4-2 新生鬼 眼鏡の聖地 Sympathy ChapterⅡ "Forbidden Play"

パクリ、夢オチ、グロシーン…………



どうしてこんなことになったのか、

私にはわかりません。

これを読んだあなた。

どうか著者をチクらないでください。

それだけが私の望みです。



登場人物代表 眼噛めがみネムル












にわとりのなく頃に














新生鬼 眼鏡の聖地 Sympathy 2. ForbiddenPlay





















外伝 ~零~



平成20年、11月某日。


そろそろ肌寒くなった季節に、

一組のカップルがベンチに座っている。



疲れていたのか、女の方は男の肩に寄りかかって寝ている。


男は女を一瞥すると、空を仰ぐ。




澄み切った、蒼穹。







『取り返しの付かないことをしてしまった。今では反省している。』



序章 "My destiny,Your destiny"




通夜。


焼香を済ませようとしている、一人の男。


そのいい年をした中年の男の眼からは、大粒の雫が一滴、伝い落ちる。


遺族の少年は、その男の後姿―――その中年男の煤けた後姿を、ただじっと見ていた。




約25年前、6月。


梅雨の来るのが例年より遅かった。



私は高1。学校にもだいぶ馴染み、科学部に入った最中の頃だった。



「オスギ、頼むから許してくれ、お願いだ!」

「俺、タミーを信じてたのに……


サイアクだよ、お前。

絶交だ、絶交っっ!!!」


隣同士の幼なじみ、オスギこと荻須の、初めて出来た彼女をイジめていたことが、オスギにバレてしまった。

モテない私の、オスギへの妬みが爆発してやっていた。


あれ以来、オスギとは一切口を聞かなくなってしまった。



そのまま大学もたまたま一緒に上がってしまい、


「これでお前の顔も見れなくなると思って、せいせいしてたのによ。」

「…………っ、くっ!!


お前みたいな、アニメばっか見てる奴に、彼女なんて本来できるわけなかったんだよ!!!」


「人のこと言えるわけ?



知ってるぜ。


お前の兄ちゃん、クスリ作ってるんだって?」

「!!!!」


「お前、薬学部だったよな?」

「チゲー!! 俺は薬剤師になるという俺の……」

「嘘だ。」

「嘘じゃねぇ。」

「嘘だ。」

「嘘じゃねぇ!」



「嘘だっ!!!


知ってんだぜ、お前が金を稼ぐために………



自分の兄のクスリ売ってるってこともよぉ!!!」




あれから25年、一時期は自分で服用した時期もあった。遠い昔の話だが。


大学中退、ろくな職も就けずに、結局クスリの密売で金を稼ぐしかなかったのだ。



あいつは映画作成スタッフ、そして今やちょっとした映画評論家にまで上り詰めた。

私はそれ以上上りも、いや、下りもせず、ただ裏で売り続けてきた。



あいつは頑張った。相手はバツイチ子持ちだったが、ちゃんと結婚した。

私は、結婚願望はあったが、女に近づくことさえも億劫で、ろくに女と付き合いもしなかった。



あいつは人生を全うし続けた。彼なりの、より良い未来を描いて。

私は、時間に流されるがままに生きてきた。ひもじくとも長く生き永らえばそれでいいと思い。



何故だ。何故あいつは死んで、私は生きているんだ。




それは一昨日の晩起きた。


夜道をダンプカーが飲酒運転。


そこにオスギが通りかかり、引かれて多量の出血により即死。


運転手が発した最初の一言は、こうだ。


「取り返しの付かないことをしてしまった。今では反省している。」


ダンプカーからは、液体が入っていたような小型の注射器が2,3本。


そこからはクスリが検出されたという。



私はその注射器をテレビのニュースで見て、ハっとした。


その注射器は……兄らが独自で生産しているもの。


つまり、私が密売で取り扱っているのと同じものを、その人は使用していたのだ。



捕まった男は、その後刑務所内で自殺を図ったという。




通夜。


私、多武崖ヒロカズは、今焼香を済ませようとしていた。


そのいい年をした中年の男の眼からは、大粒の雫が一滴、伝い落ちる。

最前列で座る遺族の少年―――オスギのことをオギスと呼ぶ、オスギの血のつながっていない長男坊、赤西イツキは、


その男の後姿―――その中年男の煤けた後姿を、セレモニーホールの柔らかい光がうっすら反射しているてっぺんハゲを、ただじっと見ていた。




オスギ。


我々はお前に色々と『取り返しの付かないことをしてしまった。今では反省している。』

遅いか?


…………遅いよな。






外伝Ⅰ


お兄ちゃんは、自分のことをお兄ちゃんって呼ぶなって、よく叱る。


にーにーでもダメ。


アニキでもダメ。


だから仕方なく、私は"イッちゃん"って呼んでる。


ハヅちゃんはお姉ちゃんのことをお姉ちゃんって呼んでるのに。


変なの~、私のお兄ちゃん。



お兄ちゃんは変な行動ばかり。


私が飛びついたら飛ぶように離れちゃう。


ペンや消しゴムや糊なんかは貸してくれるのに、ハサミだけは貸してくれない。


たった今、夜中なのに女の子の名前叫んで、家を出てった。


変なの~、私のお兄ちゃん。




『知らねぇな、俺は何も覚えてねぇ、知らねぇぞ、何もっ!! おい、てめぇどうしてくれるんだよ、どう責任取ってくれんだよ、おい答えろよ、おーい!!!』


事件簿A 刹那モーメント




俺はその瞬間が、永遠に続くかのように感じた。いつでも守ってやる。何が起ころうとも。

三日月の夜空の下。


オレは生きたい。甦りたい。その行いが、誰からも野蛮に思われようとも。

三日月の夜空の下。



俺は奴を、好き勝手にさせたりはしない。この身果てようとも。

三日月の夜空の下。




(この章では、会話文を除き、ここから、俺=イツキ、私=タミーになります。)



ここに、私の密売人仲間が2人。


「どーしやすか、このままじゃアニキに顔出せやせんぜ。」

アニキとは、クスリを作っている私の兄のことだ。

「さぁ。やっぱ手を洗うしかねぇのかねぇ。」


その時、年上の側の眼つきが変わる。




俺はその日、運悪く、何だか忘れたが居残りをさせられた。

気分、害してなきゃいいけど……


俺は急いでその公園に向かった。

正直、何を言おうかなんて具体的に考えてなかった。ただ、今ひとつだけ言えること。



俺は、まだルナのことが好きだ。




「ついてこい。」

「はい? どうしやした?」

「こうなったら―――誰か誘拐して、身代金要求してやらぁ。」

「どうしやしたんですか? 顔色悪いですよ? クスリでも飲みやしたか、ねぇ!!」




さて、少し蒼穹がオレンジがかったころ。

公園まであと少し……!!!


俺は、最初の1秒間、何を見たのか把握できなかった。

向こうの方で、白い高級そうな、低速で走る車の後部座席のドアが開き、腕が伸びたかと思うと……


少女の……ルナの腕を掴み、引きずり込み、……ドアが閉まる。



頭で考えるより、身体が先に…反射的に動いた。

俺は、白い車の前に立ちふさがった……下手したらひき殺されていたかもしれない。

急ブレーキで、俺の目の前で車が止まる。

運転席から、長身の男が現れた。



その私の職仲間の年上側が運転席から出て、こう言い放ったという。

「邪魔だ小僧、どけ!」



「逃げろ、ルナ!!」

俺はとっさに叫んだ。

ルナもまた、自分のおかれている状況を把握するのに苦しんでいるようだ。

「早く!!!」

ルナは気がついたかのように後部座席のドアを勢いよく開けるや否や、一目散に走り去っていった。

あまりに一瞬の出来事に、後部座席にいた仲間は、ルナを押さえ込んでいなかったという自分のしでかした失敗に戸惑っているようだ。




「何やってるんですか!! あんた、正気ですか!!!」

後部座席に座っていた年下側が叫ぶ。



「何やってんだてめぇ!!

