3-3 新生鬼 眼鏡の聖地 Chapter3 Mrk.3

―― 話は、卍F卍の章の冒頭辺り…… ――







「右腕の義皮膚が剥け、機械の内部がむき出しになっている」己の肉体を、まるで神の目かのように見ている一人の少年。



忌々しい少年と、己の肉体との最期の決戦を目(ま)の当たりにして、終始ご満悦のようだった。


この男の肉体は自分の見知った女に持っていかれたが、彼はそれを見てほっとした。

ちなみに、その女が、実の姉であることを、彼は知らない……




まぁ、第3人称の見方は此処までにして、っと。


横に居るのは、俺の肉体を操っていた男(?)。真っ白な仮面以外、真っ暗で何も見えないが、一応手足はあるようだ。

俺たちが見ていたのは、足下に映し出されていた下界の風景。


まぁ「下界」と表現したが、自分はここがどこだか分かっていない。

自分の意識はいつここに飛んで、ここは実在する場所なのか、それとも自分の夢の中か、あるいは誰かに見せられている幻覚か、全く分からない。何せ隣の野郎でさえ、

どこの馬の骨とも知らない奴だ……敵でもないのにそれは言いすぎか。

いつからここにいるのかも分からないからしょうがない。気づけばここに居たのだ。

今までみた景色が、自分がいる空間の足下に映っているものだと知ったのも、つい今なのだし。


とりあえず俺はこいつに訊いた。



「ここ、どこ?」

「ここかい? そうだな、お前らの言葉には言語化しにくいんだが、……

強いて言えば、"三途の川"ってとこかね?」


「もう一つ訊いていいか? 俺は、死んだのか?」

「さぁな、まぁ一言で言えば、"生と死の間を彷徨っている"っつーことになる。」


とりあえず俺は冷静になって、一気にあふれ出しそうな質問を抑えた。


「もう一つ……っていってもキリがないが、とりあえずもういくつか質問させてもらう。

俺は、何者だ? ちゃんと確認しておきたい。」

「お前は、お前が思っている通り、さっき肉体を女に持ってかれたあの人間だよ。」

良かった……



では改めて。

俺の名はMrk.3。かつて国王との戦闘で破れ、その後己の魂の行方を自分で把握していなかった。





第壱夜 鬼、無音、三途にて






俺はそれからそいつに何個質問しただろうか……答えはあまり聞いていなかった。

答えを言ってくれるそいつの意志だけで、安堵に浸ってしまったからだ。


俺がそのときにした最後の質問が、これだ。

「俺は元の世界に戻れるのか!?」

「お前次第だ。」

「どういうことだ!?」



「……お前は、元の世界に戻れるなら、どんなことでもやるか?」

「あぁ、向こうの世界に行って、元の人間として、仲間と呼べる奴らと会えるのなら、どうでもいい。」


暫くの沈黙の後、

「では……」


そいつは持っていた斧で、足下に文字を書いた。

暗くてよく見えなかったが、途端に字が赤く光りだしたので、よく分かった。


そこには、こう書いてあった。




……この漢字は、たしか"姦(かしま)しい"という漢字。


「私は"かしましい"ということを言いたいんじゃない。

私は、"女3人"ということを言いたい。」


「"女3人"!?」


「単刀直入に言おう。


誰でもいい、女3人を生け贄に捧げよ。さすればお前の魂を再びお前の肉体に吹き込んでやろう。」



「女3人……」


「お前に、誰か恨みのある女はおらんのか?」



「…………」


まずoir-okeさんは絶対にダメだ―――あの方は、俺の大切な、頼れる―――



「別にお前の時世の人間とは言ってないんだ。」


俺はその言葉にはっとした――――――脳内にあいつの顔が過(よ)ぎる―――YKK。



あいつとの出会いは衝撃的だった―――俺が魔法の存在すら信じていなかった頃の話だ。

名は暁といっただろうか。


今でも覚えている、あの、青白い、光――――――


『ハ○ヒを呼んで悪いか―――っ!!!』


「「憎い。」」


はっ!

こいつ……

「あの青白い光は、私の力を幻滅させる力…」


「お前…、はっ!?」

俺が、こいつの正体を訊こうとしたさなかだった。

そいつは、顔を――白い仮面を抑えながら、

「行きたい時世を唱えて、足下の闇に飛び込…め……」

……いつしか消えていた。



その闇が、漆黒から若干灰色へと変わりだす――――


聞いたことのある、いや、聞くだけで忌々しいという念にかられる、ヤツの声だった。―――


―――国王。認めたくはないが、"眼鏡の聖地"本来の主人公。


「ここはどこだ。なぜ貴様がここにいる。」

「ほぉ、それは教えられんなぁ。」

「図に乗るな、貴様ぁ!!


……今こそ決着をつけようぞ!」

「悪いなぁ、俺はいまそんな暇はねぇんだわ。」

「待てっ!?」

『行きたい時世を唱えて、足下の闇に飛び込…め……』

「(俺は行く、暁の時世―――2007年へ!!)」


ヤツが足首を掴んだが、その後のヤツの行方など、知ったことか。


そう思っていた、この時は。




第弐夜 如月 ――獲物、ロック・オン――





若干手違えたのか、一年ズレてしまったようだ、しかし、大した差はない。

何せ、アイツと分かれて3年立つんだぜ、俺らの方が思いっきり年取ってるじゃねぇか!



2008年2月14日の夕方……忌々しい国王の誕生日の一週間前か…



「さっきは急がせてしまって済まない。」

「お前…」


現れたのは見覚えのある……いや、ついさっき消えた白い仮面野郎。

こいつの身体は、白い仮面以外は……黒い布をかぶったような状態と言えばいいのだろうか。

独特の尖がった頭の形、布をかぶったような体からニョキっと生えたような2本の手。

言うなれば―――死神。


……めくってはイケないような気がした。

コイツは自分のことを「私」と言っているが、声が低いので、どうも男であるらしい。


「お前をサポートしてやりたい。赤西イツキの持つ力は、私の力と相反する力だ。残念ながら、お前の蘇生と彼を殺すことは無関係だが、

彼の愛人を殺せば、一応ギャフンと言わせたことになるだろ?」

「あまり納得できない理由だが……あ、赤西イツキって、ヤツの本名?」

「そうだ。」


まぁ、俺は生き返ってからでもヤツを殺せるチャンスはあるかもしれない。今は、己の蘇生が先決だ。


「で、何で女なんだ?」


「それは……やっぱり、ねぇ? ムフフフ……」

こいつ、漢(おとこ)だ!! 間違いなく漢だ!!


