第7談『婚談』
A「おはようございます」
B「おや、おはようございます。珍しいね」
A「いや、色々とありまして・・・」
B「おっ?彼女のモーニングコールかい?」
A「え?どうしてそれを?」
B「あ、そうなの?カマをかけたつもりだったけど」
A「やめてくださいよ。ビックリするじゃないですか」
B「あれ?高屋さんの結婚式の時に見かけた時は仲良さそうだったのに」
A「よく見てますね」
B「人を観察するのは僕達の基本だよ。
それを怠ったら営業は難しくなっちゃうよ」
A「職業病ってやつですか?」
B「そうとも言うけどね」
A「実は、ちょっと雲行きが怪しくなってきまして」
B「それは、聞いてもいい事なのかい?」
A「えっ?うーん・・・・・・
仕方がありませんから話しますけど『社外秘』でお願いします」
B「漏洩させないのは企業人の基本だと思ってるから大丈夫。
進んで飲みに行く事もないから酒の席で口を滑らせる事もないよ」
A「そのへんは研修の頃から知ってますんで信用してます」
B「そこまで高く買ってくれるとは思ってなかったけどね」
A「その前に、ちょっと煙草行っていいですか?」
B「じゃぁ、コーヒー淹れるよ。緑の縁のタンブラーだっけ?」
A「そうです、助かります」
B「アリアリでいい?」
A「あ、僕はブラックで大丈夫です」
B「うん。わかった」
A「お待たせしました」
B「そんなに待ってないよ、はいこれ」
A「あ、すいません。デスクに置いておいてくれればよかったのに」
B「それこそ嫌がらせじゃない?そこまで性格は悪くないと思うけどなぁ」
A「冗談ですよ、ありがとうございます」
B「・・・・・・ふーっ、で、どうなったの?」
A「・・・・・・はぁーっ、それがですねぇ、
高屋さんの式に彼女を連れていったのはご存知ですよね?」
B「うん。確か、可愛い系の娘だったよね?」
A「多分、その娘だと思います」
B「その言い方だと別の娘がいるの?」
A「いえ、いないです!その娘です!」
B「もう、ビックリさせないでよ・・・」
A「すいません、紛らわしくて。
そこで彼女が甚く感動しちゃいまして・・・・・・」
B「あぁ、中てられちゃったのかぁ」
A「そうなんですよ。『次は私たちが挙げよっ!』って盛り上がっちゃって」
B「華やかなのを観たらそうなるよね」
A「それを彼女が母に電話で話しちゃったんですよ」
B「へぇ~、彼女とお母さんの仲がいいって珍しいね」
A「珍しいかどうかはわかりませんけど、妙にウマが合って、
『早く佑ちゃんの花嫁姿が見たいわ~』って、
昨日電話口で浮かれてました」
B「でも乗り気じゃないの?」
A「身を固めたいっていう気持ちは本気ですよ」
B「なら話は早いじゃない?」
A「もうちょっとお金貯めたいんですよ」
B「お金のかかる趣味でも?」
A「オーディオに拘りはしますけど、デノンで一通り揃えて満足してます」
B「じゃ、どうして?」
A「いやぁ・・・・・・ネットで調べたら、挙式って何かと物入りで
万が一資金が足りなくなったら、機器をに手を出されるかなぁと」
B「それだけは譲れないと?」
A「それもあるんですけど・・・」
B「まだ何かあるの?」
A「いきなりなんですけど、結婚式が派手というイメージって何処にあります?」
B「う~ん・・・・・・有名なのは愛知かなぁ」
A「実は、僕の地元が一番高かったんです」
B「えっと、確か・・・群馬だっけ?」
A「えぇ、前橋です」
B「そんなイメージ湧かないんだけど」
A「ですよねぇ。だからこそ費用の平均価格に驚いたんですよ」
B「ちなみにどれぐらい?」
A「3・・・50万位だそうです」
B「さんびゃくごじゅう!」
A「これが平均値で、400万以上も粗にあるみたいです」
B「そりゃぁ、気が遠くもなるなぁ」
A「確かに親戚の結婚式は盛大だったのを思い出しました」
B「最近『家族婚』ってあるじゃない?それじゃダメなの?」
A「華やかな高屋さんの式を観ましたからねぇ、許してくれるかどうか」
B「折れ合いをつけなくちゃいけないね。
高屋君は結構派手にやったけど、直前まで真っ青になってたから」
A「そう・・・っすね」
B「早々に手は打っておいた方がいいとは思うなぁ」
A「わかりました。今日のうちに話をしてみます。
あ、そうだ、先輩の奥さんってお元気です?」
B「あれ?久しく会ってなかったっけ?」
A「ここ一年は会ってませんね。
最後に会ったのは、一昨年の忘年会で先輩が潰されて・・・」
B「そっか、君の肩を借りて担ぎ込まれた時だったね。
あの時は申し訳なかったねぇ」
A「何時まで謝るんですか、もう時効ですよ」
B「潰されて帰ってきたもんだから、
『潰されるまで飲まないって言ってたじゃない!』って水かけられて、
君まで巻き添えを食ったという・・・」