……おめぇもなぁ!!」

運転席から出てきた男は、俺の顔面目掛けて拳を突き出す。

「てめぇ、何もんだ!?」

「俺の……」

危なげに男の攻撃をかわしながら、何も考えず、俺はこう叫んだ。



「俺の女に手ぇ出すんじゃねぇよ!!」



「黙れ、かっこつけやがって! 目にもの見せてやる……」



「…………もうっ!!!」

年下側も小型のナイフを持って車を飛び出す。



そして男が懐から取り出したのは……拳銃だ。

モデルガンか本物かは分からない……しかし相当危ない状況だ。

気がつけば、俺の背後に、後部座席の男が立っていた。

その男が右手に持っているのは……ナイフだ。

これは相当ヤバい状況だ……


「こらぁ、何してるんだぁ!!」

助かった、ちびっこ的に言えば、お巡りさんだ。

ママチャリ(?)を猛スピードでこいで、急ブレーキ。

「君たち、何してるんだ!」

俺を挟んでいる男2人は、呆然としているのか、あきらめがついたのか、ただただ立ち尽くしていた。

英語で言うポリスマンの後から、誰かが追ってきた。ルナだ。


逃げる様子はないようだ。暫くして、呼ばれたパトカーがやってきた。

男2人は現行犯で捕まった。俺らは事情徴収として同行した。

あの拳銃はホンモノだったようだ、弾は満タン。車からは散弾銃なども見つかったとか。



「知らねぇな、俺は何も覚えてねぇ、知らねぇぞ、何もっ!! おい、てめぇどうしてくれるんだよ、どう責任取ってくれんだよ、おい答えろよ、おーい!!!」

部下を怒鳴り散らした年上側は、年下側と別々にサツに送られていった。

後日、年上側の体内から、薬物が検出された。

彼は、私の兄らのチームが作り、そして自分達が商品として持ち歩いていたクスリを服用していたそうだ。


(あ、後、テキトーに読んどいて下さいww このシーン、何でも3回目ですからwww)



「……ごめん、心配かけて。」

「何よ。連れ去られかけたのは私の方よ。


……ありがとう。」

「ん……あぁ。


……ぁ、そうだ、コレ。」

「?」

俺が差し出したのは……


「サン…グラス…?」

ルナのことだからなんか華美なものは気に食わないだろうと思っていたが……

少し地味すぎた感も……

ルナはそっと、かけた。


ぁ、まあまあ似合う。

「ありが、と…でも……何で?」

「いや、あの日の返事のついでに、一足も二足も…いや10歩ぐらい早いけど……

ホワイトデーのお返し、ってことで……」


「返事……。」

「いや、俺もホワイトデーにすればいいかと思ってたんだけど、

なんだが……煩わしいってか…


聞いて……くれる、俺の返事?」

ルナは、俺の顔を暫く見つめた後、小さくコクリとうなずいた。


「俺……中二の時…一目ぼれした、お前に。

でも、何か、あの、お前助けた時…冷たくされて……ついこの前まて…嫌いだった。


気づけなかったんだ、俺。

お前がどう思ってるとも知らずに、俺、カンペキにお前のこと突き放そうとして……

悪かった。


もう一つ気づけなかったことがあった。それは……

お前への……


お、お前のこと、大事だなんて思ってなかったら、あんな派手にお前を助けてなかっただろーよ。」

ルナの目は、だんだん見開いていった。


「そんでもって、俺は確信した。


お前への気持ち。






俺も……お前のこと、好きだ。



あの…


俺と……付き合ってくれます?」


なんか最後、丁寧語になってしまった。


刹那の沈黙……

「うん。」

ルナは大きくうなずいた。久々に、いや、初めてみた……ルナの、満面の笑み。



そして、夕暮れの道、ゆっくりと歩みを進める。


「何か、不自然だと思ってたら……」

「へ?」

ルナがキョトンとして……


ルナの目が、少し泳ぎ始めた。

俺が、唐突に、がしっと、ルナの腕を掴んだからだ。

くぅ、かわいいやつめ……



「さ……さっき、私に呼びかける時、"ルナ"って言ってたよね?」

「ぁ、あの時必死だったから、よく覚えてないや。」

「あの時……ちょっと、嬉しかった。」

「……


…これからも、ルナって呼んでいい?」

「いいよ。

じゃあ、私も、イツキって呼ぶね。


……イツキ。」

「?」

「ぁ、いや、その……呼んでみたかっただけ……」


なんか……夢心地だ。

仮にもヲタクであり、時にキモがられる俺と、決してモテるわけじゃないけど、おとなしくて美人なルナ。

まぁ雲泥の差はないけど……


何か、バチが当たってても十分なくらい……幸せだ。



「ぁ、三日月。きれい!」

「バーカ。


もっときれいだよ、お前のほうが。」



それが、私と彼らの、運命の歯車が本格的に噛み合って回り始めた本当の瞬間だったのかも知れない。





外伝Ⅱ


6月。



梅雨も半ば。


そして今日も雨。


雨の帰り路。


一つ傘の下、


2人で同じ傘に手を取り合う、


カップルが一組。




ちょうど3年前。


初めて隣の席になって数日。


彼女の消しゴムが落ちて、


お互いが拾おうとし、


お互いが消しゴムに手をかけ、


お互いが小声で発した、


「あっ。」


お互いに頬を少し赤らめて、手を引っ込めたあの"日々"。



あれから3年。


色々あった。


でも今、こうして一緒にいる。


それは奇跡なのか。


それとも運命なのか。


いずれにせよ、今2人は一緒に、笑顔で、手をとりながら、歩を進める――――――。






『うぅ……もう高2なのに…………』


事件簿B 死タナトスと恥エロス



自宅の自室にて、水島ユリヤ、"殺害"。

遺体は、白仮面が何処かに持っていってしまった。

あいつって、一体…………




「…………、え?」

誰かに頭を殴られたような、ズキズキした痛みで眼を覚ました。


「ここ…………どこ?」


見覚えのない部屋。

随分整えられている、質素な部屋。

そして、扉が開く――――。


――――谷野センパイ!?!?


「お前、何やってんだ、俺の部屋で?」

へっ?


「しかも―――――その格好で。」

へっ、へっ、へぇ~!?


視線を自分の体に落とす…………!!!! な、何じゃこりゃぁぁぁぁあああああああああああああ!!

ガバっとベッドに潜り込む――――――全身の地肌で感じる、センパイの匂い。


「………………。」

「………………。」



「(あぁ~、どうなったらこうなるよっ!!


もう、今すぐ首吊りてー!!)」

死神はユリヤを精神的に軽く"殺害"した。



「(やっぱり、デカかったなぁ♡♡)」




遊ぶ約束をしていたアイナの家とルナの家には、俺がユリヤの母親の肉体を操って、「急用が出来た」と電話で伝えておいた。

その後時間を稼ぐため、白仮面は情報操作によって、1週間、全人類の脳及び情報記憶端末から「水島ユリヤ」という存在を消し去った。白仮面曰く、一週間が限度だという。


さて、この一週間以内にアイナとルナを抹消せねばならない。

まずは、アイナ、お前だ。



俺はアイナの家に向かった。

まぁごくごく普通の一般家庭である。

アイナの部屋は、一発で分かった。……何だ、これは!?

「知らないのか、コスプレだよ、コスプレ。」

白仮面、オマエから抹消してあげようか?


アイナ―――暁の高校のマドンナさんは熟睡していた。お肌の手入れには、睡眠は欠かせないってか?

「さて、どう殺っちまうか……」

「Mrk.3?」

「どうした、白仮面?」

「君は、確か、かなりの腕前のスナイパーだったよね?」

「あぁ、生前はな。」

「じゃあ、君は、敵に唐突な致命傷を与える殺し方しか、知らないわけだ?」

「どいういうことだ?」

「人がさ、長時間苦しみ、足掻きながら死んでいく殺し方って、結構カイカンだと思わない?」

「おい、この小説、だんだんグロくなったりエロくなったりしてない?