「出来れば若くて可愛い女で。」

俺は仮面をぶん殴った……ぶん殴ろうとかかったが、瞬時に白い仮面野郎は背後に回ったために、俺は思いっきりこけた……ただ、それほど痛くなかった。幽霊だからか。


「いいか、お前は今、霊魂としてこの世、この時世にいる。お前の行動が反映されるのは夜に限る。まぁ夜でも自分の意志で姿を消したり見せたり、物をすり抜けたり

物を持てたりするわけだが……」

「分かった、で、だな……」

「?」

「お前、俺をサポートするとかいったよな?」

「あぁ、もしもの時には私の力を貸してやる。」

「了解(ラジャー)。」


「ぁ、別に透明だからといって、ヤマしいことをしても、私は咎めないから。」

呆れた。


現在、暁の高校の体育館裏。

「あの女の子なんかどうだ? 私の好みなんだが……」

俺は失笑しっぱなしだった。

「どいつを殺すかは俺が決める、お前はとっとと消えな。」

「了解(ラジャー)……」

あの時のように、すっと消えていった……


とりあえず仮面が見つけた女を見張っていた。持っていたブツはいかにも"アレ"チックに包装されていた。すると……


暁だ。


暁に、その女はブツを渡した。


なるほど、あの女、恋の告白ってやつか。


暁にとって、大切な存在となる可能性を秘めた、言わば"芽"。




その後、俺は、暁を尾行し、暁の家へ向かった。…………




『イツキ君へ。


嘘です、義理じゃないんです。


あの、助けてもらった日から、ずっと、好きでした。


返事は要りません。ただ、伝えておきたかったんです。




今まで、冷たい態度をとっててごめんなさい。


月宮』




「きーめた。


一人目は、アイツだ……」



(そのころ……)

「やぁ、君、だーれ?」

「モシカシテ、私ノコト、見エルノ?」

「あぁ。」

「貴方、一体何者……」

「ヤクモ」

「ハイッ?」

「僕、薬師寺ヤクモ。やっくんって呼んで。

君の名前は?」

「私?、エット……


……シナ。」

「見たところ、幽霊とは違うようだね。僕、見えないものが結構見えちゃったりするから。

例えば、君の履いてるの、白パ……」

「死ニタイ?」

「いや……あれ、おかしいな、明白な殺意を感じる……」

(スマソ、キャラかなり変わってますが、そこ、気にしたら負けってことで。


一応、第1人称なんで、筆者の補足は、今回括弧でくくらさせてもらってます。まぁ絶対要らないんだけど、括弧。

Mrk.3のいないシーンは、ほとんど会話で分かるように努めます。



そして、Mrk.3を尾行した、一人の男……)

「あれは……シナ!? 何故やつが生きてる!? まさか……時空エスケープ!?


あいつは、あいつは……俺が抹殺したはずでは!?」

「彼女は私の支配下にあった……あの時までは。」

(無機質な声の持ち主、それは……シナ、レンジャー、そしてMrk.3の肉体を操っていた……白い仮面野郎。)

「お前にいいことを教えてやろう、国王。」

「お前は、あの時やあの時の……」

「まず、彼女が何故生きているかを話さねばならぬ……」



  returns 第13章より


   「召喚魔法、"神の一手(ゴッド・ハンド)"!!(国王)」

   「何!? ごっど・はんどハ大地系召喚魔法ノハズダ! 電撃系攻撃魔法専門ダッタハズノオ前ガ……何故!?(シナ)」

   「これが真の裁きだ……。」

   地中から手を伸ばした巨大な右手は、国王がゆっくりと右手に握りこぶしを作ると、同時にシナを握り締め付けた。

   「バカナ、ソンナバカナァ――!!」


       「砕けろぉお―――!!!」

   …………

   その瞬間、エメラルドグリーンの光とともにシナは砕け散った……牡丹雪の如く散りゆく、青白い無数の羽となって。

   

   「オ前ノ強サハ十分ヨク分カッタ。シカシ次コソ…次コソハオ前ヲ殺シテミセル。我ガ誰ナノカハマダ伏セテオコウ。タダ……タダ一ツ言エルコトハ、


   オ前トハマタ戦ウコトニナルダロウ。覚悟シテオケ!!」


(この時、シナは死んだわけではない……消えた、それ即ち、逃げたのだ。

あ、これ、決して、ウケ狙ってるわけじゃありません。ただ、都合上です、後々分かりますから、うpから一年後くらいに、ね?)



「あいつは、自分自身が"本気"を出さない限り、絶対に死なない。何度でもエスケープを繰り返すさ。

なぜかって?


あいつは預言者――神の御言葉を授かった、それ即ち、神に選ばれた娘だからだよ。」

「神に選ばれたかどうか知らないが、奴は必ず俺が殺す、この、国王の名にかけて。

でもその前に聞きたいことがある。


貴様は…この世のもんでなさそうだし、俺みたいな幽霊でもなさそうだ……俺の、敵だよな?」

「お前……


確か今、シナを殺すと言ったな?」

「あぁ、そうだ、それがどうかしたか?」


「彼女の持っている力は、お前にとっても、私にとっても、後々厄介なものになるだろう。芽は若いうちに摘んだほうがいいだろ?」


「なるほど……面白い。しかし、俺にはそれ以上に殺したい奴がいる。」

「Mrk.3か。」

「あぁ……あの勘違い野郎も、只者ではないらしい。なぜ奴がここに来たのか……」


「……悪いが、私はお前とは意見が合わんようだ。私のことはどうか忘れてくれ。それでは……」


「おい、待て、おい!!


