第21話 ミサンガ


今日から新学期。


夏休みは色々な事があったからまだ頭が混乱している。


高宮くんを諦めるって決めた。


だけど


そんな簡単な事じゃない気がする。


「みっちゃん、おはよう!」


「あ、綾ちゃん!おはよう」


「今日から新学期だね」


「う、うん」


学校に向かう途中、綾ちゃんに出会った。


やっぱりまだ意識しちゃうなぁ。


「そういえば、今日なんだよね?大賞の結果が編集部から来るの」


「うん。そうだよ」


私が憂鬱なのは高宮くんの事だけではない。


夏に出した少女漫画大賞の結果が今日、担当さんから発表されるのだ。


昼休みなら電話に出られるって伝えた。


だからかかってくるのは昼休みだ。


「おはよう、蜜葉ちゃん」


「優里香ちゃん、おはよう!」


教室に着くと、私は優里香ちゃんと話し始める。


だけど


漫画大賞の結果が分かる今日はずっと胃がキリキリする。


「おはよう、陸斗!」


「おはよ、綾斗」


高宮くん!


「お、おはよう!高宮くん」


「あ、ああ。おはよう、桜木」


やっぱり諦めるなんて無理なのかな。


高宮くん見ただけでドキッとするんだもん。


「蜜葉ちゃん、辛いなら諦めるのやめても良いんだよ?」


「良いの。私、皆とずっと一緒に部活してたい。関係、壊したくないから」


「蜜葉ちゃん・・・」


決めたんだもん。


ちゃんと皆でいる為に私は・・・自分の恋を諦める。


昼休みになると、私は携帯を机の上に置き、連絡を待つ。


私の机の周りには創作研究部の皆と優里香ちゃんも緊張した表情で立っていた。


お願い!!


「来た!」


携帯が突然鳴り、私は慌てて電話に出る。


「お疲れ様です。桜木です!」


『あ、桜木さん。お疲れ様です。大賞の結果をお伝えします』


「お願いします・・・」


『桜木さんのいいから、私を好きになりなさい!は・・・』


「は、はい・・・」


『ーーー大賞とりました』


・・・えっ?


「たい・・・しょう?」


『おめでとうございます。デビュー決定ですよ!桜木さん、いや・・・はちみつ。先生!』


デビュー・・・ついに・・・


「やったぁぁ!!」


私は思わず大声を上げてしまった。


わっ!


皆見てる!恥ずかしい!


『今月の20日発売の号に書評と漫画が掲載されますので』


「えっ!私の漫画、雑誌に載るんですか!?」


『ええ、大賞ですから。商品は発送致しますね。賞金は口座に振り込ませて頂きます。次の打ち合わせの際に口座を教えて頂けますか』


「は、はい・・・あの、商品と賞金って・・・」


『商品はペンタブレットとノートパソコンですね。賞金は・・・80万円です』


「は、は、はちじゅうまん!?」


『ええ。貴方は大賞ですからね。新人漫画家のトップをとったんですよ』


「私が・・・」


『今度、お祝いしましょう。では、また来週。打ち合わせお願いします』


「は、はい!ありがとうございました!」


私は電話を切った。


私が漫画家デビュー・・・。


夢じゃないんだ!!


「みっちゃん、おめでとう!!」


「桜木、大賞だって!?すげぇじゃん!」


「やったな、桜木!」


「蜜葉ちゃん、すごいよ!おめでとう!!」


「みんな、ありがとう!!本当に夢みたいだよ・・・」


私は嬉しくて涙を流す。


すると


優里香ちゃんが私を優しく抱きしめてくれた。


「私の漫画、雑誌に載るんだ・・・」


「桜木、ずっと頑張ってたから。本当に良かった。夢が叶ったな」


高宮くんは優しく笑って言う。


高宮くん・・・


「うん。ありがとう、高宮くん」


「俺も頑張らないとな。土曜日のオーディション」


「えっ?高宮くんはオーディションを?」


「うん。桜木に負けてられない。俺も夢、叶えたいから」


そっか・・・


「今日は皆でお祝いね!みっちゃん!」


「桜木、寿司行こう!寿司!」


「えー?お祝いなら焼肉でしょ、ユイユイ」


「桜木が行きたいとこ、行こう」


「あたしも行く!桜小路も呼んで」


「皆、本当にありがとう!!」


でも、80万円かぁ。


どう使えば良いんだろ。


あまりの金額にまだ動揺している。


お母さん、聞いたらどう思うかな?


