第27話 好きな人の為の嘘
「廃部にするって嘘・・・だよね?」
冗談だよと言って欲しくて私は綾ちゃんに聞く。
綾ちゃんと私は今、体育館倉庫に閉じ込められている。
だけど
早くここから出てしまいたいという気持ちは薄れて行く。
綾ちゃんの気持ちが知りたくて。
だけど
綾ちゃんの表情は変わらない。
「本当だよ。部長の僕がいないんじゃ部も動かないでしょう?」
「綾ちゃん、ご両親とちゃーんと話そう?」
「みっちゃんの家とは違うんだよ。僕の家は。弟しか愛していないんだ」
「そんな事・・・」
「みっちゃんは愛されて育ったでしょ?僕とは違う!みっちゃんだけじゃない。ユイユイも、陸斗も・・・」
「綾ちゃんは私達と離れても良いの?」
「楽になれるから良いよ。みっちゃんを好きでいる事も、みっちゃんの事でユイユイと争うのも面倒なんだよね。みっちゃん、僕は君が思ってるよりひどい人間だ。だから捨てられるんだ。だから・・・」
「綾ちゃんの嘘つき」
「は?」
「綾ちゃんの誕生日皆で祝った時の幸せそうな笑顔も、皆でコミケで頑張ったのも綾ちゃんは簡単に無しにできるの?」
「っ・・・」
「私は無しになんて出来ないよ・・・」
「みっちゃんはずるいよ。これじゃあ僕は逃げる事が出来ない」
「綾ちゃん?」
「みっちゃん、僕・・・本当はここにいたい。みっちゃん達と別れたくない!嫌だ・・・嫌だよ!」
綾ちゃんは私をいきなり抱きしめ、言う。
綾ちゃんの身体が震えている。
綾ちゃん、泣いてるんだ・・・。
「親に捨てられるって思ったら本当に苦しくて、いっそ死にたくなった。でも、みっちゃんやユイユイ、陸斗といた日々を思い出したら死ねないなって・・・」
「だめだよ、綾ちゃん!生きなきゃ。私も高宮くんも姫島くんも綾ちゃんがいなくなったらとても悲しい。私達は綾ちゃんのご両親とは違う。綾ちゃんの居場所を作るから。だから、いなくならないで」
「みっちゃん・・・」
「大丈夫。何とかしよう。私も一緒に考えるから。ね?」
「でも・・・」
「大丈夫だから」
「やっぱり君は他の女の子とは違うな。だから皆惹かれるんだ」
「綾ちゃん?」
綾ちゃんは私の身体を離す。
「この事はユイユイと陸斗には言わないで欲しい」
「えっ?でも・・・」
「お願い。これ以上迷惑かけたくないの」
「綾ちゃん・・・」
「あーあ。みっちゃんを突き放してさっさと転校するつもりだったのにな。僕って陸斗と違って演技下手くそだな」
「分かるよ。私は綾ちゃんの友達だから!」
「友達・・・ね。みっちゃんはずるいよ。僕の気持ち分かってるのに友達って」
「ご、ごめん!」
「良いよ。やっぱり嘘つくのはしんどいし、やめたやめた。とりあえず今はここから出る方法を考えないとね」
「ドア壊せないかな?イスとかで」
「イスが無さそうよ?それにイスぐらいの衝撃じゃ壊れなさそう」
「そうだよね」
「携帯は圏外だし、困ったわ。でも、みっちゃんがこんな所に一人にならずに済んで良かった」
「そうだね。綾ちゃんいなかったら泣いてたかも」
「でも、よくあるシチュだよね。閉じ込められた二人が吊り橋効果で恋に落ちる展開」
「確かに。エレベーターでとか?」
「あたしも描いたわ、同人で。でも、閉じ込めらる系より雪山で遭難してロッジで二人っきりのが萌えるかな?」
「へ?」
「身体が冷え切るから裸で温め合う、とかできるし?」
「あ、あ、綾ちゃん!?」
「あ、でも夜まで人が来なかったら身体が冷え切るし、できるか。体育館倉庫でも」
「も、もう!綾ちゃん!」
「あはは。みっちゃん、顔真っ赤ね。妄想したんだ?やーらし」