(しかし……幽霊になったところで、これからどうすれば……)」




第参夜 弥生 ――抹殺魂――



(本章は、Chapter1の文章にChapter3のキャラの台詞・行動を加えた形になる。

Mrk.3視点を赤、国王視点を緑、やっくん視点を青で表現する。)



なんやかんやで、そのまま3月になってしまった。


正直言って、俺の心の中は曖昧だった。



確かに好きだった、中2の時は。しかし、嫌いになってしまった彼女のことを、すぐに好きだと思いなおせるのだろうか。


無理だ。



……いや、待てよ。

俺が嫌いなのは、ガミガミうるさい……というより、ツンデレのルナであって、


…俺が好きだったのは、今と同じ、おとなしくて、素直で、いつも優しく微笑みかけてくれるルナだ。



俺の心の中には、まだ彼女に対する好意が微かに残っていたのかもしれない、自分でさえ気付かないほどに。


さて、いつ返事をしたらよいか……やはりホワイトデーだろうか。

いや、もし期待して待ってくれているのなら……もっと早い方が……


本日、3月2日、日曜日。明日は桃の節句とかいうやつである。


なぜだろう、この時に、あの人の顔が思い浮かんだのだろうか。

おそらく、この時のために、その出会いはあったのかもしれない。


いずれそうだというはわかった、ちょっと別のニュアンスではあったが。それは追々、筆者から説明があるだろう。


それに俺には……元から眼鏡属性が…



翌朝。教室。


もちろん3学期の初めに席替えをしたので、ルナとは席が離れている。それと例のこともあってか、あの日以来、ルナとは一度もしゃべっていない。


「「あ、あの……」」

ぁ、ハモった。



あ、暁……?

「マズイ。」

「シ、シナ!?」


すっと姿を現した(僕にしか見えない)ので、正直かなり焦った。

「何がまずいの?」



「感ジル……黒イ波動。」

僕はその言葉の意味をさっぱり理解することが出来なかった。



「あの…コレ……」

そういって差し出したのは……あ、俺のハンカチ。

「ず、ずっと、学校には持ってきてたんだけど……。」

昔と同じ、小心者のルナ。……やっぱり、かわいい。

「あ、はいはい…」

刹那の沈黙……俺はすぐに打ち破る。

「あの!」

「?」

「今日の夕方……空いてる?」

ルナはコクリとうなずく。

「今日部活ないよね?」

またコクリとうなず。


「じゃあ……放課後、あの公園で。」



俺はその日、運悪く、何だか忘れたが居残りをさせられた。

気分、害してなきゃいいけど……



さて、あの女は公園に向かっている。


俺は、幽霊的にいけるだろうと思い、いかにも見た目ヤバそうな男に乗り移ることに成功した。

部下だろうか、この肉体に丁寧語で話しかけている。

「ついてこい。」



俺は急いでその公園に向かった。

正直、何を言おうかなんて具体的に考えてなかった。ただ、今ひとつだけ言えること。



俺は、まだルナのことが好きだ。



さて、少し蒼穹がオレンジがかったころ。

公園まであと少し……!!!


俺は、最初の1秒間、何を見たのか把握できなかった。

向こうの方で、白い高級そうな、低速で走る車の後部座席のドアが開き、腕が伸びたかと思うと……


少女の……ルナの腕を掴み、引きずり込み、……ドアが閉まる。



頭で考えるより、身体が先に…反射的に動いた。

俺は、白い車の前に立ちふさがった……下手したらひき殺されていたかもしれない。



ぐわあああ―――!!!


俺は必死で白い車を、剣で止めていた。

こんなところで暁に死なれては、Mrk.3の思う壺だ!!

ぁ、話は聞かせてもらった。

『きーめた。一人目は、アイツだ……』


奴の独り言を聞いてしまったのだ。


暁も暁だよな。あの「ハ○ヒどうのこうの」ってやつ使えばよかったのに……


ふ、…車は暁に当たるスレスレで止まったようだ。



急ブレーキで、俺の目の前で車が止まる。

運転席から、長身の男が現れた。

「邪魔だ小僧、どけ!」

「逃げろ、ルナ!!」

俺はとっさに叫んだ。

ルナもまた、自分のおかれている状況を把握するのに苦しんでいるようだ。

「早く!!!」

ルナは気がついたかのように後部座席のドアを勢いよく開けるや否や、一目散に走り去っていった。

あまりに一瞬の出来事に、後部座席にいた仲間は、ルナを押さえ込んでいなかったという自分のしでかした失敗に戸惑っているようだ。

「何やってんだてめぇ!!