まぁいいや……でも嫌いじゃないぜ、毒物でじわりじわりってやつ?」


白仮面は、ニヤリと(口しか動かないが)笑った。

「でも幽霊は毒物は使えない―――そう思っただろ?」

「まさか―――幽霊の世界にも毒物があるのか!?」

「ジャンジャジャーン!!!」

錠剤の怪しーい薬物、登場。


(「ストップ、薬物乱用。」by 筆者)


「これを口の中に、ポイっと、コレでいいのか?」

「あぁ、さぁ、次、行くぞ。」

「おい!? 『長時間苦しみ、足掻きながら死んでいく』サマを見るのがカイカンとか言ってなかったっけ、自分、え!?」


「そんなこと、言った覚え、一言もないなぁ~♪」




(翌朝) 「ママぁ~!!」

「どうしたの、アイナ?」

「頭痛いの~!」

(忘れてる人も多かったでしょう、何せ筆者も当の今まで忘れてたんですから。アイナは、超ブリっ娘なのです☆)

「はいはい、ぁ、アイナ、今日遊ぶ約束、あったんじゃないの?」

「あ、うん、伝えといて~。」

「はいはい。」


(この時、母親は、「今日遊ぶのがただダルイだけで、どうせ仮病でしょうね~、全く、困った娘なんだから。」とぐらいにしか思っていなかった。

母親が、事の重大さを知るのは、ちょうどルナが殺された時だったという…………)


「頭が痛い」と言って、"ママ"(← いや、別に義理の母とかいう意味じゃないからww)を欺いたアイナだが、現状は違った。


「嘘でしょ、嘘でしょ、絶対嘘、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘…………」

さっきから「嘘」とずっと囁いて連呼していた。


そして暫くして、決心が付いたように、恐る恐るパジャマのズボンを下ろす…………


「むぎゅううううぅぅぅぅぅぅぅ~~~!!!!」

呼んで字の如く、悪臭。


劇薬≠"怪しーい薬物"=超高濃縮便秘薬だった…………



余談だが、結局、「学校中のアイドル」は、母親をごまかし切れなかったという。




<「うぅ……もう高2なのに…………」






外伝Ⅲ



俺の兄は、ヅラ女の姉と付き合ってる。


かれこれ2年になるだろうか。


俺とヅラ女とはこれといって仲は良くない。


ヅラ女はバカなほどノッポなバレー部レギュラー。


俺は正真正銘のバカ、ゲーセン通いの帰宅部。


俺とヅラ女は全くもって接点がない。


特に意識もしていない。


でもあの2人はラブラブだ。



何が不満なのか?


兄は、ラブラブな生活の何処に不満を感じているのか?


兄の忘れていったケータイに、別の女から何10通ものメールが届く。



大泉たちは今、病院に行っている。見舞いとか行ってたな。


ヅラ女も行くそうだ。


…………。







『愛は自由なの、逮捕なんて出来るわけないじゃないっ!!!』


事件簿C 黄薔薇ジェラシー




自宅・自室で何者かにナイフで刺され、病院に運ばれた女子高生。


幸い一命を取り留めた。



集中治療室前で気を失っていた少年。


彼も暫くして、眼を覚まし、彼女が意識を取り戻すのを、友達と共に、ずっと待っていた。



「ん、んん………?」


「ルナ!」


「イツ……キ…。」



「『ルナちゃん!』」


「ユリ…ヤ…ちゃん、アイナ……ちゃん。」

彼女らの命もまた、死神が見逃したのだ。


「月宮さん。」


「やっくん……。」



続いて駆け込んだ二人の少女。


五十嵐テルミと……背丈の高い色白の女子。


「テルミ、ハヅちゃん!」

この背丈の高い女子の名前は、桂木ハヅキ。


「おぉ、ヅラ、お前も来てたんやな!」

「かーつーらーぎーでーすー!!」

後を追って駆け込んだこの男、南野リョウマ、と、少し遅れて大泉キョウ。

「おいおい、君ら、こんなに騒がしくしたら、お二人の貴重な時間が無くなっちゃうぞ?」

「はいはい、そーでした。」


やっくん、ユリヤ、お前ら、そんな性格だったっけ?

「『じゃあ後は、若いお二人で~♪』」と言うが早いが、病室を出て行った。


「…………。」

「…………。」

「私たち……生きてるんだよね?」

「あぁ、ルナ。」

「イツキ……」


「ルナ……」


「……イツキぃ!」


「……ルナぁ!」


「うぃ~っすぅ、♪ WAWAWAWAっWA、わっす~れもっの、……うわっ!?」

キョウ、いや、見えてんだぜ、ドアの隙間に、10個の眼が。


「スマン……」


「『ごゆっくりぃ!!!』」



「『む、むむ、むが―――――っっ!!!!』」


「あんらぁ~、タミーのオッサン、まだ生きてらしたの?」

「私はまだ健在だ、えっとぉ、あんたはぁ……」


「ヤヨイよ。

桂木ヤヨイ。常連客の名前くらいちゃんと覚えなきゃ。」

「すまないね。もうボケが回ってるみたいで。


で、今夜は何の用だい?」


「単刀直入に言うとねぇ。


飲んだら即死しちゃいそうな毒薬ってないわけぇ?」



「……自殺か? 私はそういう人を何人も見てきたがね、あんたはまだ死ぬには――――」

「違うわよ。」


「違うって、まさか……。


……サツが来ても、私を恨むなよ。」

「私はこう見えても、自分の行為には責任を持てるタイプなの。


そんで、あるわけ? 料理に混ぜて食べたら、即死出来そうなヤツ。」



こうして女はクスリを購入すると、そそくさと去っていった。


立ち代りに、少年―――キャップ帽を被った少年が一人。


「お前かい、違法のクスリを取り扱っているっつーおっさんは。」


帽子を深く被っているため、その帽子のつ・ば・で眼元は見えなかった。

ただその闇の奥から、怪しくギラリと光る眼鏡に、私はある種の興味を持った…

…いや、語弊がないように言うなら、その謎めいた風貌、そしてこの出会いに、違和感を覚えたのだ。


「○○ちゃ~ん♡ またね~♡♡」

「うん、ユウちゃん、バイバ~い♡」


ピンポ~ン。

「あ、ユウくん~、遅いよ~!」

「ゴメンゴメン!」


彼はアタシのカレシ、ユウくん。同級生で、アタシの妹、ハヅキと、彼の弟、ショウタくんも同級生。


ぁ、アタシ? アタシはヤヨイ。桂木ヤヨイよ。今は一人暮らし。

今日はユウくんがアタシのカレーを食べに来てくれたの。


「ユウくん、今よそって来るからちょっと待ってね♡」

「うん♡」


こんなラブラブな生活が楽しい。―――


―――楽しかった。

終止符が打たれるなんて嫌だった。

でもこの瞬間、その生活に終止符が打たれることになる。


……自分で、終止符を打たなければならない。



「はぁ~い、お待たせぇ~♡」

「アリガト~♡


いっただっきま~す!」


…………。

「ねぇ、ユウくん?」

「ん?」


「ユウくんさぁ、浮気してるでしょ?」



「ごほ、ごほ、ごほっごほっ!!」

「ねぇ、浮気してるんでしょ、答えてよ!?」

「ごほっ、ごほっ、お゛ぉ゛ぉぇえええ゛え゛え゛!!!」

「アタシ、知ってるんだよ、アンタが他の女と毎晩電話してるの。」

ぼと。

「この前なんか、年下の女の子を部屋に連れ込んでたもんねぇ~。」

ぺちゃ。

「え、何で知ってるかって?

そりゃ、アンタの部屋に盗聴器まで付けたんだからわかっちゃうわよ。」

べちゃ、べちゃ。

「あはっ、浮気してるんでしょ、あはは!!」

ぺちゃ、べちゃ、べちゃべちゃべちゃ。

「あはははは、やっぱり浮気してたんだぁ~!!


バーカ。


あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」



毒の盛られたカレーの皿から溢れ、フローリングの床にこぼれ落ちて広がる、どす黒い紅くれないの血だまり。




ユウタが最期に見た景色は、部屋の隅の小さな三角型机の机上の花瓶に生けられた、1輪の黄色い薔薇だった。


日付が変わって……夕方の公園。


「アンタ、ユウくんの浮気相手?」

「ユウくん?


あぁ、ユウちゃんのことね。」

「邪魔なんだけど、いい加減ユウくんと別れてくんない?」

「いやと言ったら?」

「……っく、っくく、ふ、はは、


ふははははははっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

「何よ……何がそんなに面白いのよ………!!!」


さっきからヤヨイが不自然に持っていたスーツケースから……紅い雫が垂れて、水溜り―――血溜りが出来ている。


「うそ……で、しょ?」

スーツケースをヤヨイが開ける―――――


「アンタにも見えるだろ?