デビューの事・・・。




放課後になると、私は創作研究部の皆と優里香ちゃんと桜小路くんと焼き肉屋へ。


「個室!?」


「ここも綾斗んちが経営してるんだと」


「さすが綾斗・・・」


この焼肉屋って・・・


「よくテレビで出る高級な・・・」


「大丈夫!今日はあたしの奢りよ!」


綾ちゃんはウィンクして言う。


綾ちゃん、おぼっちゃまだ!!


「見て!蜜葉ちゃん!壺に肉が入ってる!」


「えっ!めちゃくちゃ長い!!」


「はさみでカットするのよー!」


なんか本当ありがたいなぁ。


だけど


高宮くん、やっぱり今日も大人しいなぁ。


「高宮くんもちゃんとたくさん肉食べてね」


「あ、ああ」


さっきから野菜ばかりだよ、高宮くん。


「はい!高宮くんの分」


「桜木、肉盛りすぎ・・・」


「高宮くん、最近元気無いから。美味しい物、たくさん食べたら元気になるよ」


「桜木・・・」


「このサンチュって野菜に挟んで食べるのもいけるよ?」


「やってみる」


やっぱり不安あるのかな。


高宮くん、声優オーディション受けるって言ってたし。


何か私に出来る事ないかな。


お守り作るとか・・・


・・・って!


諦めるって決めたのに!私!


でも


高宮くんを諦めるのはなかなか大変そうだなぁ。


「みっちゃん!ケーキ来たよ!」


「えっ!」


店員さんがフルーツショートを持って来た。


お皿にはチョコレートでデビューおめでとうの文字が。


「綾ちゃん、ありがとう!」


「ふふっ。どういたしまして。さ、たくさん食べるわよー!」


「うん!」


デビューが決まって本当に本当に嬉しい。


でも


もやもやしているのは高宮くんの事。


私は高宮くんを諦められるのかなぁ?



「たくさん食べたわね。体重計乗るのが怖いわ!」


「だよねー!綾斗!あたしもやばいよ!」


「わ、私も・・・」


お母さんに晩御飯無しで良いって言わないと。


私達は焼き肉店を出ると、お腹をさする。


「陸斗?」


「悪い、俺はカラオケ寄ってく。アフレコの練習しなきゃいけないからここで」


「そうか。がんばれよ。またなー!」


高宮くんだけ一人でカラオケへ向かってしまった。


高宮くん・・・。


お守り渡すぐらいはやっぱりしたいな。


高宮くん、不安そうだし。


気休めにでもなれば・・・。


ミサンガ作ってみようかな?


よく運動部とか作ってるの見るし。


うん!


ミサンガ作って渡すぐらい、友達はする・・・よね?


諦めるって決めたのにだめかなぁ?


私。


「色に意味があるんだ・・・」


私は皆と別れると、スマホでミサンガについて調べる。


仕事運アップは青。


青なら男子でもつけやすい色だし、ちょうど良いかな!