……おめぇもなぁ!!」

運転席から出てきた男は、俺の顔面目掛けて拳を突き出す。

「てめぇ、何もんだ!?」

「俺の……」

危なげに男の攻撃をかわしながら、何も考えず、俺はこう叫んだ。


「俺の女に手ぇ出すんじゃねぇよ!!」


「黙れ、かっこつけやがって! 目にもの見せてやる……」

そして男が懐から取り出したのは……拳銃だ。

モデルガンか本物かは分からない……しかし相当危ない状況だ。

気がつけば、俺の背後に、後部座席の男が立っていた。

その男が右手に持っているのは……ナイフだ。

これは相当ヤバい状況だ……


「こらぁ、何してるんだぁ!!」

助かった、ちびっこ的に言えば、お巡りさんだ。

ママチャリ(?)を猛スピードでこいで、急ブレーキ。

「君たち、何してるんだ!」

俺を挟んでいる男2人は、呆然としているのか、あきらめがついたのか、ただただ立ち尽くしていた。

英語で言うポリスマンの後から、誰かが追ってきた。ルナだ。


逃げる様子はないようだ。暫くして、呼ばれたパトカーがやってきた。

男2人は現行犯で捕まった。俺らは事情徴収として同行した。

あの拳銃はホンモノだったようだ、弾は満タン。車からは散弾銃なども見つかったとか。


「……ごめん、心配かけて。」

「何よ。連れ去られかけたのは私の方よ。


……ありがとう。」

「ん……あぁ。


……ぁ、そうだ、コレ。」

「?」

俺が差し出したのは……


「サン…グラス…?」

ルナのことだからなんか華美なものは気に食わないだろうと思っていたが……

少し地味すぎた感も……

ルナはそっと、かけた。


ぁ、まあまあ似合う。

「ありが、と…でも……何で?」

「いや、あの日の返事のついでに、一足も二足も…いや10歩ぐらい早いけど……

ホワイトデーのお返し、ってことで……」


「返事……。」

「いや、俺もホワイトデーにすればいいかと思ってたんだけど、

なんだが……煩わしいってか…


聞いて……くれる、俺の返事?」

ルナは、俺の顔を暫く見つめた後、小さくコクリとうなずいた。


「俺……中二の時…一目ぼれした、お前に。

でも、何か、あの、お前助けた時…冷たくされて……ついこの前まて…嫌いだった。


気づけなかったんだ、俺。

お前がどう思ってるとも知らずに、俺、カンペキにお前のこと突き放そうとして……

悪かった。


もう一つ気づけなかったことがあった。それは……

お前への……


お、お前のこと、大事だなんて思ってなかったら、あんな派手にお前を助けてなかっただろーよ。」

ルナの目は、だんだん見開いていった。


「そんでもって、俺は確信した。


お前への気持ち。」




「国王!?!? テメェ、なぜここに……」

急いで俺はその肉体から姿を見せた。

国王:「それは俺の台詞だな。

あの女を殺すつもりだったんだろ!?


なぜだ!?

なぜだ!?!?

なぜだあぁ―――!!!!!!!」


国王は(なぜか幽霊なのに持ってる)剣で俺に襲い掛かる。


まずい……うぐ!!


気づけば、俺は近くの草の茂みの中にいた。


……白い仮面野郎!?


仮面:「危ないとこだった。」



国王:「(どこ行きやがった、あいつ……。)」





「俺も……お前のこと、好きだ。



あの…


俺と……付き合ってくれます?」


なんか最後、丁寧語になってしまった。


刹那の沈黙……

「うん。」

ルナは大きくうなずいた。久々に、いや、初めてみた……ルナの、満面の笑み。



そして、夕暮れの道、ゆっくりと歩みを進める。


「何か、不自然だと思ってたら……」

「へ?」

ルナがキョトンとして……


ルナの目が、少し泳ぎ始めた。

俺が、唐突に、がしっと、ルナの腕を掴んだからだ。

くぅ、かわいいやつめ……



「さ……さっき、私に呼びかける時、"ルナ"って言ってたよね?」

「ぁ、あの時必死だったから、よく覚えてないや。」

「あの時……ちょっと、嬉しかった。」

「……


…これからも、ルナって呼んでいい?」

「いいよ。

じゃあ、私も、イツキって呼ぶね。


……イツキ。」

「?」

「ぁ、いや、その……呼んでみたかっただけ……」


なんか……夢心地だ。

仮にもヲタクであり、時にキモがられる俺と、決してモテるわけじゃないけど、おとなしくて美人なルナ。

まぁ雲泥の差はないけど……


何か、バチが当たたっても十分なくらい……幸せだ。



「ぁ、三日月。きれい!」

「バーカ。


もっときれいだよ、お前のほうが。」



(かくして、Mrk.3と国王の長い戦いが始まった。)




~ 間奏 ~ 卯月 ――1枚の写真、揺れ動く運命――




春の遠足。

行き先は、……某寺と言っておこう。


バスの席は……怪しがられないように、隣にやっくんを置き、後ろにルナという配置。

いつも遠足のバスで寝ていた俺だが、こんなに楽しいバスのひと時はなかった。 (隣で、やっくんが何やらブツブツとお経か呪文か何かのようにつぶやいていたが……)



僕は前を向きながら、小声で、ぼそりと囁いた。


ルナの席の上の、荷物を置くとこにいる、彼に。

「君だね。"黒イ波動"」


彼は、体をビクッとさせた。まさかこの中に、自分の姿が見えるヤツがいるまいとでも、思っていたのだろう。

……しかも、僕は後ろや上は、席に座ってから向いていない。


でも知っている。バスの走行中に、ルナの一個後ろの席の窓から、彼がするっと入ってきたのを。


僕は語りかけた。

「君は、この世に遣り残したことでも?」

「うぐっ…………」


しかし、僕がまた話しかけても彼はそれ以上一言も発しなかった。




Mrk.3を尾行していたが、見失ってしまった。

Mrk.3は、どうやら観光バス何台かの群を追い掛け回していたようだ。


「……まずい。」

俺はハッと顔を上げた…………


目の前にいたのは、シナだった。


「………………」

「………………」



近くの広場で昼食、もちろん持参の弁当である。

ルナがおかずを作ってくれるということで、俺はおにぎりを数個だけ持ってきた。

メニューは……ご想像に任せる。ただ、なかなか美味かった。


2人だけの、楽しいひと時……あ。


「ヒューヒュー、熱いねぇ!!」

キョウ、参上。(傍らにやっくんも。)

「いやぁ、もうそんな仲だったとは!」

俺らは反論する術も無かった。

「大丈夫大丈夫、そこまで広めたりはしないって、なぁ、やっくん!?」

"そこまで"が気になる、俺ら。

「あ、担任。」

「よーし、写真撮るぞぉ、ハイ、チーズ!」



「ばかだなぁ、写真、写っちゃうよ。」

「は?」



パシャッ。




第肆夜 水無月 ――鏡少年の悪戯――




(ここは色、関係無しです)

しまった!!……心霊写真とかよくいうやつだ。


直に人間には見えなくても(一部の人間は存在を感じ取れるようだが)、これで俺の存在は相手に知れてしまったわけだ。



  ……待てよ? 俺は相手に幽霊として認識され、恐れられているということは。

………ちょっと面白そうじゃねぇか。




その夜も、梅雨真っ盛りかのように雨がしとしとと降っていた。


漫画を読んでいたら、予想以上に時が経ってしまった、わたし、ルナ。自分の部屋の中。

時刻はすでに午前2時を回っていた。

早く寝なきゃ……ぁ、歯磨きしてなかった。


仕方ない……してこようっと。



洗面所に着いた。自分の歯ブラシに手をかけた私。


誰かに見られてるような気がする……誰かに。


そんなわけ無いか……歯ブラシを口に当てた私。


ハッと何かの気配に気づいたの。紛れも無く、誰かいる。


私は恐る恐る鏡をじっと見た……



その時、俺の脳に過(よ)ぎったのは、一人の女―――ルナではない――の、悲しむ顔だった。


少し自分が、情けなくなった。




「いやあああああぁぁぁぁぁ――――!!!!」


私は一目散に自分の部屋に走りこんだ。ベッドに飛び込み、タオルケットに包まった。震えが止まらない。目から涙がこぼれてきた。




  (その頃、国王は……)