「ち、違うからね!」
「ま、僕はこのままでも別に構わないけど」
「え?」
「みっちゃんを独り占めしたいからね」
「ひ、独り占めって・・・」
「陸斗じゃなくて僕しか見れなくしてやりたいなぁ」
「あ、あ、綾ちゃん・・・」
「みっちゃんじゃなきゃ僕はだめなんだ」
綾ちゃんはそう言うと、私の髪に優しくキスをする。
「あ、あの?」
「みっちゃん、顔真っ赤だ」
「だ、だって!」
「今は男子モードだからね。僕が男子って意識してきた?」
キスされて以来意識しまくりだよ、正直。
「あ、綾ちゃん。近くないですか?」
綾ちゃんは私を壁に押し付け、下手したら口火が当たりそうなくらいかなり顔を近づけてきてる。
高宮くんが前したようなふざけたノリの壁ドンでは無い事くらい、私にも分かる。
「みっちゃんを動揺させたいからね。みっちゃん、こういうの好きでしょ?漫画にも描いてた」
「そ、それは・・・」
「まいったな。さっきまでみっちゃんと離れる気満々だったのにやっぱり僕には無理だ。君が欲しくて仕方ない。もう止められないや」
「あ、綾ちゃん。やっ・・・」
綾ちゃんは私の首筋に何度もキスをする。
綾ちゃんに強い力で押さえつけられているから私は抵抗出来ない。
「ますます顔が赤くなった、みっちゃん」
「あ、綾ちゃん・・・やめ・・・」
っ!?
気付いたらまた私は綾ちゃんに唇を奪われてしまっていた。
抵抗しなきゃ・・・なのに。
私の腕を強く掴む綾ちゃんに抵抗する力が出ない。
「みっちゃん・・・好き。僕を好きになって」
そう言うと、綾ちゃんは再び私にキスをする。
家族の事、私への叶わない想い、様々な事で綾ちゃんは一人思い悩んでいる。
そんな綾ちゃんにキスを拒む為に綾ちゃんを蹴ったりだとか怒って責めたりする事が私には出来なかった。
本来ならそうするものなのかもしれないけど。
だけど・・・
「みっちゃんはずるいな。普通、めちゃくちゃ怒るとこなのに・・・」
「こ、怖くて。綾ちゃんの心が壊れちゃうのが」
多分、彼が一番メンタルが弱い気がする。
姫島くんよりも、高宮くんよりも。
「ごめんね。僕はみっちゃんに甘えてる。好きでもない奴から二度もキスされるとかみっちゃんは辛いのに。僕は結局自分の欲を満たす為に・・・最低だ」
「ううん。私のが最低だよ」
今だって本当は拒むべきだったはずなのに。
私は中途半端だ。
創作研究部の皆と繋がっていたくて告白されたのに姫島くんと綾ちゃんには変わらない態度で接して無理に友達関係を強いている。
綾ちゃんがさっき言ってた。
綾ちゃんも姫島くんも恋愛の事で争うのが辛いと。
なのに
今も綾ちゃんをはっきり拒めなかった。
思わせ振りな女の子とやってる事は大差ない。
普通なら告白されて振った相手とは距離を置くものだと漫画や恋愛小説で散々学んだはずなのに。
私が一番最低だ。
部活を辞めて皆から離れるべきなのは綾ちゃんじゃなくて私だ。
私なんだ・・・。
「ごめん。みっちゃんは悪くない。僕がさっき死のうって考えたって言ったから怖くなっちゃったよね。拒んだら僕が思い詰めるんじゃないかって。みっちゃんは優しいから。それを分かっててあんなキス・・・僕はひどいな。みっちゃんに無理やり好きになってもらおうとしても意味無いのに」
「綾ちゃん・・・」
「欲しい物を手に入れる為でもしていい事としちゃだめな事があるよね」
胸が強く痛む。
私の優しさは誰かの為じゃなくて結局自分が可愛いから。
部活を残して皆とずっと一緒にいたいから、綾ちゃんを傷つけるのが怖いから。
