3-1 新生鬼 眼鏡の聖地 Chapter1 Akatsuki






新生鬼 眼鏡の聖地 Chapter1 Akatsuki



神無月


(神無月とは、本来陰暦の10月を示しますが、ここでの章のタイトルは、全て陽暦とお考え下さい。)



俺の名は赤西イツキ。高1。写真部。ストーリー上どうでもいいですがテツ。

あだ名は特にないが、強いて言うなら幼なじみの大泉キョウからは「暁」と呼ばれている。そういや、変な時代にタイムスリップして、YKKとか

言うコードネームをもらったこともあったりなかったり……。

いずれにせよ、今俺は、写真部の部室である視聴覚室にいるわけだが……。

あ、来た来た。

「よう、暁ぃ!!」

キョウとやっくんだ。

やっくんこと薬師寺ヤクモは、その名の通り寺で生活しており、根っからのオカルトオタで、かなり暗い生活である。

心霊写真を撮るのが趣味で、それなりにカメラにも愛着があるからここに入ってきたそうだが……。

やっくんというあだ名は、ハ○ヒでいう谷○的存在のキョウが無理矢理つけたあだ名だ。あまりにも暗い性格なもんだから、本人は嫌がってるか

どうかさえわからないが、いずれにせよ写真部全体で定着していることは確かだ。

キョウは「お前と一緒の部がいい」という理由で入ってきたのだが、萌えヲタでア○ルト系の知識が多い

あいつのことだから、どうせ盗(以下略。)

俺は無論、鉄道の写真を小学生の頃から撮りまくっており、写真を撮るのに生きがいを感じていたからここに入った。

まぁ俺は鉄道研究部、キョウは動画研究部か漫画研究部、やっくんはオカルト部でも作りそうな勢いで、自分のそれぞれ好きな分野の写真だけしか撮らないのだが……。

そうでなくても、学年のほとんどのやつが「写真部ヲタトリオ」と称して俺らを若干避けているのは仕方のないことなのかもしれない。

この3名にもう2名加えて、「ヲタ5人組」と言っている輩もいるらしい。


今日も活動が終わり、帰宅途中。

「おう、赤西 with大泉じゃねぇか!それから……あぁ、薬師寺か。」

彼は谷野ショウタ。帰宅部。ゲーマー。特に太○やステ○ニといった音ゲーに関しては結構極めているやつだ。

部活をやらない理由はもちろん、「ゲームをする時間が減るから」。

「私服か。今からどこへ行くんだ?」

「ゲーセン。」

「相変わらずだな。」

俺とショウタの会話に、案の定キョウが首を突っ込む。

「また叩きにか?」

「いや、踏みに。」

やれやれだ。彼が「ヲタ5人組」の4人目だ。


翌日。

5人目のやつは、俺の席の右斜め後ろの席だ。

「おい、赤西! 昨日の試合見たか!?」

出た、スポーツヲタ。彼は南野リョウマ。阪○と○ンバをこよなく愛する癖に、尊敬する選手は北○康○etc.という贅沢振り。ちなみに彼は陸上部。

「昨日はテレビ見てない。」

「おお、そうかいな……、おい東野、お前は見たよな!?」

スポーツのことになるとキョウより熱い男である。

「ちょっと、ボーっとしないでよ、横で宿題やってるんだから、少しは見せてあげようかっていう気にはならないの!?」

そして俺が最も忌み嫌う存在(教師を除いて)がこいつ。月宮ルナ。美術部。おとなしい性格である、俺以外に対しては……。


俺が中2の時、クラス替えでそいつと一緒になり、俺はその容姿に一目ぼれした。初恋だった。綺麗で優しい笑顔だった。

そして、あれは冬のこと。

俺は塾の帰りだった。

「きゃー!」

突然女の悲鳴が聞こえた。これでもお人よしな方の俺は、悲鳴の聞こえた方にすぐさま駆け寄った。

ルナが黒いコートを着た男に捕らえられている。明らかに誘拐しようとしていた。

「おい、放せ!」

明らかにルナや男の視野に入っていた俺は、そう叫ばざるを得なかった。(どうせ叫ぶつもりだったが。)

幸いにも男は臆病なやつだったらしく、ルナを解放するや否や一目散に逃げていった。

「だ、大丈夫?」

2人きりという状況を考えると心臓が爆発しそうだった。しかし彼女は刹那の優しい微笑みの後に、冷たい顔でこう言いやがった。

「白馬の王子様なんて信じてるわけじゃない。」

(どうも、筆者です。すみません、いきなりパクリです。これからも連発するのであらかじめご了承くださいませ。)


それ以来、俺はこいつと顔を会わせる度にこの有り様だ。なぜ俺とこいつが同じ高校になったのか理解できない。

「他の奴に見せてもらえばいいだろ? なぜ俺?」

「誰でもいいでしょ、頭硬いわね。あんた昭和?」

「はいはい、貸してやるよ。」

もううんざりだ。


昼休み中、

「なあなあ、暁?」

「ん?」

キョウが若干にやけながら俺に話しかけてくる。

「色々と考えたんだけどさぁ。」

「おう。」

「月宮ってツンデレだよな?」

はいいいぃぃぃぃぃぃ!?!?

「……はいはい、妄想はもういいから。」

「絶対そうだって。おれだったら普通に期待しちゃうなぁ。」

「…………。」

「でもユリヤちゃんも捨て難いなぁ…」

「は!?」

水島ユリヤと言えば、一言で言えばクラスのマドンナ的存在である。

「お前、同級生を芸能人と同じような感覚で呼ぶなよ。」

「だって、美人だし、巨乳だし、性格いいし、巨乳だし……」

結局そっちかい!!

「で、本題に入るんだけどよ……」

「んあ?」

「今度、遊園地行かね?」

「は!?」

遊園地と言われると、ここから近い遊園地は1つに絞られる。そこは、まぁT○DやU○Jと言った規模のものではない普通のものだが、営業は

そこそこ上手く行っているようだ。なんせ近くに張り合えるような娯楽スポットはないし。

「……そういや、もうすぐハロウィーンだな。なんかお気に召すようなイベントでもあるのか?」

「あ、いや、お前は別に興味ないだろーけど、ちょっと、俺の好きなグラビアアイドルが…」

やっぱりな。まぁ別に興味は(そんなに)ないのだが、一人では可哀そうという情が沸いたし、久々にジェットコースターやらに乗ってみたいので

行くことにした。


当日。10月下旬だけあって、結構ハロウィーンの装飾が施されている。

「で、キョウ。」

「あ?」

「何でこいつまで来てるんだ?」

「あぁ、それはだなぁ……」

こいつというのは、やっくんのことだ。

俺はそれほど仲がいいというわけではないが、人数が少ない写真部の中で、どちらかと言えば親しい方であった。

「こいつ、オバケ屋敷も結構好きだそうだから、連れてきた。」

若干シーズンズレてますが……。っつーかこいつ本物の幽霊じゃなくても好きなのか?

「ふふ、まあね。」

久々にやっくんのお声を聞いた気が……。


そして後二人、連れがいるのだが……、あ、間違ってもリョウマは連れてきたりしねぇ。

あ、来た来た。

「よう、赤西&大泉、そして…薬師寺じゃん!」

またこの台詞で登場したのがショウタ。そしてその隣にいるのはショウタの兄貴で、谷野ユウタ先輩。キョウのイベントは夜だから、

成人の同伴者として来てもらった。彼は元写真部だそうだから、俺は若干親しみを持っている。

「今日は音ゲーはないぞ、谷野。」

「分かってるって、だから持ってきたんじゃねぇか!!」

と言ってショウタが見せたのが、P○PとD○であった。

おいおい、やる気満々じゃねぇか。何のための遊園地だよ……。


初っ端ジェットコースターを一通り回った後、昼食の前に薬師寺の目的であるオバケ屋敷へと行くことにした。

「おい、あれ見ろよ!」

キョウがそう言って指差したのは、列に並ぼうか否か迷っている女子3人だった。どこかで見たことあるような……

「あれ絶対月宮とユリヤちゃんだよな? それから……。」

あ。本当だ。

「後一人は……三田!?」

「あ、あれヲタク4人組じゃない?」

「やべぇ、バレた。」

キョウめぇ、真ん前で叫びやがって!!