俺は、2ヶ月前に会ったシナとの会話を思い出していた……




あの時、先に口を開けたのはシナだった。

「アナタ、ドウシタノ? ナゼソノヨウナオ姿ニ?」

思えば、正気のシナに会うのは初めてだった。

「あぁ、Mrk.3の野郎……じゃなかった、Mrk.3を操っていた、白仮面のせいでな。」


シナはキョトンとしていた。

その姿には、なぜか懐かしいものが感じられた―――今まで俺は殺気に満ちた彼女の形相しか見たことが無いはずなのに。

「私ハ、白仮面ニツイテハ何モ知ラナイ。


シカシ、Mrk.3ニハ気ヲツケタ方ガイイ。彼ハ危険因子。

彼ノ体カラ、強イ悪ノ波動を感ジル。


我々ガ今ココデ戦ウヨリ、マズ彼ヲ抹消スベキ。」

「了解。」

彼女を1回目に倒したのは、宗教活動で暴走していたから。2回目は、何者か(恐らく白仮面)に取り付かれていたから。彼女本人に恨みは持っていない。


「で、今までずっと聞きたいことがあったのだが、」

「ン?」


「お前、一体何者?」

「イズレ分カルダロウガ、簡単ニ説明シテオク。私ヲ一言で言イ表ストスレバ、ソウ、預言者。」





神って信じる?

まぁ、信じない人も多いだろうが、ここでは"いる"ものとして話を進める。


(ここからは、単語の本義から若干ズレていくかもしれないが、そこは何とか想像力で補ってくださいな。)

預言者は、神の言葉を人々に与える、言わば神に選ばれし者のこと。


ここで、生徒と先生の話を挙げよう。

先生という存在がいる方が、生徒の統率力は恐らく向上するだろう。(今のご時世では一概には言えないだろうが)

ここで言うならば、預言者は先生、人々は生徒。

預言者は、人々の、全人類の生活が向上するように、神からの伝言を人々に告げる、そういう存在なのである。


決して勘違いしてはならない。

「預言者は決して、神そのものではなく、神の生まれ変わりでもない。」ということを。

「預言者は決して、全人類の、地球上全生命体の頂点なのではない。」ということを。

「全人類は、全生命体は、決して神になれない。」ということを。




「……イズレ分カル。ソレヨリ、姿形ガ生キテイル者ニ見エナイトイウノハ、何カト不便ナコトモアル。暁ノ友人デ霊視能力ヲ持ツ者ヲ見ツケタカラ、アナタニモ紹介スル。」




俺は今、その薬師寺ヤクモとやらの家(寺)の前に来ている。


「やぁ、待ってたよ。」

「暁の友人の、ヤクモ君、でいいんだよね?」

「うん、やっくんって呼んで、国王様。」

「堅苦しいのは嫌いなんだよな……眼鏡でいいよ。」

「いや、それでは国王であることを忘れてしまうんで……国王でいい?」


俺は、彼の部屋と思しきところに案内された。


「君が言っているのは、この少年のことだよね。」

「これは…………」

間違いない。やつは心霊写真の"心霊"として、写ってしまっていた。

「つまり、彼の存在は、もう彼女に知れてしまったということか?」

「彼女?……あぁ、暁の彼女さん?」

「あぁ、奴の独り言を盗み聞きしたところ、奴は彼女を生け贄に自分の復活を夢見ているようだ。」

「なるほど……それじゃ、君は…………」


雨が一層強く降りしきり、雷も鳴り始めていた、薄気味悪い夜だった。



「その目的をを実行した後は、もうこの世に居座る理由はないというわけだ。」

「へっ?」

「あの少年を成仏してくれという願いを僕に告げた今、君は成仏されても構わないと……」

「ひぃ!!」

国王は彼の前から一瞬にして逃げ去ったという……



「(幽霊って、無力だよなぁ~)」




第伍夜  二度目の衝突 ――鏡少年の悪戯 Ⅱ――




私は歯を磨きに、洗面所へ行った。


あの少年だ。


暗そうな顔をしていた。



「何か、やり残したことがあるの?」

私は鏡を向きながら話しかけ続けた。

「何か願いがあれば、私に言って!」


しばらくの沈黙……


その後、彼は口を開いた。


「やり残したことっていうか、やりに来たことはあるな。



お前の命を、奪いに来た。」


私はその少年の、強い殺意を瞬時に感じた。


右手には、ナイフを持っている。


身体が、動かない。


「ぃ……ぃ……、



いやあああああぁぁぁぁぁ――――――!!!!!」


「死ね、Mrk.3ぃぃぃ―――――!!!!」


「こ、国王!?!?」


まずい―――国王が俺に斬りかかってくる。



何だ、この感覚……前に感じたことある感覚。

白仮面!?


白仮面が、俺を切り裂こうとしたであろう国王の剣を、斧の柄で受けていた。

「貴様、こいつの仲間だったのか!?」

「厳密に言えばちょっとズレているがな。」


「なら、敵は抹消するの、m……ぐわあああぁぁぁ!!!」

「あ、んんんぬわあああぁぁぁ!!!!」


何が起こったんだ…………


国王と白仮面は同時に発狂したかと思うと、同時に、すっと、姿を消した。


その時だった。




目をうっすら開く。


眼だ。無数の。


鏡がひび割れて、無数の眼がこっちを睨む。


一瞬遅れて、パリン!という音とともに、鏡の破片が飛び散った。


私は力なく、その場に座り込んでしまったの……。


雨音と蛙の啼き声が、夜の静けさによく響いていた。



俺は、何かまずい物に触れたような気がした。


あの力は――――鏡を割ったあの力は、もちろんあの少女でも、俺でも……恐らく国王でも、白仮面でもないだろう。


俺は、誰か身近な人に言われているような気がした。


あの少女を、殺してはいけない、と。





第陸夜 文月 ――それはそれは、ア・ツ・イ夜――





それ以降、彼女は洗面所の鏡の前に来ることはなかった。ただ、これまでの間に、彼女と親しくしている人間が二名ほどいることがわかった。

水島ユリヤと、三田アイナ。


これで生け贄の標的は定まった。



(その頃、国王は……)


「何とか、少女とコンタクトを取ることは出来ないのか?」

「月宮ルナね、ちゃんと名前ぐらい覚えなきゃ。で、コンタクトしたら成仏してくれるんだね?」

(ぁ、今やっくんのキャラ、思いっきり変わってるよなって思ったろ?