私が高宮くんに出来る事はこれくらいしかないから。


私は地元の手芸屋に行き、刺繍糸を買った。


良いのが編めると良いな。


男子に手作りの物をあげるのは初めてだ。


「ただいま」


「おかえり、蜜葉」


帰宅すると、お母さんが笑顔で迎える。


そうだ、お母さんにちゃんと話さなきゃ。


デビューの話。


「あのね!お母さん!」


「ん?どうしたの?そんな怖い顔して」


「わ、私・・・少女漫画大賞で大賞とった!」


「・・・え?」


「今月出る号に私の漫画、載るんだ・・・」


「本当なの・・・?」


「う、うん。お母さんが認めたくないのは分かってる。でも、私・・・このチャンスを無駄にしたくない!自分の夢を叶えたいの!」


「蜜葉・・・」


「だから・・・」


「もう良いわ。蜜葉がよく寝ないで描いてたの、お母さん知ってるし。頑張って頑張って大賞をとったのよね?その蜜葉の頑張りを無駄にはさせたくないわ」


お母さんは柔らかい表情で言う。


「お母さん・・・」


「お父さんは反対するかもしれないけど、大丈夫よ。お母さんも説得する」


「本当に?」


「ええ。お母さんもね、夢があったのよ。結局叶わなかったけど。蜜葉には叶えて欲しいわ。応援する・・・」


「でも、本当に苦しかったらやめて良いんだからね?」


「ありがとう!お母さん・・・」


良かった。


お母さん、分かってくれた。


ずっと頑張ってきて良かった。


頑張れば見てくれる人はちゃんといるんだな。


お父さんは最初かなり怒ってたけど、お母さんの説得もあり、分かってくれた。


次は連載に向けて頑張らなきゃ。


大賞とって満足しているわけにはいかないよね。


でも、まず今日は漫画を描く前に・・・


「高宮くんのミサンガ、作らないとね」


私はお風呂から上がると、ネットで作り方を見ながらブルーの刺繍糸でミサンガを作り始めた。


自分の夢と同じくらい、高宮くんの夢が叶って欲しい。


「ミサンガさん、お願いします!」


ミサンガ作りは夜中までかかった。



「可愛いの出来たなぁ」


私は自分で作ったミサンガを見つめ、言う。


でも


高宮くん、つけてくれるかな!?


「手作りって考えてみたら重いよね」


作ったは良いけど、不安になってきた。


「高宮くんを諦めるんじゃなかったのかよ、私ー!」


でも


最近、高宮くんはあまり笑わない。


また笑顔を見たいと思うくらい良いよね?


「ミサンガあげたら諦める、ミサンガあげたら諦める!よし!」


頑張ろう、私!


「おはよう、蜜葉ちゃん!」


「あ、優里香ちゃん!おはよう!」


「えっ!クマできてるよ!?蜜葉ちゃん!」


「へ!?」


「あたし、化粧道具あるから貸すよ!漫画描いてたの?」


優里香ちゃんは私の肌にファンデーションを塗りながら言う。


「み、ミサンガ作ってたんだ」


「え?ミサンガ?」


「た、高宮くんに。オーディション受けるって言ってたから」


「蜜葉ちゃん、全然諦められそうにないね」


うっ!