こん中に入ってるよ―――アンタのユウちゃん。」


「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」

「さぁ、アンタも死になさいよ?」


バタフライナイフを取り出し、構え、そして走り出すヤヨイ――――



そこに、背後から警官が2人掛かりで、ヤヨイの両腕の自由を奪おうとする。

さらにもう一人の警官が手錠を持っている。


「警察だっ!! 殺人未遂の現行犯と、谷野ユウタ殺人の容疑で逮捕する!!!」

「さぁ、おとなしく観念することね!!」


「これは新しい愛のカタチよ、そう……


愛は自由なの、逮捕なんて出来るわけないじゃないっ!!!」


ヤヨイは警官の手から逃れると、バタフライナイフを振り回して威嚇、逃走。


「待てぇ――!!」

「逃がすかぁ――、追え―――!!!」



…………。


倉庫裏に隠れて、何とか巻いたヤヨイ。

しかし、その一度芽生えた殺意は容易には治まらず、息は荒れ狂い、体もフラフラしていた。



「君が、タミーから毒薬を購入した女かい?」

「タミー? あぁ、あのオッサンか。


アンタ、誰?」

「お初にお目にかかります。


俺の名は眼噛めがみネムル。お前の妹と同級生だ。」

「眼噛ネムル? 変な名前。


お願いだから、アタシの邪魔をしないで頂戴。」

キャップ帽を深く被り直し、その少年は言い放った。

「いやだね。俺は――――


お前を殺したい。」

「はぁ? あんた、頭イかれてるんじゃない?」

「あぁ、当の昔にイかれてるかもしれない。」


「邪魔。

死になさいよ。」

バタフライナイフを高々と振り上げ―――――



―――いない。

「えっ?」


手元を見ると、ゴム手袋をはめた男の手が、ナイフを持つ自分の手に添えられている。

背後から、耳元に囁く声。

「俺は少しばかり非常識な男でね、お前がどう足掻いたって、無駄なんだよ、無~駄。」


そして視界に赤色が広がる―――――



2008年8月某日。


恋人を毒薬で殺した女が、逃走後、自分のナイフで"自殺を図った"。




外伝Ⅳ




「ごめんね、心配かけて。」


「何言ってんだよ!! あのMrk.3が悪いんだろ? お前は全然悪くねーよ。」


「そうだね。」




「………楽しみにしてたのにな。」


「?」


「お前と夏休み過ごすの。」


「うん……




来年は受験勉強で忙しいもんね。」


「…………。」


「…………。」


………………。




「高校卒業したらさ、」


「何だ?」


「一緒に……海、行こうね。」


「あぁ、




約束だ。」


「じゃあ、」




ルナは小指を突き出す。


イツキの小指が、それにしっかりと絡み合う。


「♪ 指きりげんまん、嘘ついたら……」


「嘘ついたら…?」




「イツキの部屋にいれても~らう、指きった!!」


「何だよ、それ……」


「イツキの部屋に入って、あんなものやこんなものを……」


「んぐ…………」







『見た―――見たんです、彼の持っていた木刀に、稲妻が走っていたのを。』


事件簿D 馳走ディナー





キャップ帽を被り、夏場なのに手袋をはめた少年が一人。


少年はその時も飢えていた。



そこは"アンダーグラウンド"。どういう状況かは……自分で察しなさい。


「あ゛ぁ゛ん!? 仲間に入れてほしいだぁ~!?」

「はい。えらくマジです。


その気になれば、いくらでも積みますよ、金。」

「チゲーんだよ。カネは別にイラネーんだよ。


お前が本気で人を殺せるのかが知りテーんだよ。」


「人殺しできるかって?

そりゃ人が殺したいからここに来たんだよ。」


「じゃあコイツ殺してみろよ。」

テープやらロープやら鎖やらで縛られた女が一人差し出された。

「…………。」

「あ゛ぁ゛ん!? 何とか言ってみんか、ゴルァ、んえ゛?」


「俺はそんなつまらない人間を斬りに来たんじゃねぇよ。」

「はぁ? 何? 言い逃れかよ、おい!」

「まぁ待て。」

ボスと思われる奴が姿を見せた。

「私が相手だ。」

「ボス?」

「おぉ、上等じゃねぇか。わざわざボス様が俺のディナーになるとはよう!!」

「てめぇ、ボスに何口聞いてるか、分かってんのか、んえ!?」

「まぁ落ち着けよ。ボスがあんなヒョロヒョロの小僧に遣られるわけねぇじゃんかよ。」


「私は手加減しないよ。たとえ相手が弱者でも。」


「お前の武器は自由。なんなら、ここの輩全員で相手してやってもいいけど? 俺は、この木刀一本でいく。」

少年は、部屋の奥のほうにいた、下っ端の木刀を指差す。

「ちっ、おい、この小僧をボディーチェックだ。木刀も入念にチェックしろ!」

「『ういっす!!』」

入念にボディーチェックされたが、特に異常は見られなかった。


「おい、小僧。命乞いするなら今だぞ?」


「それはこっちの台詞デス。」


ボスは団員から渡された日本刀を構えると、まっすぐに少年に斬りかかる。

少年は……何とか木刀で受け止める。

「おいおい、本気かい、坊っちゃん? このままだと間違いなく君、死ぬよ?」

「そうだな……俺がココに飛び込んだのが間違いだった。


でも、どんな結末を迎えたって、俺ハ後悔シナイ。」


「君、私には君がちょっとカッコよく見えた。でももう終わり。

ここで命尽きな!!」


ボスは少年の木刀をはたきほとす。


少年は成す術もなく、壁に追い詰められる。


そして、日本刀が振り上げられる―――――



――――血が舞う。


しかし、極めて微量。


少年の右手から一筋伝い落ちる。


「う、受け止め……た?」


バチバチバチッ!!!


「ぬわああああぁぁぁぁ!?!?」

何事かと思い、思わず日本刀を落とすボス―――――




―――――次の一秒で、部屋の床、壁、天井が赤く塗りたくられる。


少年は、その時も血に飢えていた。



2008年8月某日。


暴力団アジトで、団長含む暴力団員のほとんどが斬殺死体で発見された。

犯行の凶器は日本刀と思われる。この日本刀からは、暴力団長の指紋と、この事件のただ一人の生存者の指紋が残っていた。


その生存者は、人間が近寄るのを一切拒絶。

数日間、精神科医が付き添っていたという。


彼がやっと口にしたのは、これだ。


「見た。



―――見たんです……彼の持っていた木刀に…………稲妻が走っていたのを……………………。」


尚、彼の体からは麻薬を使用したと思われる反応が現れた。

警察は麻薬取締法違反の疑いで彼を逮捕、また、彼が麻薬中毒による興奮ないし幻覚状態で仲間を殺したのではないかと、警察は余罪を追究している。



しかし、ここで不可解な点が浮上する。


それは、彼がいつも携帯していたバタフライナイフと、団長の首が現場から消えていたことであった。





外伝Ⅴ


「はぁ、止めろ、落ち着け、落ち着けぇ~!!」


読者の皆々様、ご無沙汰しております、タミーです。


大変な事態に陥っております。


少年がバタフライナイフを私に突きつけている。


止めてくれよぉ、私はもっと余生を明るく過ごしたいんだ!!