でも
その優しさは人を傷つける残酷さがある。
今、分かった。
私はどうすべきなんだろう。
綾ちゃんは暗い雰囲気を変えるかのように雑談を始めた。
今迄のコミケの体験談、今ハマってる漫画の話、中学時代の高宮くん達の話。
「あら、花火の音が聞こえるわね」
花火の音が聞こえ始めると、後夜祭の時間になっていると私は気付いた。
そういえば、高宮くんに後夜祭誘われてたな。
だけど
もうだめだなぁ。
誰も気付いてくれなかったらどうしよう。
「みっちゃん、大丈夫よ。陸斗やユイユイがあたし達をほっといて帰るはずないわ」
綾ちゃんは私の手を握り、言う。
「うん、ありがと」
そうだよね。
でも
高宮くんは今頃舞香さんと・・・
私が別の不安を抱えた時だった。
突然勢い良く体育館倉庫の扉が開かれた。
「全く。世話のかかるガキどもだ」
「お、鬼島先生!?」
「姫島、高宮くん、桜木達発見だ」
「ありがとう!鬼島!」
鬼島先生の後ろから高宮くんと姫島くんが来た。
「ユイユイと陸斗まで!」
「いや、体育館倉庫の鍵だけ返されてないって鬼島が言っててよ。体育館倉庫の鍵借りた女子達に問い詰めたら桜木がいるって聞いて。まさか綾斗までいたとはな」
「俺の記憶力に感謝するんだな」
鬼島先生はドヤ顔で言う。
「ありがとう、鬼ちゃん!」
「あ?俺を鬼ちゃんと呼ぶな!菅田将暉とは似てもにつかわないぞ!俺のがイケメンだ!」
「もう!鬼ちゃんったら!」
やっぱり鬼島先生って良い先生なんだな。
顧問になる前は怖くて冷たい人だと思ってたからなんか申し訳なくなる。
「つーか、女子達って本当うざいな。桜木にひどい事ばっかしやがる。一度殴りたいくらいだわ」
「だめよ、ユイユイ!それはユイユイが悪者扱いされちゃうから」
「ちっ・・・」
「ご、ごめんなさい!私のせいで。綾ちゃん巻き込んだし、姫島くん達に心配かけた・・・」
「桜木は悪くねぇだろ!な、陸斗?」
「うん。桜木は被害者」
私、皆に迷惑かけてばっかりだな。
「女の嫉妬は恐ろしい。だから女は嫌いだ」
「鬼ちゃん、教師がそれ言っちゃだめよ」
「まあ、男子も面倒くさいか。お前ら見てるとよく分かる」
「え・・・」
鬼島先生・・・?
「俺は行く。じゃあな」
「あ、ありがとうございました!」
私は深々とお辞儀をして言う。
「桜木、悩みがあればいつでも聞いてやってもいい。俺は桜木は嫌いじゃない」
「は、はい!」
やっぱり良い先生だ!
「鬼島をも桜木狙いか?」
「鬼島先生、危険」
「さすがのあたしも大人の色気には勝てないわ!どうしよう」
「あの、ありえないからね?」
変な勘違いをする三人に私は言う。
だけど
「桜木、LINEしたのに返事ないから心配した」
高宮くんが話題を変えて来た。
「えっ?」
私は携帯を見る。
圏外じゃなくなってる!
LINEを見ると、高宮くんから4件LINEが来ていた。
(桜木、どこにいる?さっきは舞香がすまなかった。今、教室で休んでる。会えないか?)
(後夜祭始まったからキャンプファイヤーの前にいる。待ってる。桜木と話したい事がある)
(どうした?何かあったのか?心配だ)
(桜木、ごめん。今日、会って話したい事があるんだ。後夜祭終わってからでも良いから会えないか?)
高宮くん・・・
「ごめん。行くつもりだったんだけど・・・」
「良いんだ。仕方ないよな。桜木、大変だったし」
「話なら聞くよ?高宮くん」
「いや。桜木、疲れてるだろうし、早く休め」
「大丈夫?」
「大した話じゃないし」
え・・・
「高宮くん・・・」
何の話だったんだろ?