「何であんたがこんな所にいるのよ!」

やはりこれだ。

「どこにいたっていいだろ。」

「よくないわよ!」

「はいはい、悪かったな。」

「ぁ、谷野先輩、お久しぶりです。」

ユリヤと谷野兄弟はご近所だそうで。

「最近見ないうちに大きくなったな。」

「……何がですか?」

「やだなぁ、身長に決まってるじゃないかぁ、あははは。」

(絶対誤魔化してるな、この人。)

少なくとも俺は思った。

「大泉くん達もここに入るの?」

「あ、あぁ……」

おい、キョウ、ガチガチじゃねぇか。

「えぇ、入るのぉ!? コ~ワ~い~!!」

出た、ブリっ娘。

ぁ、これがいつもの三田アイナの本調子だから、読者の方もご心配なく。

「悪いが俺はパス。」

谷野ショウタ、ゲーマー、あらゆるジャンルのゲームをこなす、ホラー系を除いては。

「おいぃぃ! 7人じゃ二人ずつで回れねぇだろーが!!」

キョウ、やっぱお前の狙いはそれか。

「しゃぁねぇ、ここはお若いもん同士ってことで。」

兄弟はやはり似るものだ。この兄弟、オバケやら幽霊やらはNGである。

「俺はもち、行く。他は!?」

キョウは笑顔で答えた。

「まぁこういうの嫌いじゃないし、俺も行く。」

と、俺も平然と言った。

「僕も。」

オバケ屋敷を目の前に、若干テンションが上がったヤクモ。流石だ。

「私も行くよ。ルナは?」

「行、行くに決まってるじゃない!」

「じゃあ……アイナも入るぅ!」

実は怖いもの知らずのアイナであった。


で、数分後。

谷野兄弟はバイキングに乗ると行って立ち去った。

すでに中に入ったのは4人。

そして今寒空の下で順番を待っているのは、俺と……ルナであった。

「何であんたとなのか知らないけど……まあいいわよ。」

いいのかよ。

「ではどうぞ、お入り下さい。」

あぁ、早く終わらせてぇ。

さっき「嫌いじゃない」と言ったが、実際は少しビビり症である。


あぁ、暗い。

何か寒気するし、オーラがひしひしと伝わってくる。

そういや、ルナは、やけに静かだ。

「おい、お前もしかして……ビビってる?」

「まさk…いやぁ!」

何だよ、上から首(の模型と言ったらいいだろうか)が落ちてきただけじゃねぇか。

いくら女とは言え、そんなにビビらなくても。

「……おい…くっつくなよ。」

「ぁ、ごめん……」

あれあれあれ? もうピンチ?


もう結構歩いただろうか。

「何だ、結構大したことないな……?」

気が付くと、ルナは俺にぴったりとくっついていた。

その瞬間、忌々しいあいつの言葉が脳裏に蘇った。

"月宮ってツンデレだよな?"

……まさかな。

暗すぎて、振り向いてもルナがどんな顔をしてるかは分からなかった。

「月宮……?」

「ぁ、ご、ごめ……」

やべぇ、半泣きか、こいつ……。

こいつがツンデレかどうかなんてどうでもいい、ばかげた話だ。ただ、俺の目の前で泣くのは、彼女のプライドに反するに違いない。

第一、目の前で声を上げて泣かれたりなんかされたら、こっちが困る。

だから言ってやった、「別に俺は構わねぇよ……手…つないでも……。」ってな。


しかし、帰宅してベッドに入ると、やけに考え込んでしまった。

あの後、本当に手をつないできたのだが、俺は急に意識してしまって……しかも相手は、俺が忌み嫌っているルナである。

しかも出た後に、本当にあいつの目が赤くなっていたのには……正直情が沸いたというか……。

何なんだ、このモヤモヤは。

俺があいつごときに……。

まさか…なぁ……。



霜月


文化祭は11月なのだが、文化の日というわけでもない。


我が写真部が撮りためた写真を披露する絶好の機会……のはずなんだが、結局は科学部、演劇部、軽音楽部、魅力ある教室展示その他もろもろに

客を取られる始末。まぁ、元々そんな楽しいものじゃないし。

「キョウ君キョウ君、君はどこへ行くんだい?」

「お前はフ○バの草○紫○か、谷野。俺は…吹奏楽部でも見に行く。」

「またユリ、(バシッ!)うっ……うわーん、キョウ君がぶったー!!」

「んるせー!! お前は紅○か! 別に水島とか、そんなんじゃn…」

『本日は○○高等学校にお越しいただき、真にありがとうございま~す♡ 今年は…』

ユリヤは吹奏楽部、アイナは放送部に所属している。

「…………。」

「谷野、まさかお前……。」

「ば、ばか、べ、別に、アイナちゃんのことなんて…」

「ふ~ん、"アイナちゃん"ねぇ……。」

ショウタの顔がだんだん赤くなっていく。

「人のこと言えn、(ポカッ)んぐ…いってぇなぁ!」


「おい、やっくんさんよ、お前この写真……。」

「何って、見ての通り、学校で撮れた心霊写真だよ。」

お、おぞましい……。

「お前、ホント物好きなやつだなぁ……。」

「あぁ~!」

またルナのやつだ。

「何であんたがここにいるのよ!?」

「お前いつもそれだなぁ、書道部と美術部と写真部の展示場所がココだから、仕方ないだろ?」

「あんたがいると空気が汚れるのよ、ヘンタイ!」

「じゃあとっとと出て行け、バーカ。」

「バカって言う方がバカなのよ!」

「お前もバカって言ってるじゃん……はいはい、俺はバカですよ。」

「あ、そういえば……」

え、ここでやっくん?

「午前中にオバケ屋敷一通り回ったんだけど、どこも全然怖くなくてさぁ……」

お前が一番バカだろ? その話題出したら……やべぇ、心臓の鼓動が……。

「わ、私のチーム、執事カフェやってるから、よかったら見に来てよね、じゃ……」

そう言い終わるや否や、ルナは足早に去ってしまった。

俺らの学校の教室展示は、クラスごとではなく、チームごとで競い合う。体育祭と同じチームである。

「あばよ、泣き虫。」

俺の声も恐らく聞こえていないだろう。

横に目をやると、あのいつも無表情なやっくんが口元に若干笑みを浮かべていた……。

こいつ、意外とSだな……あなどれんやつだ。


「アイスコーヒーをお持ちしました、お坊ちゃま。」

「お坊ちゃまちゃうわ!」

執事カフェでは、リョウマが執事の格好をした女子におちょくられていた。あ、言うのを忘れていたが、リョウマは中学卒業まで関西に

住んでいたそうだ。ただでさえ性格が悪いというのに、こっちに来てからも関西弁で話すもんだから、余計こちらの気が狂う。

「随分と楽しそうにしてるじゃないか、お坊ちゃま。」

「てめぇ!!」

颯爽と入ってきたのは、キョウだ。吹奏楽部の演奏まで、まだ時間があったので、ここに立ち寄ってみることにしたのだ。

「あ~、○ョン君だぁ~!!」

キョウは口をポカンと開けたまま、固まった。

声の主は、アイナであった。

相手が男なら『俺がお前の兄になった覚えはない!』とでもツッコんでいただろう。キョウは所詮オタク。

女を前にすると、固まってしまうようだ。

「この高校のラノベブームの火付け役はキョウだからな。恐ろしい。」

リョウマが微妙なタイミイグで謎の補足を加える。

「注文はな~に?」

「え、えっと……」

「どーも。」

その後ろから俺が入ろうとしたその時。

「いやああぁぁ!」

後ろから女子の悲鳴がしたかと思うと、俺の方に回りこんできた。俺を盾代わりにしようというらしい。

そして俺のところにきたのは……執事の格好をしたルナであった。

その視線の先にあったのは……アブだった。

「……アブかよ。」

「ぃゃあ! 殺してよ!」

「残酷な奴……」

俺はイライラして、その場をスタスタと歩き去った。

「あわわわわ……」


「それにしても、絶対ツンデレだと思うよ、月宮。」

「はぁ!?」

全く関係ないリョウマまで驚いているのだから、俺が驚いたのも当然である。

「月宮は暁に惚れているのに、中2のころあんだけ月宮に惚れていた暁が避けるなんて……」

「ホントにそうやったら……ホント、残念な奴やな。」

「ホント、KYだな。」

「大泉……それ使い方間違ってないか?」


「ルナ、結構焦ってるかもよ?」

女子側でも、暁とルナについての話題が持ち上がっていた。

「へ?」

アイナは結構鈍感である。

「だってもうすぐクリスマスやらバレンタインやらとあるから……」

「え~っ!? ルn……」

「バカ! 声がでかい!」

アイナと話しているのは五十嵐テルミ。学校一の元気娘。ちなみに流行と噂にめっぽう弱い。ルナとは中1からの仲で、それなりに親しかった…

…はず。


「ホント、中二病やな。」

「大泉、それ明らかに使い方間違ってるから。」



師走


その日はイブ。ほら、去年のイブ、休みだったでしょ? それそれ。

キョウとやっくんと俺は、カラオケで楽しんでいた。

「またお前アニソンかよ。」

「ヲタクならアニソンだぜ、暁。」

「こら、踊るな、誰か外で見てたらかなりハズいぞ。」

「ほらほら、やっくんも踊れよ!!」

「OK。」

どうせキョウから半強制的に覚えさせられたんだろうな……可哀想に。


その後。

「……カラオケにも般若心経ってあったんだな。」と、俺。

これにはキョウも流石に引いてたけどな。

流石は寺っ子。やっくんは完璧に歌ってのけた……


「おい、暁、ゲーセンでも行かねぇか?」

「わりぃ。あいにく金欠でねぇ。」

「貸してやろうか?」

「いい。帰る。」

やっくんも帰りたそうな顔をしていたので(表情でこいつの意思を分かるようになったのはいつからだろうか……)、そこで解散した。


駅前(田舎駅じゃない)の本屋に立ち読みにでも行こうと思ったので、駅の近くまでやってきた。

男女1組……おそらくカップルと見受けられる……が寄り添って歩いている。

そうか、今日はイブ -恋人と過ごす聖夜- か。

恋愛なんて程遠いよな、俺ら、ヲタクだし。(そもそも、俺が自分をヲタクだと自覚したのはいつからだろうか……)