「あげたら諦めるもん・・・」


「強情だなぁ。蜜葉ちゃんは」


「だって、創作研究部が壊滅したら私・・・」


「蜜葉ちゃんは心配症すぎるだけだよ。まあ、分からなくもないけどね。あたしも桜小路に告白できないのって今の関係壊したくないからだろうし」


「優里香ちゃん・・・」


「でも、伝えなきゃずっとずっと後悔しちゃうよ?」


「無理だよ・・・」


「蜜葉ちゃん!」


だけど


「桜木、おはよう」


高宮くんの声が背後から聞こえたとたん、私はドキッとする。


やっぱりドキッとしちゃうんだ。


「お、おはよう」


「そうだ、桜木。手出して」


「へ?」


私は高宮くんに言われ、両手を高宮くんの前に出す。


すると


「プレゼント」


高宮くんは私の手のひらの上に小さな紙袋を置いた。


「へ?な、何?」


「桜木、開けて」


「う、うん」


私は紙袋を開け、中身を取り出す。


「あ・・・」


中から出てきたのは大きな四つ葉のクローバーを持っているうさぎのピン留め。


「すごく可愛い・・・。」


「お祝い」


高宮くんはにっこりと笑って言う。


「あ、ありがとう!!」


わざわざ雑貨屋で選んでくれたんだろうな。


ありがたいなぁ。


すごく嬉しい。


「桜木、貸してみ」


「へ?」


「これでよし」


高宮くんは私の髪にピン留めをつけてくれた。


「あ、ありがとう・・・」


「可愛い、桜木」


だめだ・・・諦めるって決めたのに。


高宮くんはずるい。


「桜木?」


高宮くんは天然だから狙ってやったりとかはしない。


きっと女の子の友達にはこうなんだ。


勘違いなんかしちゃだめ。


「あの、高宮くん」


「ん?」


「私もプレゼントがあるんだ」


「プレゼント?」


「こ、これ!ミサンガ、編んだの。必勝祈願的なやつ!高宮くん、オーディション控えてるから」


私は高宮くんにミサンガを渡す。


「桜木が・・・」


「ブルーは仕事運アップらしいから。でも、やっぱり恥ずかしいよね。つけるの」


「つけるよ」


高宮くんは左手首にミサンガをつける。


「た、高宮くん!?」


「いける気がしてきた」


「え?」


「ありがとう、桜木。すげぇ嬉しい」


「高宮くん・・・」


「大事にするよ」


高宮くん、すごく嬉しそう。


良かった。


喜んでもらえた。


すごく嬉しい。


だけど


「陸斗、桜木、何話してたんだ?」


「あら、みっちゃん可愛いのつけてる!」


姫島くんと綾ちゃんが来た。


「陸斗、それは?」


「桜木が作ってくれた。必勝祈願ミサンガ」


「マジかよ!羨ましいな、陸斗」


「陸斗ばっかりずるいわぁ!みっちゃん、僕も欲しい!」


あ・・・


そうだよね、高宮くんにだけは不公平か。


作らなきゃだよね。


「2人にも作るよ。好きな色聞いて良い?」


「やったぜ」


「あたしピンク系ねー!」


「そっか。結斗達にも作るのか・・・」


え?


高宮くん?


高宮くんはまた暗い表情になっていた。



昨日はミサンガ作りに時間を充てたので、今日からは夜中は連載に向けた原稿を作る時間。


放課後は創作研究部の活動。


学園祭では春に作った部誌の配布とそれぞれの自分の作品の展示をする。


私はイラストを何点か展示するつもり。


部活ではイラストの制作、帰宅すると、漫画の制作という毎日が始まった。


大変ではあるけど、好きな事だから辛くはない。


だけど


今、悩ましいのは高宮くんとの関わり方について。


「どんどん好きが強くなってっちゃう」


私はピン留めを見つめ、呟く。


部活の皆の絆を守る為に自分の恋を諦める。


これは間違ってるのかな。


でも


私にとって友情も大事なわけで。


どっちもなんて無理なんだ。


無理なんだ・・・。


何かを振り払うように一週間ずっと創作活動に徹していた。


そして


あっという間に月曜日がやってきた。


「みっちゃん可愛い!ありがとう!ピンクのミサンガだ!超可愛い!」


「俺は黒か。めちゃくちゃかっこいいな。これ」


「き、気に入ってくれて良かった!」


手作りのミサンガを姫島くんと綾ちゃんに渡すと、2人は喜んでくれた。


男子皆でお揃いだし、良かったよね。


2人にも作って。


「みっちゃんは?自分のは?」


「あっ!私の忘れてた」


「もう、うっかりさん!」


「本当だな。桜木も作ってみろよ?俺が作っても良いぞ」


「本当ユイユイは女子力高いわね」


「気持ち悪い事言うな、綾斗!」


だけど


「あ、陸斗!おはよう」


綾ちゃんが高宮くんに気付き、挨拶をすると高宮くんは「ああ」と暗く返事した。


高宮くん?


「高宮くん、オーディションどうだった?」


私は高宮くんにオーディションの事を聞く。


すると


「落ちた。才能無いって言われた」


え・・・


「ひでぇな。誰だよ?審査員」


「声優だよ、審査員。ライアスに出てた人もいる。俺は顔だけ・・・だって。こんな芝居、子供のお遊戯会でも出来るって言われた」


「ひどい!高宮くんの演技は上手いのに・・・」


「そうよ!ドラマCDだって大人気だったわよ」


「桜小路くんがいたからだ」


「陸斗、らしくねぇぞ?いつもなら気にしねぇだろ。親父さんに反対されても陸斗は・・・」


「声優学校にも通ってない。だからひたすら自分で研究に研究を重ねた。寝ないでずっと練習した。でも、だめだった。お前みたいな声優、どこにでもいるってさ。モブ役で充分らしい」


「高宮くん、たまたまその審査員が良くなかっただけだよ!高宮くんはすごいよ!私は高宮くんの演技・・・」


「桜木には分からない。大賞とるぐらい漫画描く才能があるんだから」


「え・・・」


「陸斗、みっちゃんに何て事を!」


「陸斗、てめぇふざけんなよ!こんな事で自信無くすようなお前か?あ?」


「皆には分からない!」


「陸斗、あたしは陸斗を認めているわよ」


「俺もだ、陸斗。だからよ、泣き言言ってんじゃねぇよ!」


「お前らは友達だからそう言うんじゃないのか?」


「陸斗!!」


「あたし達は本気で貴方を・・・」


「ほっといてくれよ。今は1人にさせてくれ」


「高宮くん!」


高宮くんは教室を出て行った。


どうして・・・。


あんな苦しそうな高宮くんは初めて見た。


でも


今の私が励ましたところで高宮くんからしたら嫌味に聞こえるんだ。


さっきだってあんな事・・・。


「高宮くん・・・」


胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がした。







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