「早くそのバタフライナイフを下ろせ!!」


「あぁん? パタフライ?」


「いいから早く!!」


「…………


……お前を殺そうと思ったが、お前の生き様がもう少し見たくなってしまった。


今日は見逃してやろう。」




――――――――――――。


「……お前大丈夫か? 口から血が垂れてるぞ。」


「あぁ。


慣れないものを口にしてしまったもんでねぇ、歯茎から血が出てしまったんだ。」


「はぁ……」


そして少年は去っていった。






『もう我慢のしようがないの!! あたし、ずっと……』


事件簿E-1 魁



ルナは夏休み中に退院した。


これは、その数日後の話である。

※ ヤヨイ姉さんがユウタ兄さんを殺す一日前です。



「え? "あえて"つれない態度をとる、って……。(ルナ)」

ルナはアイナ・テルミと共に、ユリヤの家に来ていた。


「そ。"大切なもの"はいつだって"離れてみて"初めて分かるものよ。(ユリヤ)」

「それに、ルナのツンツンモードをもう一度みたいという読者の思いにも答えたいしね。(アイナ)」

「え、今、なんって……(ルナ)」

「あっれぇ~、わたし、何か言ったかなぁ~、かなぁ~♪(アイナ)」


何はともあれ、ルナの相談はこうだ。

せっかく退院したばっかなのに、最近イツキがなんか素っ気ない。


「そういえば、ユリヤはどうなの?(テルミ)」

「あぁ、そんな話もあったねぇ~(ルナ)」

「はぇ?(ユリヤ)」

「エロスも隠さない素敵なお兄さん……(ルナ)」

「はゃ、はぇ、ほ、ほぇ!?(ユリヤ)」

「おやおや、図星ですかなぁ~!?(テルミ)」

「ほぇ~、何の話だろぉ~、何の話だろぉ~!?(アイナ)」

「な、何でもない、何でも!! そ、それより……



さっさと宿題やりなさ~~い!!(ユリヤ)」


そこでようやく、ユリヤの家に来た趣旨を思い出した3人だった。



翌日。


「キョンくぅ~ん、あたしとあ~そぼ♪(リン)」

「リンちゃんはいい娘だねぇ~、おにーちゃんとは大違い。(キョウ)」

「ちがうよ、キョンくん、"にーにー"は"にーにー"だよ!!」

「どっちもちがーーう!!!」


だ、だめだ、コイツのせいで、俺の妹が、どんどんおかしな方向にいってる気がする、うん、間違いなく!!


「早く帰れぇ~~!! お前のせいで空気汚れるわぁ~!!」

「分かったよ、帰るよ、


ったく、せっかく宿題見せてもらおうと思ってたのに。」

「お前が俺の妹をイジクリまわしてたからだろっ!!」

「はいはい、帰りますよぉ~だっ!」

今は午後1時。キョウはこれから塾があるようで。


「おにーちゃん、ハヅちゃんは?」

「そうだ、そういやヅラも来てたな。ってかおにーちゃんゆーな。」

「じゃーおにーちゃんは、ハヅちゃんのことヅラってゆーな。」

「じゃーリンはまず、年上であるヅラ女にちゃんと"おねーちゃん"とか付けろ!」

「じゃーおにーちゃんにもおにーちゃんって言う!!」

「…………。」

そのとき、階段を下りてくる音。

「ようヅラ、お前、2階だったのか、ん?」

"ヅラ"は俺の両肩を両手でグイグイ掴んで離さない。

「ん? どしたのヅラ?」

「か~つ~ら~ぎ~で~す~!! ヅラヅラゆーなぁ!!!」

「は~いぃ~↑!!」

「ねぇ、ハヅちゃん、ハヅちゃんは"ハヅちゃん"でいいよね?」

「うん、いいよ、リンちゃん。"ヅラ"はダメだけど、"ハヅちゃん"はOKよ、ね、おにーちゃん?」

「うわあぁ、やぁ~めぇ~ろぉ~!!」


母は今勤務中。

父は他界。

家には3人以外誰も居ない。

そして3人とも気づかなかった。

何回かインターホンが鳴っていたことを……

「キョウ?」

「ぁ、イツキなら家にいるぜ。こっそり入って驚かしてやれよ。」



………で、とりあえず3人が落ち着いたとこで。


「そだ、おにーちゃん、宿題見せてよ。」

「もうおにーちゃんだろーが何だろーが、この際何でもいいや、おう、宿題か?」

「うん。さっき"おにーちゃん"の部屋探してても数学のノートが見つからなくて。」

「勝手に思春期男子の部屋荒らすなぁ~!!!」

「ダイジョウブ。私は五十嵐さんとは違うから、ベッドの下の……」

「シ―――ッ!!」

「……まぁまぁ。ささ、早く行きましょうや。」

「はいはい………。」



俺はヅラを部屋に招き入れて、ヅラは扉を閉める。

「赤西?」

「ぬわっ? なんだよいきなり!? 呼び方変えて……気持ち悪い。」

「赤西って、今の生活に満足してる?」

「はっ? いきなり何の話だよ?」

「ルナちゃんと、最近上手くいってるの?」

「ヅラなんかに心配されなくても、上手くいってるよ……」

なんか嫌な予感がしてきた。背筋が張り詰めた何かを感じ取る。


「ほぉんとぉ~? 最近ルナとイチャついてないんじゃないの~?」

「そんなことはない。さっきから一体……」


―――― 一瞬何が起こったか分からなかった。



目の前の、ピントの合わないハヅキの眼から、確かに零れる、大粒の熱い雫。


そして再びピントが合う。

「ズルい…………ズルいよ……」


「ヅr……………ハヅ……キ……?」

そして俺はようやく、目の前に起こっていた事態を把握する。


ヅラは、ハヅキは……たった今、自分の唇を、俺の唇に、押し付けていたのだ。

「リンちゃんとここで遊ぶ時は、ずっとイツキのこと意識してたのに……


ずっとイツキのこと、見てたのに………


何で、何でイツキが、他の女に取られなくちゃならないの……」


「ハ………ヅ……」


「もう我慢のしようがないの!!


あたし、ずっと……

イツキのことが好きだった!!!」






「へぇ、そうですか、そうなんですか。」


「『!!!』」


部屋のドアから顔を覗かせていたのは……ルナ。

「ルナ、違うんだ、これは……」

「"これ"は何? 何なの? "彼女"をまだ自分の部屋に入れたことのない男が、平気で近所の女を部屋に入れてる、自然に? 冗談じゃないわよ!! あんた、年頃の女を自分の部屋に入れて、何も起こらないって確信が持てるわけ? え!? 何か言ってみなさいよ、ねぇ、ねえ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「これ以上イツキを責めないでよ。あんた、自分の彼氏のことも信じられないわけ?」

「じゃああんたは何よ!? 人の男に、勝手にキス!? そんなのアリ? 前から好きでしたぁ!? そんなのでイツキが振り向くとでも思った? 何よ、そんな泣きそうな顔して、泣いて許してもらえるとでも思ってるわけ!? ねぇ、はっきり言いなさいよ、ねぇ、ねぇ、ねえ!!!」

「もうこれ以上ハヅちゃんをイジメないで!!!」


「……リン。」

「…………何よ、私が悪者みたいじゃない。


……分かったわよ、出て行くわよ。



もうイツキの顔も見たくない!!!」


カバンをひったくると、物凄い勢いで階段を駆け下りるルナ。


「ルナ!!」

俺も必死で後を追った・・・・・・。



「……これで良かったのよね、大先生?」




外伝Ⅵ



地面に転がる、使用済みの注射器。


歩く少女の後姿。


独り立っているのは、キャップ帽を深く被った少年。



その背後に立つ、もう一人の幼い少女。


美しい銀髪の髪を風になびかせる。


丈の長い、真っ白の清楚なワンピース。



少年はキャップ帽のつば・・の下から、暗い眼差しを覗かせる。

「またお前か。」

「アナタガ戻ッテキテカラ始メテ会ッタ。」

「そうか。」


「ハイ。」


「ん?」

「忘レ物。」


それは、至って質素な出で立ちで、対照的にエメラルドの宝石の装飾が映える、日本刀。


「爆龍鬼神の剣……。」


「"ヤツ"モマタ、ココニ帰ッテキタ。」

「何だって?」

「忠告ハシタ。ドウスルカハオ前次第。」

「了解。


それでも最近つくづくわかんねぇわ。

お前が敵なのか、味方なのか。」


「神ハ私ニコウ告ゲタ。


私ト貴方ハ、出会うベキジャナカッタ、ト。


ソシテ、私ニモ見エル。


私ト貴方ノ、最後ノ結末ガ。」


「神だの仏だの、予言だの運命だの、過去だの未来だの、俺は全然興味ねぇよ。



…………でも、勘ってやつなのかな。

俺もそう思うんだ。どうもこれ以上はお前と接触するのはイケナイらしい。」


「………………。」

「あばよ。」



銀髪の少女は、少年の立ち去る後姿をじっと見ていた。


誰にも見えないはず。


でも、少女には見えていた。


少年の背中に生えている、漆黒の翼が。



なぜかって?