なぜだろう、急にアイツの顔が思い浮かんだのは。

『月宮ってツンデレだよな?』

だから、アイツとばったり会ったのは、正直「神様のバーカ、サンタのバーカ、キリストのバーカ!」と叫びたくなった。

(注:別にキリスト教の方を侮辱して書いているわけではないので。もしそう受け止められたのなら、ごめんなさい。)


「何であんたがここにいるのよ!!」

お決まりのフレーズ? てゆーか既に死亡フラグ?

「今日何の日だと思ってるのよ!!」

「俺だってごめんだ! 逆に聞こう、なぜお前がここにいる!?」

この時はおかしいと気付かなかった。いつも冷静に右から左へ受け流していた俺が、○男爵のオチみたいな聞き返し方で、それも明らかに熱の入った返答をしたのを。

「なんでもいいでしょ!」

「何だよ、その返答は!」

「何でイブにあんたと会うのよ……サイテー。」


その後

「……何でついて来るんだよ。」

「帰り道……こっちだから。」

「あっそ。」

何だ? この微妙な空気は。さっきのハイテンションは何処(いずこ)へ……

向こうもそれを悟ったのだろうか?

「兄弟……いるの?」

「あぁ、妹が一人だけ。」

こんな話題で沈黙を破ろうとしたのか、コイツ?

「……スキ?」

「んぁ?」

なぜか「スキ」という言葉に平静を保った俺。

「…妹さんの事よ。」

"さん"いらねぇだろ。

「まぁ、家族だし、大切な人だとは思ってる。」

「もしかして……シスコン?」

あの……再び死亡フラグ立ったんですけど。

「バーカ、んなわけ…」

「うっそだぁ!! どーせ影で『萌え~(♡)』とか言ってるんでしょ~!?」

始まった。

「人を勝手にロリコン呼ばわりするな!」

「あれぇ~、ロリコンとは一言も言ってないよぉ~、イツキ君!?」

勝ち誇ったような顔。あぁ、ムカつく。


でも……キョウの奴ほどは憎めない。なぜだろうか。

「まぁいいわ。じゃあ誰が好きなのよ?」

「はぁ!?」

「早く言いなさいよ!」

「バカ、何だ、そのノリは。」

「ノリとか言わずに、さぁ!!」

「何でお前ごときに言わなきゃなんねぇんだよ!!」

「誰にも言わないから、さぁ!!!」

「何で何だよぉ……」

今はコイツではなく、コイツのことしか思い浮かばない俺の方が憎かった。

「じゃあ当てるわ。そうねぇ、ロリコンだから……」

「バーカ、俺は色気のある方が好きなんだよ!」

「ますます怪しいわね……ってことは貧乳好きだから……アイナ!?」

「ちげーよ、あんなやつ!!」

「嘘っ!? 可愛いのにぃ~。」

こんなことなら、嘘でもいいから「水島さん」とか言っておきゃよかった。

「じゃあテルミ!?」

「あんなゲラ女、こっちから願い下げだ!」

実質、大多数の輩がテルミの性格に気にくわない部分があると思っている。

「小さくて可愛いのにぃ~。」

「黙ってればな。」

「あれ、ってことは図星ってこと!?」

「んなバカな!!」

「やっぱりそうなのね!、ふ~ん、若干ロリが入ってるのね~」

「お前……」

「まぁいいわ! 薄々気づいてたのよ、どうせ、」

「どうせ?」


…………。

あれ、なんだ、この刹那の沈黙は?

「……もう知らない!」



ちなみに、キョウの奴はあの後、ショウタとつるんで○達やらダン○ボやらを延々やらされていたそうな……




睦月


「アケオメさん!」

「大泉、"お疲れさん"みたいに言うなよ。」

「暁ぃ、堅いこというなよ。」

「よう、赤西と大泉、ほんでもって……あれ、薬師寺は?」

「バーカ。初詣を迎え入れる側じゃねぇか。」

「バカバカ言ってるほうがバカなんだぞぉ、暁ぃ、(ボカッ)」


「大泉、いい加減にしろ。」


本日はこのメンツ(後からリョウマが入ってきたのは計算に入れてなかったが)で初詣。

やっくんの寺(無論、薬師寺)は、そんなにデカい寺ではないが、初詣となると結構な人が参詣する。


で、その北中の野郎とハチ合わせした後。

「何だよ、やっくん。隅っこでほうきかよ!」

「うん……今は。」

これ以上何も言わないが、ショウタを嫌がっているということを若干アピールするかのような顔つきのやっくんだった。(少なくとも、俺にはそう見えた。)

「まぁ、地味な仕事が一番薬師寺っぽいやないか!」

明らかにリョウマを敵視しているような表情のやっくん。(少なくとも、俺にはそう……)

「そういえば、前から気になってたんだけど……」

「……?」

「やっくんって巫女さん、スキ?」

"スキ"という言葉に、最近かなり敏感な俺。 一方、コレは確実に俺に助けを求めているな、という表情のやっくん。(少なくとも、俺には……)