普段陰キャラに見えるやつって意外とこーゆーやつ多いんだって、いやマジで。)

「なぜお前は成仏に拘泥するのだ?」

(ぁ、今「ちょっと頑張って難しい言葉を国王に使わせようとしたな」とか思った奴いるだろ? 正直に手ぇ挙げてみな?


そしたら部屋に一緒にいる人が「えっ? 大丈夫?」って不安がるからさ。)

「だって、面白いんだもん☆」

「語尾ニ☆ガ……」

「シナ、いつからお前ここにいた?」

「まぁいいじゃん。で、ルナに直接コンタクトする方法か……」

「そのまま出たら、完璧に幽霊と間違えられるから……」

「いや、幽霊だし。」

シナは面倒くさそうにそのやり取りをただ眺めていた。

「じゃあさ、夢の中で、こう、しぜーんに出てくればいいんじゃない?」

「夢の中なんて、入れるのか?」

「寝てるルナに潜り込む感じでいけば、きっと。」

「寝ている女の子の部屋に忍び込むのは、ポリシーが……」

「そんなこといってる場合かよ!」

「でも、国王たるもの…………」

「君、国王だったのか!!」

「間違エルノモ無理ハナイ。何セ王冠ヲ被ッテイナイ。」

「君、そこにいたのか!?」

「ナンデスト!?」

「仕方がないではないか。俺は戦死したんだ。戦争中に王冠なんか被ってるやつなんかどこに…………おーい、聞いてる?」


「――――んだよ!!!」

「はい?」

「君の方こそ話聞けよ!! 何で国王自身が戦ってるんだって聞いてるんだよ!!」

「それは……


……話せば長くなるけど、いいか?」

『いい、遠慮しとく』

「真っ向から拒否すんなぁ!!」



その後、2人と散々ダベった後、成仏の危険を察知して逃げてきた。


さて、ルナの家に、計画を実行しに行くかな。

Mrk.3の動きも心配だしな。


ん………!?!?!?!?!?!?


「わぁお…………」

俺が目にした光景は――――



「やぁん♡ ゴ、ゴロゴロしないでっ、やっ、あ、」

(えぇっと、この表現うpして大丈夫なのか……)

「あぁ、そこだ、俺のツボ、おわっ……」 あ、あ、暁!?


暁が、パジャマ姿のルナに、み、み、耳掻きだと!?


あ、あの、ボンコツオタクが、女の子に、ひ、ひ、膝枕!?



「反対向くよ~」

「ぁ、ダメ、そっち向いちゃ♡……やぁん…」


なぜだろう、軽く殺意が芽生えてきた。

ム、ムムム、ムーカーつーく―――――!!!


(新エピソードを入れてみましたがいかがだったでしょうか?

ここから、Chapter.1のエピソードをもう一度ご堪能下さいませ。)


「そろそろ寝ようかな、俺はどこで寝れば……」

「あ、あのぉ……」

「へ?」

うぅ……やっぱり顔が火照ってきたぁ……。

「ぁ、あの、その……」

「えっとぉ……

まさか……一緒に?」

私は、小さくうなずいた。


私はしずしずと、自分の部屋に案内した。

もちろん、自分の部屋にオトコノコを連れてきたことなんて初めて。


速まる鼓動……高ぶる感情。



「何か俺だけ普通の格好って、変だな。」

「そうだね……」

「えっと、俺は地べたに寝れば……」

私はなぜか、反射的に首を横に振ってしまった。

「あ、やっぱり?」

怖いから呼んだのに、あんなことやこんなことなんて……ないよね。

でも……

私は自分のベッドに入るように、イツキを無言で誘った。



……今、私の隣で、イツキが、私の方を向いて、寝ている。

「イツキ……起きてる?」

ぐっすり寝付いているようだ。

「(うぅ…寝顔……かわいい。)」

今なら、イツキを、自由に……

いやいやいやいや! そんなことは決して……


でも……一緒に寝てるんだから、少しくらい…。


私は再び、イツキが寝ていることを確認した。


私は少し、少しずつ……顔を、近づけた。


私は唇を少し、突き出した。


荒くなりそうな息を懸命に抑えつけた。


私は目を閉じた。


イツキの鼻息が、顔で感じられる。


心臓バクバクだった。


あと、少し……もう少しかな。


…………。


「へぇ~、そうやって俺のファースト・キス、奪おうとするんだ。」

私は思わず飛び上がった。心臓が破裂するかと思った。

「照れんなよ~、かわいいやつ。」

恐らく、私の顔は真っ赤っかだったろう。

「わ、私だって、まだ……」

「ズルいぞ、独りだけ堪能しようとするなんて。」

「ひゃっ!?」

イツキは私を壁に攻め込んだ。

「仕返しだ。」

「ぁ……え?」

イツキの顔が、どんどん迫ってくる。

心臓が……爆発しそう……。

イツキの顔が、斜めに傾きながら、ぐいぐい迫ってくる。

あと数㎝……1㎝を切る……。


そして、二人の唇は、触れ合った。


私のこらえていた感情が、一気にあふれ出た。

私は思わずイツキをぐいっと抱き寄せて、初めての感触にとろけそうな唇と、もう火傷寸前の胸を、イツキに思いっきり押し付けた。


あぁ、もう……大好き!


それに満足しきってしまったのか、私はそのまま深い眠りについてしまった。



(国王は…………壁に頭を打ち続けていた。まぁ、幽霊なので、大して痛くも痒くもないのだが。)

あぁ、ムカつくムカつくムカつくムカつく――――!!!!