少女にも生えているから、



純白の翼が。




『さぁ、かかってこいよ、鉈女? ほら、相手してやるぜ!!』


事件簿E-2 理想イデアル




「最近アイツウザくね?」


それは夏休みが始まる直前の頃だったかしら。

「誰のこと?」

その話題を持ち上げていたのは南野リョウマ・管野ケンタ・田原ゴウだった。

「イツキだよ。彼女ができたからって調子にのりヤガッテ、許せん。」

「俺もいらいらするっす。」

「おい、ヅラ、お前もウザいと思わへんか、ヅラ?」

「か~つ~ら~ぎ~、……です。」


好きだったのはホントだった。


前からずっと。


小5、ぐらいだったかしら。


イツキのことを本気で思い始めたのは。


ルナとイツキが出会う前。


あたしは、そんなの、言い訳にならないことは知っていた。


そんなの、当たり前だった。


気持ちを伝えられなかったあたしが悔しかった。


もうあたしがどう足掻いたって、イツキの気持ちなんて変えられない。

分かってる、分かってる。


あたしが悪いって分かってる。




なのに……憎い。


あのオンナが、憎い。


確かにあたしより美人よ、可愛いわよ。


あたしはイツキよりホンのチョットだけ身長低いだけ。


性格もおとなしい、女の子らしい。


でも、あたしだっていいじゃない。


イツキとはあたしの方が長い付き合いよ、そう、幼稚園の時から。


妹のリンちゃんには実のお姉ちゃんのように慕われてる。


……別にイツキに近づくために仲良くなったとか、そんなんじゃないけど。


何であたしじゃなくて、ルナなの!?


何で、何で!!




もう………計画は始まっている。





そして次の日、事はこうも上手く運ばれるのだろうか。



あたしは、悲劇のヒロインになった。



「お姉ちゃんが、無理心中……」


姉は、カレーに毒物を混ぜてユウタ先輩を殺し、自らの手でその命を殺めたという。


「ハヅキ………」


イツキが―――女に捨てられたばかりの男が―――あたしがずっと愛してきた男が、あたしを慰めてくれている。

嬉しい……嬉しいわよ、はは、ははは。



葬儀が終わった夜、あたしはイツキと2人きりになった。


「腕組んでも、いいかな。」

イツキは無言で―――うなずいた。

街頭に照らされ、夜の道を歩く。

夢よ――――夢みたい。

本来なら、夢でなくてはならないのに。


「そだ、夏休みの宿題、まだ残ってるんだ。」

「おいおい、もうすぐ夏休み終わっちまうぞ。」

「うん…………


提出日前日にでも、あたしんちに来てくれるとうれしいな。」




その日は、何だか朝から妙な感覚だった。


「ホントに、来てくれたんだ…………」

「あぁ。」

イツキは朝から来てくれた。


2人きり。

その日は何かが起こる予感がしていた。


「そういえばルナちゃんと最近どうなの?」

「全然会ってない……ケータイにも出てくれない。」

「そ。」

そのはずだった。

だって、今頃ルナは…………


「イツキ。」

「?」

「率直に訊くね。

イツキは、ルナとあたし、どっちが好き?」

「決まってんだろ。


…………ルナだよ。」


「……………、そ。」


―――――、

「そうだ、今日お昼食べてくよね?」

「あぁ。」

「カレー、作ったんだ。」

「カレー………」

「大丈夫よ、お姉ちゃんみたいなことしないし。何なら毒見してあげようか?」

「あぁ…………」


イツキは、皿によそったカレーライスを私が毒見して見せてる時に―――――カレーの皿の横に添えてある、月桂樹の葉を眺めていた。


「さぁ、召し上がれ。」

「……いただきます。



…………上手い、上手いじゃねぇか!!」

「もう、そんなに勢いよく食べたら……お茶、持ってくるわね。」

「おう、サンキュー。」



これで、今までのことは、全てなし。



私は、一人でここまでイツキを導いてきた。


これが私のラストコマンド。



「(あたし、もう片思いはこりごりだから――――――



ずっと、傍にいてね。)」


台所に行き、冷蔵庫と壁の間に隠してあったそれを手に持つと、イツキの背後に忍び寄り――――――



「おーっと、最終試験を突破してないぜ?」


「!?!?」


だ、だだ、"大先生"!?


「よーくここまで出来たもんだ。」

「お前一体……」

「ふ、ふふ、イツキ、この方は"大……"」


「眼噛ネムルだ。」


「メ……ガミ?」

「イツキ、といったね?」

「は、はい。」


「危ないから離れてろ。」


「は……はい!」

「"大先生"、今更何を………」

「君はここまで立派な人殺し計画を実行してくれた。」

「ネ、ネムルさん、それ本当ですか!?」

「あぁ。

だがイツキ、信じてやってくれ。


彼女はお前のこと、本気で好きだったらしい。」

「だったら何で、……」


「ルナと芽生えちゃったのがまずかったんだなぁ。だろ?」

「……先生、なぜここまできて私の邪魔をするのですか?」


「最終試験を課すのを忘れてたんだ。」

「……その内容は?」




「俺ヲ殺セ。」



「はぁ?」

「イツキ、今晩、お前の高校の校舎に行け。」

「?」

「分かったなら逃げろ。」

「…………あぁ。」


「ちょっと、人質逃がすつもり!?」


「お前はこの最終試験はパス出来ない。」

「"大先生"、―――――――



チビのくせに行きがるんじゃねぇよ!!!」


「さぁ、かかってこいよ、鉈女? ほら、相手してやるぜ!!」


鉈を両手で構えると、バレー部新キャプテンに選ばれるにふさわしいその機敏さで、その病弱そうな少年を追い掛け回した。



でも、追いつかない。


Why? 何故?


明らかに運動神経ゼロっぽい少年が、あたしの本気を超える速さで攻撃をよける、ですって!?




彼は、何者なの?



「俺は、この世にいるべき人間じゃない。


俺は、この世に生まれるべき人間じゃなかった。


俺が生まれてこなければ、惨劇は始まらなかった。


だから、俺は戦う。


俺は、人と戦うために生まれてきたから。


俺は、人を殺すために生まれてきたから。


俺は、人の生き血を吸うために生まれてきたから。


俺は、人肉を貪り食うために生まれてきたから。


俺は、人骨を噛み砕くために生まれてきたから。


それだけが、俺の生きる理由だから。


そうしなければ、俺は生きることの価値を見失うから。


だから、俺は戦う。


俺は、オマエヲ殺ス。」



あたしが最期に味わったのは、私の声帯の力を奪う乾燥感。


あたしが最期に耳にした言葉は、眼鏡の落下音。


あたしが最期に目にした光景は、野蛮な肉食獣のような瞳孔。


あたしが最期に肌で感じたのは、十数か所を同時に刺され、斬られ、噛まれたような激痛。


あたしが最期に鼻で感じたのは、独特の錆びたような匂い。



最期に、あたしの頭の中に入り込んできた、悪魔のような言葉。


『お姉ちゃんも、あの男に殺されたんだ。』




「お前の脳は腐ってる。だから脳だけは食ってやらねぇ。感謝しな。」






(その頃、卍F卍と、ソルは……)


「『ここ……どこ!?』」


(何故か、暁の通う高校の校舎内にいたのだった。)



外伝Ⅶ


"大先生"の闇取引前夜。



少年は眼を覚ます。


満月が、空に高く上がっている。



少年の家は寺。



「君は…………」


「おや、この変装、そこまでバレバレだった?」


そこにいた少年のお気に入りの黒キャップ帽、その奥から微かに見える鋭い眼光。

比較的小柄だが、表情は硬かった。


「君、どうして……」


「話せば長くなる。」


「それより、どうしてまたここへ?」


「武器が百均の水鉄砲と、"路地裏で拾った"パタフライナイフしかなくてな。今の俺じゃ何のアクションも起こせない。」


「………バタフライナイフじゃない?」


「どっちでもいい。俺には関係のないことだ。」


「で、僕を殺しにきたって? 言っとくけど、僕、霊の成仏だけでなく、呪―――」


「ストップ。俺はただ相談に来ただけなんだ。」


「何の相談?」


「眼を覚ましたら、この世だったんだ。俺はこの時世にいるべき人間じゃない。どうしたら元の時代に戻れるのか、あんたなら知ってるかと思ってな。」


「おいおい、僕は確かに霊能力者だけど、タイムトラベルの方法なんぞ知らないよ?」


「……やっぱりか。」


「僕は"未来"については何も分からない。霊とコンタクトできる、ただそれだけ。


でも、君がどうすればいいかなら教えてあげられる。」


「何でもいい、教えてくれ。」


「僕は早く寝たいから、掻い摘んで説明するよ。


実は現世に再び"オ○パ座の怪人"が現れたんだ。」


「…………"オ○ラ座"では?


