第4談『夏休み』

A「じゃぁ、明日は?」


B「午前中は403と211。あとはバイト」


A「明後日は?」


B「あー、マズい…仲元さんと麻雀打つ事になってる」


A「明明後日しあさって?」


B「情報技術館で丸一日カンヅメになるんじゃないかな」


A「ちょっと待て。いい加減にしろよ。


  お前が香奈ちゃんにサプライズやるっつったんだろ!」


B「わかってるって!」


A「『8月生まれで誕生日祝いはそんなに貰えない』って聞いて、


  急にやる気出しやがって」


B「仕方ないだろ!あんなに補講入るなんて思ってなかったんだから、


  文句があるなら、担当教授にでも言ってくれ」


A「顔も名前も知らない人に言えるわきゃないだろう」


B「言ってくれよ。そうすれば多少は風向きが…」


A「ないない」


B「慰めてくれても…」


A「ないない」


B「………ふーっ」


A「ないない」


B「煙草吸う時間ぐらいくれてもいいじゃないかよ」


A「先延ばしにしたら有耶無耶うやむやにしかならないだろ」


B「くっそ…次卓を囲んだら鳴きまくってやる……」


A「何か言ったか?」


B「いや、別に」


A「とにかく、週末がデッドラインだから」


B「わーってるっての!」


A「本当にわかってんだか」


B「痛い所を突いてくるなよな、全く…」


A「こんな性分だってことは、昔からわかってたろ?


  普段から計画を立てないからこうなるんだよ」


B「余裕ぶりやがって…


  たまには、俺みたいに切羽詰まってみろっての」


A「今だって、充分に切羽詰まってるよ」


B「何だそれ、嫌味か?」


A「違う違う。ホントにギリギリだって事があるんだって」


B「へぇ……で、何だよ」


A「あれ?話したことなかったか?」


B「多分聞いてないか、覚えてなかったかのどっちかだと思う」


A「前者であってほしいもんだね」


B「もったいぶらずに言えっての」


A「あぁ、高校の時に変な噂が流れてたのって覚えてないか?」


B「噂?何だよそれ」


A「ある日をきっかけに、俺が失踪するって噂」


B「ん~?そんなのあったか?」


A「そっか、夏場はいつも合宿に行ってたんだっけ」


B「おう。8月のアタマぐらいから10日間ぐらいは、ほとんど畳の上だったし、


  それからはほぼ課題とか宿題に追われてたからな」


A「その時期に、友達に色々遊びに誘われたりしてたんだけど、


  全部断ったから、「アイツ何やってんだ」って話になってさ」


B「あ、聞いた事あるわ。「携帯には出て声はするんだけど、姿が全然見えねぇ」って


  ま、事情があんだろと思って深く考えなかったけど」


A「その事情が結構厄介でさ」


B「本当にヤバいって事じゃないんだろうな?」


A「ないない」


B「じゃぁ、何だったんだ?」


A「結論から言うと、俺の夏休みは8月7日までなんだ」


B「は?何言ってんだお前、夏休みってのは31日までだろ?」


A「その反応が普通なんだよな」


B「予備校でカンヅメってわけでもないんだろ?」


A「そういうのは、自力でやってた」


B「う~ん…じゃぁ、どうして決まってたんだよ」


A「二十四節季って知ってるか?」


B「いや、何それ?」


A「聞いたことないか?夏至とか冬至とか」


B「あぁ、それならある」


A「春分の日とか秋分の日もその中に入ってる」


B「へぇ…」


A「その中に、秋が立つと書いて『立秋』というものがあるんだ」


B「『暦の上では秋です』ってニュースキャスターが言うやつな」


A「だから、それだよそれ」


B「ん?何?」


A「暦が秋になったら、俺の夏休みは終わっちゃうわけ」


B「って事は…お前の夏休みって2週間ちょっとしかない」


A「そう言う事になるな」


B「じゃぁ、それ以降は?」


A「帰省して月末近くまで、祖父ちゃんの畑を手伝ってた」


B「ちなみに何処よそこ?」


A「長野」


B「避暑地としては最高だけど、行って戻ってはできねぇな」


A「あのキャベツ畑は壮観で言葉が出なかった」


B「あまりの量に?」


A「そうとも言う」


B「なるほどなぁ…」


A「だから、10日ぐらいで主だったものは片付けておく習性が嫌でも付いたんだ。


  29日からは地獄を見たような気がしたよ」


B「1ヶ月前倒しは確かにキツイなぁ」


A「一番困ったのは、絵日記と自由研究」


B「面倒臭いの象徴だもんな」


A「絵日記の天気欄ってあっただろ?」


B「あったあった。あれが一番面倒だったなぁ」


A「こっちは更に輪をかけて面倒だったけど」


B「別に手間は同じじゃないのかよ」


A「よく言われたもんだよ。「嘘はいけません」って」


B「フィクションじゃなかったんだろ?」


A「勿論、ノンフィクションだったよ」


B「それならどうして?」


A「こっちの天気と長野の天気が違ったからさ」


B「あぁ、そう言う事か」


A「思わず頭を抱えたよ。何て言ったらいいのかって」


B「それは、ご愁傷様としか言えねぇわ」


A「だろ?こっちはこっちで苦労してるんだって」


B「今年はどうなってんだ?そろそろ8月近いぞ」


A「変わんないさ。立秋あたりから失踪予定になってる。


  8月いっぱいまでは声だけになるから」


B「わかった。覚えとく」


A「だから、早く予定を決めてくれ。


  こっちも予定が詰まってんだよ!」


B「結局この話に戻んのかよ……」


A「だーかーらー、お前が言い出し………」

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