何だよ、『へぇ~、そうやって俺のファースト・キス、奪おうとするんだ。』ってよ、おい!!

俺だって、俺だってなぁ、ムチャクチャ言いてぇんだよ!!

何さらっと言っちゃってくれてんのかなぁ、かなぁ!!


これを読んでる誰か、教えてくれ、キスの味とやらを。こっから誰か女性キャラと役代わって上げるからさ。


あぁ、――――――いけねぇ。自分の仕事を忘れていた。



――――――あれ?


潜り込むっていってたよな、ルナの……体に。

し、下、下着姿、何ですけど…………



私は夢を見た。

私は自分の部屋に居た、制服を着て。

私の部屋には、一人の少年がいた。

眼鏡をかけ、身長は私と同じくらい。

ほっそりとした体つき。

優しそうだが、どこか暗い目をした少年だった。

彼の頭の上には、冠が乗っていた。


俺はルナの夢の中に入った。

俺はルナの部屋に居た、死ぬ前の、普段の正装で。

ルナの部屋には、案の定ルナがいた。

月光のように美しく白い肌。

色気は、どちらかというとない方。

俺におびえているというよりは、ただ興味本位でというか、不思議がるように、俺を見つめていた。

ルナは、学校の制服姿だった。



彼はこう言って、私の部屋を立ち去った。


俺は、こう言って、ルナの夢を立ち去った。



「あの洗面所の例の少年には気をつけろ、何が起こるかわからないからな。

あと、暁にはよろしく言っておいてくれ。


我が名はない。"眼鏡の君"とでも覚えておいてくれたまえ。」





俺は、ルナの夢から出た後、足早にルナの部屋を、家を立ち去った。



目が覚めた。


「あ、あのぉ……。」

イツキの声が聞こえる。

「?」

「とりあえず……離れてくれる?」

とりあえず状況を飲み込もうとした。イツキの顔が、私の、左にある。


!!!!!!!

朝っぱらから私は飛び上がった。

「ぁ、これはその……つい…」

「つい、パジャマを脱いでしまったのか?」

えっ、……!?!?!?!?!!!!!

私は慌てふためいて……壁とベットの隙間にのめり落ちてしまった。


私はあろうことか……下着姿で、イツキに抱きついていたのだ。


そういえば、昨日の夜、暑いし、今度こそイツキを驚かせてやろう、寝る前に着ればいいし、と思って、脱いだまま、眠りについてしまったのだ。

「そうか、やっぱりお前はそれが目的で……」

「ばっ、違うって、誤解だってぇ!!」

「そうか、そんなに俺と一夜を過ごして、あんなことや、こんなことをしたかったのか……」

「ご、誤解だってばぁ!!」

「その…色が物語ってるんじゃないのか?」

私の顔は、林檎のように腫れ上がっていたであろう。


「じゃあ、そろそろ帰宅しねぇと。風邪ひかないように、気をつけろよ!」


私は恥ずかしすぎて、イツキの顔なんて見られたもんじゃなかった。



そしていつしか、あの"眼鏡の君"のことも、洗面所の少年のことも、すっかり忘れてしまっていたの。




第質夜 運命の日、前夜





自宅の自室にて、水島ユリヤ、殺害。

遺体は、白仮面が何処かに持っていってしまった。

あいつって、一体…………

遊ぶ約束をしていたアイナの家とルナの家には、俺がユリヤの母親の肉体を操って、「急用が出来た」と電話で伝えておいた。

その後時間を稼ぐため、白仮面は情報操作によって、1週間、全人類の脳及び情報記憶端末から「水島ユリヤ」という存在を消し去った。白仮面曰く、一週間が限度だという。


さて、この一週間以内にアイナとルナを抹消せねばならない。

まずは、アイナ、お前だ。



俺はアイナの家に向かった。

まぁごくごく普通の一般家庭である。

アイナの部屋は、一発で分かった。……何だ、これは!?

「知らないのか、コスプレだよ、コスプレ。」

白仮面、オマエから抹消してあげようか?


アイナ―――暁の高校のマドンナさんは熟睡していた。お肌の手入れには、睡眠は欠かせないってか?

「さて、どう殺っちまうか……」

「Mrk.3?」

「どうした、白仮面?」

「君は、確か、かなりの腕前のスナイパーだったよね?」

「あぁ、生前はな。」

「じゃあ、君は、敵に唐突な致命傷を与える殺し方しか、知らないわけだ?」

「どいういうことだ?」

「人がさ、長時間苦しみ、足掻きながら死んでいく殺し方って、結構カイカンだと思わない?」

「おい、この小説、だんだんグロくなったりエロくなったりしてない?

まぁいいや……でも嫌いじゃないぜ、毒物でじわりじわりってやつ?」


白仮面は、ニヤリと(口しか動かないが)笑った。

「でも幽霊は毒物は使えない―――そう思っただろ?」

「まさか―――幽霊の世界にも毒物があるのか!?」

「ジャンジャジャーン!!!」

錠剤の怪しーい薬物、登場。


(「ストップ、薬物乱用。」by 筆者)

「これを口の中に、ポイっと、コレでいいのか?」

「あぁ、さぁ、次、行くぞ。」

「おい!? 『長時間苦しみ、足掻きながら死んでいく』サマを見るのがカイカンとか言ってなかったっけ、自分、え!?」


「そんなこと、言った覚え、一言もないなぁ~♪」




(翌朝)

「ママぁ~!!」

「どうしたの、アイナ?」

「頭痛いの~!」

(忘れてる人も多かったでしょう、何せ筆者も当の今まで忘れてたんですから。アイナは、超ブリっ娘なのです☆)

「はいはい、ぁ、アイナ、今日遊ぶ約束、あったんじゃないの?」

「あ、うん、伝えといて~。」

「はいはい。」


(この時、母親は、「今日遊ぶのがただダルイだけで、どうせ仮病でしょうね~、全く、困った娘なんだから。」とぐらいにしか思っていなかった。

母親が、事の重大さを知るのは、ちょうどルナが殺された時だったという…………



ちなみに、苦しみ始めてから死ぬまでは30秒もなかったとか。)




