつけばなんだか周囲の空気が変わっていた。

 どんな風にと言われても困るのだが、あえて例えるとするなら、妖しげな桃色の空気、だろうか。

 頭上から、甘え声が降ってきて、もっと舐めてと催促するように頭を抱きしめられる。



 (あれ?これって、夢、じゃない??)



 急速に意識が浮上して、うっすらと目を開けて上を見れば、顔を真っ赤にしたリリシュエーラがぎゅっと目を閉じたまま甘い吐息を漏らしていた。



 (ん~と、これってどういう状況??)



 彼女の気持ちよさそうな顔を見ながら、まずは口の中にあるモノを確かめてみる。

 最近ちょっぴりご無沙汰気味ではあるが、慣れ親しんだその形や固さは間違えようがない。

 口の中にあるものは分かった。じゃあこれは誰のものなのか!?



 (……って、どう考えてもリリシュエーラのだよねぇ)



 シュリはちらりとリリシュエーラの顔を見上げながら思った。

 シュリの位置からは、リリシュエーラの顔とおっぱいくらいしか見えないから状況が良くつかめないのだが、彼女の様子から察するに、絶賛自家発電中のようである。

 つまり、一人エッチだ。

 厳密に言えばシュリが協力しているといえばいえるので、ちょっと違うかもしれないが。



 (うん。これはあれだな)



 諸々の状況から、シュリはある推測にたどり着く。



 (お腹が空きすぎて、うっかりリリシュエーラのおっぱいを吸っちゃったんだな。んで、リリシュエーラが発情しちゃった、と)



 あ~、やっちゃったなぁ……と思いつつ、内心頭を抱えていると、後頭部に回されているリリシュエーラの手に力が入ってきた。

 どうやらあちらの状況も佳境にさしかかっているようだ。


 流石にここで放置するのも可哀想だし、もう今更なので、シュリは腹をくくってご奉仕を続けることにした。

 丁寧に優しく、愛情を込めて。

 

 その甲斐あって、それ程時間もかからずにその時は訪れた。

 リリシュエーラがぴくんと震え、その腕にぎゅううっときつく抱きしめられる。

 次いで、一際高い、悲鳴にもにた甘い声が聞こえ、しばらくして、彼女の体からふっと力が抜けるのが分かった。

 そしてすぐに聞こえてきたのは安らかな寝息。



 (寝ちゃったのか)



 シュリはちらりと、眠るリリシュエーラの気持ちの良さそうな顔を見上げてクスリと笑う。

 そして、長らく口の中にお招きしたままだった彼女の大事な部分を解放してから、まだ眠り足りなくてショボショボしている目をそっと閉じた。



 (色々問題点はあったけど、恋愛状態にはならなかったし、とりあえず結果オーライだよね)



 と、いつものアナウンスが来なかったことに、ほっと胸をなで下ろしながら。

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