「さぁ、バカはほっといて、みんな、早く参ろう。」

「バカって行った方がバカなんだぞ、暁のバーカァ!!」

ショウタも流石にこの大泉のハイテンションにはついていけないようだ。

足早に俺たちはやっくんの元を離れた。

最後に俺は、もう一度やっくんの方を振り返った。


やっくんは……俺じゃなくとも分かる、明らかな安堵の表情を浮かべていた。



何やかんやで新学期が始まり、今日は避難訓練。


「今日は地震とそれによる火災が同時に起こったという想定なので……(云々)」と担任。

どうせグラウンドに出たら、寒い中で校長の長い話を聞かされるだけ。口をハンカチで抑えろどうのこうのとやらを守るやつが、果たして何人居るかどうか……。


来た。空襲警報サイレン音だ。

まあこの段階で不真面目に机の下にもぐらないやつはそれほどいないだろう。っつーか、実際に地震が来て、机に隠れずに踊ってる奴なんて、小学生のやることじゃねぇか。

まあそれはいいとして……案の定、俺の隣はアイツ。


俺につぶやく、

「ちょっとぉ、スカートの中見たでしょ?」

「バーカ、見てねぇよ。」

「ヤラしい。さっきからチラチラとこっち見てたし……」

仕方ないことだ。そろそろ末期とはいえ、思春期(心はかなり老いぼれているか腐ってるかしてるも知れないが……)男子としては、十分健康的な

生理的現象……って、屁理屈かも知れないが……。

だって、見えたものは仕方ないじゃないか……白だった。


その日の下校時。

俺はキョウと校門を出るところだった。

「あ、忘れ物した。」

「何?」

「宿題。」

「今日は?」

「英語。」

「あぁ、アノ先公はうるさいからな。」

「先公って、いつの時代だよ。」

「いや、今でも使えると思うけど……


でもぉ、何か怪しいなぁ……」

「はぁ?」

「あぁ、さてはルナちゃんと何かあったろぉ~!?」

俺は若干吹きかけた。

「さてはぁ、ルナちゃんと、放課後の教室で、2人きりのぉ…(ゴンッ)…ってぇな!」

俺はキョウを無視して、校舎へ駆け戻った。何にせよ、教室に英語の宿題を忘れたのは事実だ。


教室の前まで来た俺は、やっくんとテルミが教室の鍵をかけているのを見た。

「あ、俺教室に忘れ物したから。鍵は俺がかけとくから。」

「あぁ、ありがとう。」

テルミは鍵をあけると、俺に手渡した。

「じゃあ私たちは先に帰るね。」

「あ、あぁ。」

正直、やっくんとテルミというペアは違和感を感じたが、そこはあえてスルーしておいた。

テルミが振り返って帰っていこうとするのをみて、俺は教室に入った。

やっくんは、教室をもう一度振り返ると、小声で「ぁ。」と言った。そして少しニヤついた。その仕草に、俺は気づいていなかったが。


教室に入り、俺は机に手を突っ込み、忘れ物をかばんに入れた……入れていた。

そして俺も……「あっ。」と、心の中で言った。

俺の隣の机……ルナの机の上に……毛糸のマフラーが置いてあった。

確かに……朝にルナがこれを巻いて教室に入ってきたのを俺は覚えている、ていうか、なぜ俺はそんなことを覚えているのだろうか。


高鳴る胸……いつからアイツのことを意識し始めたのか……まぁ確かに中二のころは好意を抱いていたのだが……。

早まる胸の鼓動……俺はそれに近づいた。

俺は……それに手を触れた。

俺は…………それに若干顔を……鼻を近づけた。

何というか、男からだろうか、上手く表現できないのだが……いい香りだった。


俺はハッと現実に戻った。早くキョウの所に行かなくては。

俺は辺りを見回した。見られたら、それはそれは十分に恥ずかしい痴態だったろう。

誰もいないことを確認し、少し胸をなでおろした俺。鞄をひっつかむと足早に教室を出る……。


痴態を……見られていたようだ。

テルミとキョウと、俺と同じくして偶然忘れ物をしていたリョウマだ。


くそっ……何であいつらなんだ!!



アイツらは3人そろってこう言うや否や、猛スピードで逃げ帰っていった。


「かわいいぞ、暁ぃ~!!」




如月


後日、その噂は結構広まってしまったようだ、もちろんアイツラ(主犯はおそらくテルミだろーが)のせいで。幸いにも、

ルナには伝わらなかったようだが。


いや、もしかして隠してる?



それはそれで気になるところだが、俺は2月になってから無性に不安やら、緊張やら、興奮やら、何とも言い難い複雑な念にかられる。


その日は、刻一刻と迫っていた。

Valentine Day -何とかティヌスとかいうおっさんの命日-

(別に何とかティヌスsを侮辱しているわけではないのであしからず。)

本来、モテない男には縁のない日。別に、祝日でもあるまいし。

例年何も期待せずに過ごしてきたではないか。何故今年になって……。

まぁ……確かに高校で初だから、というのも……。

…………。


「あぁ、ユリヤ様からもらえるかなぁ~?」

「キモいぞ、萌えオタ。」

コイツ、いつからユリヤに"様"をつけてるんだ?

「せめてアイナちゃんから義理でもいい!!」

「…………。」

全く。大泉のハイテンションぶりにはうんざりさせられる。


バカがまた一人。

「……バ、バk、リョウ、マ、なんで、ア、さ、三田の名前を?」

「ふん、どうせ頭の中では"アイナちゃん"、"アイナちゃん"って呼んどるくせに。」

どうもキョウとテルミとリョウマは最近グル、っていうか連絡網(?)的な関係になっているらしい。

「だ、誰から聞いたんだ!?」

「動揺しすぎやろ、アホやなぁ~。」

リョウマはかなりニヤニヤしている。まぁ、両方バカって言えばバカなんだが……


人のこといえるのか、俺?


はぁ、それにしても、今年は、誰かから義理チョコでももらえるのかなぁ……

そういや、国王の誕生日も2月だったっけ、誕生日ケーキは毎年チョコレートケーキだと聞いたが……

月宮さんは今年、くれるのかなぁ……ぃゃぃゃ。

国王、今頃元気にしてるかなぁ……今の時代じゃないか。(ちなみにホントの主人公である国王は、ご存知の通り今頃Mrk.3に殺されかけている。)

ルナのチョコ、本命かなぁ……いやいやいやいや。

…………/////。

ルナ、どんなふうに俺にチョコ渡すんだろ……いや、落ち着け、俺!!



そんなこんなで、遂に来てしまった当日。

「おい、オレ、三田から義理もらったぜ。」

「お、俺も。」

「……マジで?」

朝の廊下で騒いでいたのは、確か柔道部と剣道部の……隣のクラスなもんだから名前は知らんが……とかくヤンキーで有名だそうだ。


「うぅ、靴箱も机ん中も、埋め尽くされると思ってたのにぃ……」

「いや、絶対モテないから。」

朝っぱらから泣き(?)喚いているキョウと、意外と冷静なツッコみを入れるショウタ。

「あぁ、赤西ぃ!」

「ぁ、ょぅ。」

キョウらんところ行こうと思ったらリョウマに呼び止められた。

俺の耳元で囁く。

「愛しのルナちゃんからお声はかかったかいな?」

//////。

「べ、別に、スキでも……。」

「あぁ、そうか、そうなんやな。じゃあマフラーのこと、バラそk…」

「バ、それとこれとは話が別じゃないかぁ!」

「動揺しすぎや。冗談の分からん奴やなぁ。」

////////////。

「もう少し……素直になったらどうや?」

リョウマが声のトーンを落とし、ぼそりと呟いた。

「ん?」

「いや、いくらなんでも、毛嫌いしすぎやから……大泉から聞いたぞ、中学のころ、スキやったんやろ?」

「!!!???」

なぜ大泉がそんなことを知っている……俺は、そんなこと誰にも……。

「何があったか知らんけど……もう少し考え…」

「余計なお世話だ。」

俺はそそくさとリョウマから離れていった。


確かに俺はアイツを毛嫌いしすぎていたのかもしれない……不自然なほどに。

そこから、今日も変な想像(妄想?)が始まってしまうのであった…。


「あ、えぇっと……」

俺はビクッとした。声の主はルナだった。

俺が振り向いてから数秒後、ルナは咳払いをしてこう言って、そのまま去っていった。


「ほ、放課後、た、体育館裏に集合、いいわね!?」



「はいはい、どうした?」

運命の放課後。俺は表だっては平静を装うとしている……しかし心臓はバクバクだ。

落ち着け、俺!

何で意識してんだ、俺?

っつーかやっぱり、もっと素直になるべきかな、俺。


寒空の下(立春過ぎたから、これでも春なのだろうが)、何分とも知れない沈黙が続いた。

俺は待った、無言のまま。俺は……己の素直な期待を胸に……待ち続けた。


結局それ以上お互いに口を開くことは無かった。



……が、ルナはうつむいたまま何かを両手で押し付けた。俺はそれを両手で受け取った……受け取るや否や、ルナは一目散に走り去っていった。

いかにも"アレ"チックな包装紙。

俺はまだ夢心地……いや、何が起こったかまだ少し収拾がつかなかった。

何故俺は、あんなに嫌っていたアイツを意識し、待ち、……それを受け取ったのか。


帰り道に、例のアイツらと会わなかったのは幸いだった。



さぁ、自分の部屋に着く。勉強机に座る。……やはり……開けるしか…ない、よな。

まだ手が震えている…。

俺は"それ"に手をかけた。

男は度胸…優柔不断な男は嫌われる。思い切って包装紙を破り、中を見る。


間違いない、それはチョコだった。

どうやら手作り…のようだ。美術部だから、こんなことも器用なのだろうか、などと思ってみたのは、寝る前にそれを食っていた時だった。

で、次元は部屋到着時に戻って…

あ、紙……?


殴り書きでこう書かれていた。



"義理なんだからね、バーカ!!"



俺は期待を裏切られたようには、不思議と思わなかった……むしろ安心した。

「バカって言ったほうがバカなんだよ、バーカ」、思わずつぶやいてしまった。



で、その食っている時。

もう一度、俺はその殴り書きされた紙に手をかけ……!!


何、封筒!?

まさか…"義理(こっち)"か"あっち"か迷ったのか……

まぁ、義理なんだから、手紙は入って……!!!


え……なんか急に胸の鼓動が……



さっきの殴り書きとは見違えるような綺麗な字で、こう書かれていた。



『イツキ君へ。


嘘です、義理じゃないんです。


あの、助けてもらった日から、ずっと、好きでした。


返事は要りません。ただ、伝えておきたかったんです。




今まで、冷たい態度をとっててごめんなさい。


月宮』



俺は……不意に笑いが込み上げてきた。

なぁ、大泉?

