第三十三話 ジョゼの死、シュリの行く末①

 屋敷に着くと、カイゼルは馬をジャンバルノに任せて1人中へと入っていった。

 主の帰還に、どこからともなく老執事が現れ汚れた外套をうやうやしく受け取る。

 そうこうしているうちに、奥の方から妻のエミーユが姿を現した。


 豊かな金色の髪が波打ち、少し勝ち気そうな整った顔を縁取っている。

 胸は大きく膨らんでドレスの胸元を押し上げ、腰は細く引き締まり、何とも女らしい魅力的な体型だ。

 最近はとんとご無沙汰だが、4人の子供を産んだ女とは思えないほど、若々しく艶やかな女だった。


 カイゼルは微笑んで、美しい妻を迎える。

 彼女の翡翠の瞳が心配そうに夫を見上げた。



 「しばらく家を空けてすまなかった。問題は無かったか?」


 「ええ。あなたはお疲れのようだわ。その、大変でしたね」


 「ああ。流石に疲れたよ」



 素直にそう告げると、エミーユはいたわるようにカイゼルの腕にそっと触れた。



 「その、ジョゼ様の事は聞きましたわ。残念でしたわね」


 「ありがとう、エミーユ。だが、幸いジョゼの妻と子は無事だった。それだけが救いだよ。……父上と母上には?」


 「まだなにも。あなたからお伝えになりたいかと思って」


 「……そうだな。わしの口から伝えた方がいいだろう。明日の朝にでも報告に伺おう。子供達は、もう寝たか?」


 「はい。お父様が帰るまで待ってるとだだをこねましたが、なんとか寝かしつけました。あの子達にも、詳しいことはまだ」


 「そうか。では、明日の朝食の後にでも伝えるするか」


 「わかりましたわ」



 そんな会話をしながら、広間へと夫を促す。

 食堂には夫のための夕食の準備も整っていたが、まずはお気に入りのソファーにゆっくり座らせてあげようと思ったのだ。

 カイゼルは、広間のお気に入りの座り心地のいいソファーに身を投げ出して、大きく息をつく。

 心も体も、泥のように疲れていた。



 「お食事の準備も、お風呂の準備も出来てますわ。どちらを先になさいます?」



 妻の問いに、しばし黙考する。

 出来ればどちらも遠慮してこのままベッドにダイブしてしまいたいくらいだったが、それは許されないだろう。

 先に食事をしてしまうと眠くなって風呂どころでは無くなりそうだと思ったカイゼルは、まず旅の疲れを洗い流すことにした。


 妻にそう告げ、風呂場へ向かう。

 エミーユはそれを受けて、メイドになにやら指示を飛ばしているようだった。


 それを横目でみながら、貴族の家の物に相応しいそれなりに大きな浴場に足を踏み込むと、若いメイドが3人控えていて、カイゼルの服をあれよあれよと言う間に脱がしてしまう。

 お背中をお流ししますとにっこり笑う娘達は、どの娘もカイゼルが好むタイプだ。

 カイゼルは妻の顔を思い浮かべ、苦笑しながらも娘達に言われるがままに湯気に霞む空間へ足を踏み入れる。



 (まったく、本当によく出来た奥さんだ)



 などと、そんな事を考えながら。

 据え膳は、もちろんしっかり美味しく頂いた。


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