A「『奥さん、鬼嫁じゃん!』って思いながらずぶ濡れになりました」
B「その時は
そのシーン、見たかったなぁ」
A「平謝りでした、奥さん」
B「まぁ、約束を破った僕のせいでもあったからね」
A「相変わらずですか?」
B「うん。変わんないよ。2つ上の姉さん女房」
A「年齢差は変わんないでしょう、そうじゃなくて仲の話です」
B「あぁ、そっちも変わんないよ。些細な事で言い合ったりもするけど
概ね良好だと僕は思ってる。佐知さんには聞いてみないと分かんないけど」
A「うまくいってないようにしか聞こえないんですけど・・・」
B「腹を割って話すのは僕達の約束事の1つだから」
A「それで、佐知さんを奥さんに選んだきっかけを教えてくれないかなって」
B「僕の話で参考になるかなぁ・・・」
A「後学のために是非お願いします!」
B「わかったけど・・・」
A「ちゃんと『社外秘』扱いにしますから」
B「ちゃっかりしてるなぁ・・・
きっかけはね、佐知さんの『アンタってかわいそう』って一言」
A「そりゃ強烈ですね、何かあったんですか?」
B「あれはねぇ・・・・・・8年前の6月24日の事でした」
A「凄く具体的じゃないですか?」
B「印象が強く残った日は早々に忘れる事はないよ。
叔母さんの会社の懇親会で参加の頭数が少ないから出てくれないかって言われてね。
まぁ、小遣いをくれるって言うからついてったんだ」
A「えぇ」
B「でもねぇ、頭数ってだけで行ったから誰も知り合いがいないわけ。
ほぼ360度初対面の人って中々味わえないよ」
A「先手必勝がモットーの先輩でもですか?」
B「あの頃は引っ込み思案でね、先手必勝のモットーは後付け」
A「へぇ~、意外でした」
B「叔母さんもどっかに行っちゃったし、話のネタはすでに尽きているし、
こうなったら開き直って、元を取ろうとディナーをガツガツ食ってたんだ」
A「えぇ」
B「そんな時に佐知さんがやってきた・・・というか、
酔い潰されて僕の隣が空いてたから担ぎ込まれたって感じかな」
A「凄い出会いですね」
B「後で彼女から聞いた話だけど、
彼女のご両親が呑めるクチだからって、そのペースに付いてったらそうなったみたい。
と言っても、初対面でそんなの分かんなかったから、
『触らぬ神に祟りなし』って思って箸を止めなかったよ」
A「・・・・・・・・・」
B「そろそろデザートかなぁって取り皿を取りに行こうとした時に、
ぐったりしてた佐知さんが急に身を起こして、僕をじーっと見てきたんだ。
いきなりでビックリした僕に向けて彼女が放ったのが・・・」
A「『アンタってかわいそう』ですか?」
B「そう。見ず知らずの人にいきなりそんなこと言われたら
流石に『何だこの女!』って心証は悪くなるよね」
A「そうですよ、僕だってそうなります」
B「それがねぇ・・・そうはならなくてね」
A「えっ?」
B「悔しいって気持ちはあるんだけど、
一言で急所を射抜かれると動けなくなものでね
『見透かされた・・・』って思っただけで二の句も告げなかったよ」
A「出会いが最悪だったのに、よく一緒になるって思いましたね」
B「若かったんだろうねぇ・・・・・・
次に会えるって確証もなかったのに『見返してやる』って思い込んで
引っ込み思案の性根を叩き直したんだ」
A「その明るさには並々ならぬ努力があったと?」
B「そこまで大層な事じゃないけどね。
しかもその話には続きがあってね・・・」
A「何があったんです?」
B「婚約まで行った時に聞かれたんだ。
『どうして結婚したいって思ったの?』って」
A「まぁ、当然の質問ですよね」
B「そこで、さっきの一連の話を佐知さんに話したんだけど、
返ってきた彼女の答えは『そんなこと言っちゃったの?』って。
思わず顎を落としちゃったよ」
A「覚えていない・・・酩酊あるあるですか」
B「そう。
だから僕達のルール第一条は『悪酔いするまで飲まない』ってその場で決まったわけ」
A「それを破ったから、あの水・・・」
B「思ったより時間が深かったから、一層だったかもしれないなぁ。
こういった決めごとは早めに話し合っておいた方がいいよ。
お互い傷つかなくて済むからね」
A「わかりました、勉強になります」
B「おっと、他の仲間も来たみたいだからこれぐらいにしておこうかな」
A「そうですね」
B「まだ公表しないの?」
A「もうちょっと落ち着いてから言おうと思ってますんで、
それまでは秘密にしておいてください」
B「わかったよ。招待状は直接手渡しでいいからね」
A「何時になるかはわかりませんよ?」
B「そこは期待しないで待ってるよ。御祝儀を結構包まないといけなさそうだから」
A「ひっどいなぁ・・・」
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