『月宮ってツンデレだよな?』

全く……その通りだよ。


今日は思いのほかぐっすり眠れた。



翌日、俺は頭が壊れたのだろうか。


「おい。」

学校で、語気を強くしてルナを呼びかける俺の姿があった。

ルナはビクッとして、こちらをふり向いた。

「今日の放課後、空いてるか?」

ルナはまたビクッとした後、コクンと一回うなずいた。

「じゃあ、公園に来い、お前んちの近くの、以上。」

俺はルナの目の前から去った。


「あれぇ、ルナちゃん、赤西と何かあったのぉ~?」

嫌味ったらしくルナに聞いてきたのは、テルミだった。

「べ……別に。」

「いつもなら赤西とだけ強く当たってたくせにぃ~。」

「……。」


「もし、もし仮の話だとして……」

「?」

コチラ、キョウとやっくんとショウタ。

「もし月宮が暁にチョコを渡したとしても、なぜ暁があんなに語気を荒げていたのか……」

「そりゃ謎だな。」と、ショウタ。

「謎……。」久々の登場なのに、このシーンでの台詞はこれだけのやっくん。

「気になるな、俺らもこっそり行ってみるか。…ぁ、やべぇ、用事思い出した。」

「俺も無理ぽ。」

「僕は元から行く気ないし。」



…………。

「何なんだよ、この態度の変え様はよう!」

「……。」

「あの日からグチグチ言うようになったと思ったら、コレかよ。俺はお前の玩具(おもちゃ)じゃないんだ。これ以上俺を振り回さないでくれ!」

「…………。」

俺は言いたいことを片っ端から言っていった。ルナの瞳が潤んでいくのに気づくのには大分時間がかかった。

「「……ごめん。」」

ハモった。

「ごめん、言い過ぎて。」

「私もごめん……そんなつもりじゃなかったのに…気持ちを隠そうとしたら、つい……」

ルナの頬に涙が伝う。



俺はいい言葉が見つからなかったが、とりあえず…

「ごめん…これ、よかったら使って。」

俺はポケットにたまたま入っていたハンカチを差し出した。

「ありが…と…」

まだ泣きじゃくっているようだ。


さて、この沈黙をどう破るか……。

…………。


「……時間をくれないか?」

「?」

俺は、今、ここで、気持ちを切り替えた。

「俺に…返事を考える、時間をくれないか?」

ルナはいまいち状況が把握できないのか、しばらく俺を見て固まった……その後、コクリとうなずいた。


「今日は衝動で呼び出して悪かった。……もう俺は…帰る、ぞ?」

ルナはまたコクリと大きくうなずいた。


俺は……重い足取りで去った。ハンカチを返してもらうの忘れたのに気づいたのは、家に帰ってからのことだった。




弥生


なんやかんやで、そのまま3月になってしまった。


正直言って、俺の心の中は曖昧だった。



確かに好きだった、中2の時は。しかし、嫌いになってしまった彼女のことを、すぐに好きだと思いなおせるのだろうか。


無理だ。



……いや、待てよ。

俺が嫌いなのは、ガミガミうるさい……というより、ツンデレのルナであって、


…俺が好きだったのは、今と同じ、おとなしくて、素直で、いつも優しく微笑みかけてくれるルナだ。



俺の心の中には、まだ彼女に対する好意が微かに残っていたのかもしれない、自分でさえ気づかないほどに。


さて、いつ返事をしたらよいか……やはりホワイトデーだろうか。

いや、もし期待して待ってくれているのなら……もっと早い方が……


本日、3月2日、日曜日。明日は桃の節句とかいうやつである。


なぜだろう、この時に、あの人の顔が思い浮かんだのだろうか。

おそらく、この時のために、その出会いはあったのかもしれない。


いずれそうだというはわかった、ちょっと別のニュアンスではあったが。それは追々、筆者から説明があるだろう。


それに俺には……元から眼鏡属性が…



翌朝。教室。


もちろん3学期の初めに席替えをしたので、ルナとは席が離れている。それと例のこともあってか、あの日以来、

ルナとは一度もしゃべっていない。


「「あ、あの……」」

ぁ、ハモった。


「あの…コレ……」

そういって差し出したのは……あ、俺のハンカチ。

「ず、ずっと、学校には持ってきてたんだけど……。」

昔と同じ、小心者のルナ。……やっぱり、かわいい。

「あ、はいはい…」

刹那の沈黙……俺はすぐに打ち破る。

「あの!」

「?」

「今日の夕方……空いてる?」

ルナはコクリとうなずく。

「今日部活ないよね?」

またコクリとうなずく。


「じゃあ……放課後、あの公園で。」



俺はその日、運悪く、何だか忘れたが居残りをさせられた。

気分、害してなきゃいいけど……


俺は急いでその公園に向かった。

正直、何を言おうかなんて具体的に考えてなかった。ただ、今ひとつだけ言えること。



俺は、まだルナのことが好きだ。



さて、少し蒼穹がオレンジがかったころ。

公園まであと少し……!!!



俺は、最初の1秒間、何を見たのか把握できなかった。

向こうの方で、白い高級そうな、低速で走る車の後部座席のドアが開き、腕が伸びたかと思うと……


少女の……ルナの腕を掴み、引きずり込み、……ドアが閉まる。



頭で考えるより、身体が先に…反射的に動いた。

俺は、白い車の前に立ちふさがった……下手したらひき殺されていたかもしれない。


急ブレーキで、俺の目の前で車が止まる。

運転席から、長身の男が現れた。

「邪魔だ小僧、どけ!」

「逃げろ、ルナ!!」

俺はとっさに叫んだ。

ルナもまた、自分のおかれている状況を把握するのに苦しんでいるようだ。

「早く!!!」

ルナは気がついたかのように後部座席のドアを勢いよく開けるや否や、一目散に走り去っていった。

あまりに一瞬の出来事に、後部座席にいた仲間は、ルナを押さえ込んでいなかったという自分のしでかした失敗に戸惑っているようだ。

「何やってんだてめぇ!!

……おめぇもなぁ!!」

運転席から出てきた男は、俺の顔面目掛けて拳を突き出す。

「てめぇ、何もんだ!?」

「俺の……」

危なげに男の攻撃をかわしながら、何も考えず、俺はこう叫んだ。



「俺の女に手ぇ出すんじゃねぇよ!!」


「黙れ、かっこつけやがって! 目にもの見せてやる……」

そして男が懐から取り出したのは……拳銃だ。

モデルガンか本物かは分からない……しかし相当危ない状況だ。

気がつけば、俺の背後に、後部座席の男が立っていた。

その男が右手に持っているのは……ナイフだ。

これは相当ヤバい状況だ……


「こらぁ、何してるんだぁ!!」

助かった、ちびっこ的に言えば、お巡りさんだ。

ママチャリ(?)を猛スピードでこいで、急ブレーキ。

「君たち、何してるんだ!」

俺を挟んでいる男2人は、呆然としているのか、あきらめがついたのか、ただただ立ち尽くしていた。

英語で言うポリスマンの後から、誰かが追ってきた。ルナだ。


逃げる様子はないようだ。暫くして、呼ばれたパトカーがやってきた。

男2人は現行犯で捕まった。俺らは事情徴収として同行した。

あの拳銃はホンモノだったようだ、弾は満タン。車からは散弾銃なども見つかったとか。


「……ごめん、心配かけて。」

「何よ。連れ去られかけたのは私の方よ。


……ありがとう。」

「ん……あぁ。


……ぁ、そうだ、コレ。」

「?」

俺が差し出したのは……


「サン…グラス…?」

ルナのことだからなんか華美なものは気に食わないだろうと思っていたが……

少し地味すぎた感も……

ルナはそっと、かけた。


ぁ、まあまあ似合う。

「ありが、と…でも……何で?」

「いや、あの日の返事のついでに、一足も二足も…いや10歩ぐらい早いけど……

ホワイトデーのお返し、ってことで……」


「返事……。」

「いや、俺もホワイトデーにすればいいかと思ってたんだけど、

なんだが……煩わしいってか…


聞いて……くれる、俺の返事?」

ルナは、俺の顔を暫く見つめた後、小さくコクリとうなずいた。


「俺……中二の時…一目ぼれした、お前に。

でも、何か、あの、お前助けた時…冷たくされて……ついこの前まて…嫌いだった。


気づけなかったんだ、俺。

お前がどう思ってるとも知らずに、俺、カンペキにお前のこと突き放そうとして……

悪かった。


もう一つ気づけなかったことがあった。それは……

お前への……


お、お前のこと、大事だなんて思ってなかったら、あんな派手にお前を助けてなかっただろーよ。」

ルナの目は、だんだん見開いていった。


「そんでもって、俺は確信した。


お前への気持ち。






俺も……お前のこと、好きだ。



あの…


俺と……付き合ってくれます?」


なんか最後、丁寧語になってしまった。


刹那の沈黙……

「うん。」

ルナは大きくうなずいた。久々に、いや、初めてみた……ルナの、満面の笑み。



そして、夕暮れの道、ゆっくりと歩みを進める。


「何か、不自然だと思ってたら……」

「へ?」

ルナがキョトンとして……


ルナの目が、少し泳ぎ始めた。

俺が、唐突に、がしっと、ルナの手を掴んだからだ。

くぅ、かわいいやつめ……



「さ……さっき、私に呼びかける時、"ルナ"って言ってたよね?」

「ぁ、あの時必死だったから、よく覚えてないや。」

「あの時……ちょっと、嬉しかった。」

「……


…これからも、ルナって呼んでいい?」

「いいよ。

じゃあ、私も、イツキって呼ぶね。


……イツキ。」

「?」

「ぁ、いや、その……呼んでみたかっただけ……」


なんか……夢心地だ。

仮にもヲタクであり、時にキモがられる俺と、決してモテるわけじゃないけど、おとなしくて美人なルナ。

まぁ雲泥の差はないけど……


何か、バチが当たってても十分なくらい……幸せだ。



「ぁ、三日月。きれい!」

「バーカ。


もっときれいだよ、お前のほうが。」











卯月


話は一気に飛んで、始業式登校時。


「ハッハッハッハッハッ……




ミャハハハハハ!!」

「新学期そうそう気持ち悪いぞ、ショウタ。」

「ムッシュ赤西。」

「誰がムッシュだ。」

「ずーっと知らないふりをして黙ってましたが……


あなた、マダム月宮と付き合ってますよね?」

「マダムってなぁ……


……ってえぇ!?

