第三十七話 ジュディスの欲望、シュリの思惑①

※2017/10/17 全面的に改稿しました。


 キスを、おねだりされてしまった。

 ジュディスはまるで初めて恋を知った小娘のように頬を赤く染め、腕の中の愛しい相手に潤んだ瞳を向けた。



 (え~と、キ、キスってあれよね?口と口をくっつける……)



 少々混乱しているようだが仕方がない。

 今までの彼女が付き合った相手はほぼ遊び。

 そうやって体を重ね合わせた相手の中に、正直、本気で好きになった相手などいなかったし、好きだなぁと思った相手は年下過ぎてどうしようにもどうにも出来なかったのだから。

 

 今、一気に恋に落ちたその相手にキスをねだられ、そんな夢のような状況に混乱しないわけがない。

 むしろ、錯乱しないだけましだと、褒めていただきたいところである。

 だが、そんな彼女の意外と純情な内心など知りもせず、腕の中の天使は、



 『キス、してくれないの?』



 そんな言葉と共に、更に彼女をあおる様に大きな瞳を潤ませた。

 正直、あまりに可愛らしすぎて鼻から何かが零れ落ちてしまいそうである。


 だが、零すわけにはいかない。

 彼女の両手は愛おしい存在を支える為に塞がっており、塞がっている以上鼻から零れた何かを押さえる手段はないわけで。

 そうなると必然的に、零れた何かは腕の中の愛すべき相手に滴り落ちてしまう。

 その事態だけはどうしても避けなければならなかった。


 そんな使命感に駆られた彼女は、鼻の奥に生まれかけた何かをずっと吸い込み、それ以上落ちてこないように気合を入れた。

 気合を入れたまま、彼女は愛しい相手に目を落とす。


 可愛らしくキスをおねだりする、彼女が愛する人はまだ幼い赤ん坊だ。

 常識的に考えれば、キスをするなどまだ早すぎる。

 だけど、ジュディスは腕の中の小さな存在に、その小さな唇にキスをしたくて仕方なかった。


 迷い、戸惑っていると、可愛らしく目を閉じていた腕の中の存在がそっと目を開けてジュディスを見上げてきた。

 零れ落ちそうなほどに大きくて愛らしい、菫色の瞳で。



 『僕はジュディスが好きだけど、ジュディスは僕が嫌い?』



 ちょっぴり哀しそうに響く、大好きな人のそんな言葉。

 それだけで、ジュディスの理性を焼き切るには十分だった。

 小さな体をそっと持ち上げる。自分の顔の前に掲げるように。

 そして、ふくふくした可愛らしい唇に誘われるように、小さな目標地点へとゆっくりと己の唇を近づけていく。

 二人の唇が触れ合うまで、それ程時間はかからなかった。

 それから先の甘美な時間は、ジュディスが想像していたよりもずっと長く続く事になるのだが、愛しい人との初めてのキスに夢中になっている彼女には知る由もなかった。

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