で、あいつは本当は何者なんだ、"オ○パ座の怪人"は?」


「結局どっちでもいいのか……


あいつは死神だよ。」


「……そう、だったのか………」


「あいつはいるべき存在じゃない。どの次元にも。」


「あぁ、そうだろうな。」


「まずはあいつを探し出すべきだと思う。」


「具体的には?」


「"死"の匂いでおびき出すといいよ。」


「俺――――ここ数日で結構な人数の人肉食ってるんだが……」


「大丈夫、警察には通報しないから。まぁ君には"今の"警察なんて相手じゃないだろうけど。


でも、自分で殺してもやつは現れない。」


「Why? 何故?」


「いや、物語上の都合だから。


誰かに誰かを殺してもらう必要があると思うね。君自身が頼むんだ。」





そして、今日という日を迎えた。


俺は"空腹"に負けて、執行人を"食"してしまった。


次こそは、"オ○パ座の怪人 オ○ラ座の怪人"をおびき寄せるために。









『俺の獲物には指一本触れさせねぇよ。』


事件簿E-3 裏切ダフネン




ここは……何処?


ムグ………口にガムテが巻かれ、両手・両足は縄で縛られている。


「お目覚めか、お嬢ちゃん?」


………リョウマ!?


背後からケンタとゴウが出てくる。



「ん? 何する気や!、ってゆー顔やな、ん?」

「大丈夫、俺らは別にあんたのことを殴ったりしないっす。」

「ただ、なぁ、ムフフフwww」


「ムグ―――――!!! ング、ング―――――!!」


「果たしてお前にふられたイツキは助けに来てくれるかいな?」

ハヅキ、まさかこいつらと組んで………

「まぁないわ。イツキはお前のこと、もう嫌いになっているはずやわ、ナッハッハ!!」

「それにアノ計画がウマクいっていたら……」

「?」

「イツキはきっと――――――」


「ムグググ―――――――――!!!」

まさか、私という人がいながら、あんなことやこんなことを…………



「『さて、と……』」


へ!? 上脱いで、ズボン脱いで、って……

「ムグググ―――――――――!!! ン゛―――!!」


え、え、えええぇぇ―――!!!

その、あの、え?


ちょ、いや、私だって、まだ………


いやいや、さっきから何考えてるのよ、私!!

イツキのことなんかもう知らないって堂々と宣言したじゃない!!



そう、堂々と………


いや、コノ状況は、どっちにしろ、ダメェ――――!!!





これはイツキを釣っているのかもしれない。


でも、イツキは来てはいけない。


この様子だとイツキに危険が及ぶのは違いない。


それに、私もうイツキと縁を切ったのだから。



……でも、もうイツキが嫌いになったのなら、イツキに危険が及んでも別に気にしなくたっていいじゃない。


でも、イツキは来ないはず。


イツキは、たとえ私が望んでも、もう来ない。


私が「助けて」と願っても、もう来ない。


今は怖いだけ。


別に寂しいわけじゃない。



蘇る、あの記憶。


ケータイからイツキの番号とメアドを消そうと思っても、消せなかった。



本当に私はイツキを捨てたのか?



もうどうでもいい。



誰か助けに来てよ、誰か……



そして思い浮かぶ―――困った時にいつも思い浮かぶ――――――あの顔。



助けて、私が悪かったから。



あの時の台詞、聞こえてたんだよ?



『俺の女に手ぇ出すんじゃねぇよ!!』



助けてよ、イツキぃ…………。









来てくれると信じていたわけじゃなかった。


ズゴ――――ン!!

耳を劈つんざくような銃声。


「俺の獲物おんなには指一本触れさせねぇよ。」





「ン、……ン、


ンンン――――――――――――!!!!!」



何、何、何!!!???


裸体のリョウマの、胸から………赤い血が……


「『う、うう、うわああああああぁぁぁぁ――――――――!!』」


その影が私の元に歩み寄ってきた時、ケンタとゴウは部屋を出て一目散に逃げ去った。



その影が、私の口に張られたガムテープを剥がす。



「い、い、


い……いっ………




い、ゃ、


いや、いや、いや………



いやあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!」


ニヤリと笑みを称えるその影―――



―――――Mrk.3。

「もう逃げられない、そう、


もう、逃げられないから。」

「ゃ、や、やめて……ぇ…」

「ふ、ふふ、ふははは……


死ねよ。」


声が、出ない。

『高校卒業したらさ、』

『何だ?』

『一緒に……海、行こうね。』

『あぁ、約束だ。』

何が約束よ……

『もし――――もし私かイツキのどっちかが死ぬようなことになったら――、

一緒に、死のうね?』

嘘つき。

嘘つき。

嘘つき嘘つき嘘つき。

嘘つき呼ばわりされたくなったら、早く助けに来なさいよ。


早く助けてみてよ。


ねぇ、イツキ、助けてよぉ……。


後ろに跳び退いて、ライフルを構え、――――――




ズゴ――――ン!!


ドサっ!



もう来てくれないと思ってた。




「俺の女に手ぇ出したやつは、許さねぇから。」



「イツ、キ……」


「!?」

足音をかき消して、Mrk.3に飛び掛り、ライフルの照準をずらしていた。


「こ、こざかしい!」

「大丈夫か、ルナ!?」

「イッ……



…………」



イツキは嘘つきじゃない。


バカよ。


「Mrk.3、俺はもうルナを放ったりはしない。



さぁ、撃ってこいよ!」

「ほぉ? 今度こそ国王は助けてくれない。


お前は本気でこの女の盾になる気か?」


「ルナのためなら……



俺はどんな目に遭っても構わない。


ルナを一度突き放した罪滅ぼしにするなら、尚更だ!」



イツキはバカじゃない。


大バカよ。



「上等!!

このオンナは見逃してやらぁ。



…………最後までカッコつけヤガって。


お前の心意気、一生脳裏に刻み付けておくぜ。


あばよ!!」



嘘、


嘘でしょ?


ズゴ―――――ン!!!




その瞬間は、アニメやドラマのように、決してスローモーションにはなってくれなかった。










「っんぐ!?」

Mrk.3の首にかけられた―――――斧。


「もう逃げられない、Mrk.3。」

「し、白仮面……」

「死神と呼べ。……


動いたら、連れて行くから。」


「イツキ!!

大丈夫?」

「少年、後は任せろ。


愛しの彼女を連れて帰ってやれ♡」


「あぁ。」


そして私は手を引かれていった、



私の命の恩人に、


いえ、


顔こそ貧相だけど、


心には"白馬の王子様"的何かを秘めた、


一人の少年に手を引かれて、部屋を出た。



部屋を出る寸前に、私は振り返る。




見慣れない少年が一人、こっちを振り向いている。


目深に被った、黒いキャップ帽。


口にくわえる、月桂樹の葉。


手元に握る、"何か"。



そして、まるで脳に直接語りかけるかのように聞こえた、悪魔の囁き。



「カレーって、皆好きだよな。


嫌いなやつなんて、いねぇよな。


俺は赤いカレーが好きだ。



女ノ生暖カイ鮮血ノ、錆付イタ鉄ノヨウナ香リガ、俺ノ鼻腔ヲクスグルッテクレル、真赤ナヤツ。」







外伝Ⅷ


俺はバタフライナイフをもう一本手に入れ、そしてお気にの刀を取り戻したもんだから、見せ付けてやろうと思ってまたタミーの所に行った。



いない。


いつもの路地裏に、タミーがいない。


座り込んでいた金髪の若者が俺を一瞥してから、こう言った。




「ここのおっちゃんに用か?