そんなこと、あるわけ……」

「最近口論がない者ですし、たまたまお2人が一緒に下校するところを見たので尾行したのですが……


肩を寄せ合って、手ぇなんかつないじゃったりしてたもんですから。」

//////。

「以上、名探偵ポ○ロの、推理です。」

「誰だ、名探偵○ワロって!!

ってかそれ……似てるのか?」

「ええ。」

「まさかお前……

大泉から教えてもらったろ?」

「ソノトーリ。」


「くーっくっくっくっくっくぅ!!」

出た、キョウ。

「お前も○ワロの真似か?」

「「ソノトーリ。」」

息そろえて言いやがって。

「なかなかの推理だよ、ティッシュ赤西。」

「ムッシュだ!!、……(反射的に言ってしまった……)」

「あなたはマドレーヌ月宮をくどくため、わざと犯人役や警官役を頼んでもらって、あたかも自分が正義のヒーローのようにして演じていましたね?」

「あれは本当の誘拐犯と警官なんだって……


……って、ええぇぇぇ!?!?

何でそこまで知ってんだよ、お前ぇ!!」

「あの時、実はワタクシ、公園に居たんですよ。

交番に助けを求めたの、ワタクシですし。

"俺の女に手ぇ出すんじゃねぇよ"、でしたっけ、あの台詞にはシビレましたよ、ワタクシ。」

////////////

「以上、名探偵○ウロの、」

「「推理です。」」

またかよ……って、!!!!!!

文字だから危うく見落としかけたが、"名探偵ポワ○"じゃなくて"魔人探偵脳噛ネウ○"じゃねぇか!!

「この謎はもう、我輩の舌の上だ。」

さっき自分のこと、ワタクシって言ってなかったか……

「ハッハッハ、初歩的な推理なのだよ、w(よってこのくだりは、省略させていただく……)」



さて、いよいよクラス替えの発表。


何と幸運なのか、ルナとまた同じクラスだ。

それより、キョウ、ショウタ、テルミ、リョウマと別のクラスになれたのは、思わすガッツポーズしてしまいそうなほど、喜ばしいことだ。(隣で2人は愕然としていたが)



はぁ、筆者はこれを書いている時はまだ、高校生になっていないのに、俺はもう高2か……。

勉強……の話を並べると、読者が怒りそうだから止めておこう。

国王、元気にしてるかな……

まぁ、3000年後には生きてるけど、4000年後には死んでるし、言い方おかしいか。


教室を移動、新しい教室の、新しい席に座る。

「やったぁ! オレら、ユリヤさんと同じクラスじゃん!」

近くには、いつぞや見た、剣道部と柔道部の……

「オレ、管野ケンタ。ヨロシク。」

「お、俺、田原ゴウ。よろしくっす。」



桜並木(もう半分ほど散ってるが)の帰り道。

「イツキ~!」

さて、付き合い始めて早1ヶ月……手ぇつないで登下校を共にする以外、全くといっていいほど恋が進展していないような……

それでも、今は幸せである。


しかしやはり……何か進展させなければ。

「桜、キレイだね。」

ぁ、ちなみに付き合い始めて以来、ルナのツンツンモードはほとんど封印されてしまった。

桜散りゆく中、気まずいはずなのに、何となく自然な、沈黙。


「……ふぇ?」

「手が汗ばんできそうなんで……」

俺はルナの右手を離すと、すかさず左腕をルナの右腕に回しこんだ。


腕組み……読者にとっては小さな進展であっても、俺にとっては、大きな一歩であった。

ルナは、照れているのを悟られまいと、うつむきながら歩く。

そのルナの横顔に、しばし見とれている俺。


時が経つのも忘れてしまう、美しい時間が、そこに流れていた。



翌朝。


「イツキ。」

やっくんだ。その時まで、彼が俺のクラスということを知らなかった。

「おう、どうしたんだ?」


「何か僕、不吉な予感がするんだ。」

「不吉な……予感?」

「はーい、席に着けぇー。」

と、新担任の声がしたので、その話は中断。


そしていつしか忘れ去られていた……あの日までは。



2,3週間後、春の遠足。

行き先は、……某寺と言っておこう。


バスの席は……怪しがられないように、隣にやっくんを置き、後ろにルナという配置。

いつも遠足のバスで寝ていた俺だが、こんなに楽しいバスのひと時はなかった。

(隣で、やっくんが何やらブツブツとお経か呪文か何かのようにつぶやいていたが……)



近くの広場で昼食、もちろん持参の弁当である。

ルナがおかずを作ってくれるということで、俺はおにぎりを数個だけ持ってきた。

メニューは……ご想像に任せる。ただ、なかなか美味かった。


2人だけの、楽しいひと時……あ。


「ヒューヒュー、熱いねぇ!!」

キョウ、参上。(傍らにやっくんも。)