第捌夜(最終夜) 葉月 ~暁のなく頃に 鬼隠され編~





(ここは国王視点で行きます。)

「まずい、何かまずい気がする。」

「止めろよ、だからといって俺を成仏とか…………」

「事の重大さを受け止めろ!!」

いつになく真剣に怒っているやっくん。

「どういうことか説明してくれないか?」

「…………シナ。」

「国王、ヨク聞イテ。」

「?」

シナも、いつもより力が入った言い方をする。


「どうした? 何があった?」

「詳シクハ分カラナイガ――――


邪悪ナ波動ヲ感ジタ。」

「どういうことだ?」

「Mrk.3ガ……動キ出シタ。」

「さぁ、どうする、国王?…………あれ、国王?」

気づいたときには、国王の姿は消えていた。



考えるより先に体が動いたのだろうか。

俺は、頭の中での自分の目的の存在が薄れていっていたことに今更ながら気づいた。

情報収集だけに満足して、肝心のMrk.3抹殺という本来の目的を忘れてしまっていたようだ。


そう、あの白仮面も――――――



俺は急いでルナの家に来た。


さっきまでの蒼穹の面影はどこえやら、夕日も沈みかけていた頃だった。

カナカナカナと、種類は分からんがセミの鳴き声が辺りに響く。

俺の不安を掻き立てるように…………



俺はルナの部屋に飛び込んだ。


その時だった。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



ブシャ――――――!!!



視界が真っ赤になった…………


一瞬遅れて、収拾がつく。



ルナの鮮血が、飛び散っていた。


「…………Mrk.3。」

とても国王とは思えない声に、Mrk.3は戸惑いを隠せなかった。


「フ、フフ、フッフフ…

フフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!




……呆れて物も言えん。


もう生け贄なんざどうでもいい……。

お前の霊魂はな、俺が、この眼鏡王国の国王が、この手で、抹消してやらああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


俺は―――きっとすごい形相で――Mrk.3に斬りかかった。


しかし、Mrk.3は不敵に笑いかけると、姿を消した。


「……………………。



くそおおおぉぉぉぉ――――!!!!!」

叫んだ。喚いた。怒りの感情が、止められなかった。


一瞬遅れて、ルナの父親が、暫くして、救急隊員数名が部屋に駆け込む。



ルナの命は、彼らに任せるとしよう。

俺は、この今、一瞬とも無駄には出来ない――――最善を尽くさねばならない。


俺が今やるべきこと、それは……


暁の命を守ること。

アイツはきっと、次の標的を暁に絞り込むに違いない。

人一人守れなくて、よく生前に国王が勤まったものだ。

Mrk.3、貴様は……



「俺が潰す!!!」


俺はルナの家を飛び出した。

幽霊って、こんなに早く移動できるんだって言うほどの速さで移動した。


いた、暁だ!

「はっ!?」


暁に、一台の車が突っ込む――――


「時の咆哮!!」

車は、その一撃を避けるようにハンドルを切り――――工場のコンクリート塀に衝突。

暁の体まで、数㌢。間一髪だった。


「Mrk.3!!!」

車から出てきた―――すり抜けてきたのは、紛れもなくMrk.3。

舌打ちをした後、逃走。


「フザけんじゃねぇよ!!!」

俺は後を追う。


Mrk.3が逃げ込んだのは――――病院。


恐らくルナもここに運ばれたであろう。

やつは、トドメを食らわそうとしているのか……


「どこだ、どこだMrk.3いいぃぃ!!!」


広い、広すぎてどこに逃げたか全く分からない。夜だったので、ほとんど通行人はいないのだが……



はっ!? 足音が聞こえた。


……暁!!



待てそっちに行くな、おい!!


必死で駆ける暁を、俺も必死で追いかけた。


暁は、手術室の前で、立ち止まった。

「えっと、僕は、ルナさんの……」

……?

どうしたんだ、コイツ。


誰に、話しかけているんだ?

辺りには誰も……


彼は驚いたかのように唐突に後ろを振り向いて、案の定驚きの表情を浮かべていた。

「は、はぁ……」

誰だ、誰に返事してるんだ、お前は!!


「あ、あの……ルナは今……」

そう言った後、数秒置いて、彼は背骨が抜けたかのように、ドスンとベンチに腰を下ろした。


これって一体――――


そして、急に表情が引きつり始めた。「手術中」のランプ下の、目の前の扉を向いて。


おい、どうしちまったんだ、暁、目を覚ませ!!



俺の思いが届くことなく、暁は、その後意識を失ったかのように、首が下にうな垂れた。



その時だった。目の前に、見覚えのある黒い影―――――白仮面が現れた。


「………お前。


お前。暁に何をやった? こいつに何をやったんだ?


おい教えろよ、貴様! 教えろっつってんだろ!!


てめえええぇぇぇぇ!!!」


俺は剣を大きく振りかぶり、白仮面に斬りかかる――――


「はっ!!」

違和感を覚えた。自分の剣が、体が、奴の体に、吸い込まれていく――――――



「これでいいだろ? Mrk.3。さぁ、一緒に逝こうか。」



夕闇に溶け込む病棟。



<新生鬼 眼鏡の聖地 新シリーズ突入。>



おまけ



「シナ……」

「……エ?


エ、ア、チョット、何ヨコレ……」

「え? 成仏だよ、成仏。」

「エ、チョット、私、幽霊ジャ………」

「成仏してくれなかったら、今日のシナの下着がどんなんか言っちゃうぞ。」

「エ、待ッテ、オ願イダカラ…」

「フリフリ付いてることも言っちゃうぞ?」

「エ、ッテカ言ッテルシ……ッテ!!



キャ――――――!!!」


夕闇に溶け込む境内。(終)





次回予告


次回より、新シリーズ「新生鬼 眼鏡の聖地 Sympathy」を書き始めたいと思っております。

次回も3パートに分かれております。

第1パート "Closed Field":国王とMrk.3の一騎打ちが、アツいです、はい。

第2パート (タイトル未定):ちょっと病んでます。ストーリー構成はまだ不十分。

第3パート (タイトル未定):国王がすんごいことになっちゃうんだから、マジで。


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