第20話 蜜葉の決心。


高宮くんに綾ちゃんとキスしているのを見られてしまった。


「ごめんね、みっちゃん・・・」


「綾ちゃん、ごめんなさい。私は綾ちゃんの気持ちには応えられない」


「分かってるよ。でも、伝えたかった。結斗だけじゃない、僕もみっちゃんがめちゃくちゃ好きだって分かって欲しくて」


「綾ちゃん・・・」


「これから僕も本気出して行くからね」


胸がズキズキと痛む。


私が気にしているのは高宮くんの事。


高宮くんはどう思ったのかな、とか・・・考える私は最低だ。


綾ちゃんが気持ちを伝えてくれたのに。


「みっちゃん、おやすみ」


「お、おやすみ・・・」


綾ちゃんは先にテントへ戻った。


まだ、唇に感触が残ってる。


「どうしたら良いの・・・」


姫島くんだけでなく、綾ちゃんからも告白されてしまった。


「眠れないよ・・・」


こんな気持ちで高宮くんに告白なんてできるのかな。



「蜜葉ちゃん!?ひどいクマだよ!?」


翌朝になると、私の顔を見て優里香ちゃんが驚いた。


「優里香ちゃん・・・」


「大丈夫?」


「あのね・・・」


私は優里香ちゃんに全てを話した。



「そっか。綾斗が・・・」


「高宮くんに告白できるのかな、私」


「それとこれとは話が別だよ」


「でも・・・」


「蜜葉ちゃんが好きなのは高宮くん。昨日、2人良い感じだったよ?あたしはいけると思うけどなぁ」


「そうだよね。頭、切り替えなきゃだよね」


「そうそう!」


だけど


「た、高宮くん!おはよう・・・」


「あ、ああ。おはよう」


私がテントを出て高宮くんに挨拶をすると、高宮くんは私の目を見ずに返した。


高宮くん・・・?


「桜木おはよう!」


「みっちゃん、おっはよう!」


姫島くんと綾ちゃんは笑顔で私に挨拶する。


「お、おはよう」


なんか意識する。


普通にしなきゃとは思うのに。


「朝ご飯、作ったぞ」


「え?あ、ありがとう!姫島くん・・・」


ありがたいなぁ。


「スクランブルエッグにソーセージにサラダ!美味しそー!」


テーブルに並べられた朝食を見て綾ちゃんは瞳を輝かせる。


だけど


「なんかよ、今日の陸斗機嫌悪くね?」


「別に普通だろ」


「今日全然喋らねぇじゃん」


「そういう日もある」


「何よ?陸斗。合宿なんだから楽しまなくちゃ!」


だけど


高宮くんは無言。


高宮くん、大丈夫かな。


昨日の事、ちゃんと話したいけど難しそうだ。


「高宮陸斗、飛び込み勝負しないか?川遊びの鉄板だぞ!」


「桜小路くん・・・ごめん。気が乗らない」


「高宮陸斗ぉ!?」


「桜小路!空気読みなさいよ!」


「痛っ!殴るな!」


こんな状況で告白なんて出来ないよ。


「ねぇ、陸斗!一緒に釣りしましょ」


朝食を食べ終えると、綾ちゃんは高宮くんを釣りに誘った。


「何で?」


「楽しいから!」


「お、良いじゃん。綾斗」


「でしょ?ユイユイ。つかみ取りはできる人が限られるからね。釣りのがやりやすいわ」


「俺はいいよ。来月、声優オーディション受けっからその練習しときたい」


「昼飯の準備、俺らに任せる気かよ?」


「そんなにたくさん魚いらない。桜小路くん誘ったら良い」


高宮くんは冷たく言い放ち、その場から立ち去ろうとする。


だけど


「何?あたしを避けてるわけ?陸斗」


「綾斗?陸斗となんかあったのか?」


「あたし、みっちゃんに告白したの。キスもしちゃった」


綾ちゃんが言うと、姫島くんは持っていた釣り道具を落とす。


「綾斗、てめぇ!」


姫島くんは綾ちゃんの胸倉を掴む。


「みっちゃんには悪いと思ってる。でも、僕は気持ちを抑えられなかった」


「何してくれてんだ、てめぇ!」


「ひ、姫島くん!!」


「ユイユイが告ったって聞いて焦ってた。友達に遠慮なんて出来ない。僕もみっちゃんに気持ちを伝えたくなったんだ」


「何で・・・何で・・・綾斗まで・・・」


「仕方ないじゃない。同じ人を好きになっちゃったんだもん」


「1発殴らせろ」


「え?」


姫島くんはいきなり綾ちゃんを殴った。


「姫島くん!!」


「何でなんだよ・・・何で同じ奴を・・・」


姫島くんはその場にしゃがみ込み、声を荒らげる。


っ・・・


「結斗・・・」


「部活は楽しかった。でも、今は部活行く度にお前らに嫉妬ばっかして嫌になる、自分が」


「それは僕も同じだよ、ユイユイ」


私がいけないんだ。


皆は私と出会うまではとにかくいつも一緒で親友同士で。


でも、最近はこじれていってる。


私は・・・


「悪い。頭冷やしてくるわ」


姫島くんはその場を立ち去った。


私はこの時、以前鬼島先生に言われた事を思い出した。


『男女間の友情は脆いものだ。恋愛は時に人間関係をも破壊する』


『鬼島先生・・・?』


『桜木、お前は誰かを傷つける覚悟で恋愛をしているか?』


鬼島先生は察していたのかもしれない、こうなる事を。


もし、私が高宮くんに告白したら・・・?