「いやぁ、もうそんな仲だったとは!」

俺らは反論する術も無かった。

「大丈夫大丈夫、そこまで広めたりはしないって、なぁ、やっくん!?」

"そこまで"が気になる、俺ら。

「あ、担任。」

「よーし、写真撮るぞぉ、ハイ、チーズ!」



パシャッ。





皐月


GW2日目、五月四日、みどりの日。



本格的なデートと言われれば、今回が初めてだ。

といっても、ゲーセンなのだが。

誰かに見られるとまずいので、隣町まで足を伸ばした。



とりあえずUFOキャッチャー。

ルナが気に入った台を選ぶ。

「これ!」

……お菓子か、意外と食い意地張ってるなぁ。


まぁお決まりみたいなもんで、俺が取るわけだが、そういえばUFOキャッチャーなんてあまりやったことが無かった。

今は亡き父(おぎす:映画評論家、ド変態、チブデブ、頭にフケが……これ以上はあまりに可愛そうなので省略。)が、妹に

ぬいぐるみを取ってはあげていたものだったが。


200円1回、500円3回。新500円玉(平成14年)を突っ込む。

結果、2回目で1個だけ獲得。3回目でかすりもしなかったのは悲しい終わり方だったが、ルナが満足していたのでよしとしよう。



次は……○達ですか。

しまった、ショウタと練習しておきゃよかった。


「"おに"はさすがに無理だから、"むずかしい"で……」

「ぁ、あの……」

必死にせがんで"ふつう"にしてもらった。


結果:俺は2曲ともかろうじてノルマクリアした程度、一方ルナは……

一曲目:"魂"とか言うところに余裕で到達、二曲目:フルコンボ。

「惜しいなぁ~、もうすぐで善良だったのに。」

そこまで追求するとは……俺は暫くお口ポカンだった。


その後、ダソ○ボ等の音ゲーに引きづり回され、ことごとく惨敗。俺が得意とするシューティングゲーム(ゾンビを倒す奴)もようやく

面目を立てただけに過ぎなかった。



楽しいひと時は飛ぶように過ぎる。


「締めはプリクラね!」

なぜだろう、笑顔のルナが、小悪魔に見えてならない。

しかしプリクラとは……そういや、やったことなかった。


かなり可愛めの飾り付けで設定したようだ。そこに俺の顔が入れば、絵づらとしては見るに耐えないほどに崩れてしまうだろうに。

「ハ、ハズいなぁ……。」

「ほら、笑顔笑顔!」


そういや、ルナと、2人きりで、この狭い空間に入っているわけである。

まぁそれなりに密着してるわけで……


「まだ顔堅いぞぉ、ほーら、笑顔!!」



少し蒼穹がオレンジがかった帰り路。

そう、あの日のような……


ただ一つ、あの日と違うのは、俺が、しっかりとルナの傍にいて、手を握っていること。


「イツキ……」

「?」

「やっぱりイツキの傍にいると、落ち着くっていうか……安心する。

ちょっと不器用で頼りないけど、スゴく優しくて……わたしのこと、一番思ってくれてる。


……だから、」

「へ?」

ルナは、俺に、抱きついた。


「もっと……近づきたいの。



大好きだよ、イツキ。」


俺は、無意識のうちに、ルナを、強く抱きしめていた。

「俺も大好きだよ、ルナ。」


俺は確かに感じた。

ルナの温もりを、ルナの胸の鼓動を、ルナの胸の感触を、そして、ルナの強い信頼を。




ゴールデンウィークも明けて、数日が経つ。


「赤西!」

俺は昼休みに、担任に名前を呼ばれた。

「はい……何でしょうか?」

「ちょっと時間あるか?」

「はい…」


俺は小会議室(半分物置状態)に呼ばれた。そこには……ルナと、やっくんと、キョウの姿があった。

「イツキ…」

「ルナ……?」

ルナが不安そうな目で、俺を見つめる。

キョウもいつになく元気が無いようだ。

やっくんは、相変わらずの物静かな表情をしていた。

「赤西にも見てもらいたいものがある。この前の遠足の写真なのだが……

壁に貼る写真を選ぼうとしたら、たまたま見つかったんだ。


このことは、くれぐれも内密にしておくように……。」

その写真は、俺とルナが弁当を食べていた時に、キョウとやっくんが乱入してきた時に、担任が撮ったあの写真。


俺は目を疑った。



俺の顔とルナの顔の間に、ある見知った少年の顔が、肩も、頸も写らず、ただ顔だけ写っていたのだ。





水無月


しかしながら、私たちはいつか忘れてしまっていたの、毎日のように降る雨に流されたかのように。



その夜も、梅雨真っ盛りかのように雨がしとしとと降っていた。


漫画を読んでいたら、予想以上に時が経ってしまった、わたし、ルナ。自分の部屋の中。

時刻はすでに午前2時を回っていた。

早く寝なきゃ……ぁ、歯磨きしてなかった。


仕方ない……してこようっと。



洗面所に着いた。自分の歯ブラシに手をかけた私。


誰かに見られてるような気がする……誰かに。


そんなわけ無いか……歯ブラシを口に当てた私。


ハッと何かの気配に気づいたの。紛れも無く、誰かいる。


私は恐る恐る鏡をじっと見た……




「いやあああああぁぁぁぁぁーーーー!!!!」


私は一目散に自分の部屋に走りこんだ。ベッドに飛び込み、タオルケットに包まった。震えが止まらない。目から涙がこぼれてきた。




洗面所の鏡に映った"あの"少年が、不気味な笑みを浮かべていた。


その時、私は気づかなかったの。


その少年の左腕と右足が無かったことを……




どうしよう……こんなこと、誰にも言えない…言っても絶対信じてくれない。

心霊写真の件があったとはいえ、イツキは信じてくれるかな……。


「ルナぁ~、どうしたの?」

ユリヤ。

「目の下に隈できてるよ。眠れなかったの?」

「うん……」

「どうしたの、赤西くんと何か……?」

「いや、そうじゃなくて……」

「じゃあ……」

うつむいていた私の顔を、心配そうに覗き込むユリヤ。

「何かあったら、いつでもいいから私にでも言ってよ。


私たち、友達だからね!」

「……うん。」

やっぱり言えない……恥ずかしい。


薬師寺くんにでも言うべきだろうか、彼なら信じてくれそうだし……


……やっぱり誰にも言えない!!




私は歯を磨きに、洗面所へ行った。


あの少年だ。


暗そうな顔をしていた。



「何か、やり残したことがあるの?」

私は鏡を向きながら話しかけ続けた。

「何か願いがあれば、私に言って!」


しばらくの沈黙……


その後、彼は口を開いた。


「やり残したことっていうか、やりに来たことはあるな。



お前の命を、奪いに来た。」


私はその少年の、強い殺意を瞬時に感じた。


右手には、ナイフを持っている。


身体が、動かない。


「ぃ……ぃ……、



いやあああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」


目をうっすら開く。


眼だ。無数の。


鏡がひび割れて、無数の眼がこっちを睨む。


一瞬遅れて、パリン!という音とともに、鏡の破片が飛び散った。



私は力なく、その場に座り込んでしまったの……。


雨音と蛙の啼き声が、夜の静けさによく響いていた。





文月



それから私は、鏡というものを極端に恐れるようになった。

昼間ですら、鏡を使う時にビクビクしているほどだ。


あの少年は……間違いなく悪霊だ。


しかし、家の洗面所でしか見たことがないということは、私の家に取り付いているということなのだろうか。

だとしたら……家に一人で居るとき、相当ヤバいのでは……。



あれは夏休み直前の出来事。金曜日だったはず。


夕方。

「ルナぁ~?」

「うん?」

お母さんだ。

「お父さんとお母さん、今晩家にいないの。」

「……え?」

「お婆ちゃんの妹さんが危篤らしいの。」

お婆ちゃんというのは、月にあるという、人の願いをかなえてくれる場所"ソグ"を教えてくれたお婆ちゃんだ。

「わ、私……」

「ルナは明日、塾でしょ?


独りで留守番してて。」

「……うん。」



家で独りになった……外はもう暗い。


……怖い。


…そうだ、イツキに電話しよう。


「はい、もしもし、ルナ?」

「イツキ? 今忙しい?」

「全然。今テレビ観てる。どうした?」

「イツキ、お母さんとリンちゃんは?」

リンちゃんとは、イツキの妹のこと。

「いや、母さんは出張で今日帰ってこない。妹は今臨海学校だから……」

「……お願い。」

私は、思い切って言ってみた。」

「今すぐ、うちに来て!」

「!?」

そりゃ、驚くよね。

「え……お母さんとお父さんは?」

「親戚が危篤だから、早くても明日の夕方まで帰ってこないの。」

「…………


……そうだな、あの件もあるし…

分かった。すぐ行く。じゃあ。」

そう言って、イツキは電話を切った。


ものの10分で、イツキはやって来た。走ってきたと言う。

「さあ……入って。」

私はリビングに案内した。


「俺は……何をすれば…」

「とにかく、ここにいてくれれば、別に自由にくつろいでいいよ。」

「そうか……ゲームある?」

「……○ii○portsは?」

「俺、運動系はちょっと……」

「太○は? D○版とP○P版は揃ってるし、○S2版もほとんど……」

……絶対、○達やり込んだ人って思われてるよね、今。

「……脳トレは? あの、川……」

「そうだな、それやっとく。」

イツキは○S(○ite、ク○ス○ル○ワ○ト)で脳トレのソフトを始めた。

私は○SPで○達を始めた。


……沈黙。

何よ、せっかく2人きりなんだから…何かあっても…いいじゃない。

ジェラシーではないけれど、何となくモヤモヤ感が……



「ええっと、ずっと俺ら夜更かし?」

「いや……ぁ、お風呂沸いたみたい。入る?」

「ぁ、そうしようかな……慌ててきたから着替えがないけど。」

「タオルぐらい、父さんの貸してあげるよ。」

「恩に着ます。」

「いや、そんな堅苦しい言い方しなくても……」


イツキがリビングに戻ってきた後、すぐに私はお風呂に入った。

湯船につかる……

あぁ、ドキドキしてきた。

自分ちのお風呂だからといって、ついさっきまでイツキが……

ああ、もう!



「そろそろ寝ようかな、俺はどこで寝れば……」

「あ、あのぉ……」

「へ?」

うぅ……やっぱり顔が火照ってきたぁ……。

「ぁ、あの、その……」

「えっとぉ……

まさか……一緒に?」

私は、小さくうなずいた。


私はしずしずと、自分の部屋に案内した。

もちろん、自分の部屋にオトコノコを連れてきたことなんて初めて。


速まる鼓動……高ぶる感情。



「何か俺だけ普通の格好って、変だな。」

「そうだね……」

「えっと、俺は地べたに寝れば……」

私はなぜか、反射的に首を横に振ってしまった。

「あ、やっぱり?」

怖いから呼んだのに、あんなことやこんなことなんて……ないよね。

でも……

私は自分のベッドに入るように、イツキを無言で誘った。



……今、私の隣で、イツキが、私の方を向いて、寝ている。

「イツキ……起きてる?」

ぐっすり寝付いているようだ。

「(うぅ…寝顔……かわいい。)」

今なら、イツキを、自由に……

いやいやいやいや! そんなことは決して……


でも……一緒に寝てるんだから、少しくらい…。


私は再び、イツキが寝ていることを確認した。


私は少し、少しずつ……顔を、近づけた。


私は唇を少し、突き出した。


荒くなりそうな息を懸命に抑えつけた。


私は目を閉じた。


イツキの鼻息が、顔で感じられる。

心臓バクバクだった。


あと、少し……もう少しかな。


…………。


「へぇ~、そうやって俺のファースト・キス、奪おうとするんだ。」

私は思わず飛び上がった。心臓が破裂するかと思った。

「照れんなよ~、かわいいやつ。」

恐らく、私の顔は真っ赤っかだったろう。

「わ、私だって、まだ……」

「ズルいぞ、独りだけ堪能しようとするなんて。」

「ひゃっ!?」

イツキは私を壁に攻め込んだ。

「仕返しだ。」

「ぁ……え?」

イツキの顔が、どんどん迫ってくる。

心臓が……爆発しそう……。

イツキの顔が、斜めに傾きながら、ぐいぐい迫ってくる。

あと数㎝……1㎝を切る……。


そして、二人の唇は、触れ合った。


私のこらえていた感情が、一気にあふれ出た。

私は思わずイツキをぐいっと抱き寄せて、初めての感触にとろけそうな唇と、もう火傷寸前の胸を、イツキに思いっきり押し付けた。


あぁ、もう……大好き!