「さ、帰るわよ」
「あーあ、後夜祭出たかったな。桜木とフォークダンスしたかったぜ」
「それはあたしの台詞」
「綾斗は桜木とずっと一緒にいたから良いじゃんよ。良いよな、体育館倉庫に二人っきりとか。まさか何かしたんじゃないだろうな?」
「さあね」
「あ?綾斗てめぇ・・・」
「結斗、綾斗、ケンカだめ。すぐケンカするの良くない」
「陸斗、てめぇは黙ってろ。逃げてる癖に」
「逃げてない!俺は今日ちゃんと・・・」
「本当腹立つわ、陸斗。ずりぃんだよ」
「結斗、どういう意味だ?」
「もう!陸斗とユイユイまでケンカしてどうすんのよ」
「はぁ。最近、陸斗も綾斗もムカつくわ」
「自分が上手く行ってないからってあたしらに八つ当たりしないでよ」
「全くだ」
また・・・だ。
「創作研究部続けるの難しいのかしらね、やっぱり」
綾ちゃんは切ない表情で言う。
綾ちゃん・・・
「もうやめようよ!ケンカは!」
「桜木・・・」
「悪かった。桜木、困らせたな」
「みっちゃん、ごめんなさい」
「だ、大丈夫!」
やっぱりまたケンカになっちゃうんだな。
どうしたら良いんだろ。
綾ちゃんの事、やっぱり二人には伝えたい。
でも
綾ちゃんには黙っといてって言われたし。
ちゃんと考えなきゃ。
「おはよう、蜜葉ちゃん!大変だったんだって?体育館倉庫に閉じこめられて」
「う、うん。綾ちゃんがいたから良かったよ」
学校は月曜日が振替休日だった為、火曜日からだった。
私は優里香ちゃんと昇降口で会い、話をしながら教室に向かう。
「本当最悪だね、あいつら」
「でも、姫島くんが怒ったみたいだし、もう大丈夫じゃないかな?」
「だと良いけど・・・」
ん?
教室に入ると、やたらとざわざわしていた。
「高宮の奴、宮内さん振ったらしいよ」
「マジ!?ありえねぇ!あんな可愛い子振るとか!」
「なんかさ、好きな子がいるって断ったらしい」
え・・・?
高宮くんの噂で盛り上がってるようだ。
高宮くんに好きな人?
「蜜葉ちゃん・・・」
「そっか。好きな人いるんだ。なら、やっぱり諦めなきゃね」
「えっ?多分高宮くんの好きな人って・・・」
私なわけがないよ。
もしかしたら舞香さんかな。
「お、高宮来た!なぁなぁ、好きな奴いるってマジ?」
えっ!
高宮くんが来ると、男子の一人が高宮くんに聞く。
だけど
「君に答える必要ある?」
高宮くんは冷たい口調で言う。
めちゃくちゃ機嫌悪いな。
「お、おはよう。高宮くん」
私は高宮くんに挨拶する。
「おはよう、桜木」
私が挨拶すると、高宮くんの表情が柔らかくなる。
「好きな人いるの知らなかった。びっくりしちゃった!」
「桜木、あのさ・・・」
「お、応援するよ!高宮くんの恋」
「え・・・」
嘘をついた。
だけど
私の気持ちは高宮くんに迷惑だから知られないようにしたかった。
「桜木は俺に彼女が出来ても良いのか?」
「うん。友達として嬉しいよ」
辛いけど、仕方ないんだよね。
「そうか・・・」
「高宮くん?」
「みっちゃん、おはよう!」
綾ちゃんが私に挨拶する。
「おはよう、綾ちゃん」
「ねぇ、みっちゃん。今日の放課後、カフェで話できない?こないだの話したいの」
「あ、うん。大丈夫だよ!」
家族の事かな。
「綾斗、何の話だ?」
「陸斗には関係ないみっちゃんと二人だけのガールズトークよ」
「二人だけ?」
「あ、えっと!漫画の事とか色々綾ちゃんに相談したくって。綾ちゃん、頼りになるから」
「え・・・」
高宮くんに言いたいけど、綾ちゃんには口止めされてるからな。
「桜木は綾斗が・・・」
「高宮くん?」
「占いで出た運命の相手、綾斗かもしれないな。桜木」
「え?」
「陸斗?」
「俺、図書館行くわ」
一瞬、高宮くんの顔が悲しげに見えた。
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