おっちゃんならサツに捕まったよ。


桂木ヤヨイの殺人事件がどう、とかね。」



タミー。


俺はお前を少しは期待していた。


何を期待していたのか、俺にも分からねぇ。



…………

いつまでもそこにいてくれると、そう、信じていた。




『モウ何モ要ラナイ。何モ……』


<最終話> 事件簿E-4 沈黙サイレンス




刀を掲げ、Mrk.3に向ける、少年。


「さぁ、晩餐ディナータイムだ。」

「ちょうどいい、少年。

こいつをグチュンと殺してくれ。返り血は食らいたくないんでな。」

「いいぜ。


俺ハコノ世デ、五万ト返リ血ヲ被ッテキタカラ。」


態勢を低くし、少年は駆け出す。



「あばよ、サイボーグ。」






「大丈夫か?」

「は?」


「……ゴメン。」

「何よ?」

「厄介なことに巻き込んでしまって。」

「別に。」


「ヤツは俺の気を引いて、俺を殺そうと思っていたらしい。」

「……!?」

「鉈を振り下ろそうとしていた所に、変な男が入ってきて助けてくれた……。」

「変な男……?」


「でも良かった、無事で。」

「…………


何で助けに来たの?」

「え、その変な男に教えられて、」

「じゃなくて!


何で私のことを助けようと思ったの!?」

「いや、そりゃ助けに行くだろ。」

「何で!?



私のこと、嫌いじゃないの!?」

「……はっ!?」

「勝手に勘違いして、勝手に見捨てたりして、勝手にイツキと連絡を絶った、私が嫌いになったんじゃないの!?」


「……誤解させたならスマない。



でもな、俺はな、当の今でも、ヅラ女のことを、ただの友達としか思ってねぇよ。


俺は、またお前に突き放されても、諦めないと思う。


いつかまた振り向いてくれると信じてるから。



……きっと俺、生涯お前に惚れっぱなしだろうな。」



赤西イツキ。


眼鏡王国国王の忠実な"シモベ"、


そして、月宮ルナの忠実な"コイビト"。



少女は確信する。


こいつは、イツキは、


どうしようもない、


バカなのだと。



「どうした?

何か言いたいのか、ん?」


「バカ。」


「あぁ、俺はとんでもないバカだ。大バカだ。

何回でも言っていい、気の済むまで。」


「バカ。


バカ、バカ。


バカバカバカ。


バカバカバカバカバカあぁ~~!!



……怖かった、



寂しかったぁ~~~!!!」


涙で今にも濡れそうだった顔を、

イツキの胸に埋める。


「また迷惑かけたな、ルナ。」



「夜の学校、2人きり、"The 青春"なシチュエーションですこと。」

「『なっ!?』」


闇から姿を現したのは、やっくん。


「お前、どうしてここに!?」



「友の身の危険を"察知"してな。」






刀と――――――ナイフの、ぶつかり合う音。


「!?」



「誰だか知らないけど、これ以上私のパートナーを殺されたくはないわ。」


「姉御……さん!?」

「oir-oke……貴様、何故ここに!?」


「あんた、何で私のコードネームを……それ以前に、その声は………!?」


「俺の晩餐を邪魔してくれたな。



マズハ貴様カラ……」


「さぁ、

大地よ、

燃えさかれぇ!!!」

「!?」

巨大な火柱を間一髪でよける少年。


「おいおい、お気にのキャップ帽が焦げるところだったじゃねぇか。」


「もともと黒だけど、ね?」

現れる、男と女。

「ピンク眼鏡? おいおい、新顔だな。お前の彼女か、ソル?」

「お、お前、何故、ボクの名を!?」


「どうでもいいけど、姉御は絶対に殺させませんから!!」


「おいおい、王国を捨てたこの女の側に守る必要なんて、これぽっちもないんだぜ?


それとも、己の眼鏡を汚す気?」

「王国、眼鏡……、あなたは、一体――――。」



「王国を捨てたおめぇらに生きる価値はねぇ!!!」




バ――――ン!!


間一髪で弾をよける少年。


「お前まで俺を敵に回すつもりか、卍F卍?」



「お前、まさか……」




「あぁ、そうさ、そうだとも!!





俺は連続殺人犯、眼噛ネムル、




またの呼び名を、

眼鏡王国、第*代国王!!!」



「やっぱり君か。



ヤクザの一団をまるまる潰したのは、



桂木ヤヨイを殺したのは。



桂木ハヅキを殺したのは。



管野ケンタを殺したのは。



田原ゴウを殺したのは。



返せよ。



返せよ。



仲間の命を。



返せよ。



僕たちの日常を。



返せよ。



返せ。




返せ!!!」















それが、薬師寺ヤクモ、渾身の叫びだった。


「ヤクモ、お前まで俺のディナータイムに水を注す気?」


「国王。そんなことをして楽しいのか?



お前は人を殺す側じゃない。



人を守る側だろーが!!」


「イツキ、止めて!!」



「ほう、イツキ、俺とお前には、暗黙の絶対的服従関係ができ上がっていたと思っていたぜ。


皆、分かってるんだろうな?


惨劇は、まだ終わっちゃいねぇ。


最後は、俺が自分で幕を下ろす。


だがな、どうもその前にやっておかねばならんことがあるようだ。



俺は次男坊として生まれた。


兄上を失った。


父上を失った。


母上を失った。


俺は愛すべき全てを失った。


俺に国王になるための教育は施されていなかった。


俺には戦士、煎じ詰めて言えば"殺人鬼"になるための教育が施されていた。




今、俺は全てを失った。


そう、皆の信頼までも。



ルナ。


君に救ってもらった命をまた無駄にしてしまいそうだ。


許してくれ。



そう、俺はもう命さえもいらない。


この世に残したいものなんて、何も無い。



モウ何モ要ラナイ。何モ……



全員マトメテぶっ殺シテヤラァ!!」















刀を振り回す。暴れる―――――刃が、何かとかち合う。



「そうだ。


その通りだ。


俺はちょっと興奮しすぎていたのかもしれねぇ。



でも、そんな俺にも、一つだけ言えることがある。




この中に、確実に敵と言えるやつが、一人だけいた。





それは、


貴様だ、





OPEPA座あああああああああああああああああ!!!!!!!!!」




かち合った"斧"を振り払う。




人間とは思えぬ形相で、得体の知れないブツに立ち向かう、少年。



そして、惨劇は思わぬ展開で幕を閉じる。




同じ、感触。



あのどす黒い、漆黒の、"闇の流れる空間"に吸い込まれたときの、あの感覚。



今度は強烈だ。彼以外の皆をも、吸い込むような、吸引力。―――――――





ニ  ・  ノ  ・  マ  ・  イ。

















そして、誰もいなくなった。


そう、にわとりのなく頃に。 (続)




外伝Ⅸ



今思い返せば、この数日間は目まぐるしかった。


何人の血を見たか。



でも、そんなことはどうでもいい。


ただ、あいつが気になった。


シナ。


やつは何者なんだ?


何故ここにいる?


何故俺に刀を届けた。



あいつは、俺にとって、何なんだ!?




俺は、黒く冷たい闇に落ちてゆく。


そして、眩い光が、俺の瞼を開かせた。






text版 後書き


ひ●らし色が濃かったかもしれません。もしくはスク●イド色?


どっちでもいいやww



次回は色々出てきます。


まぁ新キャラは0かな。



ただ、楽しいと思います。

致死武器 血飛沫とかはあんましないかと。


とことん(?)"熱い!"、ってことで。



でもどうだろ?

若干L5的シーンあるかな?


まぁ、ご期待ください。夏休み中には完成してることを祈ってww まぁ完成するでしょ。














超外伝 ~Ⅹ~



誰が、悲劇のヒロインなの?



リンは、父親を失った苦しみを救ってくれた恩人、ハヅキを失った。


ルナは、何者かに殺されかけた。


ヤヨイは、変死を遂げた。


ハヅキは、姉の後を追った。



私は?


私は、ユウタ先輩に醜態をさらした。


私はトラジェディーじゃなくて、コメディーのヒロインかしら?



いいや、私だって、


私は、最愛(片思い)の人だった、ユウタ先輩を、ヤヨイによって失ってしまった。



誰が、この悲劇のヒロインなの?




ふとテレビに目をやる。


ローカルのニュース番組。


え?


ルナとイツキと薬師寺くんが昨晩から行方不明…………?




何を思ったのだろう。


そうすれば気が晴れるとでも思ったのか。


私は、ショウタに電話をかけた。



気がつけば、私の頬を雫が伝っていた。




誰か教えてください。




悲劇のヒロインは、誰ですか?




私のこの気持ちを、今誰にぶつけるべきですか?




どこから歯車がおかしくなったのですか?




私たちは、惨劇が起こるまでの間、確かに今までと何ら変わらぬ生活を送っていましたか?






誰か教えてください。




この惨劇は、いつまで続くのですか?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る