それに満足しきってしまったのか、私はそのまま深い眠りについてしまった。


私は夢を見た。

私は自分の部屋に居た、制服を着て。

私の部屋には、一人の少年がいた。

眼鏡をかけ、身長は私と同じくらい。

ほっそりとした体つき。

優しそうだが、どこか暗い目をした少年だった。

彼の頭の上には、冠が乗っていた。


彼はこう言って、私の部屋を立ち去った。


「あの洗面所の例の少年には気をつけろ、何が起こるかわからないからな。

あと、暁にはよろしく言っておいてくれ。


我が名はない。"眼鏡の君"とでも覚えておいてくれたまえ。」



目が覚めた。


「あ、あのぉ……。」

イツキの声が聞こえる。

「?」

「とりあえず……離れてくれる?」

とりあえず状況を飲み込もうとした。イツキの顔が、私の、左にある。


!!!!!!!

朝っぱらから私は飛び上がった。

「ぁ、これはその……つい…」

「つい、パジャマを脱いでしまったのか?」

えっ、……!?!?!?!?!!!!!

私は慌てふためいて……壁とベットの隙間にのめり落ちてしまった。


私はあろうことか……下着姿で、イツキに抱きついていたのだ。


そういえば、昨日の夜、暑いし、今度こそイツキを驚かせてやろう、寝る前に着ればいいし、と思って、脱いだまま、眠りについてしまったのだ。

「そうか、やっぱりお前はそれが目的で……」

「ばっ、違うって、誤解だってぇ!!」

「そうか、そんなに俺と一夜を過ごして、あんなことや、こんなことをしたかったのか……」

「ご、誤解だってばぁ!!」

「その…色が物語ってるんじゃないのか?」

私の顔は、林檎のように腫れ上がっていたであろう。


「じゃあ、そろそろ帰宅しねぇと。風邪ひかないように、気をつけろよ!」


私は恥ずかしすぎて、イツキの顔なんて見られたもんじゃなかった。



そしていつしか、あの"眼鏡の君"のことも、あの不気味な少年のことも、すっかり忘れてしまっていたの。





葉月



それは、夏休みの、ある暑い日の夕方のこと。


今日はアイナやユリヤと遊びに行く予定だった。

しかしアイナは体調を崩し、ユリヤは急用が出来たと言うので、結局ナシになってしまったのだった。



蒼穹は少しオレンジがかっていた。

もちろんお母さんとお父さんは、まだ仕事から帰ってきていなかった。


私は、リビングでテレビを見ていた。


……その時、感じたの、あの視線を。



……あの悪霊だった。


「そろそろ俺のこと、忘れていた頃だろう、月宮ルナちゃん。」


"あの洗面所の例の少年には気をつけろ、何が起こるかわからないからな。"

私はその言葉を思い出すや否や、一目散に自分の部屋に逃げ込み、内側から鍵をかけた。

私は数秒後、安心しきり、ベッドに潜り込む。


もういやだ……助けて…イツキ……



いつしか、眠ってしまったようだ。ルナは起きると、窓の外を見た……

外はすでに、夕闇に染まっていた。


その夕闇の窓に映る影……


いつしか私の背後に、あの悪霊がいた。

「きゃっ!?」

「ふふふ……驚くことはない。ただ君の命を、奪いに来ただけだ。」


「いやあああぁぁぁぁ!!!」

私はとっさに、ベッドの上にあるケータイに手を伸ばした。


イツキ……助けて……イツキ!

"只今、電話に出ることが出来ません"

焦りと恐怖で、涙が出そうだ。

少年は、私が手に持っていたケータイを叩き落とす。


「君はおとなしく、地獄に落ちればいい。」

悪霊が壁際に私を追い立てる。


逃げようとした寸前……


あれ、身体が……浮いていく。

手がひっぱられるような感じがして……手を見た。


手首は、壁から突き出た白い手に、しっかりと掴まれていた。


私はあまりの出来事に、もう声が出なかった。

ただ……涙が……止まらなかった。


悪霊は、懐から、ナイフを取り出す。



私、もう、終わりかな。


「死ね。」

悪霊は、ルナの胸に、勢いよくナイフを……



「ん、ルナから、電話か。」

イツキは、ケータイで電話に出た。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

(プツ、プー、プー、プー、……)」



血が……吹き出した……少女は…………床に倒れこむ。


「ルナ!?!?」

ちょうど帰宅した父親が、ルナの叫び声を聞き、ルナの部屋の前にやってくる。


部屋に鍵が掛かっている。

気が気でなかったルナの父親は、ルナの部屋の扉を、体当たりで、1回、2回、3回目でぶち破った。



父親は、絶句した。

あまりにも残酷な光景だった。


部屋中が赤く染まり、夕闇のはずの窓も赤一色だった。


ルナは、その血の海の中に、倒れこんでいた。


父親は、急いで、ケータイで、救急車を呼んだ。


夕闇の空に、蜩ひぐらしの啼き声が、よく響いていた。




救急隊員に続いて、警官も入ってきた。


父親が悲鳴を聞いた時刻に、誰かと通話中だったようだ。


警官は着信履歴を確認し……事情徴収のために、イツキに電話をかけた。




イツキは事情を聞くや否や、家を飛び出した。


ルナが……ルナが……ルナが……



ルナが運ばれたという病院へ走った、ただひたすら、息が荒れるのも知らず、走った。夕闇の中、街頭に照らされながら。


どれくらい走ったろうか。

頭はルナのことでいっぱいだった。



その時。


キキキキキイイイィィィ~~!!!!!


俺の目の前に、突然自動車が突っ込んできた……俺の腹スレスレに。

車は工場のコンクリートの壁にぶつかって、運転席より前はほぼぺしゃんこだ。

ルナに死なれる前に俺が死んでしまっては仕方がない。


俺は車をスルーし、病院へ走った。


俺はその時気づかなかったのだ。

車の中に、誰もいなかったことを……



(ここからも、微妙にインスパイア的部分があります。)

病院へ着く。


看護士に、手術室の前に案内された。

「ああ、君は……?」

どうやらルナのお父さんのようだ。

「えっと、僕は、ルナさんの……」

「彼氏、でしょ?」

俺はビクッとして、後ろを振り向いた。ユリヤだ。

「夜遅くにごくろーさん。」

「は、はぁ……」

「僕はルナの父親です。僕の妻も今向かっているところで……」

「あ、あの……ルナは今……」

「ルナの身体にナイフが突き刺さっていてね……刺しどころが悪かったのか、命はまだもっているのだが、意識不明だそうで……」

俺は激しい脱力感に襲われ、ドスンとベンチに腰を下ろす。


俺は祈った、強く祈った。

肝心な時に守ってやれなかった俺が、今できること、それは、祈ることだった。



祈りを込めて数分経ったろうか。


俺は目を開けた。


さっきいたはずのルナのお父さんと、ユリヤがいない。

"手術中"の赤いランプは、尚、点灯している。


突然、手術室の扉が開いた。


出てきたのは、ドラマで観るような、オペ用の水色の服を着た人でも、白衣の医者か看護士でもなかった。


黒い、影。



黒い影はドアを閉めると、こっちをみた。


顔は……真っ白といえばいいか。


そういえば、書店の悪魔大事典かなんかで見たことがある。


この容姿は、"死"だ。



もっと分かりやすく言うと、"死神"だ。


手には、柄のやたらと長い斧を持っている。


まずい……体が動かない。


声が…出ない。


視線を、外せない。


瞬きが出来ない。



死神が俺に近づくのが、いやでも見えてしまう。


……止めろ、俺が何をしたっていうんだ。


何故だ、何故ルナが殺されなきゃ、……


何故俺が死ななければならないんだ。



そして、死神は、斧を振りかぶり…………




夕闇に溶け込む病棟。


~Chapter.2 卍F卍's Sideへ続く~


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