余計に皆の関係がこじれて部活が無くなる危険性が高くなる。


今ですらアンバランスなんだもん。


私・・・


「蜜葉ちゃん?」


勝手かもしれない。


でも、壊したくない。


この関係性を。


「結局、俺と冴島で釣りまくったな」


「ごめんね、桜小路くん。私、釣れなかった」


「桜木さんを責めてはいないさ!全く、橘達は何ぼんやりしてんだか」


「桜小路は呑気で良いわね」


「あ?冴島?」


創作研究部の男子達はあれからずっと話さないまま。


お昼ご飯は川で釣った魚とご飯とポトフ。


昼食の準備は皆で行った。


桜小路くんは気を使ってか私や優里香ちゃんにたくさん話しかてきた。


「もう秋になるのだな。学園祭まであっという間だ」


「演劇部は何やるの?」


「白雪姫だよ!私は小人役で桜小路は悪い魔女役」


「桜小路くん、まさかの女性役?」


「王子でありたかった!」


よし。


「楽しみだね!高宮くん」


「え?」


「え、演劇部の舞台!」


「そうだな・・・」


やっぱり高宮くん元気無いなぁ。


「あ、女装なら綾ちゃんに聞いたら良いんじゃないかな?ね、綾ちゃん!」


「え?ああ、うん。そうね・・・」


やっぱり綾ちゃんも様子がおかしい。


「そうだ、姫島くん!琴莉ちゃんって学園祭来るの?」


「え?さ、さぁ・・・」


創作研究部の皆はまだ様子がおかしい。


だけど


「いい加減にしないか!」


桜小路くんがいきなり机を叩き、声を荒らげて言う。


さ、桜小路くん!?


「桜木さんを困らせて!何で喧嘩してるかよく分からないが、もっと笑えないのか!?女の子を困らせる男は王子失格だぞ、貴様ら!」


「みゃーちゃん・・・」


「桜小路・・・」


「桜小路くん・・・」


「そうそう!蜜葉ちゃんに嫌われちゃうよー?あんた達」


優里香ちゃんは笑いながら言う。


「そうだよな・・・」


「結斗、陸斗、忘れよう。今は合宿中なんだし」


「頭、切り替える」


良かった。


「良かった。あの、部活、無くなったりする事は無い・・・よね?」


私は恐る恐る聞く。


「当たり前よ、みっちゃん」


綾ちゃんは笑顔で返した。


だけど、やっぱり怖かった。


もう決めた、私。



昼食を食べると、皆で川で遊ぶ事に。


私と優里香ちゃんも今日ついに水着に。


「うぉぉ!可愛すぎか、桜木!」


「みっちゃん超可愛い!」


私が水着になると、姫島くんと綾ちゃんが褒めてくれた。


白いフリルのビキニにしたんだよね。


「に、似合うな」


高宮くんも褒めてくれた。


だけど


私の目を見て言わなかった。


高宮くんだけ本調子じゃないままだ。


「へぇ。冴島にしては可愛いな」


「なっ!?す、素直に可愛いって言いなさいよ!」


優里香ちゃんは桜小路くんに褒められると、照れてるのか思いっきり桜小路くんの背中を叩く。


優里香ちゃんは黒い谷間を強調したビキニ。


攻めてる!!


「よし、こっから飛び込むぞ」


「待て、姫島結斗!マジでやるのか!?」


「ほら、行け!桜小路!」


「一番ノリとか聞いてないぞぉぉ!!」


姫島くんに突き落とされた桜小路くんは川に飛び込む。


「見て!蜜葉ちゃん、蟹!小さくて可愛いよ!」


「わあ、本当だぁ!」


男子達は競争したり、いつものテンションで遊んでいる。


高宮くん以外は。


「ちょっと休んでくる。陽射しにやられた」


高宮くんはテントへ戻ってしまった。


大丈夫かな。


体調、悪いのかな。


でも


私はもう・・・


「あの、優里香ちゃん。ちょっと良いかな?」


「ん?」


私は優里香ちゃんと2人と話すべく、皆から離れた場所まで歩く。


「蜜葉ちゃん、どうしたの?」


「あのね、私・・・」


「ん?」


「高宮くんに告白するのやめる・・・」


「え?」


「だって、怖いんだ。部活が無くなるのが。私まで気持ちを伝えたら余計関係がこじれて部活が無くなる危険性が高まる」


「蜜葉ちゃん、そんなのだめだよ。我慢したら辛くなるだけだよ?」


「私、この部活好きなの!皆が大好き。だから壊したくない。嫌だよ・・・」


「でも・・・」


「その内、高宮くんの事も好きじゃなくなるかもしれない。今だけ我慢すれば良いんだ」


「あたしは蜜葉ちゃんに幸せになって欲しいよ!」


「ありがとう。でも、私は本当にこの場所を失いたくないの。綾ちゃんもそう言ってた。居場所だって。壊しちゃだめなんだよ・・・。」


「蜜葉ちゃん・・・」


決めたんだ。


私は高宮くんを諦める・・・。


高宮くんが元気無いまま、二泊目も終了した。


シナリオ会議をして、バーベキューをして、今日は花火もせずに眠った。


綾ちゃんと姫島くんは桜小路くんに言われた事を気にしてか、普通に戻っていた。


そして、眠れないまま私は朝を迎えた。


翌日は朝ご飯を食べると、皆で帰宅。


夏の終わりは私が片思いを終える瞬間。


秋が来れば、学園祭だ。


私は胸を痛めながらも、これからは漫画執筆と部活動に集中すると決め、残りの夏休みを迎えた。






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