かまきりの かくれみの

これが、妻が「あんなに堂々としたつまみ食いは、はじめてだった」といぶかしんだ、ときちゃんつまみ食い事件の全容である。


山育ちのむすめは、お外に出れば自然がいっぱい。

今日も、カマキリを見つけて興味津々に観察していた。


偶然にも、カマキリがセミを狩るところを目撃したのだ。

セミに気付かれないよう、葉っぱの影にかくれてタイミングをはかるカマキリ。

間合いは、すでにカマキリのものだ。

刹那。

するどいカマで、セミを捕まえるカマキリ。

「すごい!」

目の前で繰り広げられる、カマキリの補食劇に、娘は夢中になった。


「あ……」

しまった、と、むすめは思った。

カマキリが隠れみのにしていた葉っぱが、どれだったかわからなくなったのだ。

仕方がないので、カマキリのいたところの葉っぱを複数、むんずと掴んで帰ってきた。


「ときちゃんみえる?」

一枚ずつ葉っぱを頭に乗せながら、仕事をしているおとうさんに聞くむすめ。

ぼくは

「みえるよ」

と答えた。

「これは?」

「みえるよ」

「これなら?」

「ちゃんとみえるよ」

「みえる?」

「みえる」

「みえる?」

ぼくは、質問の意図がわからず、ついに

「みえない」

と答えた。


それを聞いたむすめは、満足そうな表情をして、頭に葉っぱを乗せたまま台所にむかった。


これが、のちに妻が「あんなに堂々としたつまみ食いは、はじめてだった」と語る、ときちゃんつまみ食い事件の全容である。

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